スキマ妖怪が言った。
外の世界では十二月二十五日には自分にとって特別な存在の人と一緒に夜を過ごすのだ・・・と。
その話はあっという間に幻想郷中へと広まった。
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十二月二十五日。クリスマス当日。
一人の少女が何やら嬉しそうに料理を作っていた。
「いよいよ今日はクリスマス、チルノちゃんの好きなお料理いっぱい作らなくちゃ♪」
そう言って鼻歌まじりに次々と料理を作っていく大妖精。
彼女がこうも嬉そうなのは今日という特別な日を大好きなチルノと過ごせるからである。
数日前、某スキマ妖怪が流した噂を聞き、チルノにクリスマスを一緒に過ごそうと誘ったのである。
それをチルノは二つ返事で「いいよ」と返したのだ。
「えへへ、ちょっと作りすぎちゃったかなぁ」
と、テーブルの上には美味しそうな料理がところ狭しと並んでいる。しかも一皿一皿すべて山盛り。到底二人で食べる量ではない。
「でもまぁチルノちゃんは食べ盛りだからこれくらい全然余裕だよね!」
恐らくこの量を食べきれるのは冥界のお嬢様くらいしかいないと思われる・・・
「小悪魔さんから借りた本によると、クリスマスはお互いの仲がグンッと縮まる特別な日って書いてたし・・・もしかすると今夜は・・・」
薄暗い部屋・・・蝋燭が怪しく二人を照らした。
「チルノちゃん・・・愛してる」
「あたいも・・・大ちゃんのこと好きだよ」
そして二人の距離がゼロになり・・・
「ふぁ・・・大ちゃん、熱いよぉ・・・熱くて・・・あたい溶けちゃう・・・よぉ」
「ハァ・・・ハァ・・・チルノちゃん・・・もう私・・・ダメ・・・」
そして二人はついに結ばれたのだ
「大ちゃん・・・あたい・・・責任とるから!」
「・・・うん、一緒に幸せになろうね」
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・・・
「なんてことになったりして!・・・きゃー!どうしよ!どうしよ!」
(※全部大妖精の妄想です)
そんなこんなでパーティーの準備は全て完了。あとはチルノが尋ねてくるのを待つばかりである。
コンコンッ!
玄関の扉を叩く音が聞こえた。
「大ちゃん!」
「いらっしゃい!チルノちゃん!」
と、ここまでは大妖精の思っていた通りの展開だった。・・・が、
「こんばんわ」
「お邪魔しまーす」
「・・・あれ?」
「メリークリスマスなのかー」
「お邪魔します」
「・・・あれ?あれれ?」
チルノの後ろからぞろぞろとイレギュラーな方々が入ってきたのだ。
ルーミア、ミスティア、リグル、そしてレティの四人である。
「えっと・・・これは一体・・・?」
とりあえず手短なところにいたミスティアを取っ捕まえた。
「えぇとこれはどういう状況なのかな?返答次第じゃメインディッシュが七面鳥じゃなくて夜雀になっちゃうよ♪」
そんな物騒なことを話してにっこり微笑む大妖精。逆に笑顔がものすごく怖い。
「え、えっと、チルノに誘われたんだけど・・・?今日大ちゃんの家でクリスマスのパーティーがあるから皆で行こう・・・って」
「・・・チルノちゃんが?」
「うん」
どうやら二人の思惑は完全に違っていたようだ。大妖精は二人きりで過ごしたかった。しかしチルノはそれを皆で過ごすものだと思っていたのだ。
「わー美味しいよー」
「ちょ、ちょっとルーミア、勝手に食べちゃだめだよ」
「そうだよルーミア、ちゃんと皆で揃うまで待たなきゃ!」
「そういうチルノ、あなた口の周りにクリームついてるけどそれはどうしてかしら?」
向こうはすでに盛り上がってるようだ。大妖精は深くため息をつくといつもの優しい笑顔に戻って
「私達も行きましょうか」
と、ミスティアと共に、その輪に加わった。
そして、パーティーは始まった。皆、大妖精の料理に舌鼓を打ったり、それぞれ宴会芸を披露したりと、それはそれは楽しいパーティーとなった。
最初は不満だった大妖精も少しずつそのことを忘れ、一緒に楽しんだ。
「・・・あれ?なんだろこれ?」
ルーミアが、小さな袋を見つけた。かなり手の凝っているラッピングつきである。
ルーミアは不思議に思ってそれに手をかけた、と、その状況に気づいた大妖精が血相を変えてルーミアに飛びかかった。
「開けちゃだめ!!」
ガシャンッ!
大妖精が無理にその袋を取り上げたためバランスを崩してルーミアが転倒、運悪く傍にあった食器が割れ、怪我を負ってしまった。
「あ・・・」
皆の視線が大妖精に集まった。
「あ、あの・・・ごめんなさいっ!!」
大妖精はそう謝ると、そのまま外に飛び出していってしまった。
「チルノ、大妖精を追いなさい!」
「え、う、うん!」
レティにそう言われ、チルノは急いで大妖精の後を追った。
「痛たたた~」
「まったく、あれはルーミアも悪いよ。勝手に大ちゃんの物を開けようとするから」
「まぁまぁ、説教は後にして、ほらルーミア、治療するから怪我見せて」
そんな中、レティはクスッと笑って
「ルーミアの治療が済んだら・・・三人とも私に付き合ってね。面白いものが見れるわよ」
と、言った。
さて、場面は変わって大妖精。
湖の畔に生えている木々の中で一番高い木。その木の枝に座ってただ下を向いて落ち込んでいた。
「ハァ・・・私って最低・・・友達に怪我をさせるなんて・・・きっと皆私のこと嫌いになっちゃったよね・・・チルノちゃんも・・・」
思考はどんどん悪い方へと考えてしまうもの。大妖精は自分がしたことを後悔してポロポロと涙を零した。
「大ちゃん!!」
チルノの声に大妖精は振り返った。
「チルノ・・・ちゃん?」
「やっぱりここにいた。・・・大ちゃんって元気ないときいつもここで泣いてるんだもん」
「・・・ごめんね、折角楽しいクリスマスのパーティーなのに、私のせいで台無しにしちゃった・・・ルーミアちゃんにも怪我させちゃったし・・・」
そう言って落ち込む大妖精の手をチルノはギュッと強く握った。
「そんなの気にしてないよ、あたいもルーミアも皆も。皆、大ちゃんにありがとうって思ってるよ。こんな楽しいパーティー開いてくれたんだもん!」
「そう・・・かな・・・?」
「そうだよ!」
そう言ってにっこりと笑った。この子はどうしてこんなにも素直で真っ直ぐなんだろう、大妖精はそう思った。
そして、この際だから自分の気持ちも白状してしまおうと思った。
「・・・あのねチルノちゃん、私本当はチルノちゃんと二人きりで過ごしたかったんだよ。クリスマス」
するとチルノはそうなの?と不思議そうに首を傾げた。
「どうして?」
「だって、特別な存在の人と過ごす・・・って聞いたから。・・・私の特別な人はチルノちゃんだから・・・」
そう答えた大妖精にチルノはまだ何かわからないような様子でこう聞き返した。
「特別な人って一人じゃないとダメ?あたいも大ちゃんは特別だけど、レティもリグルもみすちーもルーミアも皆特別だよ?」
だって・・・とさらに言葉を続けた。
「皆、あたいの大切な友達だもん」
自分が恥かしくなるくらい、チルノの言葉が胸に響いた。
それと同時に大妖精は気づいた。こんなチルノだからこそ自分は好きなんだ・・・と。
「チルノちゃん、これ受け取ってくれるかな?」
そう言ってさっきの袋をチルノに渡した。
「え・・・?」
「これ、チルノちゃんにあげるクリスマスプレゼント。だから他の人に開けられたくなかったの」
チルノはその袋を受け取りそれを開けてみた。
「わぁ・・・毛糸のリボンだ!」
「最初はマフラーとか手袋がいいかなって思ったけど、チルノちゃん寒さはへっちゃらだし、リボンならいいかなって・・・」
そう言ってチルノの髪をそのリボンで結った。
「ありがと!大ちゃん!・・・それから、はいっ!これはあたいからね!クリスマスプレゼント」
チルノは真っ白な一輪の花を取り出し、大妖精に渡した。
「レティに聞いたらその花スノードロップって言うらしいんだ。まだ咲く時季じゃないらしいんだけど、それは珍しく早く咲いてたんだ」
「ありがとう、チルノちゃん。大切にするね」
大妖精はここでふと気づいた。今この場所には大妖精とチルノの二人きりであると。
「(・・・今日なら・・・私の気持ちもチルノちゃんに伝わるかな・・・)」
ずっと思い続けていた、友情よりもさらに先の感情・・・
「あ、あのね・・・チルノちゃん・・・私、チルノちゃんのこと・・・」
その時だった、チルノがそっと大妖精に寄り添ってきた。
「ち、チルノちゃん!?」
「・・・くー・・・」
すでに夜も遅い、チルノは眠気に勝てず寝てしまったようだ。
「・・・もう、チルノちゃんたら・・・」
大妖精はそう呟くと、そっとチルノを背負った。
「今度、伝えるときはちゃんと真剣に聞いてね、チルノちゃん」
・・・・・・・
・・・・・
・・・
さて、そんな二人のやりとりを遠くで見ている影があった。
「まったく、チルノはお子様なんだから・・・折角大ちゃんが勇気を出して告白しようとしてたのに」
「・・・いやまぁ、そもそも女同士でそういうのは・・・」
「不毛なのかー」
そんな彼女達は盛り上がっていて気づかなかった。その背後から来る影に。
「・・・皆、随分楽しそうですね・・・?」
一同、声に振り返ると、そこにはたった今目の前で見ていた大妖精がいた。どうやらテレポートを使ったようだ。
「そ、その、話せばわかる!話せば・・・!」
「聖者は磔にされました・・・クリスマスだけに」
「そんなこと言ってる場合かっ!」
「ま、待って、これはレティさんに唆されて・・・ってレティさんがいないっ!?」
「問答無用♪」
慌てる三人に大妖精はにっこりと笑顔をみせた。それは死刑執行の合図だった。
「「「あぁああああああ!!!!」」」
聖なる夜に少女達の悲鳴が鳴り響いた。
そんな一部始終をさらに別の場所から見ていたのが・・・
「くろまく~」
と、我関せずなレティ。離れたところで高みの見物といった様子だ。
「・・・あっ!」
と、レティは何かを思い出したような声をあげた。
「そういえばあの子がプレゼントしたスノードロップの花言葉って確か――・・・」
『希望』
『友を求める』
『恋の最初のまなざし』
「フフッ、きっとあの子はそんな意味知らないわよね」
・・・と、不意にレティがこちらを向いた。
「あんな騒がしい子達だけど・・・どうかこれからも見守ってあげてね?・・・外の世界の皆さん」
そう言ってレティは微笑んだ。
~END~
花言葉ってなんだかいいですよね。
恋は盲目といいますけどもう少し皆と仲良くね、大ちゃん!w
一応大ちゃんのために弁解しておきますが普段は仲がいいですよ。ただ、おっしゃるとおり恋は盲目、チルノが関わるとこんな風になってしまうのです。
花言葉はちょうど冬の花を探していて、ついでに調べたらまさに打ってつけの意味だったので本文に付け足しました。
あなたの死を望みます になるらしいですよ