天空を散歩していたら、やけに大きな幼稚園児を見つけた。
カンペらしきものを持っている。
そのカンペには、失礼な方ですね、ぷんぷんって書いてあった。
まるで私の心の中を読んでいるかのようである。
幼稚園児はペラリとページを捲る。その通り、それと幼稚園児はやめなさい、と書いてあった。
私はそこを去ろうかと思ったが、やめて、やめてそれだけは、と書いてあったので空気を読んで留まることにした。
それにしても、この人は本当に幼稚園児みたいな格好をしている。
顔つきから明らかにSなのに、幼稚園児である。
幼稚園児はいい加減やめなさい、怒りますよ、と怒った顔で迫られるが、私もSなのでここでやめようとは思わなかった。むしろ、怒った顔もなかなか可愛いじゃないか、とすら思ってしまう。
相手の顔が更に赤くなる。
きっと心を読んだのだろう。実におもしろい。
ニヤニヤしていたら、いきなりカンペで殴られた。機嫌を損ねてしまったらしい。
カンペには、いいから私の話を聞け、と書いてある。
もう少しからかっていたかったが、空気を読んで相手の話にあわせる事にした。
話によると、彼女は地下に住んでおり、ペットを何匹も飼っている。そのペットのうちの一匹が、地上に怨霊を送り出しているところに巻き込まれて、地上を通り越して天空まで来てしまったらしい。
なんとも間抜けな話である。
カンペで殴られた。心を全て読まれるのは、厄介なものである。
それで、天空に来たはいいが、高所恐怖症なので降りるに降りられない。誰かに助けを求めていたときに私が通りかかった。そういう訳である。空気を読んで、ここを去るか、空気を読んで、ここを去るか悩みどころである。
いや助けろよ!と相手が私に殴りかかる。
いえ、助けてくださいお願いしますと、次の瞬間には土下座している。
感情に行動がついていっていない印象を受けたが、それもそのはずである。いちいちカンペに書いて私に見せているのだから。そんなことせずに全部喋ればいいのにと思う。もどかしくて仕方が無い。
とか考えていたら、幼稚園児は新たにカンペを書き出した。座って書いているので、まるでお絵かきの授業をやっているみたいである。
スネを蹴られた。痛かった。
カンペにはこう書いてある。私が喋りだすと私だけがしゃべっていつも終わってしまう為、ペットに持たされました、と。
ああなるほどと私は納得した。確かに、喋りだすと止まらなさそうである。しかし現在の状況でも私は一言も喋っていないので、意味があるようでないような気もする。それでもマシンガントークを繰り広げられるよりはマシなのだろう。
カンペの表紙には「おえかきちょう」と書いてある。くまさんとゾウさんの絵と一緒に。実にお似合いである。
カンペのカドで殴られた。痛かった。
それはいいとして、疑問も消えたところで、この人をどうするかである。高所恐怖症らしいが、幻想郷内で高所恐怖症の奴がいることに驚きだ。飛べないのですか、と口に出さずに聞いてみたところ、常に低空飛行なんです、と返ってきた。
空気を読んでここから落とすか、空気を読んでここから落とすか悩みどころである。
やめて、それだけはやめてください、高いところと妹の下着を盗んだときに運悪く見つかってしまったときの妹の視線だけはダメなんです、怖いんです、と返ってきた。
これはますます空気を読まなくてはいけない。妹の下着なんて変態じゃないかと一瞬思ったが、私を殴りなさい、縛って殴りなさいと毎日のように言ってくる総領娘様のことを考えると、そうでもないような気がした。
それは変態ですね、とあるが、あんたも同じようなものだと思う。
それはそうとして、問題はどうやってこの人を落とすかということである。落とすつもりなら本気で戦いますよ、と返答されたが、それではいつまで経ってもここから降りれないということである。それは困ります。お願いです、お願いですから地上まで送って行ってください空気の読めない人、とかいてあったので、私は問答無用で天空の端っこまで相手を連れて行くことにした。
途中何度もカドで叩かれたが、あまり気にしなかった。
天空の端っこに来る。雲が厚くて下が見えない。無理無理、本当無理と相手は涙目になっている。だが私はSなので、こんなことで怯んでいてはいけない。SはSらしくあるべきなのだ。
どうでもいいから降ろせや!ときたのでじゃあ降ろしますねーと投げるポーズを取ると、無理無理、絶対無理と必死でしがみついてくる。実に面白い。
カンペのカドで殴られた。痛かった。
それにしてもここからどうするかである。
ためしにバンジージャンプなんて良いかとは思うが、どうだろうか。ニヤニヤしながら口には出さずに聞くと、ばんじーじゃんぷ?なにそれ、と返ってきた。バンジージャンプとはビニールテープを足にくくりつけて高いところから落ちることである。相手は更に顔を青くする。この人は地底の偉い人らしいが、本当に偉いんだか疑問である。
しかし、飛べるのだからここから飛んで帰ればいいのにと思う。別に今特に仕事とかはないのだが、ちょっとめんどくさいものがある。そこをなんとか、空気の読めない人、とあるのでやっぱりこの場に放置することにした。
服を掴まれる。ふと見ると相手は赤い顔をしていた。泣きそうだった。普段クールな奴がこうして涙目になっていると、色々とそそるものがある。変態か、お前は、と書いてきたので、そうかもしれませんね、と心の中で返す。
やっぱり他の人探します、さようなら、ときたので私は羽衣で足首を縛ると、予想通り相手は転んだ。声を上げなかったのは意地なのだろうか。何するんですかとこちらを見上げてくる。少し泣いていた。私のスイッチが入りました、と心の中でメッセージを送った。
相手は何も言わなかった。言わなかったというより、書かなかったというほうが正しいか。
とりあえず私は相手を抱きかかえ、天空の更に上へと昇っていった。
HAPPY END
いいぞもっとやれ(ぉ
言葉にしなくても会話になるなんてこの二人らしくておもしろい作品でした。
最後は衣玖さんがさとりをお持ち帰りしたって解釈で良いですよね?
フィーバースイッチが入った衣玖さんは無敵だ。
>1様 衣玖さんは基本鬼畜です。
>謳魚様 状況によってSにもMにもなることができますが、今回は空気を読んでドSになりました。
>3様 HAPPY END です。
会話なしというのは今回意識したところだったりするんで、面白いと言っていただいて嬉しいです。
>4様 そうかこれ、フィーバースイッチが入った状態なのか。確かに無敵だ。
ふむふむ、次はどうなるのかと読んでいたらいきなりハッピーエンドで吹いた。