Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ある日妹紅が川で洗濯をしていると川上から黒猫がどんぶらこどんぶらこと流れてきました

2008/12/06 14:49:45
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 私――藤原妹紅は物臭らしい。そう慧音が言っていた。
 なぜなら、脱いだ服を洗わず放っておくから、らしい。いや、私はちゃんと定期的に洗濯している。しかし、それを何日分か溜めておいておくのが、慧音には気に入らないらしいのだ。
 だが、それは慧音が悪い、と思う。慧音がたまにやってきては、家事を手伝ってくれる。私はそれを当てにしてしまうのだ。それに、やることがなかったら、慧音は私の家に来なくなってしまうのではないか、とも考えていた。
 ――どんな理由を付けても私が悪いのだが。
 ただ、今日はその当てが外れてしまった。今日は、用あって、慧音は来られないのだ。溜まりに溜まった洗濯物を洗いには来てくれないのだ。
 前回聞いていたはずなのに、当日になるまで忘れていた。これも、もちろん私が悪い。
 ……普段の行いが悪いのだろうか?
 仕方ない、と私は腰を上げ、たらいに洗濯物を放りこんで、川に向かった。


 川のせせらぎやその冷たさは、以前と変わりなかった。
 手で梳くと、水面は表情を変え、さっきとは違った波紋を作り出す。子供が水遊びに夢中になるのもそれが一因だろう。センスオブワンダー。かくいう私も、このまま飲み込まれてしまいそうになる。
「……さて、洗濯せんたく、と」
 言って、袖をまくる。私は、丸められた衣服を取り、水に浸し、こする。
 ……せっかくたらいを持ってきたというのに。持ち運びの用途なら、かごの方がよかった、などと考えながら、私はその作業を続けた。真っ直ぐに降り注ぐ光は、水面に反射して私の目を眩ませる。
 ただの繰り返し作業は、すぐに飽きてしまいそうになる。何せ、ずっと続けているものだから。


 ぼんやりと洗濯をしていると、視界の隅に影が生まれた。
 顔を上げ、捉える。それは、
「……猫だ」
 おおよそ川を流れているわけのないものだった。
 まだ河童の方が現実味がある。次点は亀。そもそも、猫は川に住んでいる動物ではないというのに、どうしたものか。
 ……ああしかし、よりにもよって私が洗濯しに来た時だけ流れてくるのだな。その数奇なめぐり合わせに免じて、助けてやろう。
 地面を軽く蹴って、低く、流れと同じ速さで飛ぶ。取り逃してしまわないよう、両手を伸ばす。
 手に取った黒の身躯は、ちょうど丸めた洗濯物と同じくらいの大きさで、とても軽かった。
 ――運がいいのか悪いのか。尾は二つに分かれていた。


「大丈夫かお前」
 岸に上げ、地面に横たわらせる。私が声をかけると黒猫は、にー、と短く鳴いた。
 猫は人語を解するものだったろうか。まあ、半々だろう。生存確認できたので問題はない。
 とにかくその疑問は捨ておいて、他にすることがある。このまま放っておくわけにはいけない。この猫は洗濯物ではないのだから。
 私は近くから手頃な枝木を集め、マッチはないものかと少し考えた後、自らの力で火をつけた。
 ここまでやった。あとは回復を待って、どこへなりともいけばいい。
 さあ、私は私の仕事を全うしよう。

 猫から目を離したその時だ。ぽん、と小気味いい音がしたので振り向き見れば、猫が小さな女の子どもになっているではないか。
 ――なるほど、妖怪か。ただの猫ならば珍しいものを見たと思ったが、川を流れている妖怪と言えば、幾分か有難味が減る。
 その妖怪少女は、何か言いたそうにもじもじしている。小便なら私が見てないところでしてくれ。
 とにかく――とにかく私は、早くこの状況を脱出しようと、本来の仕事に戻る。そう、川で洗濯をせねばならない。私は適当に洗濯物を取って、川に浸ける。そして、こする。先の作業を繰り返す。
 すると、少女が横に腰を下ろした。まだ何か用があるのか。私はないぞ。
 少女はおじおじと口を開く。
「……て、手伝いましょうかっ?」
 何を言っているんだこいつは。いや、猫の手も借りられるなら本望か。いやいや、こいつは猫ではない。
 何より、
「体が冷えているだろう。何もせず、火に当たってろ」
 こういう怪しいのとは関わらない方がいい。
 いつまでもいられてはこちらが困る。――ああ、そうだ。
「服を脱げ」
「はひぃっ!?」
 ……けったいな。
「別にお前の服を洗濯しようというわけじゃないさ。濡れた服を着ていては、温まらないぞ」
 はあ……、と妖怪は息を吐いた。何だこいつは。

 妖怪は、火のもとに戻っていった。
 私は妙に疲れた。
 はあ……。
 移った。


 すべて洗濯し終わった。
 よし帰ろう、などと考え振り返ると、妖怪はまだいた。帽子、服、下着までもをそこに綺麗に並べて、本人は三角座りをしていた。本来人間の頭にはない、大きな猫の耳。そこに付けられたピアスだけが、小さく輝いていた。
 このまま放っておくのも悪い気がする。ので、私は彼女の隣に座った。少し怯えた風に体を揺らしたが、すぐに元の体勢に戻った。
 特に話すこともなく、ただ火を眺める。
 しばらくすると、向こうが口を開く。
「……別に、いつも川に流れているわけじゃない……です」
 まあ、私も川の流れに猫を見つけるとは思わなかった。
「ふうん」
 適当に頷いておく。その数奇な運命も、その程度。
 彼女の言葉は続く。
「本当は、空も飛べるし、別に猫の姿に戻る必要もなかった」
 ふうん。
「……じゃあ、なんで猫の姿で流されていたんだ?」
「無理に飛ぼうとすると逆に体力を奪われるから。川に流されたときはじっとして、確実に脱出できる場所に来るまで待つ方がいいの」
 今までの経験から、と彼女は付け足した。それより川に流されない方法を研究した方がいい。どういう手順を踏めば川に落ちるんだ。
 それを聞こうと思って、やめる。これ以上踏み込まない。それが私の処世術だ。
 それに……、
「まあ、そこそこに頑張れよ」
 何となく、事情がわかったような気がした。
「ん……」
 彼女は小さく頷き、それから、
「……助けてくれて、ありがとう」
 と言った。


 しばらくして、私の身体に何かがよりかかった。
 もちろん彼女だ。見ると、目を閉じてすやすやと眠っている。
 あまりにも無防備すぎる。それを咎めるのは親猫の役目だろう。
「このままじゃ、帰れないな……」
 思わず呟いてしまう。
 今日は――、
「それは問題ない」
 それに返事があったのも、とことんツキが悪い。

 炎を挟んで向かい側に、いつかの九尾の狐が立っていた。忌まわしいあの夏の夜、紅白の衣裳の娘と傘を差した紫の妖怪、その妖怪についていたあの九尾だ。
 袖口に手を潜め、気を張らずに立っているがいつ仕掛けてくるやもしれない。私は身を強張らせる。
 するとその九尾は、ふっと、表情を緩めた。
「なに、私はその子を迎えに来ただけだよ」
 ……子猫を取り戻しに来るのは親猫だと思ったが、さすがに九尾とまでは考えが及ばなかった。
「橙――その子を助けてくれたんだろう? 礼を言うよ」
 九尾は黒猫の少女――橙の着ていた服を手早く拾い集める。両手が埋まったことで、私は警戒を解く。本当に、この橙という子を向かいに来ただけなのだろう。
 最後に、眠りこけている猫をゆっくりと抱きかかえる。無駄のない動きは、猫を起こさないためだろう。
「さて、と」
 そういって九尾は私に背を向ける。すると、尻尾が私に当たる。なんだ、嫌がらせか? でも柔らけー。
 ……いやいやいや。
「何のつもりだ」
 さすがにその猫がいては分が悪いぞ。
 だが私の思いの外に、九尾は、ふふん、とほほ笑む。
「――そんなに肩肘張る必要もないだろう?」


 地面の上に座っていたつもりが、九本の金の波に包まれ、飲み込まれていく。私は何もせず、ただその流れに身を任せていた。
「少し、ゆっくりと休めばいい」
 彼女は優しく言う。
 中は温かく、心地よかった。
「……なぜだ」
 私は問う。
 九尾は――彼女は答えない。その代わりに、質問で返してくる。
「――千年以上も流れていて、まだ角が取れないのか?」
 ――知るか。
 私は口に出さない。
 彼女の顔は見えないが、笑っているような気がした。茶化したような、でも嫌じゃない。
「ふむ、そういった部分まで含めて再生(リザレクション)するのかな」
 彼女は何を言っているのだろうか。わからない。

 ゆったりとした九本の尾の波に、私は混ざっていた。程よく弾力があって、頬を撫でる感触はくすぐったい。
 ずっとここにいたい、なんて考えてしまう。そんな場所にいてはいけない。きっと抜け出せなくなってしまう。抜けることが怖くなってしまう。
 嫌だというのに、その恐怖心すらも包み込んで、溶かされてしまう。
 気が付けば、睡魔がそこまで来ている。
 私はそれに抗えない。

 意識は遠く、離れていった――。




 目を開けると、私の隠れ家にしている小屋で仰向けになって寝ていた。壁に寄り掛からず眠るのはいつ振りだろうか。
 外に出る。まだ日は高い位置にあった。

 ふと、視界には――洗濯物が干されているのが見えた。
 もちろんやったのは私ではない。
 ……はてさて、どうしたものか。私はこれからどうすればいいのか、皆目見当がつかない。
 まだ意識がはっきりとせず、思考がまとめられずにいる。
 ただ一つ言えるのは――、



 これは、狐にでも化かされたかな。



 考えながら、一人、その奇異な光景を眺めていた。
後日、慧音が洗濯物の中から金の髪を見つけて修羅場化。
ただ、妹紅は少し楽しんでいたような。


12/9 追記(訂正ではありませんが)
・狐につままれる
・狐につつまれる
正直なところ、自分で書いていて気づきませんでした。みなさんのコメントに多謝です。
じじじ
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
やべえ!妹紅がやべえ!でてこなかった慧音もふくめて全員攻撃力高すぎる!
2.名前が無い程度の能力削除
慧音先生が通い妻のようだ…………妹紅の生年を考えるとシャレにならんな。

しかし、オチがよかったですほんと。
3.名前が無い程度の能力削除
藍様のしっぽビンタ……だと?
4.名前が無い程度の能力削除
オチが良い
5.名前が無い程度の能力削除
けーね先生の修羅場、
・ひたすら怒る
・「これ、誰のかな? これ、誰のかな? これ、誰のかな?」と
 壊れたテープレコーダーのように繰り返す
・「言い訳くらいは聞いてやるぞ」とにっこり微笑む
どれだろう? 見てみたいような見たくないような。
6.名前が無い程度の能力削除
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
 な、なんか狐につつまれたような   |
 気がする・・・。             .|
_____  _________/
        V

   iヽ、
  ノ  ヽ
ー-<      ':,
 ハ       ',        ノl
  ハ      i   ,. -‐''"  !
   ヘ       |,.:'"      |
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|-――- ..,,             /
|       `ヽ、      _,. '"
,'            `゙''''ー―--‐ァ
               /
7.名前が無い程度の能力削除
       ハ,_,ハ
      ,:' ´∀';
    l^ヽ'"'"~/^i'ツ'、
  ヾ        'ミ,
  ミ ´ ∀ `   ミ,       うおぉぉ突撃ー!
  ッ       _   "ミ      ┗(^o^ )┓三
 (´彡,.     (,,_,ノ  _ヽ       ┏┗  三
     "'"'゙''""''''゙""´
8.名前が無い程度の能力削除
俺も狐につつまれてえぇぇぇぇえ

もっふもっふ クンカクンカ もっふもっふ クンカクンカ
9.名前が無い程度の能力削除
これはいいもふもふ
10.名前が無い程度の能力削除
>>6と>>7のAAワロタw