Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

たまには私も真面目になるよ

2008/12/05 19:54:07
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 季節の変わり目に体調を壊すことはよくあること。
 治療に借り出されるのは当然医者で、八意永琳も商売繁状態だった。さらに腕はよく値段は手ごろという好条件がそろったものだから忙しさはさらに倍率ドンっ!
 その忙しい時期を越して患者も減った頃、永琳が過労で倒れた。休みを減らして働いていたため抵抗力も低下していて、見事に風邪もひいていたのだから倒れるのも無理はないというもの。
 患者を優先しすぎて己の体調管理を疎かにしていたせいだ。医者の不養生を見事に地でいっていた。
 皆に休むように言われて、布団に押し込められた永琳は、好意を受け取り風邪を治すため寝ている。
 永琳の寝息だけが聞こえる部屋に小さくトントンと音がする。そして静かに障子が開けられた。
 てゐが永琳の部屋に入ってきたのだ。ご丁寧にできるかぎり気配を消している。
 てゐに気づかず永琳は眠り続ける。

「大人しく寝てるね」

 永琳の寝顔を覗き込みよしよしと笑みを浮かべる。その笑みはいつもの悪戯めいたものではなく、見るものを安心させるものだ。
 その笑みを崩さず、温くなった布を取って熱で顔に浮かんだ汗をふき取る。
 水にひたし冷たくなった布をそっと額に置き、てゐは静かに部屋を出て行った。様子を見にきただけなのだろう。
 少しして静けさを破る者二人。
 永琳が絶対安静を言い渡される場面にいたにも関わらず、ちょっとヒートアップしてそのことを忘れた輝夜と鈴仙だ。
 スパァーンっと障子が開けられ、永琳は驚き目を覚ます。
 何事っ!? と体を起こし音のした方向に視線を向けると、小土鍋を持った輝夜と鈴仙が立っていた。

「姫にうどんげ?
 何か用?」

 精彩を欠いた声で尋ねる。

「そろそろお昼だからおかゆ作ったのよ!」
「そうです! 苦しんでる師匠になにかできないかと思って!」
「ありがとう」
「きっとイナバのより美味しいから食べて頂戴」
「いえ私のほうが美味しいですから」

 両者とも小土鍋をずずいっと永琳に差し出す。
 競い合っているようだ。
 実際おかゆを作っている間に、競い合いになりヒートアップしたのだ。
 両者とも永琳を大事に想っているのだが、そこが原因でどちらがどれくらい大事に想っているかと比べあいになった。
 決着はおかゆの満足度に委ねられ、永琳に早く食べてもらうため慌しく参上したのだった。

「さあっ遠慮しないでばくばくっと」
「私のもどうぞ!」
「え、えっととりあえず姫のからいただきますね」

 瞬間、輝夜が勝ち誇ったように鈴仙を見る。その輝夜に真打は後から参上するんですっとアイコンタクトで答えた。
 受け取った小土鍋を掛け布団の上に置いてふたをとる。
 卵の入ったごくふつうのおかゆだ。ふわりと湯気が立ち上り、おかゆの匂いを運ぶ。
 永琳は鼻がつまっているせいか、匂いを感じることができない。
 スプーンで少しだけすくい、口に運ぶ。

「っ!? けほっけほっ」

 舌が味を感知した途端むせた。

「大丈夫!?」

 輝夜が焦った表情で擦り寄り、永琳の背を撫でる。
 鈴仙は罪悪感が浮かんだ表情で永琳を見ている。

「ちょっと驚いただけですから。
 姫はこれの味見をしました?」
「したわよ? 少し薄味すぎるかなと思って塩を足したわ」

 そのときに入れすぎたのだろうと永琳は考える。それは正解だ。
 その場にいた鈴仙もそれはわかっていたのだが、輝夜の失敗は自分に有利だと考え指摘しなかったのだ。食べるのは永琳だということをそのときはすっかり忘れていた。

「塩入れすぎです。薄めるかなにかしないと食べきるのは難しいです」
「辛っ! ほんとにいれすぎたみたいね。ごめん」
 
 味見をしなおした輝夜が謝る。

「さあ、次は私です。どうぞっ」

 輝夜を押しのけて自分の小土鍋を渡す。
 受け取りふたを開けると、鮮やかな緑色したおかゆがあった。湯気と共に立ち上った匂いには薬品臭。匂いを嗅ぎづらくとも、扱いなれた薬の匂いを嗅ぎそこなることはない。
 この時点で嫌な予感はしたが、可愛い弟子が作ってくれた料理を無駄にはできないと考え口に入れる。

「ぐぅっ!?」

 吐き出すことは耐えた。
 えぐみというか苦味というか、草系の不味い部分がそのまま残された味だった。
 なんとか飲み込み、枕元にあった水で口の中に残る味を消す。

「鈴仙? これはなにを入れたの?」
「薬が効かないといっても、少しは役に立つのではと思って解熱効果のある薬草を少々。
 そして途中でインスピレーションが湧いて、隠し味に別の薬草を少々」
「インスピレーションは大事ね。いつも私が言っているものね。
 失敗を恐れてはあらたな薬は生まれないって、湧いたインスピレーションを試してみなさいって。
 ちゃんと守ったのね」

 そう言いながらも少し後悔している。なにもこのタイミングでインスピレーション湧かなくてもと。
 因果応報とはまさにこのことね、などと虚ろな笑みが浮かんで消えた。

「まずっ!?」

 自分のおかゆが失敗していただけに鈴仙のおかゆの味が気になった輝夜が味見をして、口元を押さえ素直な感想を言い放った。
 
「姫に対する愛は入ってませんから。
 師匠に対する愛情はたっぷりです。だから師匠には美味しく感じられたはず」

 鈴仙自身も食べてみて不味かった。でもそれは自身に対する愛情は入れてないからと誤魔化していた。
 愛情は最高の調味料だと信じているのだ。
 鈴仙はけっして料理が下手ではない。調理当番を任されるくらいには食べることができるものを作る。
 ただ今回は暴走してしまったのだ。
 それに巻き込まれる形になった永琳には不運としか言いようがない。
 
「はいはい、口直し持ってきたよ~」

 そう言って部屋に入ってきたのはてゐ。手に深皿を乗せたお盆を持っている。
 皿から漂う匂いですでに美味しいものだとわかる。

「口直しってなによ」
「そうだそうだ!」
「鍋に残っていたもの食べたけど、健康体の私でも辛かったよ。
 少なくとも病人に食べさせるものじゃないし、愛情とかで解決できるものでもない」

 両者思い当たる節があるので言い返せない。
 てゐが作ってきたのは野菜のスープ。野菜は朝から煮込まれ噛む必要すらないほど柔らかくなっている。味も舌に優しい薄味。食欲がないだろうと考え、量は一人前に少し足りない。飲みやすいように、少し冷まされている。食べる相手が病人だということを考え作られたスープだ。

「鈴仙、ちょっとどいて」

 鈴仙をどかし永琳のそばに座る。お盆を床に置いて、皿を持つ。
 さっきと同じように皿を受け取ろうとした永琳に、差し出されたのは皿ではなくスプーン。

「あーん」
「え? 自分で飲めるわ」
「辛そうだけど?」

 病人が食べるには辛いものを少しだけとはいえ食べて、体調が悪くなっていた。
 二人に心配かけまいと隠していたが、てゐには見破られる。
 
「あーん」
「あ、あーん」

 てゐの目を見て退きそうにないと判断した永琳は恥ずかしげに口を開いた。ぼやける頭の片隅でこんなことしてもらったのはいつくらいかと考える。
 永琳の頬が赤みを帯びているのは、熱のせいだけではないかもしれない。

「……美味しい」

 思わず感想が漏れ出た。
 出汁の中にある野菜の自然な甘さが、素直に体に受け入れられる。熱すぎず温すぎないスープの温度が痛む喉に心地よい。
 ゆっくりとしたペースで差し出されるスープを味わうように飲んでいく。量が少なかったことが幸いし、無理なく全て胃に収まった。

「ごちそうさま」
「おそまつさま」

 起き上がったままは辛いだろうと、てゐは横になるのを手伝う。

「私は皿を片付けてくるけど二人はどうするの?」
「永琳の世話をするわ」
「私も」
「騒がないようにね。永琳様は病人なんだから」

 釘を刺しててゐは食器を台所へと持っていく。
 二人が作った料理は処分せず、机の上に置く。かまどには二人が作ったおかゆの余りが置かれている。量を考えずに作ったのか、一人前には多すぎる量のおかゆがそこにあった。
 あとで手直ししなくてはと思いつつ、永琳の部屋に戻る。騒いでいると予想したからだ。
 そしてその予想は大当たり。
 私がっ私がっと寝ている永琳の手を引っ張り合っていた。
 悪気はまったくないのだろう。ただ大切な永琳に快適に過ごしてもらいたいと考えているだけで。二人いるから競い合う。一人だけならば、完璧に看病をこなしてみせたはずだ。
 といっても実際は看病どころか悪化させかねない状態なのだが。
 悪意がないとわかっていて、なおかつ体調の悪い永琳は二人を止められずされるがままだ。

「なにやってるの? 騒ぐなって言っておいたでしょ」
「だってイナバが!」
「だって姫様が!」
「だってもかかしもないっ。とりあえず永琳様から手を放してこっちにきなさい」

 てゐは両手を腰にあて説教を始める。いつもとは逆の光景だ。
 説教の途中でもいがみあうことをやめない二人にてゐは溜息一つ吐き、

「あ」

 と言って指差す。
 これはなにかを誤魔化したり注意をそらす際のてゐの常套手段で、二人は何度か騙されている。普段ならば騙されることはないのだが、指差した方向が永琳の方向だったので見事に引っかかった。
 二人が永琳を見て注意を逸らしている間に、逃げ回ることで鍛えた健脚を生かして二人に接近する。
 突き出した手がそっと二人の胴体に当てられる。

「「え?」」
「ゼロ距離スペルカード発動」

 部屋に被害が及ばない程度に威力を抑えた弾幕が炸裂した。
 炸裂光がおさまると、こんがり焼けました! といった感じで焦げた不死姫と医者兎が煙を立ち上らせ倒れている。
 パチンと指を鳴らしたてゐに応えるようにイナバたちが永琳の部屋にやってきた。

「部屋に放り込んどいて」
「ウサっ!」

 ビシッと敬礼を決めてイナバたちは二人の足を持って部屋を出て行った。引きずられた輝夜の頭が柱にぶつかっている。
 この扱いの悪さは永琳に迷惑をかけたことに対する怒りの表れだった。イナバたちも永琳のことを気にしていたのだ。でも安静にしておかなくてはいけないとわかっていたため、てゐに看病を任せて普段どおり過ごしていた。

「まったく」
「でも悪気はなかったんだし」
「悪気はなくとも病人に負担をかけることを看過してはだめ。
 ただでさえ薬が効かなくて安静にしてなくちゃいけないのに。騒がしくしたら治るものも治らないよ」

 起きているのならついでとばかりに汗で濡れたパジャマと下着を換えていく。
 ささっと固く絞った濡れ布で汗を拭いて、永琳を再び寝かしつける。

「いつもと全然違うわね」
「いつもどおり過ごしたいんだけどね。あの二人が動転してるから私が真面目にならざるを得ないじゃない。
 風邪ひいたくらいで慌てるなんてまったく」
 
 永琳が病気になるなど滅多にないことだから慌てたのだ。なまじ医学知識もあるから、ただ風邪をひいただけと楽観視できなかったことも慌てた一因だ。
 暴走の原因はここにあった。
 てゐから言わせれば、永琳だって生きてるのだから風邪の一つや二つかかって当然だ。それを慌てて気が動転して、負担をかけるなど未熟もいいとこだ。

「二人の作ってくれたおかゆはどうしたの?」
「ちゃんと取ってある。手直しして夕飯にするつもり」
「よかった。せっかく作ってくれたんだから、捨てないでほしいと思ってたのよ」
「そんなもったいないことしないよ。
 ほらほらいつまでも起きてないで、また寝てくださいな。
 早く治してもらわないと、皆心配しっぱなしよ」
「ふふふ。果報者ね私は」

 体が休息を欲していたのか、目を閉じた永琳はすぐに寝息を立て始める。
 それを確認して、てゐは部屋を出る。
 部屋の前には輝夜と鈴仙が入らないように見張りが置かれていた。

 その夜、手直しされたおかゆを美味しそうに食べる永琳が見られたとか。
 たっぷりと休んだおかげで次の日には元気になったという。
てゐにはお母さん属性あるのではと妄想した結果こんなん書けた

感想ありがとうございます

>>いつもそういう感じならいいのに…よくないか。それはてゐじゃない。
>>て、てゐが!?
>>でもこんなてゐも良い
やっぱりてゐは悪戯兎詐欺兎なほうがしっくりきます
たまにこんな面もみせるとさらに魅力がアップしそうです

>>悪戯好きのてゐですが~てゐらしい気がして良かったです。
幻想郷内でも長寿に入りそうですから、悪戯だけが彼女の全部ではないっぽいですよね

>>健康に気を使ってるてゐだからですね。相手の健康も気にしてると言うか…
そういえば健康に気を使ってたんですよね、すっかり忘れてた
健康の大事さはよく知ってるんだ、それなら自分だけじゃなく誰かのことも気にしてもおかしくないか

>>もしかしたらこんな一面あっても不思議じゃないのかもしれません
あるかどうかは神主だけが知ってる~ですけどあるかもと想像するのも楽しい

>>実は隠してるだけであの竹林のどこかに子供がいるのかも、なんてw
隠し通せる演技力は持ってそうです
そしていつかばらして、皆が驚く顔を楽しむ?
トナ
http://blog.livedoor.jp/ee383/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
てゐがまじめ!? なごんだ。
いつもそういう感じならいいのに…よくないか。それはてゐじゃない。
2.名前が無い程度の能力削除
て、てゐが!?
でもこんなてゐも良い
3.名前が無い程度の能力削除
悪戯好きのてゐですが、受けた分の恩はきっちり返しそうですよね。
伊達に太古から生きている身ではないでしょうし、悪戯だけじゃなくて
こういうバランスの良さがてゐらしい気がして良かったです。
4.名前が無い程度の能力削除
健康に気を使ってるてゐだからですね。相手の健康も気にしてると言うか…
健康マニ(ry
てゐ可愛くて良かったです。
5.名前が無い程度の能力削除
確かにかなりの長生きですし、ウサギ達のリーダーでもありますよね
竹林の元々の主はてゐだったわけですし。
もしかしたらこんな一面あっても不思議じゃないのかもしれません

実は隠してるだけであの竹林のどこかに子供がいるのかも、なんてw
6.名前が無い程度の能力削除
天才だけど薬以外のことはからきしそうなえーりんとお姫様なだけに世間ずれしている姫と、
いじられキャラのれーせんに囲まれていれば、てゐが永遠亭で一番精神的に大人なのかも。
仲良し永遠亭がとても素敵でした!