霖之助に背負われてお店に帰った次の日
魅魔が霖之助に自分の考えを伝えた
『魔力を回復する薬は時間をかければ確実に出来る
だから、こっちの世界の見聞を広めたい』
その言葉を聞いて霖之助は頷いた
霖之助自身も、こっちの世界に来てすぐは
見聞を広めてみようとしていたのだ
『わかった、僕も幻想郷の外の世界の事を知りたかったしね』
戻れる保障があるのなら、今の状況を楽しむ方がいい
『申し訳ないね…』
『それに、僕だけじゃあ幻想郷には戻る事は出来ないからね』
二人が話し合った末に、もう暫くこの世界を見聞する事にしたのだ
(…よ、よし…これでしばらくは二人だけの生活が続く)
(知識を得ようとしている所は、やっぱり魔理沙の師匠なんだな)
考えている事は微妙に違っていたが
(霖之助のおかげでこっちに残ろうと思ったんだけどね)
(まあ、魅魔が居なかったら、戻れるのなら即座に戻っていただろうけどね)
根本の部分は二人ともほぼ同じであった
「ちょっと、表に出てくる」
「ん、何時までだい?」
「晩御飯までには戻る予定だ」
「わかった、それまで店番をしてる事にするよ」
魅魔が自分の問題を解決して
霖之助に背負われてお店に戻ってから数日後
魅魔の調子はすっかり戻っていた
「今日は晩御飯はシチューだからね、少し遅れてきな」
「遅れて?」
「んっ、お前さんのシチューに薬入れる予定だから」
むしろ前よりも霖之助をからかうようになっていた
「おいおい…当分は薬を作らないんじゃなかったのかい?」
「冗談だよ後で晩御飯を買いに行くから
その時までに戻ってきてくれればいいさ」
魅魔が笑いながらそう言うと、霖之助は苦笑して頷いた
「わかった、夕方までには戻るよ」
霖之助がそう言うと、商店街の方に向かっていった
(なるほど、あの式はこう動かすのか)
霖之助がこっちの世界の式(と呼んでいる)である
パソコンの動かし方の書いてある本を本屋で見つけていた
「…これは欲しいな」
普段なら立ち読みで色々な情報を得ているのだが
倉庫の中で眠っている式を動かせるのなら
式を動かせるのならそう高い買い物ではない
しばらく霖之助が本を持ったまま悩むが
(幻想郷に帰っても…これは使えるな)
購入する事を決めて店員の居る所に向かった
(よし、早速本を読もう)
霖之助が何時ものようにカウンターで会計を済ませて
香霖堂に帰る最中に本を読みながら帰ろうとして
本が入っている紙袋を開けると
「…おや?」
本の他に、なにやら紙切れが一枚入っていた
(まあ、今は本を読む事にするか)
とりあえず本を読む事を優先した為
その紙をポケットに入れて
本を読みながらお店にむかった
「ただいま」
「おかえり、意外と早かったね」
お店に本を読みながら帰ってきた霖之助に
お店の棚を掃除していた魅魔が返事をする
霖之助が読んでいた本を一旦閉じると
椅子に座って魅魔に答える
「お疲れ様、後は僕がお店を見るから」
「了解、それじゃあちょっと買い物に行って来るよ」
霖之助の言葉を聞いた魅魔が買い物袋を持って
お店の外に向かって出て行く
(…さて、また本の続きでも…)
買い物に出て行く魅魔をお店の中から見送って
再び本を読もうとしたとき
ふと、先ほどの紙の事を思い出して
ゴミ箱に捨てようとして手が止まった
「…『映画』の割引券?」
その紙に書いてある文字に少し見覚えがあった
妖怪の山の神社の巫女さんから
こっちの世界の娯楽について色々聞いていた時に聞いた言葉『映画』
大きな画面に人が動く姿が見られて、それに声が聞こえてくるという物
幻想郷では見ることが出来ないと聞いていたのを思い出す
「…すぐに使えるのか…」
霖之助の頭の中にあったすぐに本を読みたいと言う思いは
新たな興味の対象である『映画』に持っていかれた
(一度見ておきたいな…)
霖之助が改めて手元にある割引券を調べる
「なるほど…時間はある程度融通が利くのか」
一日に何回か見られるために、時間の融通は利く
(だが、結構長い時間いる必要があるようだな)
一回見るのに、1時間か2時間はかかる
霖之助にとってそのぐらいの時間はどうでもいいが
一つだけ心配な事があった
(魅魔にどう言うかな…)
多分、映画を見たいといえば魅魔は店番を引き受けてくれるだろうが
その後魅魔の機嫌が悪くなる事は確実であろうと霖之助も考える
(最悪、しばらくそれでネチネチ言われるかもしれないな…)
どうしたものかと霖之助が考え始めた時
割引券の端にあった言葉に目を留めた
(そうだ、いい事を考えた)
魅魔の機嫌を損ねないようにして映画に行く方法が頭に浮かぶ
口元をニヤつかせながら、霖之助は魅魔が帰るのを待つことにした
霖之助がお店で店番をしている時
「よし、材料確保!」
タイムセールの商店街の中を魅魔が暗躍していた
並み居る猛者達を抑え、見事に晩御飯の材料を手に入れていた
(さあ、後は会計を済ますだけ)
全ての商品を買った魅魔が会計を終らせて
お店に帰ろうとしたとき
(からんからんからん!)
近くから鐘の音が聞こえて来た
「なんだい?あれ…」
鐘が聞こえて来た方を向いてみると
少しの人だかりが出来ていた
(面白そうだね…)
幸い買い物は全て終ったが晩御飯までには時間がある
鐘が鳴る人だかりの方に魅魔が向かう
「ちょっとごめんよ…っと」
人だかりの中を覗くと、そこで何人かの人が
なにやら御神籤のような箱を回していた
人がそれを回す度に、小さな箱から玉が出て
それと同時になにやら手渡されている
(へえ…)
魅魔が辺りを見ると、近くの看板に色々書いてある
(え~『商店街のガラガラ抽選会!2000円以上
お買い上げのレシートと引き換えに一回!』…か)
魅魔が先ほど買ってきた買い物の中身を思い出し
買い物で手渡された会計の紙を手に取ってから
どんな商品が当たるのかを見つめてニヤリと微笑むと
箱を回そうとしている人達の後ろにならんだ
「さあ~、今日で抽選会も最後!特賞はまだ出てないよ!」
人の良さそうなおじさんが、抽選のがらがらの前で
鐘を振りながら声を張り上げる
そのおじさんの前に魅魔がレシートを持って前に立つと
二千円分のレシートを手渡す
「はいはい、それじゃあ一回思いっきり回してね」
おじさんがそう言って魅魔に言うと
「それじゃあ、遠慮せずに…」
ガラガラの取っ手の部分を指で掴むともう片方の手を
そっとガラガラに当てる、そして少しだけ魅魔が目を瞑ると
「これだ」
魅魔が声をかけると同時に、ガラガラを回す
(からん…)
受け皿の中に一つの玉が落ちる
玉の色が白ならはずれ…
緑なら小物、黄なら食料品の詰め合わせ
青なら商品券のプレゼント
だが、皿の上に落ちたのはそのどれでもない
玉を見たおじさんと周りに居たお客が一瞬静まる
「と、特賞!おめでとうございます!」
そんな中、一番に声を出したのはおじさんだった
おじさんの掛け声と共に、手に持っていた鐘を思いっきり鳴らす
その鐘の音と共に周りから拍手が響いた
拍手の中、魅魔の心の中は少し複雑であった
ガラガラに手を当てた一瞬、透視の魔法で中身を見ると同時に
当てた手だけを一瞬だけ、幽体化させて玉を抜き取る
後は、皿の上に赤球を乗っける…
それが、特賞を取った正体であった
(あ~…ちょっと後味が悪いかな?)
少しだけ魅魔の心は痛んだが
「おめでとうお嬢ちゃん!はい、特賞の景品」
「では遠慮なく(まあ、いいか別に)」
特賞が欲しかったのだから仕方が無いという結論に達して
ありがたく、商品を貰って笑顔で香霖堂に戻る事にした
「いらっしゃい…なんだ魅魔か」
「随分な挨拶だね…」
お店に帰ってからの霖之助の挨拶に
ちょっとだけむっとする魅魔
だが、そんな魅魔を見て霖之助が改めて答える
「君だからね…お帰りなさい」
「…はん、そんな接客だからお客がこないんだよ」
お帰りと言われてむっとしていた魅魔の表情が和らぐ
何気ない一言かも知れないが、帰る所があるのはありがたいのだ
ましてや、自分を待っていてくれる人が居ればなおさらの事
(…やれやれ、私はよっぽどこの御人好しが気に入ったみたいだね)
そんな事を思いながらも、こみ上げる笑みが止まらない魅魔
「何か良い事でもあったのかい?」
笑みをこぼしている魅魔に霖之助が不思議そうに声をかける
「なんでもないよ、それよりすぐに晩御飯作るからまってな」
前の魅魔なら慌てていたかもしれないが今ではそんな事はない
「あ~、料理中に台所に来たら駄目だからな?
霖之助の皿だけに媚薬入れる予定だから」
「…そんなの入れてどうするつもりだい」
ちょっとしたやりとりを交えてから
結局二人で台所に向かう事になった
(あ、そういえば特賞の事話すの忘れてたね)
魅魔がシチューに入れる野菜を切っている時に
商店街のガラガラで手に入れた商品を思い出す
(何時切り出そうか…)
「お皿を並べておくよ」
「ああ、後スプーンもよろしく」
貰った景品の事を話すだけなのだが
出来れば霖之助を驚かせてやろうと思う気持ちがあるので
(先に晩御飯作り上げてしまってからでいいか)
とりあえず、今は目の前の料理を作る事に力を注ぐ事にした
(む、そういえば映画の事まだ話してないな)
霖之助がお皿とスプーンを並べている時に
映画の券の事を思い出す
(…まずはどのタイミングで切り出すかが問題だな)
相手の機嫌を見極めてからでないと
まとまる話も纏まらない
幻想郷では常に不利な条件を押し付けられてきた
霖之助だからこそ、そういう事は敏感だった
「よし、シチューができたよ!皿持ってきな」
(とりあえず今は晩御飯が先だな)
幸い、魅魔の機嫌がいいのはわかっているのだ
今は目の前の暖かそうなシチューを食べるのが先決と判断した
「美味しそうだな」
「冷めない内に食べな、暖かいうちが一番うまいんだ」
出来上がったのは、茸を大量に入れたシチューであった
二人とも手を合わせると口に運びはじめる
「今日は面白い本が手に入ってね(さて、どう切り出すか)」
「へぇ…それは良かった(どうやって切り出そうかね)」
始めの内は二人とも、会話しながら食事をしていたが
そのうち一瞬だけ二人の会話が止まる
((今しかない!))
今の一瞬を逃したら、話を切り出す機会は無いと二人とも判断すると
「「あ、あのさ(な)?」」
全く同じタイミングで声をかけた
そして二人とも、再び沈黙してから
「あ~…魅魔から先にどうぞ…」
「…た、たいした事ではないからそっちこそ先に」
「いやいや…」
「いやいやいや…」
二人とも顔を赤くしながら、相手に先に話をするように促す
そのまましばらく、お互いに話すのを譲り合うが
「…このままではラチが空かないな」
「確かにそうだね…」
霖之助と魅魔がお互いにこのままでは
話が進まないと判断したので、二人とも一旦椅子から起き上がると
魅魔が腕をグルグル回し始めて、霖之助が首をコキコキ鳴らして
「最初はグー!」
「ジャンケンポン!」
ジャンケンで決めることになる
そして、しばらくの激闘の後
「よし、私の勝ち!」
「く、あの時グーを出さなければ…」
結局負けたのは霖之助であった
勝った魅魔が嬉しそうにガッツポーズを決めると
嬉しそうに椅子に座り込んだ
「じゃあ、話を聞かせてもらおうかい」
魅魔の言葉に、霖之助も椅子に座り込むと話を切り出した
「たいした事じゃないんだ…」
「そうかい、じゃあ気楽に聞く事にするさ」
魅魔がそう言って手元に置いてあったお茶を口に含んで
「一緒に映画を見に行かないか?」
「ぶっ!?」
思いっきり噴出しそうになる
「実は映画の割引券が手に入ったから
見聞を広める為に見に行こうかと思ってね」
「え、映画?」
霖之助の突然のお誘いに魅魔が少しパニックになる
二人で買い物に行く事はあったが
霖之助からどこかに出かけようと言ったのはこれが初めてだった
「まあ、君が嫌って言うのなら仕方が無いが…」
「ぜ、絶対に行く!」
必死に心を落ち着けようとしている魅魔に対して霖之助が
そのように声をかけると魅魔が即座に返答を返した
「そ、そうか…だったらいいんだ」
魅魔の剣幕に霖之助が少し驚きながら答える
「わ、私もこっちの世界の見聞を広めたいからね」
その様子を見て、魅魔がコホンと咳払いをして慌てて説明を加えた
他の人ならそれが後から付け加えた物だと気づくが
目の前の朴念仁には気がつかない、こういう時は鈍感なのはありがたい
「それじゃあ、次は魅魔の話だな」
「ああ、わかった」
霖之助に声をかけられた魅魔が頷くと
懐から何かを取り出して、テーブルの上に置いた
「これは?」
霖之助が置かれた物を魅魔に問いかけると
魅魔が霖之助から少しだけ目をそらして呟く
「あ~…近くの温水プールとやらの無料招待券」
魅魔がガラガラの景品として貰ってきた特賞であった
「くじ引きで貰ってきたんだけれどね…その一緒に…」
「温水プールか…興味があるな」
魅魔が頬を赤く染めながら小さな声で
霖之助に一緒に行かないかと伝えようとしたが
それよりも先に霖之助が嬉しそうな声を出す
「じゃ、じゃあ…一緒に行くかい?」
「もちろんだ、行けるのならぜひ行きたい」
「そ、そうかそうか!それなら丁度良かった
もう一人無料になるらしいから無駄にならなくて良かったよ」
二人とも話す事を無事に終えて
再び食事の続きを始める
「よし、それなら色々計画を立てないといけないね」
「なるほど確かにそうだな」
二人とも先ほどよりも饒舌に話しながら食事を再開し始める
「何時頃見にいくんだい?」
「映画はいつでも見れるらしいが、君の方は?」
「券に書いてある通りなら大体一週間後みたいだ」
二人とも食事をしながら突然決まったお出かけに
嬉しそうに計画を話し始めた
必要な情報は何か、何時いくのか等を話あっていると
時間はどれだけでも進んでいく
「おっといけない、そろそろ食器を片付けないと」
二人が計画を話し合っている途中で
魅魔がそう言ってテーブルの上を片付け始めた
気がつけば結構な時間二人は話し合っていた
その事に気がついた霖之助が不意に笑い声をもらす
「あん?どうしたいきなり笑い出して」
魅魔が食器を水につけながら話しかけると
霖之助が笑みをこぼしながら答える
「いや、幻想郷では何時もお店の中で本を読んでいる僕なんだけどね」
幻想郷に居た頃は霖之助はお店から出ることはあまり無かった
むしろ、人前に出ることは極力避けていた
表に出る時の殆どは無縁塚に行くか魔理沙に拉致されて
博麗神社の宴会に連れ出される位であり他には、
たまに里に出て足りない食料品を買い求める程度であった
「知っている人が居なくて、しかも世界観も違っているこっちの世界で
表に出るのが楽しみだと思っている事に思わず笑いがね…」
そんな自分が、知っている人が誰も居ない幻想郷の外の世界で
どこかに出かけのが楽しいと思っている事に気がついて
自嘲が少しはいった笑いがこみ上げてきたのだ
「はあ…」
「どうした?ため息なんかついて」
霖之助の言葉を聞いた魅魔が
やれやれといった感じでため息をつく
「お前さんが幻想郷でどういう生活してたかは知らないけどさ…」
水洗いした食器をタオルで拭きながら魅魔が話を続ける
「お前さんのそれは自嘲の笑いなんかじゃないよ」
「そうかい?」
霖之助が思わず問いかけると魅魔が食器を戸棚に返しながら頷く
「此処が幻想郷じゃないとしても、そんなのは笑うのに関係ないだろ?
お前さんが笑うのは自嘲なんかじゃないよ、楽しいから笑ったんだ」
魅魔の言葉に霖之助が驚きながらも納得する
幻想郷で霊夢や魔理沙等に弄られすぎて
少々皮肉屋になっていたのかもしれない
「そうか、楽しいからか…」
「それともう一つ言う事があるよ」
霖之助が呟くと同時に魅魔が霖之助の傍に近寄ると
(ペチン!)
「いっ!?」
霖之助の額に思いっきりデコピンを食らわす
思わぬ一撃に霖之助の顔が歪ませると
痛む額を押さえながら文句の一つでも言おうとしていたら
「目の前にいる良い女が出かけるのに付き合うって言ってるんだよ?
自嘲の笑みじゃなくて、思いっきり喜ぶって言うのが筋ってもんだろ」
一切の遠慮をしない渾身の笑顔で魅魔が言い放った
その様子に文句を言おうとした霖之助の動きが止まる
「良い女じゃないなんて言わさないよ」
それが当然と言わんばかりに魅魔が堂々と胸を張ると
一瞬動きが止まった霖之助が口元をにやけさせる
「なるほど、確かにそうだ」
「…分ればいいんだよ」
魅魔が嬉しそうに微笑むのを霖之助が確認してから
霖之助が魅魔に更に話を続けた
「君が良い女かどうかはどうでも良いとして、出かけるのは楽しみだからね」
「こんな良い女なかなか居ないよ?商人の癖に見る目が全く無いね」
二人とも皮肉を呟いた後お互いに含み笑いをしてから
「そろそろ眠らないと、明日に響くな」
「そうだね、それじゃあお休み」
二人とも、座っていた椅子から立ち上がり
魅魔が先に部屋から出て行こうとした時
「ああ、そうだったもう一つ言っても良いかな?」
「なんだい?」
霖之助が魅魔に話しかける
「ありがとう、君のような良い女は幻想郷でも殆ど居ないと言っておくよ」
不意打ちで褒められた魅魔が振り向かないで動きを止めるが
「こんな良い女が出かけるのに付き合うんだから
思いっきり喜びな半人半妖の御人好し!」
そう言って片手で手を振りながら魅魔は寝床に歩いていった
霖之助はその様子をしばらく見つめてから
「さて、僕も部屋に戻るとするか」
自分の寝床に向かって歩き出した
「さて、明日に向けて眠る事にするか…ごほっ…ごほっ」
魅魔と話し合った後、霖之助が自室で寝ようとしたら
また前のように咳が出てきた
いつものようにすぐ納まるかと思っていたが
今回の咳はなかなか納まらない
「…参ったな…やっぱり風邪かな…ごほっ!ごほっ!?」
風邪かと思っていると咳が更に酷くなってきた
しかも体が物凄く重く感じられて思わずベッドの上に倒れこむ
(な、なんだ?この体のだるさは)
体が芯から冷えていく感覚に額から脂汗が流れる
「ぐっ!?むっ!」
訳が分らないまま痛みに耐える霖之助
しばらくの間、そのまま倒れていると痛みと咳が引いてきた
「ぜぇ…ぜぇ…な、なんだったんだ?」
痛みが消えて、霖之助が額の汗を手で拭う
その時、一瞬だけ手の感覚が消えたような気がした
(なんだったんだろうな…)
疲れがたまったと思った霖之助はそのままベッドの上で眠る事にした
一方その頃魅魔は…
(幻想郷でもなかなか居ない良い女か…)
「うふ…うふふふふっ…褒められた…」
ベッドの上で枕を抱えて身悶えしていた
「…朝か…」
霖之助が朝起きたら身体に不調は一切無かった
それこそ、昨日の体の痛みはまるで夢だったかのように
(…本当になんだったんだろうな)
ベッドの上から上半身だけ起き上がる
(やはりまだこっちの生活に慣れていないから疲れが出たのかな?)
肉体的ではなく、精神的に疲れているのかも知れないと
自分のコメカミに指を当てようとして手を持ち上げた時
「…!?」
自分の掌が透けて向こうの壁が見えたのだ
驚いて自分の目を擦り、もう一度掌を見つめると
そこには何の変哲も無い自分の掌が見えた
「…本気に疲れているのかもしれないな」
霖之助がそう呟いてから程なくして
「朝ご飯が出来たよ!早く起きてきな!」
台所から魅魔の声が聞こえてきたので
霖之助はベッドの上から起き上がって台所に向かった
「…おはよう」
エプロン姿の祟り神が香霖堂の台所で料理を作るのは
もう珍しい光景ではなくなってしまっていた
「ああ、おはよう…もう少しでパンが焼けるから座ってまってな」
すでに料理が皿の上に並んでいて
魅魔がトーストを焼いている所であった
霖之助がいつものように椅子の上に座る
「…大丈夫かい?随分と顔色が悪いようだけど」
「いや、昨日の夜に咳き込んでね…多分疲れが出たんだとおもうけど」」
焼いたトーストを持って来た魅魔が顔を見てそう話しかける
声をかけられた霖之助が昨夜咳き込んだ事を伝えてから
「今は咳も出ないし、今日は一日部屋で休もうと思っている」
「ああ、そうした方が良い…後で薬でも作ろうか?」
今日一日はお店の中に居る事を伝えると
魅魔もそれに同意した
「それに、出かけるのは明日だからね…」
「…無茶だけはしたら駄目だからな?」
そこまで話をしてから、二人とも両手を合わせて
「「頂きます」」
出来上がった朝食を食べ始めた
そのようなやりとりがあって、
霖之助は一日家の中で過ごす事にした
「それじゃ、私はちょっと買い物に行ってくるよ?」
「わかった、気をつけて行ってらっしゃい」
そして、代わりに魅魔が外に買い物に行く
(何時もとは違うが…まあ、たまにはこんな日もいいだろう)
魅魔が出て行って少し寂しくなったお店の中で
「…さて、読みかけの本がまだ残っていたな」
霖之助は欠伸をしながら自分の部屋に戻っていった
その日の夜に、魅魔が何かを買って帰ってきたが
霖之助が買ってきた中身を聞いても
「教えないよ…ま、まあ明日には教えるから」
そう言ってはぐらかした
(…まあ、明日になればわかるんだから)
霖之助もそう思ってこれ以上聞くのを諦めると
「さあ、御粥ができたよ、薬味は自分で好きなだけ入れて調節してくれ」
魅魔が作ってくれた御粥を食べる事にした
「魅魔…ネギはあるかい?」
「ああ、こっちに刻んである…あれ?梅干は何処だい?」
「こっちにあるよ、ほら」
「ん、感謝感謝」
その日の晩御飯は『どの食材が御粥に合うか』
という議題で魅魔と霖之助の二人は語り合い
「う~ん…どれも甲乙つけがたいな」
「ははっ、どれも馬鹿に出来ないねぇ」
決着は着かなかったが、明るい雰囲気で晩御飯が終って
「明日は映画だからな…」
「ああ、そろそろ眠る事にするよ」
二人とも何時もよりも少し早めに寝る事にした
そんな事があって、次の日…
二人が映画を見に行く日の朝
「ま、全く…な、何で僕が…」
霖之助は商店街に向かって走っていた
今朝、霖之助が起きると、いつものように
魅魔の起す声が聞こえるでまどろんでいたが
どれだけ待っても声が聞こえてこない
霖之助がおかしいと思って台所に向かうと
テーブルの上にすでに用意された朝食と
『ちょっと先に行くから、朝ご飯食べたら此処に来る事』
と書かれた手紙と地図が置いてあった
てっきり、魅魔が声をかけてくれると思っていたので
かなり惰眠を貪ってしまったのだ
「…ま、まずい!?」
霖之助は朝ご飯であろう食パンを齧りながら
急いで準備を済ませると、お店を飛び出したのだ
「ぜぇ…ぜぇ…ど、何処だ?」
お店を飛び出してから、大急ぎで地図に書いてあった
商店街の中にある公園にたどり着くと
その場で肩で息をしながら回りを見渡す
魅魔の格好は此方の世界にしては目立つ
無論、普段は相手に不思議に思われないようにしているのだが
(この公園の中なら…かなり目立つはず)
だが、来るように言われた場所に魅魔らしき人物は見当たらない
「ふぅ…一体何処に行ったんだか…」
霖之助が近くにあったベンチに座り込む
(来るのが遅すぎたからお店に帰ったのか?)
その考えに霖之助が少しムッとする
遅れたのには自分に非があるが、手紙を置いて
一人先に出て行った魅魔にも非があるのだ
「…一旦帰るか」
霖之助がそう結論付けて、ベンチから立ち上がろうとした時
「…えいっ」
「うわっ!?」
何者かが霖之助の首元に冷たい物を当ててきた
思わず霖之助が飛び上がると
首に冷たい物を当てた人物の方に振り返る
「な、何をするん…」
そして、振り返った先に居た人物を見て固まった
「随分遅かったじゃないか…」
その場に居たのは緑の長い髪をリボンで縛ってポニーテールにして
「まあ、このぐらい遅れるのは想定していたけどね」
何時ものような青いドレスではなく
ジーパンにTシャツ、その上に一枚上着を羽織ると言う
此方の世界で着られている服装を着て
冷えた飲み物を持った祟り神の姿であった
「…どうした?急に黙りこんだみたいだけど」
「あ、いや…」
動きの固まった霖之助の顔を魅魔が覗き込んできたので
霖之助が緊張したが、それを誤魔化すように話しかけた
「そ、その服は一体どうしたんだい?」
何とか動揺を隠して言った霖之助に魅魔が笑みを浮かべると
「ああ、これが昨日買ってきた物の正体さ…」
そう言って、霖之助の隣に座り込み
片手に持っていた飲み物を霖之助に手渡す
「ほら、飲みな…お前さんの事だから大方
私が起すまで惰眠を貪って居て、遅いから台所に向かって
手紙を見て、せいぜいパン一枚齧りながら走ってきたんだろう」
「うぐぅ」
全く持ってその通りなので、霖之助が苦い顔をする
「ふふっ…図星かい?」
「…ふぅ…君には勝てないな」
霖之助の苦い顔を見れた魅魔が嬉しそうに笑う
そんな魅魔の笑顔を見た霖之助も、諦めたように笑い出す
「…ところで、君が着ている服なんだが…」
二人がしばらくベンチの上で笑っていたが
笑い終えた霖之助が魅魔に疑問を投げかけた
「買うお金はどうしたんだい?」
物を手に入れるのには、お金がかかる
ましてや、こっちの世界の服は結構値が張るのだ
しかも、魅魔が着ているそれは全て新品である
霖之助から問われた質問に対して
「え、え~とだね…」
少しだけ言い辛そうだったが口を開いた
「じ、実は賭け事で…」
「…何をやったんだい?」
霖之助が更に突っ込みを入れて魅魔の口から出てきた言葉は
「け、競馬…」
競馬であった…思わぬ言葉に、霖之助が驚くが
「まあ、イカサマしたんだけどね」
「なっ!競馬でイカサマ!?」
魅魔があははっと笑って呟いたその言葉に更に驚いた
競馬のような大きな賭博ではイカサマのやりようがない
一体どのようなイカサマをしたのかと霖之助が思っていたら
「たいした事じゃないよ…ただ、人気の馬に負けるように伝えただけだから」
「…なるほど」
実に簡単な事であった…魅魔はただ
馬に対してそういうふうに意思疎通をしただけなのだ
ただし…馬にもわかるようにテレパシーで
周りに居る人間達には、番狂わせが起こったとしか思えない
幻想郷に居た魔法使いであるからこそ出来るイカサマであった
「さ、さて…そろそろ移動しようじゃないか」
「そ、そうだな」
魅魔がそう言ってベンチから立ち上がると
霖之助も一緒に立ち上がる
そして、そのまま二人とも公園の出口に向かう
「な、なあ…霖之助」
出口に向かうその途中で魅魔が声をかけてきた
霖之助がどうしたのかと思っていたら
魅魔が頬を染めながら小さく呟いた
「こ、この服なんだけど…変じゃないかい?」
「っ!」
普段と違う可愛らしい仕草に、霖之助の思考が一瞬止まった
(ど、どう答えれば良い?)
霖之助が答えに詰まっていると
「は、ははっ…やっぱり私にはこんな服は似合わないな」
その沈黙を否定と思った魅魔思い、着替えようとして
何も無い手に、杖を出して魔法を唱えようとした時
「ま、待て!」
「えっ?」
霖之助が思わずその杖を持つ手を掴んだ
いきなり手を掴まれた魅魔が動きを止めると
「あ…その…」
動きが止まった魅魔に対して霖之助が少し頬を染めながら
「…服だが…僕はよく似合っていると思うよ」
そう言って杖を持っている手を放した
手を放された魅魔は、しばらくボーッとしていたが
「そ、そうか…似合うか…」
似合うと言われて嬉しそうに笑らってから
「…よし!それじゃあそろそろ公園から出るよ」
「ああ…そうだな!」
魅魔はすっかり何時もの調子に戻っていた
何時もの様子に戻った魅魔がそう言ってから
霖之助の手を握ると
「さあ、今日一日遊び通すから覚悟しな!」
「お、おいおい…手を繋ぐ意味があるのかい?」
「お前さんが迷子にならないように、しっかりと繋いでおかないとね」
そう言って、公園の出口から出て行った
「これからどうするんだい?」
「ん~…実はまだ映画の時間には早すぎるんだ」
商店街の中を二人が手を繋いで歩く
「だったら、先にご飯でも食べるかい?この前良いお店を見つけたんだ」
「ほう?君が言うお店なら心配ないな」
「ああ、任せておきな…こっちだ」
魅魔が前に見つけた、裏道にある天丼屋に霖之助を連れ出す
「…どうだい?満足できただろう」
「ああ、あの天麩羅が実に美味しかった」
「そうだろう?いや~やっぱりあの天麩羅が…」
天丼屋で特製海老天丼を食べて
二人ともお互いの感想を言いながら歩く
それは、二人にとって実に楽しい時間であった
そんな風に歩きながら、映画の上映している場所にたどり着いた
「もう少し時間がかかるみたいだな」
時計を見たら、まだしばらくは時間がかかるようであった
「…どうするんだい?」
「そうだな…」
魅魔と霖之助が少し考え込んでから
「あこで時間が潰せそうだ」
「それじゃあ、すぐに向かおうか」
霖之助が近くにあったゲームセンターを指差すと
魅魔も興味があったのですぐに向かう
進んだ先にあったのは様々な蛍光灯に照らされて
色々な機械が置いてあるゲームセンターであった
「なるほど、こういう風に動くのか」
霖之助は自分のお店の奥で眠っている物が
どのように動くのかを見たかったのだ
「…なんだか、ごちゃごちゃしてうるさいねぇ」
魅魔がそういいながらも霖之助の後を追う様に中に入っていった
「そうか、この線で繋いである所から力が供給されて…」
霖之助が動いている機械を見て、どのようにすれば
お店にある物が動くのかを考察していた
(…隣の女性よりも知識の探求か…まるで魔法使いだね)
その様子を観察していた魅魔がそう思って
仕方ないなとため息を着くと何気なしにその辺を見渡して
「!?」
自分の目の前に置いてある
ゲームの中にある物に心を奪われた
「…よし!」
映画が始まるまでの間、激しい激闘が行なわれる事になった
ある程度の時間をゲームセンターで潰してから
魅魔と霖之助が映画を見る席に座ったのだが
「…うふふっ…うふふふふっ…」
魅魔が辺りを気にしないで喜んでいた
原因はその胸に抱きしめているヌイグルミであった
先ほど時間を潰す為にはいったゲームセンターに置いてあった
クレーンゲームのヌイグルミに心を奪われたのだ
大きなエビフライを模したヌイグルミ…
『エビフリャ』と言う良くわからないヌイグルミに
結局映画を見るまでの暇を潰す時間は全て
そのヌイグルミを手に入れるのに使われた
(因みに、お金は魅魔が競馬で勝ったお金の残りで)
最終的に霖之助が奇跡的に手に入れる事が出来たので
魅魔のプレゼントしたのだ
「な、なあ魅魔…嬉しいのはわかるが少し落ち着け」
「えっ?あ…ああ…わ、悪い…」
霖之助が声をかけると魅魔が我に返って謝る
もっとも、胸元に抱いたヌイグルミは手放さなかったが
「と、ところで…どんな内容なんだい?」
「ちょっと待ってくれ…」
魅魔が照れ隠しに映画の事を質問する
その質問に対して、霖之助は一冊の薄い本を取り出して
「どうやら、ホラー映画らしいね」
「ホラー?怖いものをわざわざ見るのかい?」
その言葉に魅魔が首を傾げる
「幻想郷と違って、こっちの世界には
恐怖と言う物が薄れているのかもしれないな」
「…そうかもしれないね」
人が映画で怖い物を見るのは
恐怖を忘れないようにする為かもしれない
二人がそう結論付けると
「おっと…そうそう」
霖之助が笑いながら最後に一言くわえた
「出てくるのが、幽霊や悪霊だそうな」
その言葉を聞いて魅魔が笑いを堪える
「あ、悪霊?…くくっ…幽霊?…そんなんで怖がれる訳がないよ」
「どうやら君にとっては恐怖でなく、喜劇になるかもしれないな」
本物の悪霊である魅魔がそう言って笑うと同時に
ブザー音が鳴り響いて辺りの照明が落とされる
「どうやら始まるみたいだ」
「さて、なら喜劇とやらを見るとするかい」
二人がそう言って真正面にある画像を見つめ始めた
約2時間に及ぶ映画が終り、会場が明るくなる
「いや、まるで本物がその場に居るような映像だったな」
「……」
霖之助が映画に満足した事を魅魔に伝えるが
隣に居るはずの魅魔からは声が返ってこない
不思議に思って隣を見てみると
「…なあ魅魔…なんで目を閉じているんだ?」
本物の悪霊が目を閉じて
ヌイグルミを抱きしめて震えていました
「…写っていたあれは…なに?」」
「いや…幽霊とか悪霊だそうだが…」
「悪霊あんなに怖くない!幽霊もっと可愛い!」
映画館からの帰り道、霖之助の後ろで
魅魔が少し幼児退行を起していた
「幽霊…もっと可愛い…あんなに怖くない」
ヌイグルミを抱きしめながらブツブツ呟く
その様子を見て、霖之助が苦笑する
「いや…まさか君が怖がるとは思わなかったよ」
「う、うるさい!悪霊はあんなにおぞましい姿じゃない!」
何時もはもっと姉御風を吹かせている魅魔が
今は霖之助の後ろで頬を染めながらついて来る
それは普段と全く違う可愛い姿だった
(珍しい物見たな)
霖之助は笑いを堪えるの必死だった
「な、なに笑ってるんだい!」
魅魔にもそれがわかっているので、霖之助を睨みつけてくるが
「…くくっ…いや別に?」
普段ならそれなりに怖い魅魔の睨みつけも
先ほどの映画館での姿を思い出したら、笑いがこみ上げてくる
「……(ぐっ!)」
「痛たたっ…」
それでも笑っている霖之助の腕を魅魔が無言で抓ってくる
結構な力で抓られたので流石に霖之助も痛たい
「い、痛っ!?み、魅魔…痛い、痛いから!」
「…うるさい!」
痛がる霖之助の抗議を魅魔が無視して
抓っている手をギリギリと締め上げる
「ぎ、ギブギブ!?」
「い・や・だ・ね!」
「痛たっ!?いや!そろそろ洒落にならないから!魅魔!?」
霖之助が手を軽く叩いてタップするが
魅魔は受け入れてくれない
「止めて欲しいのなら…忘れろ」
「…なにをだい?」
「え、映画館であった事を忘れろって言ってるんだよ!」
頬を染めながら魅魔がそう叫ぶ
だがあの姿は簡単に忘れられる物ではない
(そうだ…)
そんな時、霖之助の頭の中で
この痛みから逃れる奇策を思いつく
「なあ…魅魔…」
「なんだい!?」
全力で抓られて痛む顔を必死に堪えて、魅魔の背中を指差すと
「…君の背中に白い影が…」
魔理沙や霊夢等が聞いたら冷たい目で見られたであろう
誰も引っかからないような大根芝居
「きっ!?…きゃああぁぁぁぁ!?」」
だが、今の祟り神には存分に効果があったようだ
悲鳴を上げたあと、その場にしゃがみ込む
その間に霖之助が距離を置いてもう一度声をかける
「…どうやら見間違いだったみたいだな」
「へっ?」
しゃがみ込んだ魅魔が先に進んでいる霖之助を見て
「だ、騙したね!?待て、逃げるな~!」
「はははははっ!」
笑いながら逃げる霖之助を追いかける鬼ごっこが始る
香霖堂にたどり着くまでそれは続いた
「捕まえた!」
「し、しまった!?」
「ふふっ…問答無用!忘れないのなら力技で忘れさせてやるよ!」
「ま、待て?は、話せばわか…」
(ゴスッ!ミシッ!メキャ!)
しばらくの間、お店からは悲鳴が響いた
「いてて…ひ、酷い目にあった」
自分の部屋の中で霖之助がそう呟く
よく見ると、その身体には絆創膏や包帯が巻かれていた
つい先ほどまで、魅魔から攻撃を受けていたのだ
全身に痛みが走るが、それよりも今日あった
出来事を思い出して顔をニヤつかせていた
(それにしても…意外と可愛い所があったんだな)
映画を見ることが出来たのも大きな収穫であったが
それよりも魅魔の別の表情を見ることが出来た事が
今日最大の収穫であった
「まあ、明日から当分の間は口を聞いてくれないかもしれないが」
霖之助の記憶を消そうとして攻撃を加えた後
『…もう寝る!』と言って、魅魔は頬を膨らませて
自分の寝床に戻って行ったのだ
今日は二人とも朝早く起きて、しかも外を歩き回って来たのだ
疲れが出てくるのも無理は無い
(さて…僕もそろそろ眠る事にするか…)
明日の朝、魅魔にどう謝るか考えながら
眠るために部屋の明かりを消して横になる
横になってしばらくした頃
(コンコン)
「ん?」
部屋のドアが叩かれる音が聞こえてきて
霖之助が顔を向けると同時に部屋のドアが開いた
「……ごめん…寝てたかい?」
現われた人物に霖之助も驚く
こんな時間に霖之助の部屋に来る事は今まで無かったからだ
「どうしたんだい?こんな時間に」
「……」
パジャマに着替えた魅魔が無言のままベッドの上に座る
「魅魔?」
無言なままの魅魔にもう一度声をかけると
魅魔がこの部屋に来た理由を述べた
「…怖いから一緒に寝て…」
「く…くくっ…」
「…頼むから…もう笑わないでくれよ…」
霖之助のベッドの隣に敷いた布団の上で
魅魔が情けそうな顔をして霖之助にそう告げる
「いや…だが、まさか君がそこまで怖がるなんてね」
「…幽霊はあんなに怖くない…悪霊はもっと可愛い」
霖之助の言葉を聞いて、魅魔がヌイグルミを抱きながら
頬を染めて顔を背ける
「それに…あんな映画見たら、他の奴だって怖くなるよ」
「そうかな?」
魅魔の反論に霖之助は首を傾げる
その様子に魅魔が更に続ける
「…そういえば…霖之助に怖いものは無いのかい?」
「う~ん…」
霖之助が悩んでから、一つの答えをだす
「ああ…そういえば何個かあったな」
「へえ…で?それは一体なんだい?」
興味を持った魅魔に霖之助が呟く
「…僕のお店に珍しい物や食料が手に入ったときに
魔理沙と霊夢がやって来る事かな」
その言葉を聞いて魅魔が爆笑する
「そ、それは…くくっ…なるほど恐ろしいね」
「ああ、霊夢はお店に入ってきて『貰っていくわね?』
と言って問答無用で持って帰るし」
魅魔が頭の中で想像して、笑うのを必死に堪える
「魔理沙は『借りてくぜ?』と言って強奪していくんだ…」
「あ~…二人とも育て方間違えたかな?」
魅魔が額に手を当ててため息をついた
そんな魅魔を横目に霖之助が更に続ける
「でもね…一番怖い事は…」
「怖い事は?」
霖之助が魅魔の方を向いて呟いた
「周りとの繋がりが一切無くなる事かな?」
その言葉に魅魔がハッとする
「始めにこっちに来た時にそれを一番に感じたよ」
誰も自分を知るものが居ない場所で
人と会話をする事もない…
ただ人を待ちながら心身共に磨耗していく感覚
「…あれは本当に怖いと思ったね」
「ああ…あれは怖い」
霖之助の言葉に魅魔が同意すると
「…なあ、霖之助…」
「なんだい?」
「片方だけでいいんだ…手を出してくれるかい?」
魅魔の言葉に、霖之助が不思議に思いながらも
片手を布団から出すと魅魔がその手を握る
「…今日は楽しかったよ…」
「そうか…」
手を握ったまま二人は会話を続ける
「あの天丼は美味しかったな」
「そうだろ?いいお店を見つけたと私も思うよ」
「ゲームがどう動くかわかったから、幻想郷でも動かしてみたいな」
「…余り興味はないね…あ~でも、ヌイグルミを取る奴は気に入った」
「今度は、ホラー以外の物を見ることにしよう」
「…そ、そうしてくれると嬉しいね」
今日一日の出来事を二人とも楽しそうに話していくが
次第に話す事がなくなってくる
そして、二人とも話す事が無くなった時に魅魔が口を開いた
「…次は私がお前を温水プールに連れて行く番だね」
「ああ…楽しみに待っている事に…」
嬉しそうにそう呟く魅魔に、霖之助が答えようとした時
(ドクン!)
「ごほっ!ごほっ!」
「お、おい!大丈夫かい!?」
いきなり呼吸が苦しくなり
前に起きたような咳が出始める
「だ、大丈夫だ…ごほっ…す、すぐに納ま…!?げほっ!」
すぐに納まると思って、霖之助が魅魔に声をかけようとした時
(ま、まただ!あの全身の気だるさ…)
数日前と同じように、体の奥底から冷える感覚が来る
「おい!?霖之助…霖之助!」
尋常じゃない様子に魅魔も布団から起き上がる
額から脂汗を流して、体を丸める霖之助に
必死に声をかける魅魔
「だ、大丈夫…だ…し、しばらくすれば…ら、楽に…」
痛みで声が出せない霖之助が掠れた声で安心させようとする
「脂汗ダラダラ流してうずくまっている奴の何処が大丈夫だ!」
魅魔がそう言いながら、霖之助の背中を擦ろうとして
今だ繋いでいた手を外そうとしようとした時
「なっ!?」
霖之助の身体にあきらかな異変が起こっている事に気がついた
「ど…どうした……魅魔…?」
霖之助が驚いて固まっている魅魔に声をかける
そして、心配させないために繋いでる手に力を籠めて
安心させようとするが
(力が…入らない…くそっ!握っている感覚も…)
感覚が痛みで麻痺したのか、霖之助がどれだけ
手に力を入れても手が動いてくれない
「霖之助…」
そんな霖之助に、魅魔が小さく呟いた
「…お前…手が透けて…」
(僕の手が…透けて?)
そこまで聞こえてから、全身の痛みがふっと消える
(そうか…どれだけ力を入れても…掴めないわけだ…)
それと同時に、霖之助の意識は沈んでいった
あと特賞がしょぼいと思うのは私だけでしょうか。
伏線回収も期待しております。
そして後2つも話があるだと!?
くそぅ・・・楽しみにしてるしかないじゃないか!
さて、エビフリャ抱いた魅魔様を幻視する作業に戻るか・・・
まあ、それよりも何よりも体を壊さない方が重要ですが。
・・・・私は・・・勝ち組だ!!
しかしマザーネタ好きですねぇ~
いつも後書きを見てニヤニヤしてしまう。
続き待ってましたよ!!
あぁぁぁぁぁぁぁぁやはり魅魔様はいいなぁ!!!
とても とても 辛い事があった
でもこの作品のおかげで明日を生きる元気を貰えた
このお話が完結するまでは、頑張って生きようと思う
ありがとう
今後どう伏線を回収していくのかが楽しみです。
だがまだ温水プールが残っている……魅魔様の水着姿を拝むまで死ねないッ!!
>K999様
悪霊も幽霊も可愛いんです(雑魚敵のバケバケのような感じ)
ただ、あまりに幻想郷のとは違っていたので
魅魔様には少々辛かったようですww
>2番様
エビフリャーはどうも本当にあるらしいです
…妄想すれば涙目の魅魔様がすぐそこに見えます
>てるる様
脇役は、最後に主役の為に自爆しますよww
あと、私は負け組みたいですOTL
>欠片の屑様
ニヤニヤしてもらえれば満足です
それと、欠片の屑さんの作品の方が
私にとって羨ましいです
…貴方の方がこのへタレ脇役の遥か前に行ってるんですから
>5番様
お待たせしてすみません!でも、魅魔様はいいなぁ!
>6番様
お仕事、お疲れ様です…
こんな作品でよければ元気を貰ってください
完結した後も頑張って生きてくださいね
(当分は完結できそうにないですけど…)
>7番様
ミマーッ!(作者もつられた)
次のお話は伏線回収を入れまくります(というかそれしか入れない)
温水プールは…雲行きが怪しいですよ?
砂糖以上の甘さでニヤニヤするぜー!!
香霖褌で行きそうな予感がガクガク((('Д`)))ブルブル
幻想郷に水着って概念あったっけ?
それはともかく、次回期待期待。
もう二人ともケッコンしちゃえばいいのに!
とりあえず無事に幻想郷に戻れることを祈ってます