この物語は『紅き館の小さなメイドSIDE:美鈴(序)』の続編となっています。
※この物語はオリジナルの設定を多分に含みます。
それがダメな方はこの場で回避することを強く推奨いたします。
大丈夫という方だけ↓へどうぞ。
水の流れる音が辺りに響く。
「それじゃあ、咲夜。髪洗うよ」
咲夜を前に座らせ、私は咲夜の髪を洗い始める。
ここは紅魔館にある大浴場。
お嬢様に咲夜の世話を任された私は、まず咲夜の身なりを整えることから始めること
にした。
「女の子なんだからちゃんと綺麗でいなくちゃね」
私の前に座る少女からの返答は無い。
そのことに少しだけ息をつき、わしわしと咲夜の髪の汚れを落す。
頭から湯をかけてやる。
汚れていたプラチナブロンドの髪が元の色を取り戻す。
「次は体洗うよ」
咲夜はただ無言で従う。
小さな体を洗ってやる。
洗いながら私は考える。
この少女はこれまでどのような生活をしてきたのだろうか。ボロボロの身なりからし
てもこれまでまともな生活はしていなかったのだろう。人間、それもまだこんなに幼い
少女の身でありながら、それだけのひどい生活を強いられていたという事なのだろうか。
それに、素直に従っているが、何処か人を拒絶する部分を見せるところがこの少女には
あった。
「どうしたものかな」
小さくため息をつく。
それに咲夜が怪訝そうな顔で私を見上げる。
「なんでもないよ、洗い終わったからお湯かけるよ」
笑顔を咲夜に向ける。
咲夜は小さく頷く。
それを確認してから、咲夜の体に付いた泡を洗い流す。
「はい、洗い終わったよ。先に出て待っていて」
私の言葉に咲夜は無言で頷くと浴場を出て行った。
それを見届けてから、私は手早く片付けを済ませると咲夜の後を追う。
浴場を出ると、脱衣所で咲夜は私が来るのを待っていた。この浴場に来る前に自分の
部屋に寄って持って来ていたバスタオルを出すと私の濡れた咲夜の体を拭いてやる。
咲夜はされるがまま、私に従う。
やはり咲夜は無言。そのことに私はどうしても寂しさを感じずにはいられなかった。
「あれ、門番長……?」
脱衣所から出ると疑問形と共に声をかけられた。
振り返ってみると、そこにいたのは館内で働く妖精メイドだった。
最近この紅魔館にやってきた新米のメイドだ。
「やっぱり門番長だ。そんな格好していたから一瞬誰だか分かりませんでしたよ」
「そんな格好?あぁ、これのこと?」
私は自分の格好を見る。
「あら、あなたこんなところで何してるの?」
その時、妖精メイドの後ろからさらに声が掛かった。姿を見せたのは、入れ替わりの
激しいこの館で働く妖精メイドとしては珍しく、長年メイドを務めている妖精だった。
「そこにいるのは門番長?うわぁ、門番長がそんな格好しているなんてなんだか懐かし
いですね」
「そっか、あなたはこの格好をしていたときの私を知ってるんだっけ」
「はい!」
頷いて彼女は本当に懐かしそうに私を見る。
「門番長、以前にもそんな格好していたんですか?」
話が分からず、新米のメイドが首を捻る。
今私が着ているのはいつもの翠のチャイナ服ではなく、紺を基調としたメイド服だっ
た。
「数十年前にメイドの数が足りなくて館の維持が追いつかない時があってね、その時に
私が借り出された時があったのよ」
「それで、その時に着ていたのが今門番長が着ているメイド服なのよ」
「へぇ、そんな事があったんですか」
「あの時は私も紅魔館に入ったばかりで門番長にいろいろと助けてもらったものだわ。
あの時のことは今でも門番長には感謝してます」
「いや、そんな感謝されるようなことなんて」
当時のことを思い出しているのか、古参のメイドの話に少しずつ熱が入ってくる。
そういえばこの子少し話好きだったわね。
「ところで門番長、後ろにいるその人間はどうしたんですか?」
自分のついていけない話に痺れを切らしたのか、新米のメイドが私の後ろを指す。
そこにいるのは私と同じデザインのメイド服に身を包み、無言で立っていた咲夜だ。
「あぁ、この子は今日からこの紅魔館で働くことになったメイドの子で、名前は……」
「……十六夜咲夜」
私の紹介に咲夜は小さく答える。
「メイド!?人間がこの紅魔館で!?」
「人間がこの館でですか?」
妖精メイドがそれぞれ驚いた顔をする。
この反応も当然だろう、これまでこの紅魔館で迷い人が訪れることはあっても人間が
働くなんてことは無かったのだから。
「それでこの子の面倒をしばらく私が見るようにお嬢様から言われたのよ」
「なるほど、レミリア様の……だから門番長はその格好なんですね」
「面倒を見る以上、メイドの仕事も少しずつ教える必要があるからまずは私も形から入
ってみようかなって」
「でもメイドの教育なのに、何故メイドである私達ではなく門番長に面倒を任せるんで
しょう?」
「さあ?お嬢様はいつも気まぐれだから私にもさっぱり解らないわ」
「まあなんにせよ、頑張ってください門番長。何か必要なことがあったら私達もお手伝
いしますから」
「ええ、ありがとう」
失礼しますね、と妖精メイド二人は私に一つ頭を下げるとその場を後にした。
「……私達も行きましょうか」
私は振り返ると咲夜に声をかけた。
咲夜は黙って小さく頷く。
それに小さく息をつく。
「いい咲夜、そこは黙って頷くんじゃなくて、ちゃんとはいって返事をするのよ。ほら、
言ってみて」
「……はい」
「はい、よくできました」
笑顔で咲夜の頭を撫でてやる。
それに咲夜は驚いたような顔をして私の顔を見上げる。
「ん、なに?」
首を傾げる私に咲夜は静かに首を振る。
「……なんでもない」
小さな声で返事をすると咲夜はスタスタと私の先を歩いていく。
私は小さく苦笑を浮かべて前を歩く小さな背中を見つめる。
――まあ、ちゃんと答えてくれただけでも一歩前進かな?
これから少し忙しくなりそうだけど、頑張ってみよう。
自分に小さく気合を入れる。
小さな背中に声をかける。
「咲夜」
少女が振り返る。
私は少女が歩く先とは別の方向を指差す。
「道、こっちだよ」
※この物語はオリジナルの設定を多分に含みます。
それがダメな方はこの場で回避することを強く推奨いたします。
大丈夫という方だけ↓へどうぞ。
水の流れる音が辺りに響く。
「それじゃあ、咲夜。髪洗うよ」
咲夜を前に座らせ、私は咲夜の髪を洗い始める。
ここは紅魔館にある大浴場。
お嬢様に咲夜の世話を任された私は、まず咲夜の身なりを整えることから始めること
にした。
「女の子なんだからちゃんと綺麗でいなくちゃね」
私の前に座る少女からの返答は無い。
そのことに少しだけ息をつき、わしわしと咲夜の髪の汚れを落す。
頭から湯をかけてやる。
汚れていたプラチナブロンドの髪が元の色を取り戻す。
「次は体洗うよ」
咲夜はただ無言で従う。
小さな体を洗ってやる。
洗いながら私は考える。
この少女はこれまでどのような生活をしてきたのだろうか。ボロボロの身なりからし
てもこれまでまともな生活はしていなかったのだろう。人間、それもまだこんなに幼い
少女の身でありながら、それだけのひどい生活を強いられていたという事なのだろうか。
それに、素直に従っているが、何処か人を拒絶する部分を見せるところがこの少女には
あった。
「どうしたものかな」
小さくため息をつく。
それに咲夜が怪訝そうな顔で私を見上げる。
「なんでもないよ、洗い終わったからお湯かけるよ」
笑顔を咲夜に向ける。
咲夜は小さく頷く。
それを確認してから、咲夜の体に付いた泡を洗い流す。
「はい、洗い終わったよ。先に出て待っていて」
私の言葉に咲夜は無言で頷くと浴場を出て行った。
それを見届けてから、私は手早く片付けを済ませると咲夜の後を追う。
浴場を出ると、脱衣所で咲夜は私が来るのを待っていた。この浴場に来る前に自分の
部屋に寄って持って来ていたバスタオルを出すと私の濡れた咲夜の体を拭いてやる。
咲夜はされるがまま、私に従う。
やはり咲夜は無言。そのことに私はどうしても寂しさを感じずにはいられなかった。
「あれ、門番長……?」
脱衣所から出ると疑問形と共に声をかけられた。
振り返ってみると、そこにいたのは館内で働く妖精メイドだった。
最近この紅魔館にやってきた新米のメイドだ。
「やっぱり門番長だ。そんな格好していたから一瞬誰だか分かりませんでしたよ」
「そんな格好?あぁ、これのこと?」
私は自分の格好を見る。
「あら、あなたこんなところで何してるの?」
その時、妖精メイドの後ろからさらに声が掛かった。姿を見せたのは、入れ替わりの
激しいこの館で働く妖精メイドとしては珍しく、長年メイドを務めている妖精だった。
「そこにいるのは門番長?うわぁ、門番長がそんな格好しているなんてなんだか懐かし
いですね」
「そっか、あなたはこの格好をしていたときの私を知ってるんだっけ」
「はい!」
頷いて彼女は本当に懐かしそうに私を見る。
「門番長、以前にもそんな格好していたんですか?」
話が分からず、新米のメイドが首を捻る。
今私が着ているのはいつもの翠のチャイナ服ではなく、紺を基調としたメイド服だっ
た。
「数十年前にメイドの数が足りなくて館の維持が追いつかない時があってね、その時に
私が借り出された時があったのよ」
「それで、その時に着ていたのが今門番長が着ているメイド服なのよ」
「へぇ、そんな事があったんですか」
「あの時は私も紅魔館に入ったばかりで門番長にいろいろと助けてもらったものだわ。
あの時のことは今でも門番長には感謝してます」
「いや、そんな感謝されるようなことなんて」
当時のことを思い出しているのか、古参のメイドの話に少しずつ熱が入ってくる。
そういえばこの子少し話好きだったわね。
「ところで門番長、後ろにいるその人間はどうしたんですか?」
自分のついていけない話に痺れを切らしたのか、新米のメイドが私の後ろを指す。
そこにいるのは私と同じデザインのメイド服に身を包み、無言で立っていた咲夜だ。
「あぁ、この子は今日からこの紅魔館で働くことになったメイドの子で、名前は……」
「……十六夜咲夜」
私の紹介に咲夜は小さく答える。
「メイド!?人間がこの紅魔館で!?」
「人間がこの館でですか?」
妖精メイドがそれぞれ驚いた顔をする。
この反応も当然だろう、これまでこの紅魔館で迷い人が訪れることはあっても人間が
働くなんてことは無かったのだから。
「それでこの子の面倒をしばらく私が見るようにお嬢様から言われたのよ」
「なるほど、レミリア様の……だから門番長はその格好なんですね」
「面倒を見る以上、メイドの仕事も少しずつ教える必要があるからまずは私も形から入
ってみようかなって」
「でもメイドの教育なのに、何故メイドである私達ではなく門番長に面倒を任せるんで
しょう?」
「さあ?お嬢様はいつも気まぐれだから私にもさっぱり解らないわ」
「まあなんにせよ、頑張ってください門番長。何か必要なことがあったら私達もお手伝
いしますから」
「ええ、ありがとう」
失礼しますね、と妖精メイド二人は私に一つ頭を下げるとその場を後にした。
「……私達も行きましょうか」
私は振り返ると咲夜に声をかけた。
咲夜は黙って小さく頷く。
それに小さく息をつく。
「いい咲夜、そこは黙って頷くんじゃなくて、ちゃんとはいって返事をするのよ。ほら、
言ってみて」
「……はい」
「はい、よくできました」
笑顔で咲夜の頭を撫でてやる。
それに咲夜は驚いたような顔をして私の顔を見上げる。
「ん、なに?」
首を傾げる私に咲夜は静かに首を振る。
「……なんでもない」
小さな声で返事をすると咲夜はスタスタと私の先を歩いていく。
私は小さく苦笑を浮かべて前を歩く小さな背中を見つめる。
――まあ、ちゃんと答えてくれただけでも一歩前進かな?
これから少し忙しくなりそうだけど、頑張ってみよう。
自分に小さく気合を入れる。
小さな背中に声をかける。
「咲夜」
少女が振り返る。
私は少女が歩く先とは別の方向を指差す。
「道、こっちだよ」
しかし最後ww