前作である「ひざまくら」と少しだけ関係があります。
読んでおくといいかもしれません。
永遠亭の縁側でぼんやりと私は月を見ていた。
銀色で皿のようにまるい満月を。
かつて自分がいたその月を。
「れーせん」
自分の名前を呼ばれ、振り向くと因幡てゐがいた。ワンピースみたいな服に自分とは違ってへにょってない耳をした詐欺兎。
「どうかしたの?」
「いや、ちょっとね。物思いにふけっていたっていうか」
「昔のこと?」
「うん…」
少し、昔の事を思い出していた。月で軍人をしていたあのころを。
共にいた仲間は、今はいったいどうしているのか。
「月に帰りたくなった?」
「月にか…」
故郷には誰だって帰りたいだろう。しかし、私は仲間を捨てて月から逃げ出した。
そんな人物が故郷に帰っていいわけがないし、自分でも許せない。
「私はさ、仲間を捨てたことを後悔しないといけないの…」
「閻魔に言われたことを気にしているの?」
閻魔はこの幻想郷でまっとうに暮らすだけでは罪滅ぼしにはならないといった。このままでは地獄どころか三途の川も渡れないと。
それじゃあ、私はどうやって生きていけばいいのだろうか。
時々仲間だった者たちを思い出しては胸を痛める。そんなことだけでなにか変わるのだろうか。
「うん…。どうすればいいのかな、私は」
「そんなこと言われても、私はその答えを知らないよ」
「だよね…」
はあ、と溜息をついて抱えたひざに顔をうずめる。
「けどね、一緒に考えることはできる」
頭に何かが置かれ、それは私の髪を優しくなでる。
「てゐ…。なんだか嫌に優しいわね。なんかたくらんでるの?」
「私はいつだって優しいよ。偶には年上らしくしたいしね」
子供扱いされているような気恥かしさから出た言葉はあっさりと受け流される。
いつもとは逆ではないか。そう思うと余計に顔が熱くなる。
だけど、頭をなでるその手はなんだか安心できて、悪い気はしなかった。
「閻魔はさ、『後悔しろ』とは言ったけど『後悔し続けろ』とは言ってなかったんでしょ?」
だったらと、
「自分ができることをやって、人生楽しんで、最後には笑って逝けるようにすればいいじゃないかな」
「だけど、私は」
仲間を見捨てた。
それなのに自分だけ…。
そんな私にてゐは、
「だから、そんな後悔し続けて人生楽しめない方がよっぽど罪じゃない?そんな事をするよりもできることがあるでしょ?」
「私にできること…」
顔をあげててゐの目を見る。しっかりと意志の込められたその目は私をじっとみていた。
「だからさ…。その…。私も手伝うからさ。れーせんには笑っていて欲しいなって。私たちは家族なんだからさ」
顔を赤らめながら、素直な言葉を紡ぐ。しかし、やはり気恥かしかったのかすぐに目をそらしてしまった。
「うん…」
そうだ。楽しまないで何が人生か。人生を楽しまない方がよっぽど罪なことだ。
私が犯した罪の償いをどうしていくかは、はっきりとは分からない。
分からないのなら考えていけばいい。私には『家族』がいるんだ。
だから、いつか必ず答えは出る。
「ありがとう、てゐ…」
「あ…」
私は大切な『家族』をしっかりと抱きしめる。少し抵抗したがすぐに体の力を抜いて大人しくなった。
「ちょっと…れーせんってば。子供扱いしないでよ」
「私もあんたもまだ子供みたいなもんでしょ」
「むー。私のほうが年上なのに」
どのくらいそうしていたのか。
てゐはいつの間にか寝てしまっていた。いつもはいたずらばかりの兎もかわいらしく寝息を立てている。
「まったく、十分子供じゃない」
寝入ってしまったてゐに膝を貸す。手に触れた黒髪はやわらかく幸せな気分にさせ、自分が一人じゃないことを実感できた。私には一緒にいてくれる人がいる。それはとても心強く思えた。
「ありがとうね、てゐ…」
もう一度大切な『家族』に御礼を言ってから、私は目を閉じた。
読んでおくといいかもしれません。
永遠亭の縁側でぼんやりと私は月を見ていた。
銀色で皿のようにまるい満月を。
かつて自分がいたその月を。
「れーせん」
自分の名前を呼ばれ、振り向くと因幡てゐがいた。ワンピースみたいな服に自分とは違ってへにょってない耳をした詐欺兎。
「どうかしたの?」
「いや、ちょっとね。物思いにふけっていたっていうか」
「昔のこと?」
「うん…」
少し、昔の事を思い出していた。月で軍人をしていたあのころを。
共にいた仲間は、今はいったいどうしているのか。
「月に帰りたくなった?」
「月にか…」
故郷には誰だって帰りたいだろう。しかし、私は仲間を捨てて月から逃げ出した。
そんな人物が故郷に帰っていいわけがないし、自分でも許せない。
「私はさ、仲間を捨てたことを後悔しないといけないの…」
「閻魔に言われたことを気にしているの?」
閻魔はこの幻想郷でまっとうに暮らすだけでは罪滅ぼしにはならないといった。このままでは地獄どころか三途の川も渡れないと。
それじゃあ、私はどうやって生きていけばいいのだろうか。
時々仲間だった者たちを思い出しては胸を痛める。そんなことだけでなにか変わるのだろうか。
「うん…。どうすればいいのかな、私は」
「そんなこと言われても、私はその答えを知らないよ」
「だよね…」
はあ、と溜息をついて抱えたひざに顔をうずめる。
「けどね、一緒に考えることはできる」
頭に何かが置かれ、それは私の髪を優しくなでる。
「てゐ…。なんだか嫌に優しいわね。なんかたくらんでるの?」
「私はいつだって優しいよ。偶には年上らしくしたいしね」
子供扱いされているような気恥かしさから出た言葉はあっさりと受け流される。
いつもとは逆ではないか。そう思うと余計に顔が熱くなる。
だけど、頭をなでるその手はなんだか安心できて、悪い気はしなかった。
「閻魔はさ、『後悔しろ』とは言ったけど『後悔し続けろ』とは言ってなかったんでしょ?」
だったらと、
「自分ができることをやって、人生楽しんで、最後には笑って逝けるようにすればいいじゃないかな」
「だけど、私は」
仲間を見捨てた。
それなのに自分だけ…。
そんな私にてゐは、
「だから、そんな後悔し続けて人生楽しめない方がよっぽど罪じゃない?そんな事をするよりもできることがあるでしょ?」
「私にできること…」
顔をあげててゐの目を見る。しっかりと意志の込められたその目は私をじっとみていた。
「だからさ…。その…。私も手伝うからさ。れーせんには笑っていて欲しいなって。私たちは家族なんだからさ」
顔を赤らめながら、素直な言葉を紡ぐ。しかし、やはり気恥かしかったのかすぐに目をそらしてしまった。
「うん…」
そうだ。楽しまないで何が人生か。人生を楽しまない方がよっぽど罪なことだ。
私が犯した罪の償いをどうしていくかは、はっきりとは分からない。
分からないのなら考えていけばいい。私には『家族』がいるんだ。
だから、いつか必ず答えは出る。
「ありがとう、てゐ…」
「あ…」
私は大切な『家族』をしっかりと抱きしめる。少し抵抗したがすぐに体の力を抜いて大人しくなった。
「ちょっと…れーせんってば。子供扱いしないでよ」
「私もあんたもまだ子供みたいなもんでしょ」
「むー。私のほうが年上なのに」
どのくらいそうしていたのか。
てゐはいつの間にか寝てしまっていた。いつもはいたずらばかりの兎もかわいらしく寝息を立てている。
「まったく、十分子供じゃない」
寝入ってしまったてゐに膝を貸す。手に触れた黒髪はやわらかく幸せな気分にさせ、自分が一人じゃないことを実感できた。私には一緒にいてくれる人がいる。それはとても心強く思えた。
「ありがとうね、てゐ…」
もう一度大切な『家族』に御礼を言ってから、私は目を閉じた。
なんだとこの野郎もっとやってください
って言ってたような。抽象的すぎてうどんげはわかんなかったみたいですが。
なんにせよ、なごみました。
この二人はいいなあ。
逃げ出した兎にだって、帰れる場所はまた出来る。
嘘ばかりの兎にだって、嘘でない想いはちゃんとある。
この郷は、誰にとっても楽園なのだから。