お姉さんっていいよね

　実りの秋が終わりを告げ、待ちに待った冬を迎えてしばらく経った頃。
今日も今日とて、恋に恋する恋娘チルノは、
姉のように慕っているレティ・ホワイトロックの元へ急いでいる。
「レティは何してるかなぁ、あたいのこと待っててくれると嬉しいなー。
レティと会ったら一緒に遊んで、頭なでてもらうんだ、えへへ～」
　チルノを知るものならば、その雰囲気のやわらかさに
驚きを隠せないのではなかろうか。
常日頃から最強を謳い、いたずらや弾幕に積極的で、
ともすれば危険な妖精ととられておかしくない彼女が、
冬だけはその活動を控えるようになる。
　それはひとえに、雪の降り積もる季節にしか現れない妖怪に、
甘えるのが忙しくなるからかも知れない。

「ついたっ」
　道中顔をほころばせながら、チルノはいつもの雪原へと到着すると、
小さな体から出せるだけの精一杯の声を張り上げる。
「レティー！」
「こっちよ～」
　すぐに返事が帰ってきた。
辺りを見渡せば、大きな切り株に腰掛けるレティの姿が確認できた。
顔にぱあっと花を咲かせるチルノ。
「レティ！久し、ぶ、り……」
　駆け寄るチルノの声がしぼむ様に小さくなり、消えると同時に足も止まる。
手も止まる、息も止める、酸欠になる、あわてて深呼吸。
「どうしたの？去年みたいに私の胸に飛び込んで来てくれないの？」
「そんなこと言われても……」
　チルノがためらったのには理由がある。
レティがいつにもまして、ふとましかったからだ。
いや違うか、ふとましいという単語はこの場合不適切だろう。
彼女のお腹だけが、ぼてっと丸みを帯びているというのが正しい。
　そんな彼女（のお腹）を見て、改めてチルノが思ったことは。
「レティ。いくらおなかがすいたからって、
ふくらんじゃうほど食べるのはどうかとおもうの」
　だった。
「食べてないわよ」
　違うらしい。
「じゃあ、なんでお腹がぽっこりしてるの？」
「んー」
　レティはしばらく考えた後、ふと含みのある表情を見せると、
言葉の爆弾をその場に投下した。


「赤ちゃんがいるからかな」


　空気が凍った。
比喩とチルノの周囲的な意味で。
空気中の水分が凍ったことで、ダイヤモンドダストが発生して
幻想的な光景を作り出しているが、そんなことはチルノの知ったこっちゃなかった。
「レ、レティ。赤ちゃんって、だれの……？」
「さあ、誰でしょう」
　チルノは考えた。
普段あんまり使わない頭を使って、必死に考えた。
赤ちゃんは母親と父親がいなければ生まれないことを思い出す。
　何故か道端に落ちてた漫画（サークル永遠亭）のおかげで
ちょっと歪んだ性知識を持っているチルノは、
とりあえず香琳堂の店主を容疑者として、抹殺することを決意した。
「よし、こーりんコロ」
「冗談よ」
　今にも飛び出しそうだったチルノは足を滑らせ、
雪の積もる大地へ顔面から着地を果たした。
１０．０。
埋もれた顔を引っこ抜き、パタパタ雪を払い落とす。
半分は本当だけどね、と付け足すレティにチルノは吼えた。
「じゃあそのお腹はなんなのさ！」
それに半分って何！？というチルノの疑問に対して、
レティは上着の裾を捲くり、中の物を見せて答えとした。
両手で抱えるほどの重そうなそれは。

「卵……？」
「そう、親が死んじゃってたみたいでね。
せっかくだし孵してあげようかなって」
　赤ちゃんに違いはないでしょ？というレティの言葉を聞いて、
氷の妖精は深ーいため息をついた。
「おどろかさないでよ！
あたいはてっきり、レティがだれかにとられたかと……」
「あら、もしかして心配してくれた？」
「…………………うん」
　小さく呟き、レティの服の裾をぎゅっと掴む。
レティは抱えていた卵を下に置き、チルノの細くて小さい体を、そっと抱きしめた。
「ごめんね。チルノは表情がころころ変わって可愛いから、ついついからかっちゃうの」
「ひどいよレティ～……」
「大丈夫よ。私が起きている間は、あなたの側にいてあげるから」
「……うん」
「遊びにも、弾幕にも好きなだけ付き合ってあげるからね」
「………うん」
「眠れなかったら一緒に寝てあげるし、甘えたければいつでも甘えていいのよ？」
「…………うん」
　冷たいけど暖かい抱擁に、静かに体を擦り寄らせる。
優しいレティを独り占めしたいお年頃のチルノであった。

「―――ところで、それってなんの卵なの？」
「ウカムルバスよ」

　数ヵ月後、急成長した崩竜によって大寒波が引き起こされ、
紅白の巫女がてんやわんやするのだが、それはまた別の話。


■レティとチルノの絡みを書きたくなった。もっとやりたいと思っている■
■あ、初投稿失礼します。■