Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

花咲ドロワ

2008/12/01 18:02:00
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ドロワは激怒した。
かの邪知暴虐な西行寺幽々子を滅殺せねばならぬと決意した。
灰に変わっていく様を、塵を見るかのような眼差しで見つめる亡霊嬢に、一矢報いなくてはならない。
怨嗟の言葉は、燃え盛る炎の中に消え、いつしか意識も炎にくべられた。


事の顛末は、春の初めまで遡る。

同じドロワを履きつづけて冬眠を敢行してしまった紫。
そのドロワはみんなの夢を詰め込んで、ついに意思を持つに至った。
宿った意思は純朴な犬のようなもので、無邪気に跳ね回る様が不気味でたまらなかった。
橙は家に寄り付かなくなり、紫はショックで寝込んでしまった。
しかし藍はどうしても、このドロワーズを嫌いにはなれなかった。
水に漬け、手洗いで優しく洗ってやると、くすぐったそうに体をよじらせる。
たしかに元がドロワだと考えると気持ち悪いのだが、一種の九十九神のようなものだ。
冬の間、主人の体を優しく守っていたのだと思うと、邪険に扱うことはどうしてもできなかった。



八雲家にドロワが着てから、数日経った日のことだった。
今年の春は例年よりもいくらか暖かく、桜の花も早々につぼみを付け始めた。
相変わらず紫は床から出てこなかったが、それはいつものことだろ藍は流す。
いちいち主人の相手をしていたら、それだけで日が暮れてしまうのだ。

「はぁ退屈だな」

といっても、家事を済ませてしまえばやることもなくなる。
縁側に座って一人お茶を飲んでいると、庭にあのドロワが表れた。

「ん? なんだ?」

ドロワがずっと、同じ場所をクルクル回っている。
言葉はなくとも、藍とドロワはお互いの心が通じ合えるほどに仲良くなっていた。
お酒を布に染み込ませたときは、ドロワはゆらりと揺れてそのまま動かなくなった。
死んでしまったのではないかと慌てたが、ドロワはすぐに起き上がり、変な動きをし始めた。
ただ酔っ払っただけかと安堵したとき、もうドロワは藍にとって、かけがえのない家族になっていた。

「わかったわかった、すぐに行ってやるからな」

履物を用意して、ドロワの回る場所へといくと、ドロワはピタっと動きを止めた。

「んー? ここを掘ればいいのか?」

藍がそう言うと、ドロワは嬉しそうに体をよじらせた。

「よしわかった、今から掘ってやるからな」

自慢の爪を生かせば、土の地面などプリン以下。
掘ってすぐに、お目当てのものらしきものが見つかった。
否、吹き出した。

「うわっ! 温泉じゃないか!」

こんな近くに温泉が埋まっていたとは思わなかった。
上手くすれば、庭に露天風呂を作ることもできるかもしれない。

「すごいなお前は!」

きっと紫様も、ドロワを認めてくださるだろう。

藍の思った通り、紫はドロワに感服し、正式に家に置くことを認めた。
はじめはぎこちなかった態度も、時間が経てば雪解けを見せはじめ、今では芸を仕込もうとするほどに子煩悩になっている。
藍はドロワが認められたことと、紫が元気になったという二つのことに、喜びを隠せなかった。

ちなみに橙は、いまだに帰ってこない。



そんな、春も過ぎてしまったとある日のことだった。

幽々子が妖夢を連れて、八雲家へと訪ねてきた。

ドロワが嬉しそうに飛びついていった瞬間、妖夢に叩き斬られた。
理由は気持ち悪かったからだそうだ。

藍と紫の両名は、声を放って泣いた。
幽々子は気の毒だと思ったが、その場でドロワを焼くことにしたのだった。

だってドロワが動くなんて、気持ち悪いじゃないのとは幽々子の弁。
妖夢も悪びれる様子もなく、危険だと思ったからの一点張り。
両者の言い分は、平行線を辿った。



「ドロワよぉい・・・・・・」

ドロワの焼けた後には、星屑のような灰だけが残っていた。
藍は泣きながら灰を集め、小さな袋へと纏めた。
もう還らぬとはわかっているけれど、楽しかった日々を忘れられなくて。
紫は後悔していた。
こんなに唐突に別れがくるならば、もっと優しくしておけばよかったと。
突っぱねた態度が、ドロワの心を傷つけていたかもしれない。
そのことを謝れていなかったことが、紫の心残りだった。

「いや、ただのドロワじゃないですか」

「そうよねぇ、突然ドロワが飛びついてきたら、誰だってびっくりするわよ・・・・・・」

「あっ!」

悲しみで手が震え、小袋が藍の手から滑り落ちる。
宙にばら撒かれる、白い灰。
そして計ったようなタイミングで、風が吹いた。

灰は風に舞い上がり、既に舞い散ってしまった桜の木々を包み出した。

「わぁ・・・・・・」

「なん・・・・・・だと・・・・・・?」

灰が過ぎ去った後には、白い花が枝一面に咲いていた。
これには白けきっていた幽々子と妖夢も驚き、事の重大さを思い知った。

「ごめんなさい・・・・・・大事なドロワだったのね」

「も、申し訳ありませんでした、私の不心得でこのようなことになってしまい、どう償えばいいか・・・・・・」

「いいの、いいのよ二人とも・・・・・・。あの子は、最後にこんなに優しい贈り物を残していってくれたんだから」

紫は涙ぐみ、美しい桜の花へと目を戻した。
藍はおいおいと声を放って泣き、もう還らない、懐かしい日々を思い返していた。
決して幽々子を殺そうとしたとか、そういうことじゃないと思う、たぶん。

まさかの2作品目とはな・・・・・・。
電気羊
http://ayayayayayayayaya.blog43.fc2.com/
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
いいはなしでした、ドロワと八雲の絆がよくわかるすばらしいssでした・・・
2.名前が無い程度の能力削除
羊さんノリノリじゃないッスか!!
3.名前が無い程度の能力削除
とうとうドロワで感動のお話まで…w
4.名前が無い程度の能力削除
感動した!
俺もドロワ買って来る!
冬の間中履き続けるんだ!
5.名前が無い程度の能力削除
なぜか走れ咲夜を思い出したのは俺だけで良い……

2作品目お疲れさまですwww
ドロワ祭りどこまで続くんでしょうかwww
6.名前が無い程度の能力削除
最後が西行妖を満開にして幽々子成仏→復讐完了かとw
誰か橙のことも思い出してやってください・・・。
7.名前が無い程度の能力削除
いい話だw