この話は霧雨喫茶へようこそっ!(中編)の続きです。
先にそちらの方を読んで頂けると幸いです。
「春ですよー」
「いや、夏だね!」
「「いいえ!秋です!」」
冒頭から随分と賑やかですね。
季節を司る皆さんとご一緒に前回のあらすじを振り返ろうと思ったのですが、皆さんお互いの季節を主張しててそれどころじゃないようです。
「くろまく~」
おっと、レティさん。
「あっちは何やら騒がしいから私が代表してやることにしましょう」
それはありがたい。よろしくお願いします。
~前回までのあらすじ~
「霧雨喫茶大繁盛。・・・以上」
って、それだけですか!
「前回の時もこんな感じだったでしょう?」
まぁ・・・確かにそうですが・・・
「と、言うわけで霧雨喫茶へようこそっ!(後編)はじまりはじまり~」
霧雨喫茶がオープンして数日。
初日にくらべれば大分落ち着いたようではあるが、それでも随時満席に近い状態で皆忙しそうである。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
ほんの瞬き一つする前に調理をしていた咲夜が入口に立っていた。それもそのはず、何故なら来客は・・・
「フフッ、あなたは相変わらずね咲夜」
本物の『お嬢様』なのだ。その後ろからフランドール、美鈴、小悪魔と紅魔舘留守番組がぞろぞろと入ってきた。
「わーい!魔理沙ー!!」
店の中に魔理沙の姿を見つけ飛びつくフラン。殺気立った視線を送るアリスとパチュリー。あっという間に険悪なムードの出来上がりである。
「よぅ、フラン。よく来たなー。いっぱい食べてけよー」
「うん!今日のためにいっぱいお小遣い溜めたんだよ!」
そう言ってごそごそとスカートの奥から可愛らしい豚の貯金箱を出し、魔理沙に見せた。
「へぇ、自分で貯めたのか、偉いじゃないか」
フランの頭を撫でてやると、フランは「えへへー」と微笑んだ。
「それじゃーお金取り出さないと・・・ていっ!」
ぐしゃ!
次の瞬間可愛らしい豚の貯金箱は跡形もなく消え去り、フランの手には小銭だけが残されていた。
「・・・いや、まぁいいけどさ・・・」
「美鈴」
「は、はい!?何でしょうかお嬢様」
ポンッと美鈴にお札の束を投げた。
「わ、わわ!?な、なんですかこのお金はっ!」
「あなた達三人の食事代よ。フランの持ってるお金じゃ足りないだろうしね。それはあなた達にあげるから好きなだけ使うといいわ」
「あれ?レミリア様はご一緒しないんですか?」
不思議そうに小悪魔が尋ねた
「フフッ、私はお腹空いてないからいいのよ。それよりも大事な用事があるから失礼するわ」
そう言って不敵な笑みを浮かべ店の奥の個室になっている部屋へと入っていった。
「そういえば・・・開店当時から思ってたけどあの部屋って何なの?今まで使ってなかったけど・・・」
アリスが魔理沙のそう耳打ちした。
「あれか?あれは所謂・・・VIPルームだ」
そう言われてもいまいち理解できない。と、そのときまた皆がよく知る人物がやってきた。
「ハァ・・・皆揃いも揃ってよくやるわねぇ・・・」
恥ずかしくないのか?と言わんばかりの顔で霊夢が入店した。
「なんだ霊夢、お前はメイドは嫌いか?やっぱり巫女喫茶とかの方がいいのか?職業的に」
「巫女はもっと要らないわよ。唯でさえ山に巫女が増えて希少価値がなくなってきてるんだから」
それはそうと・・・と霊夢はとても素敵な笑みを浮かべ優しい声で魔理沙に話しかけてきた。
「魔理沙、私達って親友よね?」
「ん?何だいきなり」
「親友よね!?」
「あ、あぁ、何かよくわからんがそうだ」
霊夢の不気味すぎる笑顔におされてそう答える。
「親友の私から御代なんて取らないわよね?」
どんな理屈だろう。
「いや、別にお前からお金なんて取らないし」
「あらそう?半分冗談のつもりだったんだけど」
半分は本気なんですね。
「だってレミリアに先にお金貰ってるし、お前が来たら御馳走するようにってな」
「へぇ、随分気が利くじゃない。今度お礼に遊びに行ってあげようかしら、飯時を狙って♪」
「(まったくお嬢様はこんな外道巫女のどこがいいのやら・・・)」
と、ため息をつく咲夜。
「あと・・・ほら、その奥の個室。あそこがお前の席な。これもレミリアに言われててな、霊夢専用の部屋だ」
「はいはーい♪それじゃ、メニューの端から端までガンガン持ってきて頂戴ね」
と、上機嫌で霊夢は個室のドアを開けた・・・と
「お帰りなさいませ。ご主人様」
「・・・」
バタン
霊夢は思わず部屋のドアを閉めた
「ちょ、ちょっと!なんで閉めるのよっ!」
中には一足先に入っていたレミリアがいたのだが、その格好はメイド服にネコミミ、さらには首輪と尻尾のオプション付きというものだった。
「いやぁ・・・何かあまりにも突然のことで・・・っていうかアンタなんでそんな格好してるのよ」
「だってぇ・・・霊夢にご奉仕したかったんだもん」
そう言って寂しそうな顔をするレミリア。咲夜が見たら発狂してしまうであろうその姿には普段のカリスマなど微塵もなかった。
「まあそれはわかったけど・・・ネコミミはどうなの?」
「うぅ・・・似合わない・・・?」
ぐすんっと涙目になるレミリア。
「(・・・これはこれでアリかもしれない)」
と、ちょっと霊夢さんも乗り気になってきたようです。
「まぁいいわ、折角御馳走してくれるんだし、受けてあげるわよ、アンタのご奉仕とやらをね」
「・・・うんっ!」
と、さっきまで泣きそうだった顔が一瞬で笑顔になった。
「ちょっと待った!!!」
何もない場所から声がする。二人がその声のした方へ振り返ると、そこに霧が集まり萃香が現れた。何故かこちらもメイド服姿である。
「一体何の用かしら?」
「フンッ、一人だけ抜け駆けしようったってそうはいかないよ。霊夢にご奉仕するのは私だ!」
「後から来たくせに生意気ね、この部屋も食事も私がお金払ってるのよ!私がやるに決まってるでしょ!」
「私はこの店自体建てたんだからね!私にだってやる権利はあるよ!」
と、互いに口喧嘩を始めた。
「何よ!この餓鬼!」
「あんたの方が餓鬼でしょ!」
「どっちも餓鬼でしょうに・・・」
そんなやりとりがしばらく続き、とうとう互いに我慢の限界が来たようだ。
「いいわ、こうなったらハッキリさせようじゃない、弾幕勝負でねっ!」
「おうさっ!望むところだ!」
「ちょ、ちょっとアンタ達!いい加減に・・・」
運命「ミゼラブルフェイト」
鬼火「超高密度燐禍術」
ぴちゅーん!!
「「あ・・・」」
二人の放ったスペルは丁度二人の間にいた霊夢に直撃した。
「・・・あ、あの、霊夢・・・?」
「だ、大丈夫・・・?」
ゆっくりと立ち上がる霊夢・・・と
「・・・ふふ、うふふ・・・ご主人様に手をあげるなんて本当に駄目なメイド達だわ・・・これは躾が必要ね・・・」
「ひ、ひぃ!?」
ふたりはにげたした
・・・しかしまわりこまれてしまった
「ちょ、ドアも開かない!?」
「あら、どこに行こうというのかしら?私の可愛いメイド達・・・」
ふたりは めのまえが まっくらになった
「い、嫌ぁあああああ!!!痛い!痛いよぅ!針は嫌ぁあああああ!!」
「や、やめ、許して・・・そんなことしたら・・・角がとれちゃうよぉ!!」
・・・・・・・
・・・・・
・・・
「う、うぅ・・・申しわけございませんでした、ご主人様ぁ・・・」
「・・・何でも・・・ご主人様の言うこと・・・聞きます・・・」
泣きじゃくる二人の幼女メイド。すっかり大人しくなって霊夢の命令に服従している。
「わかればいいのよ、わかれば」
「やれやれ、これだからお子様は・・・ここはやっぱり私の出番のようね」
いきなり裂ける空間。そしてそこから現れる幻想郷最強の妖か・・・い?
「真打ち登場っ!霊夢にいっぱいご奉仕するにゃん♪」
と、可愛げな仕草をするメイド姿の紫様。こちらもしっかりネコミミをつけていらっしゃいます。
「「「・・・」」」
その瞬間、時間が止まり、皆凍りついてしまった。無論咲夜の仕業でもチルノの仕業でもない。
「・・・アウト」
霊夢の非情な言葉が紫に突き刺さった。
「ひどいわぁ!!霊夢の馬鹿ー!!!」
と、その場に泣き崩れる紫様。かなり本気で泣いてます。
まあ、そんなわけで、なんやかんやあって、結局皆仲良く霊夢にご奉仕できたようです。と、その様子を窺う人影が一つ・・・
「あややや、皆さん随分と積極的ですねぇ、傍から見ているこっちが恥ずかしいですよ」
と、言いつつ写真を撮る射命丸さん。・・・何故か彼女の服もしっかりメイド服なんですが。
「こ、これはあれです!潜入捜査のための変装です!」
誰に向かって言ってるんですか。
「べ、別に霊夢さんにご奉仕したいなぁとかそんなんじゃないんですからねっ!」
誰も何も言ってませんて・・・
霊夢達がそんな風に賑やかにやっている一方、店の方には珍しいお客が来ていた。
「お帰りなさいませ、お嬢様・・・ってあまり引っ付くな雛!」
「あーら、にとりがあまりにも可愛いからついつい・・・」
モソモソ・・・
「ぎゃあああ!服の中に手を入れるな!!!って、なんで誰も助けないんだよ!店内はお触り禁止でしょ!?」
「あぁ、女同士のお触りなら容認するぜ。客受けいいしな」
と、グッと親指を立ててウィンクをする魔理沙。店中の店員、来客もあわせたように「グッジョブ!!」と親指を立てて雛を応援している。
「それじゃあ皆様の期待に答えて・・・」
しゅるしゅる・・・
「ちょ、なんで服脱ごうとしてんの!?そんなことしたらここで投稿できなくなるって!」
本当にこれ以上してしまうと危ないので自粛します。
「そ、それはそうと・・・その入口のところにいるのは誰なの?」
「ここに来るときに偶然あってね、意気投合したから一緒に連れてきちゃった」
ドアの影でひょっこり顔だけ出して中の様子を窺っているメディスンの姿がある。
「(こんなに人間がいるとは・・・いや、これはチャンスね!今こそ人形の権利を主張するための・・・)」
何やら怪しいことを企てている様子。
「人間ども!覚悟っ!毒符 ポイズンブレ・・・」
光撃「シュート・ザ・ムーン」
ぴちゅーん!!
「お客様、店内で暴れられるとまわりのお客様にご迷惑だぜ」
「うぅ、おのれ人間・・・」
床に倒れたメディスンに雛が手を差し伸べる。
「ほら、折角来たんだから楽しまなくちゃ。普段の厄は流して、美味しいものでも食べてパーッと騒ぎましょう」
よほど雛に懐いているらしい。メディスンは「仕方ないわね」と渋々雛の手を取って立ち上がった。
「それじゃ二名様ご案内だね」
そう言ってにとりは二人を席に案内した。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
さて、そんな店の様子を外で見ている謎の集団がいた・・・
どうやら無事、目的の場所にたどり着いたようです。
「や、やっと着いたね・・・」
「あぁ、飛んで探せばあっという間に見つかったな」
「・・・それに気づくまで丸一日竹林を迷うとか馬鹿じゃないの!」
「・・・パルスィも・・・気づかなかった・・・」
「う、うるさい!」
というわけで、地下の方々がお見えになりました。
カランカラン。
「お帰りなさいませ、ご主人様・・・っておぉ、なんか珍しい奴等が来たな」
「やぁ、アンタが店を出したって知って面白そうだからこっそり遊びに来たんだよ」
ワッハッハ、と高笑いで魔理沙の肩をパンパンと叩きながら上機嫌で勇儀がそう言った。すでに酒が入ってるようだ。
「その服、可愛らしいわね、店も随分と賑わってるみたいだし、妬ましいわ」
「お前も相変わらずみたいだな・・・」
「まぁ、パルスィのソレは挨拶代わりのもんだよ、気にしたら負けだよ」
と、ヤマメがお茶を濁した。・・・と
「むむむ!なんかあっちの方から心地よい気配が!・・・いくよパルスィ!!」
パルスィの腕を掴んで店の奥へ進む。そしてその先にいたのは少し前に来店していた雛とメディスンである。
「あら・・・?」
「あなたは・・・」
何故か三人とも無言になって見詰め合う・・・そして連れて来られたパルスィは「なんなのよもう・・・」と愚痴を呟いている。
「私達・・・なんだか初めてあった気がしないね・・・」
「そうね、なんだか凄い懐かしい気分・・・」
と、言うわけで。
「おーい、勇儀ー!私達はこっちの席に座るねー!」
「はぁ!?ちょ、アンタ何勝手に・・・」
驚いてすぐに反論しようとするパルスィ。それを宥めるように雛がパルスィの服の裾を掴んだ。
「まぁまぁ、あなたもすごく素敵な雰囲気を持ってるみたいだし、似たもの同士仲良くしましょう」
こうして雛達のテーブルはヤマメとパルスィも加わってさらに賑やかになった。
「あっちはあっちで盛り上がってるみたいだし、こっちはこっちで楽しくやろうか、なぁキスメ」
「・・・(こくり)」
「そういや、来たのはお前等だけか?地霊殿の連中も一緒かと思ったんだが」
「あぁ、まあいろいろあって・・・な?」
「・・・大人の事情・・・」
そこに、霊夢にご奉仕していた萃香がやってきた。
「おーい魔理沙ーご主人様が追加注文だってー」
すでに無意識のうちにご主人様と呼ぶまでに調教されたんですね・・・なんとなく不憫です。
と、不意に勇儀と目が合った。
「げぇええ!?勇儀!?なんでここに来てるのさ!!?」
「プッ、あははははは!!!なんだよ萃香その格好は!!」
萃香のメイド服姿がよほどツボにはまったらしい、勇儀は腹を抱えて笑い転げた。
「なんだよぅ!私がメイド服着ちゃ悪いのか!」
「いやいや、よく似合ってるじゃないか」
「とにかくっ!私は今忙しいからもう行くね!」
そう言ってそそくさと霊夢のところに戻ろうとする萃香、しかし、勇儀に腕を掴まれてしまった。
「おいおい、冷たいねぇ、折角昔の仲間が会いに来たって言うのに。ほれほれ、おチビの萃香ちゃんはどのくらい成長したかなー?」
そう言って無理やり抱き寄せて萃香の胸を触り始めた。
「相変わらず揉むところがほとんどないなぁ」
「うるさい!無駄に胸ばっかりでかいヤツよりよっぽどマシだろ!!ああもう、離せよー」
「いいじゃないか、少しくらい付き合ってくれたって、お前に会うのが楽しみだったのは本当だ。一緒に飲み交わせると思ってさ」
と、少し寂しそうに笑った。
「勇儀・・・?」
「地下の連中も見ての通り賑やかな連中でな、寂しいなんていってられないくらい楽しいさ。ただ、一人地上に残った萃香がどうしてるのか気がかりだった」
「・・・地上だって同じさ、霊夢や魔理沙を見ればわかるだろ、人間でさえあんなのばかりなんだ、妖怪はそりゃあ一癖も二癖もある奴らばっかり・・・」
と、微笑して勇儀の隣に座った。
「まぁ、仕方ないから少しだけ付き合ってあげるよ」
どこからともなく杯を取り出した。
「・・・あぁ」
そう言って萃香の持っている杯に酒を注いだ。
皆もだんだん慣れてきたのだろう。それからは特に問題も起きずに店の営業はうまくいった。
妖精や妖怪が遊びにきたり・・・
寺子屋の子供達が家族で食事にきたり・・・
てゐがお客さんから代金をぼったくったり・・・
霊夢が毎日のようにタダ飯を食べに来たり・・・
そんな何事もないまま、霧雨喫茶は閉店すると誰もが思っていた・・・
霧雨喫茶、最終日。
「よーし、皆。今日までよく頑張ってくれた。いよいよ今日で霧雨喫茶は閉店だ。皆かなり疲れてるだろうけど最後までよろしく頼むぜ」
魔理沙の言葉通り、皆なんとか笑顔を見せているがかなり心身共に限界に近い。
そもそも、毎日常に満席に近い客足で、さらに人間、妖怪と誰もが利用できるように朝から晩まで二十四時間営業。
交代で休憩や仮眠はとっているが、ほとんど働きっぱなしという状態なのだ。特に調理班はまったくといっていいほど休みがなく、ほんの数分程度を咲夜に時間を遅くしてもらって休んでるという過酷っぷりである。
「・・・大丈夫ですか妹紅さん?」
「あ、あぁ、なんとかな・・・眠くなってきたら自分の身体を吹き飛ばしてリザレクションしてるから眠気は気にしてない・・・まぁ蘇生するとその分体力が消耗されるからあまりしたくないがな」
「いや・・・そもそも食事をする場所で身体がバラバラになるところなんか見たくないんですが・・・」
妖夢の言うとおりである。
「フフフ・・・咲夜、目の下にクマができてるわよ・・・」
「アリスこそ・・・到底人に見せられる顔じゃないわよ・・・」
と、こんな状況である。
それでもなんとか気力を振り絞り、午前中は乗り越えた。
「流石に皆疲れてるわね・・・これから昼時で混雑するし、皆もこれを飲んで元気だしてね!」
鈴仙が皆に国士無双の薬を手渡した。
「・・・くぅー・・・やっぱりこの薬は効くねぇ。これなら今日一日乗り切れそうだぜ」
と、その時だった。
パァアアアアン!!!
ものすごい音が厨房の方に響いた。慌てて皆、音のした方へと向かうと・・・
「な・・・なに・・・これ・・・」
調理班全滅。皆ぐったりした様子で床に倒れていたのだ。
「あぁああああ!」
これまた鈴仙が大声をあげた。
「ど、どうしよう、調理班は私達より一本多く国士無双の薬を服用してたんだ・・・」
「確か、私達はさっき飲んだのは三本目だったな・・・」
と、慧音が言うと、皆の血の気がサーッとひいた。
「・・・四本目だったのか・・・」
※国士無双の薬は強力すぎるため、四本目を飲むと飲んだ本人が吹き飛んでしまうのだ。
「お、おい!しっかりしろ!!」
健康な状態であれば例え吹き飛んでもすぐに意識を取り戻す。しかし、過酷な状況で心身共に限界であった彼女達にはこれが引き金となったのだろう。いくら起こそうとしても無理であった。
と、その時だ。なんと、早苗が目を覚ましたのだ。
「早苗が起きた!流石だぜ、奇跡を起こす程度の能力は伊達じゃないな!!」
「ふ・・・うふふ・・・魔理沙さん・・・起こらないから奇跡って言うんですよ・・・(ガクッ)」
と、またすぐ意識を失ってしまった。
「早苗ぇええええ!!!」
さらに追い討ちをかけるように、フロアの方で魔理沙を呼ぶ声がした。
「大変ですっ!パチュリーさんが倒れました!!」
体力的に限界だったのだろう、むしろここまでもったのが奇跡だったのだ。
「・・・どうする?これだけの人数でこの状況を乗り越えるのはかなり無理があるぞ・・・」
慧音の言うとおりである。ちなみに分かりやすくまとめると次のようになる。
生存組→魔理沙、慧音、鈴仙、衣玖、にとり、てゐ、橙、椛、大妖精
撃沈組→咲夜、アリス、妖夢、妹紅、早苗、ミスティア、パチュリー
「無茶かもしれないけど、この残った面子で乗り切るしかないな・・・」
と、言うわけで、急遽役割を変え営業を再開することにした。
調理の方は魔理沙と慧音、にとりの三名が担当することになり。会計は橙に任せることになった。
「会計を任せることになるけど、大丈夫か橙?」
「だ、大丈夫ですよ!紫様と藍様に恥をかかせないためにも、立派にやってみせます!」
と、算盤を持ってカウンターへ行く橙。皆どこか不安そうである。
「やっぱり私が会計しようか・・・?」
鈴仙がそう提案したが、魔理沙は首を横に振った。
「お前や衣玖はやたら男から指名が多いからな。・・・まぁあいつらも一部の客からは大人気だが、やっぱりスタイルいいヤツがいいんだろうさ男ってのは、結局胸か!胸がいいのか!ああ妬ましい!」
なんか後半はパルっていますが・・・
「まあ、これでなんとか調理班が復活するまで耐えるしかないんだ、よろしく頼むぜ」
こうして営業を再開したのだが・・・やはりこの人数で大勢を相手にするのは無理があるようだ。店の外には大きな行列ができてきた。
そして・・・さらに追い討ちをかけるように、とある人物が来店した。
「お帰りなさいませ、お嬢様!」
「あら、可愛らしい妖精さんね」
「あ、ありがとうございます」
大妖精が接客している相手、それはフラワーマスターの風見幽香だった。
あまりの威圧感に大妖精も無意識に怯えてしまっている。
「注文とかは面倒だわ、この店で一番のオススメをお願いね」
そんなやりとりを聞いていた魔理沙と慧音は愕然とした。ただ一人、状況のわからないにとりが不思議そうに尋ねてきた。
「一体どうしたの?そんなこの世の終わりみたいな顔して・・・」
「そういえば、にとりは前に店を開いた時にはいなかったな・・・」
と、重い口を開いて事情を説明し始めた。
「幽香はかなり味にうるさいんだ。前回店を出したときにも一度だけ来たんだが、その時も酷くてな・・・咲夜が三回作り直しさせられてなんとか満足させる料理を作ることができた」
「へぇ、あのメイド長で三回も作り直しさせられたの?」
「つまりだ・・・今の料理が得意な連中が全員倒れてるこの状況で私達が作らなくちゃいけない。私達のごく普通のレベルの料理を出してみろ・・・店が蒸発するぞ・・・」
「そんな蒸発なんて・・・」
大袈裟な、と言おうとしたが、二人の顔が本気だったので言っていることが事実だと悟った。
「ちょっと!注文の料理まだできてないの!?お客さんから遅いってクレームきてるわよ!」
幽香のことだけではない、他の客の注文すら満足にこなせていない。さらに、橙が一生懸命に対応しているがどうしてもパチュリーや慧音のように客を捌くことができず列ができてしまっている。
「あの、冷凍部屋のチルノさんが大分疲れてるみたいです。冷凍されてた食品も溶け始めてました」
と、食材を取りに行っていた衣玖が報告する。しかも、食材調達をしている魔理沙が料理に専念してるため、在庫の食材も底をつきかけているのだ。
「・・・もはやここまで・・・か」
魔理沙がそう呟いた。
「ここまで手伝ってくれてありがとな・・・流石にこれ以上足掻いてもお前等にも来てくれた客にも失礼だ。許してもらえるとは思わないけど・・・私が行って謝ってくるよ」
「・・・魔理沙さん・・・」
「お前だけの責任ではないだろう、私も一緒に謝ろう」
「だったら私も行くわ。・・・元はと言えば私の責任だしね」
と、皆が意を決して謝罪に行こうとしたそのときだった。
「やれやれ、あれほど薬の扱いには注意しなさいと日頃から教えていたのに・・・まったくしょうがない馬鹿弟子ね」
厨房の入口から聞きなれた声がした。
「・・・し、師匠・・・?」
「おっと、私も忘れないで欲しいわね」
「姫まで・・・しかもその格好は・・・」
二人とも和風喫茶を思わせる和風のドレスを着ていた。
「そこの魔法使いに言ったはずよ、何かあれば知恵を貸す・・・ってね」
「それにどうやら、私達だけじゃなさそうだし・・・ねぇ?」
と、輝夜が入口の方にチラっと視線を送る。すると「見つかっちゃいましたね」と、美鈴と小悪魔が入ってきた。二人とも色違いのエプロンドレスを着ている。
「お嬢様に言われまして、及ばずながら私達も助っ人に来ました」
「料理はそれほどではありませんが、接客でしたら少しは自信がありますよ!」
さらに、やってきたのは彼女達だけではなかった。
「なーんだ、私達が一番だと思ってたのにぃ、もう他の人達も来てるよー」
「諏訪子の支度が遅かったからでしょ?こんな衣装で行きたいなんていうから・・・」
そんなやりとりをしてやってきたのは神奈子と諏訪子の神コンビ。二人とも綺麗な浴衣姿で、旅館の女将のような風貌を思わせる。
「おー、盛り上がってるねぇ、こりゃあたいが来る必要はなかったかな」
最後に入ってきたのは死神の小町。こちらはねじり鉢巻に法被姿という実に男勝りな格好である。
「四季様からの命令でね、助っ人にきたよ。それからこれはお土産、三途の川で取れた死にたてピチピチの海の幸」
川なのに海の幸とはこれ如何に。しかも死にたてというのもなんだか嫌な言い方である。
厨房の方にサプライズな助っ人達がやってきたのと同時刻。他の場所でも助っ人達が駆けつけていたのだ。
カウンター。
「え、えっと・・・一の位が・・・十の位が・・・」
必死に算盤を弾いて勘定しようとする橙。しかし、あまりにも時間がかかり、勘定待ちの列ができている。
「(うぅ・・・ごめんなさい・・・藍様・・・紫様・・・頑張ったけど私にはまだ無理だったみたいです・・・)」
とうとう橙は泣き出してしまった。
「コラッ、仕事の途中で泣き出したら駄目だぞ」
思わず橙が顔をあげた。するとそこには、自分の大好きな主人の姿があったのだ。
「一人でよく頑張ったな、ここからは私に任せなさい」
と、優しく橙の頭を撫でる優しい手。橙の流す涙が嬉し泣きの涙に変わった。
「藍様!!」
藍はあっという間に並んでいる列を片付けるた。
「藍様、私もお手伝いします。私が任された仕事だから・・・最後までやりたいんです!」
「・・・そうか、それじゃあお客様にお釣りを渡してくれるかな?」
「はいっ!」
冷凍室。
「チルノちゃん!!」
慌てて大妖精が部屋に入ってきた。先ほどの衣玖の話を聞いて急いで飛んできたのだ。
「だ、大ちゃん・・・」
弱りながらも冷気を出し続けるチルノ。その表情からどれだけ辛いのかが分かる。
「もう止めなよ!これ以上冷気を出し続けたら・・・チルノちゃん身体壊しちゃうよ!」
大妖精が懸命に説得した。それでもチルノは一向に止めようとはしない。
「あたいはさいきょーだから・・・これはあたいにしかできない大切な役目だって魔理沙がいってた・・・だから、あたいのこと頼りにしてくれたから・・・絶対に最後までやるんだ!」
「・・・チルノちゃん・・・本当に・・・馬鹿なんだから・・・」
そう言って泣き崩れる大妖精にチルノは笑顔を見せてやった。
「ちがうよ、あたいは・・・馬鹿じゃない、・・・さいきょーよ」
「・・・うん、チルノちゃんは最強だよっ!」
と、次の瞬間だった。チルノの身体がふらつき、崩れるように倒れた。
「チルノちゃん!!」
チルノの身体は地面にはつかなかった。地面につく前に抱きかかえられたからだ。
「やれやれ、本当にあなたは馬鹿ね、馬鹿みたいにまっすぐで一途なんだから」
「レティ・・・さん?」
「この子を頼むわね、大妖精。あと扉を開けといてね、そろそろ届くと思うから」
よくわからないが言われたとおりに扉を開けた。すると待ってましたとばかりに射命丸文が中に入ってきた。
「ナイスタイミングでした。もうちょっとで扉を吹き飛ばして中に入るとこでしたよ」
と笑いながら物騒なことを言って、両手に抱えていた包みを下ろした。中には野菜や肉、穀物といった食材が入っている。
さらにそれだけではない、空間が裂け、そこからも様々な食材が出てきたのだ。
「あなたが協力してくれるのなら私がしなくてもよかったんじゃないですか?紫さん」
「あら、暇そうにしているあなたにも仕事をあげたんじゃない、天狗の新聞屋さん?」
これで食材の調達も、保存の問題も解決した。
さて、場面は戻って厨房。
「こうして助っ人として来てくれたのはありがたいが・・・アンタ達の実力のほどがわからないぜ?」
「それじゃあまずは私達から見せてあげるわね。いくわよ永琳!」
「えぇ、姫」
輝夜の声を合図に二人はものすごい速さで料理を作っていった。
「そうか!輝夜の能力か!」
彼女は永遠と須臾を操る程度の能力を持っている。その能力を使えば時間を操ることも容易なことである。
「ご名答、しかも姫と師匠は普通に料理は職人レベルよ。永遠亭の食事は全て師匠と姫がやってくれるんですもの!」
と、得意気に話す鈴仙。
「だからお前あまり料理上手くないんだな」
「た、食べられる程度には作れるわよ!・・・ただどっちかって言うと餅つきとかの方が得意ね」
「はい、味見してみてー」
と、輝夜が魔理沙に料理を一皿渡した。
「む・・・これはかなり美味いぞ!?」
「さらにそこに私のこの特別な調味料をパラパラっと」
永琳が何やら白い粉末をかけた。
「さ、食べてみなさい」
「だ、大丈夫なんだろうな・・・?」
魔理沙は恐る恐る口に運んだ。
「な、なんだこれ・・・さっきのままでも十分美味かったが・・・さらに格段に旨味がでてる!?・・・一体その白い粉は・・・」
「フフッこれはね、味のも・・・」
「わー!!師匠!その名前は出しちゃ駄目!!」
などと言っているとすでに注文されている料理が全て出来上がっていた。
「ほら、うどんげ、さっさとお客様のところに運びなさい」
「は、はい!」
慌てて鈴仙達は料理を運んでいった。
「っていうか・・・よく全部作れたな、料理班でさえそれぞれが担当の料理を決めて作ってたのに・・・」
ちなみに魔理沙達はレシピを見ながらなんとかそれっぽく作っていた。
「永琳は一度見たレシピはすぐに完璧に再現できるからね。私の方は今までに作った料理の中からそのレシピに近いものを作ってあとは少しアレンジを加えて近づけてるのよ。伊達に永遠を生きていないわよ」
「なるほど、アンタ達は即戦力だな、それじゃ次は・・・」
「魔理沙さん、こちらの味見をどうぞ」
と、美鈴が作った料理を魔理沙に見せた。テーブルを埋め尽くすような豪華絢爛な料理が所狭しと並んでいる。
「うぉ・・・確かこれって中華料理って言うヤツだろ?すごいなお前・・・」
「いやぁ何故か知らない間に身についてました。この料理でなら咲夜さんにも負けませんよ!」
「よろしければこちらもお試しください」
と、小悪魔が魔理沙に紅茶を渡した。それを飲んでみると茶葉の量やお湯の温度、全てが絶妙な完成度の高い紅茶であった。
「普段咲夜さんが忙しい時は私がパチュリー様にお茶をお出ししているので・・・他にコーヒーなんかも自信ありますよ」
「それじゃあ門番は永琳達と一緒に料理。小悪魔は接客中心にコーヒーや紅茶の注文がでた時に出してくれ」
そして「次はあたいだね」と小町が懐から包丁を取り出した。
「生憎あたいはそこの連中みたいに色んなものを器用に料理できるわけじゃないんでね。できるのはこれさ」
自分の持ってきた魚を一匹取り出すとそれを宙に放り投げた。そして目にも止まら包丁捌きでその魚を切っていった。そして・・・
「へい、おまち!」
落ちてきた魚を皿で受け取ると、その魚の身が花のように綺麗に広がり、見事な活け作りになった。
また、今度は別の魚を丁寧に捌き、酢飯にのせ、寿司を作った。
「と、言うわけで刺身や寿司があたいの十八番なんだ。スキマ妖怪さんの好意で外の魚も届いてるからいくらでも作れるよ」
「よーし、アンタも調理班にまわってくれ、さて・・・次が問題なんだが・・・アンタ達は料理とかできるのか・・・?」
やや不安そうに神コンビを見る魔理沙。普段の食事は早苗が作っていると聞いていたため、どうしてもこの二人に期待できないのだ。
「その目は信用してないって目だねぇ、ま、私は正直あまり料理はできないから接客できたんだよ。人妻の魅力でお客さんもメロメロにしちゃうよ」
果たしてその体型でどれだけ魅了できるのか気になるところです。
「そして私だな、丁度いい、私の腕前がどんなものか・・・あの客に食べさせてみよう」
そう言って幽香の座っているテーブルを指差した。
「いくらなんでもいきなりそれはハードルが高すぎるぜ・・・?」
「まぁ、私に任せてみなって」
そう言って神奈子はゆっくりと調理に取り掛かった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
しばらくして料理が完成する。
「じゃあ私が持っていくねー」
「あぁ、よろしく」
諏訪子が幽香のところにその料理を届ける。一同、物陰で固唾を飲んでその様子を見守っている。
「お待たせしましたー、本店オススメのメニュー、こちらになりまーす」
「ずいぶん遅かったわね・・・って、何これ・・・?」
料理を見て幽香が不思議そうな顔をした。
「当店の新オススメメニューです」
魔理沙達にもその料理が見えた・・・が、そこにあるのは底の深い皿に盛られた真っ白なお米。普通のご飯よりも柔らかく水っぽい・・・そうお粥である。
「お、おい、お粥なんてそんなっ!」
思わず魔理沙が出てきてしまった。
「・・・これは・・・普通のお粥じゃないわね」
れんげでその粥をすくうと、まずはその匂いを嗅いだ。
「ただの水じゃないわね、鶏肉と魚介類のスープを混ぜて煮込んだ出汁・・・いや、それだけじゃない、野菜もかなり使っているわね」
そっとそのれんげを口に運ぶ。
「これは!?・・・複数のスパイスが絶妙なバランスを保ち、その食感は柔らかすぎず硬すぎず、理想的な粥の硬さ・・・」
なんだか幽香さんのキャラが変わってます。
「食欲の無いものでもあっさり食べられ、かといって主食になるべく存在感・・・そしてこのほんのりと漂う苦味・・・これは一体・・・?」
幽香はさらにもう一口その粥を口に含んだ。
「フフッ、この私を試そうというのね、面白い。・・・この苦味は・・・そうか!桑の根だわ!」
桑の根皮は漢方などに使われたりする生薬だそうです。
「如何かしら?唯一無二の私の究極料理・・・その名も【神の粥】!!」
まんまスペカ名ですけどね。
「久しぶりに良い物を食べさせてもらったわ」
幽香はそう言うと満足した様子で帰っていった。
「ちなみに神奈子はこれしか作れないんだけどねー」
「コラッ、余計なことを言うな!」
「いや・・・その一品で十分だぜ」
強力な助っ人達のおかげで、昼時の大混雑も問題なく対応でき、ピークを迎えた。
リタイアしていた咲夜達も意識を取り戻し、午後の営業は今までの忙しさが嘘のようにのんびりとしたものだった。
そして夜。あと少しで閉店時間というところで霖之助が来店した。
「やぁ、まだ営業しているのかな?」
「帰ってくるのが遅すぎですよ?ご主人様」
咲夜がそう言って接客してきた。
「いつも他の客が帰った頃合を見計らって来ているだろう?」
と、慧音も霖之助の行動を熟知しているようだ。
「さ、早くしないとうちのメイド長が退屈していますよ」
咲夜はそう言って霖之助を奥の個室へと案内した。
「メイド長、霖之助様をお連れしましたわ」
部屋の中で待っていたのは魔理沙だった。魔理沙は「遅い!」と言わんばかりのご様子だ。
「遅い!」
まったくその通りの反応ありがとうございます。
「それじゃ咲夜ー、店はこれで閉店だ、余った食材は全部好きにつかっていいから、皆で宴会を開いて楽しんでくれ」
「わかりましたわ」
最後まで魔理沙をメイド長だと思わせる態度で咲夜は去っていった。
「さ、こーりん、好きなだけ食べて飲んでくれ」
部屋のテーブルにはところ狭しと様々な料理が準備してあった。
「こんなに出されても、あまり持ち合わせはないから支払いが心配なんだけど」
「いや、私があげた券持ってきてるだろ?」
魔理沙に言われ霖之助は以前もらった券を取り出した。そこには「全品一割引」と書いてある
「これって確か一割引とかって言ってなかったかい?」
「裏を見てみろ」
裏返しにしてみると、そこには表とは違う文章が書いてあった。「打ち上げ宴会招待状」と。
「つまりこれは閉店後の打ち上げ、いくら飲んでも食べても全部無料だぜ」
「それじゃあお言葉に甘えて御馳走になろうかな」
とはいえ、こんな大量の料理、一人で食べるのは到底無理だし、なんとなく寂しいものがある。
「なぁ魔理沙、彼女達もここに呼んだらどうだい?いくらなんでも僕一人じゃ食べきれないよ」
そういうと、魔理沙が不機嫌そうな顔をした。
「・・・なんだよ、こーりんは私と二人きりじゃ嫌だっていうのか?」
「えーと・・・それって・・・」
なんとなく魔理沙の言いたいことが分かって霖之助は顔を赤くした。魔理沙の方もすでに真っ赤で茹ダコ状態だ。
「・・・もういい、他の連中を連れて来る!どうせお前も色っぽい大人の女が好きなんだろ?慧音とか永琳とか連れて来てやるよ!」
「いや、いいよ。たまには君とゆっくり話をしたいしね」
と、魔理沙を引き止めた。魔理沙は隣に座ると怒っている様子で黙ってひたすら料理を口に運んでいる。
「それから・・・大人の女性もいいけど、僕は小さくて子供っぽくてもいつも元気で一生懸命頑張ってる子の方が好きだよ」
「―――っ!?」
食べていたものが喉に詰まったようだ、魔理沙は苦しそうに胸をドンドンと叩いている。霖之助はやれやれとコップに水を注いで魔理沙に手渡した。
「ハァ・・・ハァ・・・死ぬかと思った・・・いきなり変な冗談を言うなよな!びっくりしたじゃないか」
「冗談じゃなくて本気でそう思っているんだけどね」
「・・・ばか」
と、聞き取れないような小さな声で呟いた。
「まぁいい、愚痴はあとで夜通し聞いてもらうとして、例のものは持ってきてくれたか?」
「あぁ、これだね」
霖之助が懐から少し大きめの宝石のようなものを取り出し、魔理沙に渡した。
「おぉ、これだこれ。それじゃあちょっと行ってくるぜ」
そう言って店の外へと飛び出していった。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
「おーい!みんな、ちょっと外にでてきてくれー!」
魔理沙が大声でそう言うと、店の中からぞろぞろと皆が出てきた。
「最後に私から皆に感謝の気持ちを込めてささやかなプレゼントを用意したぜ!」
そう言うと魔理沙は箒に乗って空高く飛んで行った。そして、ある程度の高さまで来ると、さきほど霖之助からもらった宝石を取り出しなにやら呪文を唱え始めた。
「いくぜ!」
魔理沙の掛け声と共に宝玉が天高く舞い上がる。そしてそのまま光を放ち無数に砕け、幻想郷中に降り注いだ。
「うわぁ・・・綺麗・・・」
「まるで流星群ね」
と、一同その魔法に感動の言葉をもらした。一方、パチュリーとアリスの二人はその魔法がどういうものか知っているらしく「魔理沙らしいわね」と笑っていた。
「あの、パチュリー様。この魔法って一体どんなものなんでしょうか?」
咲夜が不思議そうに尋ねてきた。
「あの魔法は特殊な魔法石を媒体にしたもの。効果はその魔法が降り注いだ範囲に小さな幸福を与えると言われているわ」
「なるほど・・・確かに魔理沙らしいですね」
「皆、アイツの笑顔にいつも元気を貰っているからな」
「元気だけでなく余計な迷惑も貰っちゃってるけどね」
「しかも逆にいろいろ持っていかれるしね」
と、皆で苦笑した。
博麗神社。そこに住む素敵な巫女さんはその魔法の流星を肴にお酒を飲んでいた。
「いい眺めねぇ」
霊夢の目の前に紫があらわれた。
「なんだ、アンタもきたの?」
すでに霊夢の隣にはレミリアと萃香がひっついて寝息を立てていた。
「酒の肴にいろいろお料理を拝借してきたわよ」
そういってスキマからいろいろと料理を取り出した。どれもこれも全て宴会でだされていた料理である。
「相変わらず手癖が悪いわねぇ、まぁ食べるけど」
「あややや、もうこんなに先客が」
「アンタもか・・・どうしてこう私のまわりには厄介な連中ばかり集まるのか」
「まぁまぁそう言わずに。今日は仕事でも取材でもなくプライベートでお酒をご一緒したいなぁと思いまして・・・」
そう言ってお酒を取り出した。
「それにしても・・・魔理沙ってホント、皆から慕われてるのねぇ」
「どうしたのよ、急に」
「今回の件でちょっと思うことがあっただけよ。アイツってずけずけと人の心の中まで踏み込んでくるのよね・・・そういうところ、なんか羨ましいわ」
「霊夢さんも十分土足でずけずけ上がりこんでくる気がしますけど・・・」
「私は博麗の巫女だからね。誰に対しても対等。誰の味方でも誰の敵でもない中立を保たなきゃいけない。だからあんな風に皆に愛されてる魔理沙が羨ましいのかもしれないわね」
と、霊夢が少し寂しそうな顔でそう言った。
「霊夢は勘がいいくせに鈍感なのね」
紫が馬鹿にしたような口調でそう言葉を返した。
「確かに貴女は常に中立でなくてはいけない。けれど他の人が貴女を想うのにそんなことは本当に些細なことだわ。現にここに集まっている私達は皆霊夢が好きだからここにいるのよ。私もそこのお子様達もその烏天狗も」
「さりげなくそう言われると照れてしまうのですが」
少し顔を赤くして文がそう言った。
「それに、魔理沙がどうして定期的に店を出してお金を稼いでるのか不思議じゃない?貴女の言う通り魔理沙は皆に愛されているわ。わざわざお金を稼がずとも何不自由なく生活できる」
「そういえば・・・そうね。何で店なんか出してるのかしら」
「・・・貴女のためよ。毎月、神社にお賽銭を入れるため、そのために彼女はお店を出してお金を稼いでいる。そしてそのことは一緒になって手伝っている者も客として来た者も皆知っている」
つまり・・・と紫はさらに言葉を続ける。
「皆、貴女を慕っているのよ。この幻想郷を守る素敵な巫女をね」
紫の言葉に思わず霊夢は目に涙を浮かべた。それほど自分が他人に想われていたとは思ってもみなかったのだ。
「あら?霊夢、もしかして泣いちゃった?案外可愛いのねぇ霊夢ちゃん♪」
「おぉ、これはスクープですね!【仰天!鬼の目にも涙!?鬼畜巫女、まさかの感動の涙】これは明日の新聞の一面にぴったりですね!」
・・・ゴゴゴゴゴゴ
「あ、あれ?霊夢?」
「霊夢さん・・・?」
「アンタ達・・・随分好き勝手に言ってくれたわね。当然覚悟はできているわよねぇ?」
霊夢さん、相当怒っているようです。
「痛っ!ちょ、待った!陰陽玉で殴らないで!洒落にならないって!あぁあああ!!」
「あ゛や゛や゛や゛や゛!?やめ、羽がちぎれる!!ちぎれちゃう!!」
結局最後はこんなオチなんですねぇ・・・
そしてまた、月末の博麗神社。
相変わらず霊夢が空腹と戦っている。
カランカラン。
「魔理沙ぁあああ!!!」
「またかよ・・・ほらお賽銭だ」
じゃらじゃらと袋の中の小銭を賽銭箱へと入れる。
「魔理沙」
「ん?なんだよ霊夢・・・!?」
次の瞬間、霊夢が魔理沙の頬にキスをした。
「な、ななな!?なんだよ!いきなり!」
「いいえ、なんとなく・・・ね、いつもありがとう魔理沙」
「・・・お、おう・・・」
魔理沙は顔を真っ赤にして飛んでいってしまった。よほど恥かしかったのだろう。
そんな魔理沙の後ろ姿を見送って、霊夢はニッコリと微笑んだ。
「さぁて、このお賽銭で美味しいものでも食べにいこうっと♪」
幻想郷は今日も平和です。
~END~
おまけ~霧雨喫茶の給与明細~
お店のことについて霊夢と魔理沙がなにやら話をしているようだ。
「そういえば魔理沙、お店の利益ってどんなもんだったの?メニューの値段とかすごく格安だし、いくら繁盛してるからってあまり儲かってなかったんじゃない?」
「いや、そんなことないぜ?食材とかも人里とかから格安で譲ってもらってるし、何より人件費が全然かかってないからな」
「そういえば雇ってる皆にはどれくらい払ってるの?報酬」
「んー人それぞれ違うんだ」
以下、それぞれの報酬。
アリス、パチュリー→魔理沙と一日デート(アリスは報酬倍なので二回、パチュリーには本の返却)
咲夜→一日咲夜の着せ替えに付き合う(魔理沙が着せ替え人形役になる)
レミリア→霊夢といちゃいちゃできる個室を作る。
チルノ、大妖精、橙→お菓子の詰め合わせ
妖夢→営業中の幽々子の飲食代を無料にする
鈴仙、てゐ→永遠亭に魔法の森の薬草やきのこの提供
慧音、妹紅→ボランティア&暇つぶし
早苗、ミスティア→広告にそれぞれの神社、屋台の宣伝をいれる。
にとり→蒐集品の一部を譲渡。
椛→文の命令による強制無償労働
衣玖→営業期間、毎晩夜にフィーバーするステージの提供。
それ以外の協力者には基本飲食無料を提供。
「なにそれ・・・皆そんな報酬で引き受けてたの・・・?」
「あぁ、今度また店出すときは霊夢も一緒にやるか?」
「いや・・・遠慮しとくわ・・・」
……意外と報酬安ッ!!
合間にはいるナレーションも良いですね~。
「これ誰?」なんてのもありませんでした。これはすごいと思います。
お嬢様がネコミミに尻尾に首輪でメイド服だと…!鼻から忠誠心があふれ出ました。
>「ぎゃあああ!服の中に手を入れるな!!!って、なんで誰も助けないんだよ!店内はお触り禁止でしょ!?」
「あぁ、女同士のお触りなら容認するぜ。客受けいいしな」
と、グッと親指を立ててウィンクをする魔理沙。店中の店員、来客もあわせたように「グッジョブ!!」と親指を立てて雛を応援している。
僕も親指を立てて雛を応援している。
なんか知らんがレティの場面でホロリときたのはおれだけなのか?そうなのか?そうなんだなorz!?
>>1様。楽しんで頂けたのでしたら嬉しいです。強引だと言われると返す言葉もございません。次回はもっとしっかりとかけるように頑張ります。報酬がその程度で許されるのは「魔理沙だから」なんです。皆、魔理沙を放っておけないんです。
>>2様。全編読んで頂きありがとうございます。普段は一人称で書いてるので今回みたいに三人称で書くのは結構難しかったですが気に入って頂いたみたいで嬉しいです。
>>3、しんっ様。しんっ様は前編からずっとコメントくださって本当にありがとうございます。レミリアいぢりは今回書いてて一番楽しかったところかもしれません(萃香、紫含め)私が今まで書いてるレミリアは毎回カリスマ成分強めになってしまうのですがたまには壊れてもいいよね!っという感じでこうなってしまいました。また、地霊殿でにとマリがメジャーになってきてる感じがしますが私はにと雛を支持します。というわけで私も親指立ててグッジョブ応援します。
>>4様。妖夢の報酬はむしろ一番高いかと思います。幽々子様の食費を抑えることができるのですから。椛は・・・頑張れ!また、レティの場面でホロリとしてくれたのはこちらの狙い通りなのでホロリとしてくれて嬉しいです。場面によってギャグ要素が強かったり、シリアスにしてみたり、いい話にしてみたりと考えてみたので色んなジャンルを楽しんで頂ければ幸いです。
少し気になったことがあって、前編から読み直してきました。
報酬の『レミリア→霊夢といちゃいちゃできる個室を作る。』
メイド喫茶をやっていることは今回まで霊夢には秘密だったのでは?
霊夢は魔理沙が何をしてお金を稼いでいるか知らないから探っていた訳で(前編参照
まあ、お嬢様が運命視ました。で片付く問題なんですけどねw
これに関するフォローがどこかでされていた場合はごめんなさい。
それにしても、霊夢ってば愛されてるなー。
霊夢は魔理沙のお金の稼ぎ方を調べていた。
レミリアは以前から咲夜やパチュリーといった人材派遣をしていて魔理沙の店について知っていた。
今回は霊夢といちゃいちゃしたいから報酬をよこせと個室を作らせた。
本文中では霊夢が魔理沙のお金稼ぎの方法が店だと知って実際に来店するのですが、レミリアはどっちでもよかったのです。もし霊夢が自分から来店するのであればその来店する時間を視ることで待ち伏せておく、もし来ないのであればレミリアが誘って来店する。(御馳走するといえば100%ついてくるから)というわけで霊夢は店ができるまでメイド喫茶の存在は知らず、実際に店ができたので行ってみた。という解釈でお願いします。
本文中でフォローしておくべきでした。長編を完成させることばかり気を取られてそういう細かい部分が蔑ろになっていたかもしれません。以後、今回のことを踏まえて、もっと読みやすくなるように精進させていただきます。貴重な御意見ありがとうございました。