~前回までのあらすじ~
はぶられいむ
「よーし、歯ぁ食いしばれ」
すいません、調子に乗りました、ごめんなさい、許してください。
というわけでちょっとだけ真面目にあらすじを・・・
魔理沙が喫茶店を開きました。・・・以上
「全然真面目じゃないわね」
実際、前回は人材集めと準備期間だったのでこんなものです。・・・そもそも前編読んだ人じゃなきゃ来ないと思うんですよ。
「まぁ、それもそうね」
と、言うわけで、この話は前作『霧雨喫茶へようこそっ!(前編)』の続編となっております。
お手数ですが、前編をまだ読んでいない方はそちらを先に読んでいただけると幸いです。
それでは・・・
霧雨喫茶へようこそっ!どうぞ時間を忘れてゆっくり楽しんでいってください。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
ついに開店当日。皆それぞれアリスデザインのメイド服を身に纏っている。ちなみにメイド服は皆揃って純白、スカートは一人一人違う色のものを使用している。
「いよいよ開店だ・・・前回以上に忙しくなると思うが、よろしく頼むぜ」
扉を開け、魔理沙達は店の前に出た。すでに人里から大勢の人達が店の前に並んでいた。
「皆さん、おはようございます。本日は朝早くからお越し頂いて本当にありがとうございます。どうぞごゆっくりお楽しみください」
と、魔理沙が普段では考えられないような言葉遣いで挨拶をした。
「と、まぁ堅苦しい挨拶はここまでにして、今日は開店ってわけで縁起のいい特別ゲストを呼んでおいたぜ!」
魔理沙の言葉に客だけでなくアリス達も不思議そうにしている。魔理沙からは事前に何も聞かされていなかったからだ。
「フッフッフッ・・・ついに私達の出番よお姉ちゃん」
「張り切りすぎて失敗しないようにね」
どこからともなく、無数の木の葉が舞い散る。真紅に染まった綺麗な紅葉・・・それが店の上空からゆっくりと降り注いでいるのだ。
さらに、秋の味覚が持つ特有の食欲をそそる香りがあたりに漂う・・・
「さぁ!今こそ私達の時代よっ!」
そう言って皆の前に着地したのは豊作の神、秋穣子である。
「まずは私達のこの演舞を目と鼻でお楽しみください」
続いて少し謙虚に姉の静葉も舞い降りてきた。
そして、二人は息の合った優雅な動きでその場で演舞を踊って見せた。周りからは「おー!!」という歓声が聞こえる。
「お姉ちゃん!私達今すごく輝いてるよ!」
「よかったね、穣子ちゃん」
そのとき、歓声の中で一際大きな声が彼女達の耳に届いた。
「うぉおおお!皆すげぇ可愛い子ばっかりじゃん!メイドの店員さん!」
「俺、この前に店が開いたときも来たけど、あのときよりメイドさん増えてるぜ!?」
と、まわりの歓声のほとんどはメイドの方に向けられていたのだ。
「・・・うわぁああん!お姉ちゃぁぁあん!!」
思わず穣子は姉に泣きついてしまった。
「ダメよ・・・穣子ちゃん・・・折角の開店式で泣いちゃ・・・」
そう言って静葉は優しく頭を撫でてやった。
「その・・・なんていうか・・・ホントごめんな・・・?」
なんとも居た堪れない状態に、二人を呼んだ魔理沙も思わずそう謝った。
「そんな同情いらないわよっ!うわぁぁぁん!!!」
「・・・さぁ、奥の部屋に温かいスープを用意したわ・・・それを飲んでゆっくり休んで・・・ね?」
そう言ってアリスが二人の肩を優しく撫でた。
「ありがとうございます。・・・さぁ穣子ちゃん、行きましょ?」
未だ泣いている穣子を宥めて、静葉は皆に軽く会釈して店の奥へと消えていった。
「「「・・・」」」
気まずい空気が流れる・・・と、
「それでは皆様、これより開店とさせていただきます。どうぞ店内までお進みください」
そう言って深くお辞儀をしてにっこりと微笑む衣玖。そしてそのまま客を店内へと案内していった。
「ホント・・・頼もしいヤツだな」
魔理沙は苦笑してそう呟いて店の中へと入っていった。
カランカランッ
「いらっしゃいませ・・・おぉ、阿求じゃないか」
入口のところで接客していた慧音が大勢いた客の中に阿求の姿を見つけて声をかけた。
「こんにちは、慧音さん。フフッ、お綺麗ですよ、その服もとてもよくお似合いで」
「ば、馬鹿者!そうやって茶化すものではない!」
そう言って慧音は真っ赤になってしまった。ただ、流石大人の女性とでもいうべきか、コホンッと軽く咳払いをするとすぐに立て直して元に戻った。
「それはそうと、今回はまた随分と早く来たのだな」
「ええ、早く皆さんに喫茶のことを知ってもらうために早く来ました」
本当にありがとうございます。そんなわけでここからは阿求さんと一緒に中の様子を見て行きましょう。
「まず始めに席につきます」
そう言って案内された席に座る阿求さん。
「ここで最初に好きなメイドさんを指名することができます。もちろん他にもお客さんはいるので必ずお目当ての方になるとは限りませんが」
一体誰をご指名するのですか?
「そうですね、皆適度にお客さんを掛け持ちしてますし、誰を指名してもよさそうですね。それじゃあ・・・慧音さんにしましょうか」
と、言うわけで慧音さんにご指名はいりました。
「何だ、私を指名したのか?もっと可愛い子がいるだろうに」
「いえいえ、慧音さんも十分可愛いじゃないですか」
そう言うとまた顔を真っ赤にして・・・
「そ、そうか・・・それじゃあ注文の方を・・・」
「ダメですよ?ちゃんと接客する態度があるじゃないですか。親しき仲にも礼儀あり・・・ですよ?」
「う、うむ・・・お嬢様、ご注文は如何いたしましょう?」
「それじゃあ軽く食事が取りたいのでこの【プライベートランチプレート】をください。量はイージーで。あと食後に【ミラクルフルーツゼリー】で」
見てわかるように、メニューは一部各々のスペルカードなどから名前を取り入れています。また、量もイージーからルナティックまで四段階に変更可能です。
「かしこまりました。それではどうぞごゆっくり」
そう言って立ち去ろうとする慧音だが、阿求がそれを呼び止めた
「慧音さん」
「ん?まだ何か用か?」
「かわいい♪」
「――っ!!」
また顔を真っ赤にしてそそくさと奥にひっこんでしまった。
「本当に慧音さんはからかい甲斐があって可愛いですねぇ」
そう言ってクスリと笑みを浮かべる阿求さん・・・Sだ・・・Sの人がいる・・・
「ちなみにですね、普通は接客している人から選ぶのですが、特別料金を払うことで厨房で料理を担当してる方に接客してもらうこともできるんですよ」
ご説明ありがとうございます。
てくてくてくてく
おや、何やら可愛い音が聞こえてきました。
「あら・・・?これは今回からの新しい試みでしょうか?」
小さな人形がお茶を持ってやってきた。そして席に着くとぴょんと跳ねてテーブルの上に乗り、阿求の目の前にお茶を置いた。
「これは私が説明するわ!」
と、何時からいたのかアリスが目の前に立っていた。
「これは以前作った大江戸爆薬からくり人形を改良させ、お客さんにお茶を持っていき、声に反応しておかわりまで注いでくれるという画期的な人形・・・その名もお茶汲みからくり人形よ!」
そのまんまのネーミングですね、結局得意気にそう語ってすぐまた厨房の方に戻っていきました。
まあとりあえずこれで店の仕組みをわかって頂けたかと思います。さて、そうこうしているうちにまた皆さんの知っている人達が店にやってきたようです。
「四季様、そんなに急がなくても店は逃げませんよ。子供みたいにはしゃいじゃって可愛いなぁ・・・」
ズビシッ!
「きゃんっ!」
「私ははしゃいでいるのではありません。昼休みが終わるまでに戻らなくてはいけないので急いでいるのです。大体、あなたが昼はここがいいというので仕方が無く私も付き合ってここに・・・(話が長いので割愛)」
と、二人の座っている席に魔理沙がやってきた。どうやら魔理沙が指名されたようだ。
「いらっしゃいませだぜ。ご注文は何になさいますのぜ?」
「なんか言葉が可笑しくなってるよ」
「霧雨魔理沙、客としてきている者も随分楽しそうですね。あなたの善行、確かに見せて貰いました。そもそも喫茶というのは・・・(以下割愛)」
このまま映姫様のありがたいお言葉を聞いてもいいのですがお昼休みが終わってしまうので強制終了しました。
「それでは私は【未来永劫膳】のイージーを頂きます。それに普通のコーヒーで」
流石閻魔様、メニューを見て一瞬で決断しました。それに比べて小町はあぁでもないこうでもないとメニューとにらめっこしていた。
「優柔不断はあまり感心できませんよ?」
「いえ・・・今月はちょいとピンチで・・・値段を見比べていたんですよ」
映姫は、そんなことかと苦笑した。
「そんなこと心配しなくてもよろしい。ここは私が奢ってあげます。好きなものを選びなさい」
「本当ですかっ!?流石四季様、太っ腹!」
と、喜ぶ小町に、映姫は得意気に笑ってみせた。
「それじゃ、【現世丼】に【春の京野菜】、それから・・・」
「あの・・・小町・・・?」
「【飛翔(フライ)毘沙門天】、【エターナルミートステーキ】。それぞれハードで。それから・・・」
「そ、そんなに頼んでも食べきれないのでは・・・」
「デザートに【ファイナルマスターパフェ】と【トリリトンシェイク~ストロベリー~】で」
そしてテーブルを埋め尽くす料理の数々。それを小町は何の苦もなく全て食べきった。
「いやぁ、四季様、ご馳走様でした」
その後、レジの前で目に涙を浮かべながらお金を払う閻魔の姿が目撃されたとかされなかったとか・・・
さて、こちらはまた別のテーブル。椛が数人の男性客相手に接客をしていた。
「お、おかえりなさいませ!ご主人様!」
まだ少しぎこちない接客。しかし、「それがイイ!」ということでかなりの人気がでていた。
「ご注文をお伺いします・・・って・・・」
椛がふと、接客を中断した。その表情は心なしか怒っているように見える
「さっきから何やってるんですかっ!文様っ!」
少し離れたところで文が椛を撮り続けていた。
「何って、新聞に使う写真を撮ってたに決まってるじゃない」
「さっきから私しか撮ってないじゃないですか、他の人や店の内装とかも撮って下さい!」
「あ、そっちはもう終わったからいいよ。今撮ってるのは私が使う分」
「使うって何にですか・・・」
「そりゃ・・・ねぇ・・・?」
そう言ってニヤニヤしながら恥ずかしがる仕草をする文。
「ハァ・・・」
もうこの人はダメだと諦めて椛は仕事に戻ろうとした。・・・とそのとき。
むにっ。
「きゃぁああああああ!!!」
店内に黄色い声が響いた。皆の視線が声の上がった方へと集まる。そこには床に座りこんで泣いている椛の姿があった。
どうやら、接客していた男性客の一人が椛のお尻を触ったようだ。
「ば、ばか!お前何やってんだよっ!」
その男性と一緒に来ていた客の一人がそう言ってその男性に怒鳴った。
「ちょっと尻を撫でただけだろ?そもそもこんな服着てる時点でこういうのされてもいいって言ってるようなもんだろ?」
「お前、この店でそんなことしたら命がいくつあっても足りないぞ!」
どうやら連れの方は前にも来たことがあるらしいが、この男性は今回が初めてのようだ。
「命って・・・そんな大げさ・・・な?」
と、次の瞬間、その男性の動きが止まった。咲夜と妖夢がその男性の首筋にナイフと刀をあてていたのだ。
「お客様・・・当店では店員をお触りになることは固く禁じられております」
「他のお客様のご迷惑になりますので・・・お引取りください」
「早苗、椛を休憩室に連れてってやってくれ。今のままじゃまともに仕事できないだろうし」
魔理沙の指示に従い、早苗は椛を連れて店の奥へと入っていった。
「な、なんだよ!こっちは客なんだぞ!?これが客に対する態度かよ!!」
この男はまだそんなことを言うのか・・・もはや一緒に来た者ですらそう思っていた。と、ここで意外な人物から意外な言葉が発せられた。
「二人とも刃を収めてください。そんなものをいつまでも出しているとそれこそ他のお客さんの迷惑にもなりますよ」
文がそう言うと、二人は素直に刃を収めて厨房へと戻っていった。
「それじゃあ私も一度帰りますね。新しいフィルムを持って来なくてはいけませんし」
と、店を出る前に先ほどの男性の耳元でポソッと呟いた。
「二度目はないからな」
その声と同時にテーブルの上においてあったその男性のコップが真っ二つに割れた。
「それでは皆さん、頑張ってくださいね♪」
そう言って文はにっこりと微笑みを残して帰っていった。
店内でそんなことが起きていたのと同時刻。店のすぐ傍にある冷凍室。
「いくわよっ!アイシクルフォール!!」
チルノは相変わらず室内で弾幕を放っていた。
「そこねっ!パーフェクトフリーズ!!」
よくもまぁ飽きずにずっと弾幕を撃ち続けていられるなと感心してしまう。
「こいつでトドメよっ!エターナルフォースブリザード!!」
それは違う。
「チルノちゃーん・・・・ってきゃぁあああ!?」
ぴちゅーん。
なんとタイミングの悪いことだろうか、部屋に入ってきた大妖精にチルノのエターナルフォースブリザード(笑)が直撃してしまった。
「うぅ・・・酷いよ・・・チルノちゃん・・・(ガクッ)」
「大・・・ちゃん・・・?
しっかりして!大ちゃん!大ちゃんてば!!・・・大ちゃあああああああん!!!」
その氷精が最強であるが故の悲劇とでも言うべきだろうか・・・
こうしてチルノは最愛のヒト(妖精)を自らの手で殺めてしまった・・・
果たしてこの先、少女を待ち受けている運命とは・・・?
~第一部、完~
「勝手に終わらせないでください!」
「大ちゃんが生き返った!?」
「そもそも死んでないよ!」
と、チルノが大妖精のことを強く抱きしめてきた。
「え、ちょ、チルノちゃん!?」
「うぅ、よかった・・・大ちゃんが無事で・・・」
ぽろぽろと涙を零して泣くチルノ。大妖精も優しくその頭を撫でてあげた。
「大丈夫だよ、ほら、全然平気だから泣き止んで、ね?」
しばらくして、チルノも落ち着いたようだ。
「本当に大丈夫?」
「うん、もうなんともないよ」
「本当に本当?何かしてほしいことがあったら言ってね!あたい、大ちゃんのためならなんでもやるよ!!」
「(何でも!?)」
何を想像したのか大妖精。鼻から何やら赤い液体が流れてきてますよ・・・
「大ちゃん!?血がでてる・・・やっぱりまださっきので・・・」
「うーん・・・ごめんね、でも、その・・・チルノちゃんがキスしてくれたら治るかも!・・・なんて」
「ホント!?わかった、それじゃ大ちゃんいくよ!」
と、チルノが大妖精にゆっくり顔を近づけてきた。やっぱり少し恥ずかしいのかほんのり顔を赤く染めている。
「(い、いいよね!キスくらい!役得ってことで・・・)」
大妖精も目を瞑ってそっとチルノに顔を近づけ・・・そしてついに二人の唇が触れ・・・
「おーい!チルノー」
なかった。唇が触れるまさにその瞬間に誰かが部屋の中に入ってきたのだ。
「あれ?リグル?それにルーミアも」
「店の方に食べに来たんだけどさ、その前にチルノがここにいると思って見にきたんだ」
「そーなのだー」
ゴゴゴゴゴゴ・・・
「あ、あれ?大ちゃん、どうかしたの・・・?」
大妖精の様子がおかしいのに気づいたリグル、何故かすごい怯えてます。
「え?どうして?私はいつもどおりだよ?」
そういって微笑む。いや、確かに口元は微笑んでいるが目は全く笑っていない。
「それより・・・ルーミアちゃん、早くお店の方に行かないと。お腹空いてるでしょ?」
「んー、すこし空いてるけど、でもまだゆっくりしてても・・・(ビクッ!?)」
「お腹・・・空いてるよねぇ?」
「う、うん・・・すごくお腹空いてる!リグル、早く食べに行こう!!」
そういってルーミアはリグルの手を掴んでそそくさと部屋から出て行った。
「大ちゃーん!あたいもお腹空いたよー」
「うん、そう思ってお弁当持ってきたよ。私も今は休憩時間だから一緒に食べよ」
そういうわけでチルノと大妖精は一緒に仲良く昼食を食べた。なお、その間ずっと部屋の内側からカギがかけられていて調理班が食材を取れずに困ったとか・・・
昼食のピーク時をすぎると、少しずつ客足もゆるやかになってきた。丁度そんな頃合を狙ったように、神コンビが来店してきた。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
もちろん、指名されたのは早苗である。
「ほほぅ・・・これは・・・イイ!」
「後でブン屋に写真を撮ってもらうっきゃないね!」
すでに撮影していきましたけどね。
「もう・・・神奈子様も諏訪子様も、他の人を指名してください。恥ずかしいです・・・」
「いいじゃないか、こうして早苗が働いてる姿が見てみたい。まぁ親心みたいなもんだねぇ」
「そうそう、でもホントよかったよ、なんか早苗もすごく楽しそうでさ。今回ので結構幻想郷の人達と仲良くなれたんじゃない?」
そう言われてふと、ここ数日間のことが脳裏によぎった。まだ幻想郷にきて日が浅い自分。果たして、他の人と上手く付き合っていけるのか不安だった。
だが、この喫茶店の準備に参加し、その間ずっと寝食を共にすることで、自然と皆と打ち解けることができた。
「・・・神奈子様、諏訪子様・・・」
幻想郷に来て、その不条理さ、不便さに嘆いたことも何度もあった。でも、今の早苗は・・・
「私・・・この幻想郷で暮らせて幸せです」
そう言って穏やかな笑顔を見せた。そして、まるで伝染したようにまわりの店員、客も自然と笑みを浮かべた。
カランカランッ
そこにまた、新たな来客が訪れる。
「お帰りなさいませ、お嬢様・・・って師匠!?それに姫も・・・」
「頑張ってるみたいね、うどんげ。あなた達がどうしてるか気になって様子を見に来たわ。あとこれ、差し入れね」
そう言って永琳は鈴仙に何やら巨大な袋を渡した。その中には大量の国士無双の薬が入っている。
「わぁ・・・ありがとうございます。そろそろ在庫が切れるところだったんですよ」
さて、永琳と輝夜も席に座り、メイドの指名をするのだが・・・
「・・・」
輝夜が指名をしたのは妹紅であった。
「あら?折角追加料金まで払って指名したのに挨拶もないの?」
「お帰りください、お嬢様」
「ちょっと、何よその言い草!」
「五月蝿いっ!お前は自分のところの兎でも指名しておけばいいだろ!私は料理担当で忙しいんだ!」
「フッ、なんであなたを指名したかって?そんなの分かりきってるでしょ?フリフリのドレスを着てる可愛らしい妹紅『ちゃん』を見に来てあげたんじゃない」
わざとらしく強調してそう言った。
「このやろう・・・」
「待て、妹紅。いくら輝夜でも今は大事なお客様なんだ。揉め事を起こしてはいけない」
と、慧音の制止でなんとかその場は収まった。
「それじゃ【凱風懐石-フジヤマヴォルケイノ-】のノーマルとコーラね」
「私は【大穴牟遅様の薬膳】のノーマルと熱いお茶を頂こうかしら」
そんなこんなで料理が運ばれてきました。
「すいませーん、箸落としちゃったので代えの箸持ってきてくれませんかー?」
「クッ・・・こちらでよろしいでしょうかお嬢様」
とまぁこんな具合で事ある事に妹紅を呼びつけてこき使う輝夜。いよいよ妹紅の怒りも頂点に達した。
「お嬢様、コーラの方をお持ちしました」
「あら、ありがとう・・・って熱っ!!!???」
「おっと、すいません。あまりにも緊張してたので・・・思わず私の熱をお飲み物にまで伝達させてしまいました」
と、白々しい態度の妹紅。
「フッ・・・いいわよ、その喧嘩買った!」
「今まで散々恥ずかしい思いさせられたからな・・・一回や二回殺されるくらいで済むと思うなよ!」
そう言って二人は店の前で互いに対峙した。
「おい、お前ら。こんな場所で暴れられたら迷惑だぜ!」
と、魔理沙が制止しても聞く耳持たないといった感じで互いにスペカを取り出した。
「いくわよ!新難題 金閣寺の一枚天井!!」
「なんのっ!貴人 サンジェルマンの忠告!!」
二人のスペカ宣言に、その場にいた皆が騒然となる。・・・と
要石「天地開闢プレス」
ズゥゥゥゥゥゥゥン!!!!
ぴちゅーん×2
丁度、真上から巨大な石が落ちてきて二人を押しつぶした。
「ちょっと衣玖!しばらく姿を見てないと思ったら・・・私に内緒でこんな面白そうなことしてたのね!!」
天子がすごくご立腹という様子でそう怒鳴った。
「総領娘様。とても素晴らしい空気の読みっぷりですわ」
「へ?何のこと・・・?」
きょとんとした様子の天子に周囲から拍手が沸き立つ。
「まぁ恐らく偶然だろうが、助かったのは事実だ。お礼に飯をご馳走するぜ」
「え?ご飯ご馳走してくれるの?何かよくわからないけどやったー!」
「まぁ・・・これで二人も少しは頭が冷えただろう」
「そうね、姫も復活したら連れて帰るわね」
と、ため息をついて話す保護者達。いつもご苦労様です。
闇が覆う夜。しかし、ここの賑わいだけは昼と変わらない。夜になると喫茶というよりは飲み屋といった感じになり、一部のテーブルや椅子が寄せられ、特設ステージが設けられる。
なお、夜でも人里の人間も訪れているが、妖怪達の来店が多くなる。たまに酔った勢いで人間を襲う妖怪もでてくるが、ここでその様なことをするとどうなるかは言わなくてもわかるだろう。
「そろそろ来る頃だな」
魔理沙がそう呟いていると、まるで見計らったようにその人物達がやってきた。
「こんばんわー!」
元気に挨拶をして入ってくるリリカ。その後ろから続けてメルラン、ルナサと入ってきた。
「待ってたぜ、急にこんなこと頼んで悪いな」
「全然問題ないよ。好きなだけ演奏できて、美味しいご飯も食べれる。まさに天国だね」
「まぁ私達はご飯食べなくても生きていけるけどねー」
「いやいやメルラン姉さん、私達生きてないから」
「・・・」
「あぁ!ルナサ姉さん、先に一人で弾き始めないで!皆鬱になっちゃうよ!」
「・・・ごめん」
と、言うわけで、プリズムリバー三姉妹の演奏も加わり、さらに店内は賑やかなムードになっていった。
そこにまた現れるお客さん・・・
「こんばんわー」
おっとりとした声・・・だが、その声の主が店に入った瞬間、皆の表情が凍りついた。
「お、お帰りなさいませ、お嬢様・・・」
「フフッ、妖夢、その服素敵ね」
妖夢の案内で幽々子は奥の席へと座った。
「それじゃあ注文いいかしら?」
「・・・はい」
皆が見守る中、ついにその言葉が放たれる。
「【食して全て大団円】をくださいな♪」
調理班に戦慄が走る。この【食して全て大団円】とは一部の者しかしらない裏メニューで、この店の全てのメニューがルナティック盛りで出されるコースメニューである。(ちなみにこのメニューの発案者はこの西行寺幽々子様ご本人である)
「クッ・・・来るとはわかっていたが・・・いざ直面するときついぜ」
魔理沙や慧音といった、本来は調理班ではない者も調理をしている。調理班だけでは追いつかず、他の仕事をしている者も調理にまわしているのだ。。
「まずいわよ!接客する人は足りないし、料理がまだ来ないお客さんも出てきているわ!」
「まずいな・・・ただでさえ咲夜に時間を操ってもらって調理スピードをあげてるのに・・・これじゃ間に合わないぜ」
ほとんど満席に近い状況なのだが、幽々子の注文したメニューを作るだけで手一杯になっている。かと言って他の人達を蔑ろにするのは店としてあってはならないことだ。
「魔理沙さん、私が少しの間、時間を稼いでおきます。その間に調理を進めてください」
と、提案してきたのは衣玖さん。ステージの方に向かうと、プリズムリバー三姉妹となにやら話を始めた。そして・・・
「皆様、申し訳ありませんが、諸事情により少し調理が遅れております。皆様の注文がテーブルに届くまでの間、よろしければ私と一緒に食前の軽い運動など如何でしょうか?お腹を空かせると料理ももっと美味しくなりますよ」
そしてにっこりと微笑む。それを合図にプリズムリバー三姉妹によるノリのいい演奏が始まった。すると、一人、また一人とステージの方へと客が集まっていった。
~数分後~
「それでは皆さんっ!ご一緒に!」
「「「ふぃーばー!!!」」」
ビシッと右手をかざしてポーズを取る衣玖。一緒になって客もビシッと同じポーズを取った。
「・・・すごいわね・・・お客さん全員自分のペースに引き込んでるわ」
と、思わず感心する鈴仙。
「あぁ、おかげでこっちは料理に専念できるってもんだぜ」
衣玖のおかげで何とか緊急事態を乗り切った霧雨喫茶。その日は朝まで賑やかな音楽が鳴り響いた。
しかし、この事態などとは比べ物にならないほどの困難が待ち受けているとは、誰も知るよしもなかった。
迷いの竹林・・・謎の集団の姿がそこにあった。
「・・・ちょっと、ここさっきも通ったわよ!」
「あれ~・・・おかしいな?」
「っていうかあなたはもともと地上で暮らしてたんでしょ。どこにあるかわからないの!?」
「いやぁ、もう随分と経つからねぇ」
・・・どうやら迷ってしまっているようだ。
果たして、霧雨喫茶を襲う最大の危機とは!?
謎の集団は無事、目的地にたどり着くのか!?
そして霊夢に出番はあるのか!?
次回、いよいよ完結!
~To be continued~
後編も期待しています。
作品投稿から日が経ってしまっていますが、コメントさせていただきます。
最後の謎の集団とは地霊組ですかねぇ?楽しみです。
それと、そこの不埒な男。彼女らは見逃してくれたみたいだが、俺はそうはいかんぞ。表へ出ろ。
流石に咲夜さんと妖夢に刃物をつきつけられて文に脅されたらもう生きた心地はしないと思います。許してあげてくださいw