こんにちは、いつも何も考えていないと評判の古明地こいしです。
今、私は地霊殿のマイルームにてお姉ちゃんwithすごい荒い鼻息に押し倒されています。わけが分かりません。すごく、怖いです。
「こいし……っ! ふぅっ! はぁっ!」
息まで荒くなってきました。
お願いです。誰か助けてください。
……誰も来ないだろうけどね。地霊殿だし。ペットたちあんま私の部屋こないし。
……とりあえず自分でどうにかしてみよう。
「ねぇお姉──」
「こいし……」
遮られた……。
「…………何?」
「ついにあなたの無意識を破る方法を見つけることに成功しましたよ。……三十徹もした甲斐がありました」
いや、寝ろよ。
三十徹もすればそりゃ精神に異常を来たすよね。とりあえずお姉ちゃんが異常な説明だけはついた。
「えと、それがどうして私を押し倒すことにふぁあ!?」
──フニフニっ!
急に第三の目の触感を感じ。体を震え上がらせる。覚は第三の目が弱点だ。そこは攻撃されても、何かに当たっても、触られただけでもずごいダメージになる。そして今、私は同じ覚であるお姉ちゃんにそこを攻められている。……敵が同種族だと辛いね……。
「無意識を刈り取る手段その一! 弱点を攻める! ……フフフ、覚の弱点はズバリサードアイ! そこを攻めることによってあなたの無意識を封じる!」
「やっ! ちょっ……全然関係ふぁっ! や、やめっ!」
なっ、何でそんな事に繋がっ……あふっ!
「ふふ……自分から動いて──」
「ないから!」
だ、誰か助け……
──バンッ! ニャーン!
「とうっ!」
「……! 甘いですよ」
急に扉が開いたと思ったら、特徴的なニャンダフルヴォイスと共に黒い影がお姉ちゃんめがけて突っ込んでくる。お姉ちゃんはそれに超反応をして私の上から退いた。
「変態退治の専門家! 元素記号P登場!」
──ズザザッ! ……ズンッ!
「危なぁっ!?」
元素記号Pことおりんちゃんは、私の頭のちょっと上に降り立つと、私の寝ていたちょうどその位置に猫車を落とした。……文字通り間一髪、私は避けた。
「大丈夫かい? リトルストーンでラブリーなちびっ子!」
「うん! 今まさにあなたに殺されかけたけどね!」
「それはよかったよ!」
「それは私が助かったことに対して言ったんだよね!?」
「ごめん。あたいは今このロリコンとの戦いに集中しなきゃいけないんだ」
「会話避けた!? というか自分の主人にロリコンって言った!」
おりんちゃんはあくまでも私を無視しつつお姉ちゃんに向き直った。何だろう、助けてくれたのは嬉しいんだけど全く感謝する気になれない。
「ふん。私の館に賊とは……名を名乗りなさい」
え、お姉ちゃん自分のペットが分からなくなったの? おりんちゃんがグラサンかけてるだけだよ? というかさっき一応名乗ってたよね?
「ロリコンに名乗る名前は無いよ」
いやいや! 自分で名乗ってたの忘れたの!? というか私ロリじゃないから!
「そうですか……残念です。ならば……あなたにはこいしの『見つめる攻撃』を受けてもらいます」
「他力本願!? というか何その攻撃!」
「ひ、卑怯だよ!」
「どこが!?」
「さぁこいし、あのグラサンガールを見つめるのです!」
いや、まぁいいけどさ。どうせダメージ食らわないんだろうし。
──じーっ
「くっ…………!」
ん?
──じーっ
「がぁっ……」
嘘!?
──じーっ
「ぐがあああっ!! おのれ! お燐死せどもおりんりんランドは死なず!!」
──バタッ
…………うそぉ!?
「え、いや、な、なにゆえ!?」
「これがロリの力か……」
「ロリじゃないって!」
……もう訳分からないよ……。この家にまともなのはいないの……?
そんなことを考えていると、おりんちゃんに向き直っていたお姉ちゃんがこちらを向いた。目は、キランと怪しく輝いていた。
「さて、こいし。そういうわけで……お姉ちゃんと続きしましょーね☆」
それは悪魔の宣告だった。
──ダッ!(私が扉に向かって思い切り走る音)ガッ!(お姉ちゃんが私の肩を掴む音)パンッ!(私の右ストレートがいとも容易くお姉ちゃんによって受け止められる音)
「…………」
「…………」
「…………こいし、私から逃れることなど不可能なのです。あなたは完全に包囲されています。大人しく私に体を提供するのです」
さり気なくかなり危ないことを言っている。私は生まれて初めてお姉ちゃんが心の底から恐ろしいと思った。
「ううっ……わ、私は諦め……って、何やってるの?」
お姉ちゃんは扉まで歩いていくと、鍵をかけ、さらに新しい鍵を設置した後、どこからか取り出した溶接器具を使って扉を壁にした。…………。
「無意識を刈り取る手段その二……。……物理的に封じます」
「やりすぎだ! 溶接はやりすぎだ!」
「ふふ……。妹のためならこれくらいなんともないですよ」
「褒めてないし! すごく迷惑がってるんだよ!」
「そんな、照れなくてもいいんですよ?」
「どこに照れる要素があった!?」
もう強制的にでもお姉ちゃんは寝かせた方が良いと思う。
私はスペルカードを取り出して弾幕を張ろうと……あれ? スペルカード無い……? 確かいつものようにポケットに入れてた筈なんだけど……。
「探し物は何ですか♪ 見つけにくいものですか♪ 衣服の中も、心の中も、探したけれど見つからないのに、まだまだ探す気ですか♪ それよりお姉ちゃんといいことしませんか♪」
「なんでお姉ちゃんが持ってるの!?」
お姉ちゃんは私のスペルカードをヒラヒラと振りながら歌うように言った。というか歌った。しかもすごく歌詞を無理やり入れてるし……。
「簡単ですよ。押し倒した時についでに対抗手段を奪っておいたのです。戦闘の基本じゃないですか」
「戦闘は関係ないよね!?」
「人生は常に戦いなのですよ……」
「何が!?」
「まぁそんなことはどうでもいいですよ。今は……ハァッ……手段一の……フゥッ……続きを……ホッフ……する作業に戻る……フハッ……のです」
「いやあああ!」
お姉ちゃんが匍匐全身でこちらに向かってくる。私は一歩一歩、後退する。そんなやり取りが十秒ほど続いたけど、もちろん私の部屋は無限では無いので、終わりを告げる感触が私の背中に感じられる。お姉ちゃんはその様子を見てキランと目を輝かせた。
「い、いや、待って。落ち着いてお姉ちゃん。話し合おう? 話し合えばきっと分かるって、ね?」
「私たちは姉妹です。話し合いなど必要ありません。心で……通じ合っているじゃないですか……」
「いやいや! 私の意思が反映されていない時点で通じ合って無いと思う!」
「こいしの意思? なんですかそれ」
「言ってることと違う!」
私は刻一刻と迫っている恐怖の塊に怯えながらもツッコミを続けた。すると、かつて私がお姉ちゃんと認識していた生物Sは急に匍匐を止め、立ち上がってこちらに歩き始めた。そして私の目の前まで来る。
私は何かあったのかなと思いつつも、変わらぬ恐怖に怯えていた。
「あなたがそこまで私の一番苦労して考えた手段一を否定するなら、やめることにしましょう」
「あれを一番がんばって考えたんだ……」
「そのかわり手段三の施行を……」
「結局方向性は変わらなかった!」
お姉ちゃんは慈母の如き表情で一歩歩みを進める。私は今度は何をされるのだろうと思って、ぎゅっと目を閉じた。
──フワッ……。
「────え?」
来た感触は全く予想していなかったものだった。
私はゆっくりと目を開ける。何も無い。映っているのは先ほど溶接された扉と、倒れているおりんちゃんしか映っていない。
目だけを動かし、視界をゆっくりと横に動かす。そこにはお姉ちゃんの顔があった。
「三つ目の方法は、あなたを抱き締めること。あなたを抱き締めて、絶対に離さないこと。……せめてでもこうしないと、その権利が無い私にはあなたを捕まえておくことは出来ませんから……」
「お、お姉ちゃん?」
「故に、私は悩んでいました。どうすればいいのか……。どうすれば、もう取り返しの付かない現実を元に戻せるのか」
何を……お姉ちゃんは言って……?
「元はといえば、私の勇気の無さから始まったことでした。私には聞こえていた。見えていた。分かっていた……。あなたの心が少しづつ……少しづつ、壊れていくのが……。だけど、私は思ってしまった。私の同じ覚であるあなたなら、耐えられるんじゃないか、と。しかし、私は気づけなかった。……いえ、とんでもない思い違いをしてしまっていた。私は本心からあなたが耐えられるなんて思っていたんじゃありませんでした。ただ、そう思うことで私が勇気の無い妖怪だということを否定していたのです。……そう、妹に『私だけは、ずっとあなたを抱き締めていてあげる』と言う勇気すらない、弱い妖怪だということを」
「……お姉ちゃん……」
「皮肉にも、私が自分の弱さに気づいたのはあなたが恋の目を閉じた、そのときでした。私は思いました、あぁ、なんてことをしてしまったのだろう、と。何故こんな簡単なことにすら気づけなかったのだろう、と。私は消すことの許されない罪を感じました。すべては、あなたを一人にしてしまった私が悪かったのだと……すべては、逃げるしか能が無かった私の所為だったんだと……。今更、許してほしいなどとは言いません。許せることでは無いでしょうから……。でも、私の許可をください。あなたに謝罪する許可を。私に、罪を実感させる機会を…………」
……違う。
そうじゃない。お姉ちゃんは何も分かってない。
謝らなければいけないのはお姉ちゃんじゃない。
お姉ちゃんは何も悪くない。悪いのは──
「ごめん、なさい……」
「こ、こい……し?」
「私……お姉ちゃんにそんな思いをさせてたなんて知らなかった……」
「……仕方の無いことです。あなたは心が読めなくなってしまったのですから……。私が、あなたを一人にしてしまったのが一番悪いのです」
「違うよ」
え? とお姉ちゃんは言った。その声を聞いて私はふっと笑った。
やっぱりお姉ちゃんは何も分かってなかった。
「私が、お姉ちゃんを一人にしちゃったの」
「────え?」
「私の心が弱かったから、お姉ちゃんを一人にしちゃった。……今、やっと分かった。お姉ちゃんはずっと寂しかったんでしょ?」
「な……そんなはず……。あなたは心が読めない。私がどう思っているか分からないはずです」
「それでも分かる。うん、心が読めないからこそ分かる。……だって──私も寂しかったから」
そう、この私の中にずっと、無意識になったときからあった感情は、結局のところ『寂しさ』だった。一人なのが寂しかったんじゃない。心の声が聞こえなくなったから、それはむしろよかった。だけど、私は寂しかった。お姉ちゃんが遠くにいるような気がして。お姉ちゃんは、私の姉だから一番近いはずなのに、何故か間にとても大きな、絶対に越せない溝がある気がして。私はお姉ちゃんが居なくて寂しかった。
「お姉ちゃんは、私を離したくないから私に抱きついた」
私は自分の両腕をお姉ちゃんの背に回す。
「私も、お姉ちゃんと離れたくない…………」
「こいし…………」
そしてゆっくりと、しっかりと、抱き締めた。
「ごめんなさい。──お姉ちゃん」
頬を、熱いものが伝うのを感じた。
少しして、急に体にかかる体重が重くなった気がした。私は何だろう、と思って、肩を優しく掴み、顔が見える位置まで持って来た。
「お姉ちゃん…………?」
お姉ちゃんを見る。その閉じた目からは絶え間なく涙が流れ、顎の辺りで伝うのを止めて床へと落下していた。しかし、意識は無いようだった。
「…………そっか、三十徹もしてたんだっけ」
きっと、眠っているんだろう。
信じられないような話だけど、お姉ちゃんだったらありえるかもしれない。ひたすらに不器用なお姉ちゃんだったら。
「…………ありがと、お姉ちゃん」
私はもう一度お姉ちゃんを抱き締めた。
──やっぱり姉妹は仲良くなきゃねぇ
あたいはこいし様の部屋のバラ模様の床に突っ伏しながら思った。
あれは……三日くらい前だった。急にさとり様があたいの部屋に来て、あたいに言った。
『こいしは、私を恨んでいるでしょうか。……姉なのに自分を助けなかった私を……』
泣きそうな顔で言うのだからあたいは困った。聞くと、ただ一人の妹であるはずなのにこいし様の心が読めない。だからこいし様が自分のことをどう思っているのか分からなくて心配なのだという。
姉も妹もいないあたいにはその気持ちはよくわからなかったけど、このままではいけないっていうことは分かった。
あたいは考えて、言った。
『では、一つ芝居をしましょう』
『芝居……?』
『はい、芝居です。さとり様はとても疲れているか、またはとても眠い。だから頭が回らなくてこいし様に変なことを聞いてしまった。……という設定でなら、こいし様の本心が何の勇気も要らずに聞けますよ』
『勇気を……必要とせずに……』
さとり様はそう言ってふむ、と少し考え、『燐も手伝ってくれますか? 一緒に……その場にいてくれますか?』と聴いた。あたいは無論、『もちろんですよ』と答えた。
それから詳細を決めて、いろいろと調整をした。始終さとり様が『そ、そんなことまでするのですか!?』とか『む、むむ無理ですよ!』と異議を申し立ててきたけど、あたいはことごとく無視することにした。演技に私情を挟んでいたら成功しないし、何より面白くないしねぇ。結果としてさとり様渾身の演技でどうにかなったんだから別にいいだろう。
──何はともあれ、無事に終わってよかったよ。……これでさとり様とこいし様の距離が少しは縮まればいいんだけどねぇ……。まったく、世話のかかる主人の下にいると大変だにゃ~。
あたいはいつになったらやられたフリを終えればいいんだろうと思いながら、おコタの中に居る時よろしく和んだ顔をした。
いやぁなかなか見れないさとりとこいしでしたよ。とにかくGJと言いたい。
>喉飴と嶺上開花さん
和んでくださりありがとうございます。
次も和める作品をばと思っている次第です。
私から逃れることなの不可能なのです→逃れることなど
あなたが故意の目を閉じた、そのときでした→恋の目
それと「私はお姉ちゃんが居なくて寂しかった」の途中の改行が変に見えます。
GJ。元素記号Pで思いきり吹いた。謎の生物Sは硫黄ですね。あれ?
ところでおりんりんランドが気になるのですが。
>何の勇気も要らずに聞けますよ
宇詐欺並みの詐欺だ!その台本を実行するのに勇気がいらないだと!?
>3さん
誤字報告ありがとうございます。修正しました。
Pはインスピレーションで決めたんですが、Sはイニシャルで良いかなと適当に……さとりなんて元素、ないじゃないですか……。
あと、思い切り強く押せばさとり様は流されてしまうってお燐が言ってました。
>4さん
さとりんはやるときはやれる子です。
扉を溶接したことを思い出すまでは。
>6さん
このあと二人が共同作業で溶接を外しにかかります。
これもまた姉妹愛……!
さとり大好きでしたがさらに大好きになってしまった。
どんな姿のさとりもすきだー!
フゥハァとか妹のためにいって、てm・・・(ちょっとしたためらい
だ、だいすきだー(目をそらしながら
こいしの突っ込みセンスは誰から受け継がれたのであろうか、まる。