「やってるかい」
魔理沙がのれんをくぐって入っていくと、鉢巻きを巻いた慧音と妹紅が立ち上がった。
「へい、らっしゃい」
「やる気十分だな。頼もしい」
魔理沙は自分以外の客がいない広い店内を見渡してから、慧音の真ん前のカウンターに座った。
頭上には「まぐろ」、「あなご」、「たい」、「しらうお」などの札がずらりと並んでいる。
「いい内装だ」
「いつも開店は午後からだが、お前が来るって言うから急いで準備した」
「いや何、慧音先生達が寿司屋を初めて中々繁盛してるってから、飛んできたんだよ。後でみんなも連れてくるってな」
魔理沙は笑った。
「それはありがたい。よろしく頼もう」
「お待たせ」
妹紅が茶とおしぼりと箸を運んできた。
「それじゃっと、とりあえずつぶ貝」
魔理沙は手元のガリを醤油皿に盛った。
「あいよ、つぶ貝一丁。とびきりのやつを」
妹紅が奥へ引っ込んだかと思うと、すぐに寿司を握って魔理沙の前に出した。
「どうだ。妹紅はよく働くだろ?」
魔理沙は寿司を前に頷いて、茶をすすった。
「さあ、食べてくれ。うちの自慢のつぶ貝だよ」
魔理沙は寿司をまじまじと見つめた。
「おい」
「何だい。早く食べないと活きが」
「このつぶ貝はどこで捕ってきた」
妹紅と慧音の笑みが消えた。
一触即発の空気が流れる。
「幻想郷のどこに海があるってんだ? 頭の中か?」
慧音が口を開く。
「まさか、そういう目的で」
魔理沙は急いで手を振った。
「いや、いや。何も新聞沙汰にしようってんじゃない。ただ、寿司屋だってんだろ。みんな何か不信感を抱いているみたいでさ。そういう目的も兼ねたり」
自分が何を言っているのか分からなくなってきた。
「違うんだよ。たださ、ちょっと聞いてみるだけさ。何も貶めようってんじゃない。普通に安心できる食材だって分かれば良いんだよ。評判もいいみたいだし、私は細かいことは気にしない」
慧音は恥ずかしそうに笑った。
「何だ。聞かれちゃあしょうがない。確かにこいつはつぶ貝じゃない。幻想郷に海はないものなあ」
慧音は遠い目をした。
「でも、お客さんはみんなそれを知ってて、美味しいって食べてくれるんだよ。寿司は憧れだもの。私達はお客さんの喜ぶ顔を見るだけで。つまり、夢を与える仕事をしているわけで」
「で、何なんだ」
妹紅が包丁を磨きながら口を開く。
「まあ、食べてみてのお楽しみ」
魔理沙は口につぶ貝を放り込んだ。
口の中に貝の香りが広がって、タレの味わいがたまらない。
「うん、何だ。旨いよ。で、こいつは何なんだい」
「本当は聞かれても教えないんだがなあ。大体が聞くなんて野暮な話しで」
魔理沙は慧音の顔を見据えた。
「で、何なんだよ」
「ここだけの話しだぞ。タニシだ」
まあ、そんなところかと魔理沙は頷く。
「な。何だ。そんなものかよ。もったいぶっちゃってさ」
「大したことないだろ。美味しかっただろ?」
魔理沙は頷いた。
お茶をおかわりして、頭上の表札に目を遣る。
「それじゃあ、次はエビだ」
妹紅が腕まくりした。
「あいよ。エビ一丁っ」
妹紅が裏からエビの寿司を運んできた。
魔理沙の前に置かれた酢飯の上に乗っているのは一見エビであった。が、何かが違う。
「店主、こいつは何だい」
「見ての通りの」
「何なんだい」
慧音は首を振った。
「ザリガニだよ」
ああ、ザリガニね。
それなら、アリスの家で食ったことがある。
魔理沙はやや顔をしかめながら、ザリガニの寿司にかぶりついた。
これが、中々旨い。
「な、何だ、旨いじゃないか。てっきりもっと泥臭いのかと」
「うむ。妹紅がしっかり一週間泥抜きした」
魔理沙は唸った。
こいつら、中々の職人である。
「店主、一つ聞いていいか」
「何だい」
魔理沙は頭上の「まぐろ」と書かれた札を指さした。
「幻想郷のどこでマグロが捕れるんだい。是非、教えて欲しいんだが」
慧音は質問には答えず、微笑んだ。
「苦労したんだ。昔、隙間妖怪に貰ったマグロの味を思い出しながら試食に試食を重ねた」
「だから、どこで捕れたんだよ」
魔理沙は激高しかけたが、包丁の煌めきを見て落ち着いた。
「妹紅、一つ握ってやれ」
「おい、まだ頼むなんて」
「あいよっ」
慧音は「まあ、食ってみろ。旨いから」と言った。
直後、厨房の中から声が聞こえてきた。
ぎちぎちぎちぎち。
「うおおっ、こいつ私を襲おうと」
どたどた。
「うわああ」
少しして厨房は静かになった。
厨房の中から汗だくの妹紅が出てくると、魔理沙の前に大きな赤身の握りを置いた。
「はいよっ。マグロお待ち」
「なあ、店主よ」
「何だい」
慧音は相変わらず威勢のいい声で振り返った。
「これはどこで捕れたんだい」
「ここだけの話しだぞ」
「分かったよ。話してくれ」
「妖怪の山に住んでいる、オオスワサンショウウオだ」
魔理沙の頭の中に両手を広げて笑みを浮かべる諏訪子が登場した。
「食えるのかい。何だか酷くあばれてたみたいだけど」
「食えるよ。みんな美味しいって言うんだよ。さっきから大体何なんだ。あんたはケチばかり付けて。黙って食ったらいいじゃないか」
魔理沙は分かった、分かったと寿司を口の中に放り込んだ。
流石に研究されただけあって、中々に旨かった。
言われなければ、マグロだと思って食えただろう。
「うん。うん。旨いよ。マグロだ」
「そうか、よかった。次は何にしましょう」
魔理沙は頭上を見上げた。
「うに」、「いくら」、「はまち」、「たこ」、「いか」。
考えただけで寒気がした。
「カッパ巻きをくれ。それを食ったら帰るから」
「あいよ。カッパ巻きだね」
すぐに妹紅が厨房からカッパ巻きを持ってきた。
魔理沙は自分の前に置かれた「絶対安全地帯」であるカッパ巻きを注視する。
何だか普通に食事が出来なくなってしまった。
匂いも嗅ぐ。
今度こそはどう見ても、普通のカッパ巻きである。
魔理沙は一気に口に放り込んで、さくさく、と食べ終える。
どうも疑心暗鬼になってしまったが、正真正銘普通のカッパ巻きであった。
「おい、店主」
慧音がゆっくり振り向いた。
「時に、これは普通のカッパ巻きだろうね」
「そうだよ」
「本当か」
「そうだってば」
魔理沙は更に問い詰める。
「嘘だろう」
慧音の顔が暗くなった。
どうやら、正真正銘のカッパ巻きのようだ。
悪いことをした。
謝らなければ。
「ああ、そう。それなら」
と、その時慧音が頭を下げた。
「すまない。お前を騙すつもりはなかったんだ」
「な、何。カッパ巻きもか」
慧音は魔理沙の耳元で囁いた。
「実はさっきのキュウリ、使い回しなんだ」
魔理沙がのれんをくぐって入っていくと、鉢巻きを巻いた慧音と妹紅が立ち上がった。
「へい、らっしゃい」
「やる気十分だな。頼もしい」
魔理沙は自分以外の客がいない広い店内を見渡してから、慧音の真ん前のカウンターに座った。
頭上には「まぐろ」、「あなご」、「たい」、「しらうお」などの札がずらりと並んでいる。
「いい内装だ」
「いつも開店は午後からだが、お前が来るって言うから急いで準備した」
「いや何、慧音先生達が寿司屋を初めて中々繁盛してるってから、飛んできたんだよ。後でみんなも連れてくるってな」
魔理沙は笑った。
「それはありがたい。よろしく頼もう」
「お待たせ」
妹紅が茶とおしぼりと箸を運んできた。
「それじゃっと、とりあえずつぶ貝」
魔理沙は手元のガリを醤油皿に盛った。
「あいよ、つぶ貝一丁。とびきりのやつを」
妹紅が奥へ引っ込んだかと思うと、すぐに寿司を握って魔理沙の前に出した。
「どうだ。妹紅はよく働くだろ?」
魔理沙は寿司を前に頷いて、茶をすすった。
「さあ、食べてくれ。うちの自慢のつぶ貝だよ」
魔理沙は寿司をまじまじと見つめた。
「おい」
「何だい。早く食べないと活きが」
「このつぶ貝はどこで捕ってきた」
妹紅と慧音の笑みが消えた。
一触即発の空気が流れる。
「幻想郷のどこに海があるってんだ? 頭の中か?」
慧音が口を開く。
「まさか、そういう目的で」
魔理沙は急いで手を振った。
「いや、いや。何も新聞沙汰にしようってんじゃない。ただ、寿司屋だってんだろ。みんな何か不信感を抱いているみたいでさ。そういう目的も兼ねたり」
自分が何を言っているのか分からなくなってきた。
「違うんだよ。たださ、ちょっと聞いてみるだけさ。何も貶めようってんじゃない。普通に安心できる食材だって分かれば良いんだよ。評判もいいみたいだし、私は細かいことは気にしない」
慧音は恥ずかしそうに笑った。
「何だ。聞かれちゃあしょうがない。確かにこいつはつぶ貝じゃない。幻想郷に海はないものなあ」
慧音は遠い目をした。
「でも、お客さんはみんなそれを知ってて、美味しいって食べてくれるんだよ。寿司は憧れだもの。私達はお客さんの喜ぶ顔を見るだけで。つまり、夢を与える仕事をしているわけで」
「で、何なんだ」
妹紅が包丁を磨きながら口を開く。
「まあ、食べてみてのお楽しみ」
魔理沙は口につぶ貝を放り込んだ。
口の中に貝の香りが広がって、タレの味わいがたまらない。
「うん、何だ。旨いよ。で、こいつは何なんだい」
「本当は聞かれても教えないんだがなあ。大体が聞くなんて野暮な話しで」
魔理沙は慧音の顔を見据えた。
「で、何なんだよ」
「ここだけの話しだぞ。タニシだ」
まあ、そんなところかと魔理沙は頷く。
「な。何だ。そんなものかよ。もったいぶっちゃってさ」
「大したことないだろ。美味しかっただろ?」
魔理沙は頷いた。
お茶をおかわりして、頭上の表札に目を遣る。
「それじゃあ、次はエビだ」
妹紅が腕まくりした。
「あいよ。エビ一丁っ」
妹紅が裏からエビの寿司を運んできた。
魔理沙の前に置かれた酢飯の上に乗っているのは一見エビであった。が、何かが違う。
「店主、こいつは何だい」
「見ての通りの」
「何なんだい」
慧音は首を振った。
「ザリガニだよ」
ああ、ザリガニね。
それなら、アリスの家で食ったことがある。
魔理沙はやや顔をしかめながら、ザリガニの寿司にかぶりついた。
これが、中々旨い。
「な、何だ、旨いじゃないか。てっきりもっと泥臭いのかと」
「うむ。妹紅がしっかり一週間泥抜きした」
魔理沙は唸った。
こいつら、中々の職人である。
「店主、一つ聞いていいか」
「何だい」
魔理沙は頭上の「まぐろ」と書かれた札を指さした。
「幻想郷のどこでマグロが捕れるんだい。是非、教えて欲しいんだが」
慧音は質問には答えず、微笑んだ。
「苦労したんだ。昔、隙間妖怪に貰ったマグロの味を思い出しながら試食に試食を重ねた」
「だから、どこで捕れたんだよ」
魔理沙は激高しかけたが、包丁の煌めきを見て落ち着いた。
「妹紅、一つ握ってやれ」
「おい、まだ頼むなんて」
「あいよっ」
慧音は「まあ、食ってみろ。旨いから」と言った。
直後、厨房の中から声が聞こえてきた。
ぎちぎちぎちぎち。
「うおおっ、こいつ私を襲おうと」
どたどた。
「うわああ」
少しして厨房は静かになった。
厨房の中から汗だくの妹紅が出てくると、魔理沙の前に大きな赤身の握りを置いた。
「はいよっ。マグロお待ち」
「なあ、店主よ」
「何だい」
慧音は相変わらず威勢のいい声で振り返った。
「これはどこで捕れたんだい」
「ここだけの話しだぞ」
「分かったよ。話してくれ」
「妖怪の山に住んでいる、オオスワサンショウウオだ」
魔理沙の頭の中に両手を広げて笑みを浮かべる諏訪子が登場した。
「食えるのかい。何だか酷くあばれてたみたいだけど」
「食えるよ。みんな美味しいって言うんだよ。さっきから大体何なんだ。あんたはケチばかり付けて。黙って食ったらいいじゃないか」
魔理沙は分かった、分かったと寿司を口の中に放り込んだ。
流石に研究されただけあって、中々に旨かった。
言われなければ、マグロだと思って食えただろう。
「うん。うん。旨いよ。マグロだ」
「そうか、よかった。次は何にしましょう」
魔理沙は頭上を見上げた。
「うに」、「いくら」、「はまち」、「たこ」、「いか」。
考えただけで寒気がした。
「カッパ巻きをくれ。それを食ったら帰るから」
「あいよ。カッパ巻きだね」
すぐに妹紅が厨房からカッパ巻きを持ってきた。
魔理沙は自分の前に置かれた「絶対安全地帯」であるカッパ巻きを注視する。
何だか普通に食事が出来なくなってしまった。
匂いも嗅ぐ。
今度こそはどう見ても、普通のカッパ巻きである。
魔理沙は一気に口に放り込んで、さくさく、と食べ終える。
どうも疑心暗鬼になってしまったが、正真正銘普通のカッパ巻きであった。
「おい、店主」
慧音がゆっくり振り向いた。
「時に、これは普通のカッパ巻きだろうね」
「そうだよ」
「本当か」
「そうだってば」
魔理沙は更に問い詰める。
「嘘だろう」
慧音の顔が暗くなった。
どうやら、正真正銘のカッパ巻きのようだ。
悪いことをした。
謝らなければ。
「ああ、そう。それなら」
と、その時慧音が頭を下げた。
「すまない。お前を騙すつもりはなかったんだ」
「な、何。カッパ巻きもか」
慧音は魔理沙の耳元で囁いた。
「実はさっきのキュウリ、使い回しなんだ」
魔理沙は弱みを握った、と。
それはつまりおn…ゲフンゲフン
ヌマのエビはどうも小さくて姿身の寿司には向いていないと思いました。
精進料理には葛を練って作った葛鰹というものがあるという。
俺としてはきゅうりは二人で使ったと信じてる。
オチが上手いぜ。