すっかり寒くなって来て、レティがチルノと一緒に遊び始め
秋姉妹は仕事を終えたので一緒にスキーをしに行き
幽香がリグルの家の炬燵で丸まって
リリーホワイトとブラックの二人が自分達の部屋で鍋を囲む頃
「え~と…朝鮮アサガオと亀の血と…」
紅魔館の門番である紅美鈴が珍しい事に
門の前でなく、自分の部屋でなにやら沢山の薬を集めていた
「ケンゴシと麻黄…蝉柄…杏仁…」
わけのわからない代物を美鈴が一つ一つテーブルの上に集めていく
ある物は乾燥させた食物だったり
ある物は鉱物のような物だったり
また、ある物は訳の分からない代物であった
「…葛根と…桃仁…紅鈴蘭」
それらを一つずつ薬鉢の中に入れて
細かく細かく磨り潰していく
「それと…殺蜂尾を削った物を入れて…」
美鈴は毎年この時期になると、何時もこれを作っていた
無論、周りの人には誰も話した事はない
だが、紅魔館の誰もが美鈴がそんな物を作っているとは知って居なかった
(どんどん!)
そんな中、美鈴の部屋を叩く者が居た
美鈴が居留守を決め込もうと思っていたら
(ガチャ!)
「美鈴、暇だから相手しなさい」
「…レミリアお嬢様?」
屋敷の当主が問答無用で部屋の中に入ってきた
そして、テーブルの上にある物を見て固まった
「美鈴、なにをしているの?」
「…見ていても面白くないですから咲夜さんの所に行った方が…」
レミリアの方を見て美鈴が困った顔をするが
レミリアはそんな事を一向に気にしないで、美鈴の部屋のドアを閉めて
「咲夜は買い物に行っちゃったわ」
「でしたら、たまには妹様と…」
「残念ね、パチュリーと一緒にあの白黒の家に泊まりに行ったわ」
レミリアがそう言って、美鈴の部屋のベッドの上に倒れこむ
「…というわけだから、何か面白い事はないかと貴方の部屋に来たんだけど」
「お、面白い事と言われましても…」
美鈴がかなり困った顔になる
そんな美鈴の顔を見れて、レミリアが満足そうな顔で答える
「気にしないで良いわ、貴方が何を作っているか後ろで見ている事にするから」
ベッドの上で気楽にゴロゴロと転がりながらレミリアは美鈴を見学する事にしたようだ
美鈴は少し困りながらも、己の主に意見等できないので
そのまま、薬鉢の中をすりつぶし始めた
「…それで?何を作っているのかしら」
しばらくの間、美鈴はテーブルの上にある物を
一つ一つ薬鉢の中に入れてすりつぶしていると
後ろから暇を持て余しているレミリアが質問をしてきた
「出来れば答えたくないんですけど…」
美鈴がそういいながらも、手元は動かしていた
そんな美鈴を見て、レミリアが少し考えるともう一度美鈴に話しかけた
「そうね、だったら別の質問をするから、それに答えて頂戴」
「まあ、それのぐらいなら…」
美鈴も少し面白そうだと思ったのか、その話に頷いた
「…まず一つ…それは紅魔館に関係のある物かしら」
「ん~…紅魔館としては、今はあまり関係のないものですね」
一つ目の質問に、美鈴が頷いて答えた
美鈴がその間に、蠍の尻尾を乾燥させた物を
薬鉢の中に入れて再びかき混ぜた
その様子を見ながら、レミリアは美鈴の枕に顔を半分埋めて次の質問を投げかけた
「では次に…それは危険な代物かしら?」
「はい、とっても危険な代物です」
その質問に美鈴は間髪いれずに答えた
美鈴が危険だという物は、間違いが無い
意図できない危険の察知は、レミリアも美鈴を信頼しているのだ
(今の紅魔館に必要なくて…それで居て危険な代物…)
美鈴の枕に頬擦りしながらレミリアが考え込む
それで居て美鈴が作りそうな物と言えば…
「良くわからないわね…」
「降参しますか?」
美鈴がレミリアに笑いながらそう言うと
レミリアがベッドで寝転がり天井を向いて
「降参…何を作っているの?」
両手の掌を振って降参した
それと同時に美鈴が薬鉢の中身をすりつぶすのをやめて
テーブルの上にドンと置き、ベッドで横になっている己の主の方をみて
「はい、出来上がりました…」
美鈴がそう言ったのを聞いて、レミリアがベッドから起き上がると
出来上がった代物を見つめた
「…まだ良くわからないわね」
目の前にあるのは、なにやら良くわからない黒い液体であった
「舐めたら分かるかしら?」
レミリアがそう言って、それに指で触れようとしたとき
「だ、駄目です!」
美鈴が全力でそれを止める
あまりの剣幕に、レミリアも驚いて後ろに下がった
「ふぅ…危なかった…」
「な、なに?…これは一体何なの!?教えなさい美鈴」
レミリアが両腕を組んで美鈴を睨みつける
そんなレミリアを見て、美鈴がごく自然に答えた
「これは猛毒です」
「猛毒?」
美鈴の答えにレミリアが少しだけ驚く
いろんな材料を使って美鈴が作っていた代物が猛毒
「妖怪でも危険な野草や鉱物を細かく磨り潰して
それを特定の条件を満たしてやれば出来上がる猛毒です」
「…恐ろしく危険ね…」
猛毒と言われてレミリアも改めてその真っ黒な液体を見つめる
なるほど、確かに禍々しい雰囲気に満ちている
「ところで、なんでこんな猛毒を作っていたのかしら?」
レミリアの質問に答えるように、美鈴がコップの中にその猛毒を入れる
「ま、まさか…美鈴貴方!?」
「なんでしょうか?」
レミリアが芝居がかった様子で壁を後ろに手をつく
「当主である私を毒殺するつもり!?」
「そ、そんな事するはずが無いじゃないですか!」
「冗談よ」
美鈴が思いっきり慌てふためく
その様子を見て、レミリアが芝居がかった動きを止めると
美鈴の手に持っているコップを見つめた
「でも、その猛毒を本当にどうするつもりなの?」
危険な猛毒…何故美鈴がそれを手間隙かけて作ったのか
「あ、はい…それはですね…」
美鈴がレミリアの方を向いて
「私が飲むためですよ」
手にした猛毒をぐいっと一気に飲み干した
「ちょ、ちょっと!?美鈴!」
目の前で服毒自殺が行なわれてレミリアが思いっきり慌てる
ベッドの上に美鈴が倒れこむと苦い顔をする
「げっふ…うげぇ~やっぱり苦くて辛くて不味い~」
「そ、そんな事言ってる場合じゃないでしょ!」
レミリアが美鈴に涙目で美鈴に抱きつく
「美鈴~死んじゃ駄目だよ」
そんな様子のレミリアを見て、美鈴が目をつぶりながら呟く
「あ~…大丈夫ですよ…毎年の事ですから」
「ま、毎年!?」
爆弾発言にレミリアの表情が固まる
「ま、毎年服毒自殺をしているの?」
「お嬢様…これは服毒自殺じゃありませんよ」
涙目のレミリアの頭をポンポンと手を乗せて美鈴が呟く
「…本来は蠱毒って名前の呪術なんですけど…もう一つ理由がありまして」
小さく呟く美鈴の言葉を、レミリアが静かに聞いていく
「時の皇帝が、毒を盛られた時に生き残れるようにと…
幼少の頃より、少しづつ少しづつ軽い毒を飲んでいき
身体に毒の耐性をつけると言う行為をしていたんです」
「で、でも…なんで美鈴が…」
美鈴が毒を飲むという理由が分からない
レミリアの言葉に、美鈴が小さく答える
「…もしもの時の為に、身体に毒の耐性をつけてるんです
いざと言う時に…毒で体が動かないという事が無いように」
その言葉で、全ての謎が解けた
今の紅魔館に必要が無い…それは紅魔館が平和だから
大変危険な物…言わずと知れた猛毒
そして、毎年美鈴がそれを飲み干すわけ
「…呆れた…こんな平和な幻想郷の中で毒に耐性をつけるなんて…」
全ては、屋敷の中に居る人を守るため
来るはずのない不測の事態ににも対応するために
己の体に毒に対する耐性をつけていたのだ
「…毎年やっておかないと、耐性が落ちるんですよ」
美鈴が少々辛そうにしながらも、そう言ってレミリアに声をかける
「まったく…余計な心配をして損したわ」
レミリアがそう言って、美鈴を見つめると
倒れた美鈴の隣で横になる
「あ、あの…お嬢様?」
美鈴が困惑しているのを無視して
レミリアが美鈴に横から抱きつく
「…心配して疲れたから、この小さなベッドで横になる事にするわ」
「え~…ですけど…狭いですよ」
美鈴が毒で疲労した体を推してそういうが
レミリアは美鈴に人差し指を突き出して宣言した
「命令よ美鈴…『私の隣で眠りなさい』」
「命令なら…仕方ありませんね」
命令なら仕方が無いと、美鈴が苦笑しながら自分の隣に空間を開けると
そこにレミリアがスッポリと納まると、美鈴の腕を枕代わりにして
「…美鈴」
「はい…なんでしょうか?」
「…これからも屋敷の守りは任せたわ」
「…はい!」
そのまま二人とも眠る事になった
後日、レミリアが美鈴の腕枕で眠った事がばれて
美鈴の部屋に、咲夜とフランがやってくる事になり
美鈴が部下の部屋で眠る事になるのはまた別のお話
でもオチwwwwwwwwwww
そうか美鈴は何時かメディスンと闘うんですね。
魅魔様の話も舌(否首)を長くしながら待っています。
それと誤字っぽいのを「手間隙かけて」→「手間暇かけて」かな?