スキマ妖怪が言った。
外の世界では十二月二十五日には自分にとって特別な存在の人と一緒に夜を過ごすのだ・・・と。
その話はあっという間に幻想郷中へと広まった。
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十二月二十五日。クリスマス当日。
アリスの家。
「・・・やっぱり清楚な白がいいかしら・・・それとも大人の魅力を引き出す黒・・・?」
早朝から何やら真剣な様子で下着を選んでいるアリスの姿があった。
「今夜はクリスマス・・・今日こそ・・・今日こそ魔理沙を私のものにしてみせるっ!」
まるで背景で炎が燃え上がりそうな気合の入り様でガッツポーズを決めるアリス。そこに魔理沙が入ってきた。
「ふぁ~あ・・・なんだアリス・・・朝からやけに元気だなぁ・・・」
「ま!?ままま、魔理沙!?」
前日からアリスは魔理沙を誘って家に泊めていたのだ。このまま今夜も泊めてあわよくば・・・という入念な計画を練っていた。
「おはよう、アリス」
そう挨拶をする魔理沙。下着姿に大きめのシャツを羽織っているだけというその無頓着な姿はあまりにも無防備すぎると思う。特にアリスの前では・・・
「(ハァ・・・今日も私の魔理沙は可愛いわぁ・・・今夜は貴女のその素敵な笑顔に悦びという新しい笑顔を加えてあげるから覚悟しておくのね!)」
などとかなり危ない妄想に発展している。
「お、おはよう魔理沙。今日はいい天気ね」
「あぁそうだな、冬だっていうのに日差しが暖かいな。こういう日は箒に乗って飛んでいるとすごい気持ちがいいぜ」
魔理沙は着替えながらアリスにそう答えた。そして、この自然な会話から、自然な流れでアリスはそのまま今日の夜の話を切り出そうとした。
「あ、あのね魔理沙・・・今日はその・・・人里に買い物なんか行って、ケーキなんか焼いたりして・・・夜にパーティなんか開いて・・・そのまま流れに身を任せて泊まったりなんて・・・」
「おっと、それじゃ私はもう行くぜ、今日は予定があって忙しいんだぜ!」
と、言い残すとさっさと箒に乗って行ってしまった。
「な、なんなのよ・・・魔理沙の馬鹿ぁああ!!」
一人残されたアリスはそう怒鳴った。
博麗神社。
カランカラン・・・パンパンッ!
魔理沙は鈴を鳴らし柏手を叩いた。
「初詣にはまだ早いわよ?」
掃除をしていた霊夢が箒で掃きながらそう言った。
「いやいや、違うから。今日は特別な日だからな、胡散臭い神様でも拝んでれば何かいいことあるかと思ってな」
「胡散臭いは余計よ。妖怪の山の神社じゃあるまいし、うちの神はまともよ」
さりげなく酷い事を言う巫女だ。
「そうか?へへっ、少しでもご利益があると嬉しいな」
そう微笑む魔理沙に霊夢は少しドキッとした。今日の魔理沙が普段よりもどこか乙女チックな雰囲気を出していたからだ。
「ねぇ・・・もしよかったら今夜一緒に過ごさない?私は別にアイツの言ってることを信じるわけじゃないけど・・・魔理沙と過ごすなら悪くないかなって思ってる」
「あ・・・すまん・・・気持ちは嬉しいし、私も霊夢のこと好きだけど・・・今夜は一緒にいたい奴がいるんだ」
申し訳なさそうに魔理沙は霊夢の誘いを断った。
「うん、そっか、残念ね」
「ごめんな」
「そんなに深刻に考えなくていいわよ。魔理沙が来てくれたら今夜は仕事も楽になるなって思っただけだから」
「なんだよそれー、真剣に答えた私が馬鹿じゃないか。まぁまだ行くところがあるからこれで失礼するぜ」
そう言って魔理沙は飛んでいってしまった。それを見送る霊夢は、
「本当に・・・残念だわ」
と、小さく呟くとまた掃除を続けた。
紅魔舘。
「こんな特別な日にでも泥棒しにくるかこの鼠は・・・」
魔理沙は図書館で本を物色しているところをパチュリーに見つかってしまった。
「いやいや、今日は勝手に持って行くわけじゃないんだ、だからスペカをしまってくれ」
「持って行かないって・・・じゃあなんで本を物色してたのよ」
「ここで読んでいくからだぜ。ちょっとどうしても読みたい本があってな」
と、ここまでの会話でハッとパチュリーは気がついた。
「(ま、まさか・・・今日は特別な日だから一緒にいたいってことなの!?だから今日は持っていかないでここで読むってことなの!?)」
ドサッ。
パチュリーが魔理沙をベッドに押し倒した。
「な、何・・・するんだ?パチュリー・・・」
「あら・・・貴女が誘ってきたんじゃないの?今日は帰りたくないなんて・・・」
「そ、そんな・・・違っ、私はただ、今日は特別な日だからパチュリーと一緒にいたくて・・・」
「それを誘ってるっていうのよ。本当にそういうことに鈍感なのねぇ・・・まぁいいわ、私が教えてあげる。いろんなことを・・・ね?」
「や、やめ、ひゃぅ・・・ダメ・・・そんな・・・ふぅ・・・ん!!」
そして、図書館からは一晩中二人の少女の喘ぐ声が響いた・・・
・・・・・・・
・・・・・
・・・
以上、全てパチュリーの妄想である。
「し、仕方ないわね、魔理沙がそんなに一緒にいたいって言うなら・・・」
「お、あったあった、この本を探してたんだ。それじゃパチュリー、用事も済んだしお暇するぜ、じゃあな!」
「え・・・?あ、あの・・・魔理沙・・・?」
慌てて呼び止めようとしたがすでに魔理沙は図書館から出て行った後であった。結局その本もしっかり持っていかれた。
「ま・・・魔理沙の馬鹿ぁああああ!!」
図書館にはパチュリーの虚しい罵声だけが響いた。
そして魔理沙は咲夜の部屋へと来ていた。
「んー・・・」
何やら難しい顔をして編物とにらめっこをしている。魔理沙は以前から咲夜のところに通って編物を習っていたのだ。
「お茶とクッキー持ってきたわ、少し休憩しましょう」
咲夜が魔理沙の傍にお茶を置くと、魔理沙は作業を中断してティーカップに口をつけた。
「やっぱりこういうのは苦手だぜ・・・」
「まぁ貴女みたいに短気な性格だと編物は向いていないかもしれないわね」
咲夜はそう言ってクスッと苦笑した。
「でも、どうして私のところに編物を習いに来たのかしら?こういうことに関しては私よりアリスの方が得意だと思うわよ?」
「いやぁ・・・よくわからないんだけどな。何故かアリスに習ったらいけない気がしたんだ」
「(確かに、あの子だったらきっと誰に渡すのかって徹底追及してくるでしょうね)」
そして編み続けて数時間。何とか目的の物が完成した。
「おめでとう、初めてにしてはかなり上手だと思うわ」
「あぁ、自分で言うのもなんだが自信作だぜ。咲夜のおかげだ」
それじゃ・・・と咲夜は自分が編んでいたマフラーを魔理沙の首に巻いてやった。
「これは私から貴女へのクリスマスプレゼントね」
魔理沙は驚いたような顔をしている。
「えっ・・・で、でも私・・・咲夜に何も用意してない・・・」
「フフッ、気にしなくていいわよ。私は尽くされるより尽くしたいタイプなの」
「だったら、お前のとこのお嬢様にあげればいいんじゃないのか・・・?」
「あら、お嬢様にもちゃんと作ったわよ?手編みのマフラー、手編みのセーター、手編みの手袋に手編みのZUN帽・・・」
何かおかしい単語があったが気にしたら負けである。
「わかったわかった・・・お前の主人に対する愛情はもうよくわかったから・・・」
「貴女に対する愛情も結構あるわよ?貴女みたいな生意気な娘は大好きだもの」
そんな大胆発言をずけずけと言うあたりが彼女が瀟洒と言われる所以なのだろう。
「・・・愛されるのも楽じゃないな」
「幸せな悩みね。さて、一応言わせてもらうわね。今夜、もしよろしければ私と聖なる夜をご一緒しませんか?」
魔理沙が誰に編んでいるのか知っている時点で、魔理沙が首を縦に振ることはないとわかっている。
断られるのはわかっていても誘うのはそれだけ咲夜も魔理沙を想っていると伝えたいからだ。
「うん、ありがとな咲夜。気持ちだけ受け取っておくよ・・・」
そう言って魔理沙はそっと部屋を出て行った。それを見計らったようにレミリアが部屋へやってきた。
「魔理沙は帰ったようね」
「えぇ、振られてしまいましたわ」
と、少し寂しそうな顔でそう答えた。
「咲夜は趣味が悪いわねぇ、あんなヤツのどこがいいのかしら?」
「お嬢様に似ているところでしょうか?」
咲夜の言葉にレミリアがムっとする。
「どこが似ているのかしら?」
「ちっちゃくて可愛いところですわ」
レミリアが咲夜を小突いた。
「馬鹿なこと言ってないで、今日はパーティーを開くのだから準備頼むわよ」
「あら?・・・失恋して傷心中の私に鞭打って働かせるのですか?」
「・・・傷心しているヤツは人のスカートに顔を突っ込んだりしないわよ」
よく状況がわかっていない人のために説明するが、現在咲夜はレミリアのスカートの中に顔を埋めている。
「流石お嬢様、素敵な匂いですわ」
バキッ!
「いい加減にしないと殴るわよ」
「痛たたた・・・もう殴ってるじゃないですか」
「それじゃ、よろしく頼むわね」
「はい、仰せのままに」
冬は日が沈むのが早い。すでにまわりは薄暗く、夜の闇が降りてきていた。
「随分遅くなっちゃったな」
魔理沙は少し飛ぶスピードを上げた。
「アイツ、喜んでくれるかな・・・プレゼント」
期待のような不安のような・・・そんな複雑な思いが魔理沙の胸を駆け巡る。
そして、目の前に目的地が見えてきた。魔理沙は気づかれないようにそっと地上に降りた。
「(よし・・・いくぜ)」
魔理沙はとびっきりの笑顔で、元気よく扉を開けた。
「メリークリスマス!こーりん!」
一年に一度の聖なる夜。あなたは誰と過ごしますか?
~END~
おまけ『魔女の聖夜の過ごし方-Extra-』
「えっぐ、ひっく・・・魔理沙の・・・ばかぁ・・・」
一人、暗い部屋で泣きじゃくるアリス。朝からずっと泣き続けているのだ。
「あらあら、酷い有り様ね」
訪れたのは咲夜である。
「な、なんであなたがここにいるのよ」
「魔理沙に振られて一人寂しく泣いているんじゃないかと思って慰めに来ましたわ」
咲夜の言葉がアリスに深く突き刺さった。
「余計なお世話よ!冷やかしなら帰って!」
「いいえ、ちゃんとした用事で来たのよ。パチュリー様が貴女を連れてくるようにって」
「パチュリーが・・・?」
「パチュリー様も魔理沙に断られた一人だから。貴女のこと気にしていたんじゃないかしら?」
それから・・・と苦笑しながら咲夜は付け足した。
「私も魔理沙に振られた可哀想な一人ですわ」
「アンタにはお嬢様がいるじゃない」
「それがねぇ、お嬢様ったらパーティーするから準備するようにって言っておいて、土壇場で霊夢のところに泊まりに行っちゃうんだもの。泣けてくるわ」
「ハァ・・・こんなところで泣いてるのも馬鹿らしくなってきたわ。いいわ、行きましょう」
そんなわけでアリスは咲夜に連れられ紅魔舘の図書館にやってきた。
「よく来たわねアリス」
と、言った途端いきなりパチュリーはアリスを抱きしめた。
「え、ちょ、いきなり何よ!?」
パチュリーはまじまじとアリスの髪を見て触ってその感触を確かめた。
「あなたの金髪、綺麗ね。魔理沙の髪によく似てる・・・」
そういうとアリスから離れた。開放されたと安堵するアリスめがけて今度はパチュリーは魔法を放った。
ポンッ!
と、可愛らしい音と共に煙があがる。
「ケホッ・・・ケホッ・・・もう・・・さっきからなんなのよ!・・ってうぇええ!?」
アリスは自分の格好に驚いた。自分の服が魔理沙の服に変化しているのだ。
「な、なにこれ・・・?」
「魔理沙ぁああああ!!!」
パチュリーはそう叫ぶやいなやアリスに飛び掛った。
「ちょ、やめ、何するのよ!」
「フフフ、魔理沙、素敵よ・・・今夜はたくさん可愛がってあげるわね」
何かもうヤバイ目つきをしている。
「ふざけないでっ!私はそんなつもりでここに来たんじゃないわよ!」
「ふぅん?こんな気合の入った下着を穿いておいて説得力ないわよ?純白なんて本当に可愛いわね」
今朝悩んでいた下着は、結局白に決まっていたようだ。
「ちが、これは魔理沙のために・・・って咲夜!あんたも黙ってないで助けなさいよ!!」
二人のやりとりについていけなかったのか、放心していた咲夜がハッと我に返った
「パチュリー様!!」
と、咲夜が強い口調で怒鳴った。アリスは「あぁこれでやっと助かる」と安心した・・・が、
「私も・・・交ざっていいですか・・・?」
頬を赤く染めてモジモジしながらそう言った。
「アンタ何言ってんの!?って、服脱ぎながら近づいてくるなぁ!ってか服を脱がすなっ!」
こうして、聖なる夜にアリスの悲鳴が響いた。
「バカジャネーノ」
そう、上海人形が呟いたような気がした。
~END~
魔理沙可愛いなあ。
魔理沙可愛いですよね、男っぽく偽っているけど実はすごく乙女ちっくな感じがしてすごく好きです。咲夜やアリスといったお姉さんなキャラに可愛がられているような場面が好きでよくそういう場面を好んで書いてしまいます。
「バカジャネーノ」って最後の最後でこの一言に吹いてしまったwww
「バカジャネーノ」は実際に上海が話す言葉だそうですね。
地霊殿で喋る上海が見れると聞いてアリス装備で地霊殿をプレーしているのですがステージ5までの道中ではまだ確認できていません。早く実際に見てみたいです。