厳しい冬の寒さも益々に勢いを増し、幻想郷はまるで冷たい檻に囚われたかのようでもあった。
目深に被った帽子を人差し指でツイと傾け、魔理沙は窓越しに重い曇天を仰ぎ見る。
白い綿雪は、未だ止みそうになかった。
「こうも寒くっちゃ、人間だって冬眠してしまうぜ」
「ん? 魔理沙は冬眠する人間?」
フランは不思議そうに、しかし興味深そうに問いかけた。
魔理沙の持ってきた本は既に飽きたのか、うつ伏せに寝そべって足をパタパタと揺らしている。
図書館で騒ぎすぎた彼女達は、喘息持ちの主の顰蹙を買い、居間へと追いやられていたのであった。
「あー、したいなぁ、冬眠。寝てるだけで生活できるんだぜ。とってもエコロジーだ」
「ふぅん、でもそれ、つまらなさそう」
「寒いと遊ぶ気力もなくなるからなぁ」
パチュリーが聞いたら、なら大人しくしてればいいのに、とでも言っただろう。
深々と雪の降る中、はるばる紅魔館まで遠征してきた魔理沙は言動が矛盾していた。
「人間は、寒さに弱いんだね」
「そうだな、強くはないな。だから防寒具を着込む。今日は私も完全装備だ」
そう言って魔理沙は首もとのマフラーを指で摘み、歯を見せて笑った。
随分と毛羽立ったそのマフラーは、しかし暖色系の色でまとまっており、なるほど暖かさを感じさせる。
白から橙、赤へと変わるグラデーションを見つめて、フランはポンと、如何にも良いアイディアを思いついたと言わんばかりに手を叩いた。
「そっか、じゃあ燃やせばいいよね」
「は? 何をだ?」
魔理沙の問いかけを無視し、左手の指をパチン、と勢いよく鳴らす。
それはきっとコンダクターの合図だったのだろう。その音に驚いた時には既に、その部屋には四方から気品溢れるワルツが流れ満ちていた。
どこにどれだけ隠れていたのか、メイド達が弦楽器を弾く。管楽器を吹く。小さなジャズドラムすら揃えている。
そしてフランはスポットライトを纏い、優雅に回りつつ部屋の中央に躍り出る。背中の羽がシャラン、と音を立てた。
爪先立った足は規則正しく三拍子を刻む。
ルンタッタ、ルンタッタ、と小さく呟いているのはフランではない。その白く美しい足と大理石の床が織り成すシンフォニーだった。
フランは頭上に手をかざして大きな輪を作り、片足を前に出してポーズを取る。そして静かに軽やかに、しかしよく通る声で歌うのだ。
「アン、ドゥ、ドロワーズ!」
声と同時に、その手が握り締められる。
ならば、魔理沙のドロワーズが爆発炎上したのも同時だった。
「あちいいぃぃぃーー!!」
床を転がって沈下すればいいものを、腹より下が熱いとそう考える余裕もなくなるのだろうか。魔理沙は必死に飛び跳ねて熱さに悶えていた。
黒と白の無彩色の中、赤とオレンジをアクセントとした彼女は中々に見栄えのするものであったが、傍からは放屁に引火させて空を飛ぼうと画策する痴れ者にも見えた。
「ケツに火がついたって、こういう状況なのねー」
何だか可哀相なものを見る目でフランが呟く。
魔理沙のリアクションが思ったよりも激しかったせいか、握った拳を所在なさげにニギニギと繰り返していた。
その度に魔理沙のケツが火を噴く。まるでマシンガンレベルの重火器だった。
兎のねぐらにはあると言うが、実物を見た事はない。フランは初めて見るその『武器』に目を輝かせた。
「すごいすごい! 魔理沙、もっとやって!」
「いや、やってって、お前が勝手にやってるだ」
皆まで聞く必要はない。そうだ、私が握ればいいんだ。明日を見据えながら、フランは胸に硬い拳を掲げる。
その後ろでまた魔理沙が飛び跳ねていた。
「魔理沙、私頑張るね!」
「マジやめて」
もの凄い早口だった。流れ星が流れてたら、流れてる間にきっと三回言い切れた。
しかしその速さを以ってしても、フランの耳には届かなかった。
フランはテニス部に入部したかの如く、猛烈に手を握って開いてを繰り返し出したのであった。
「あああああぁぁぁぁ……!」
幻想郷初の人力ロケットは、こうして宇宙を目指したのである。
目深に被った帽子を人差し指でツイと傾け、魔理沙は窓越しに重い曇天を仰ぎ見る。
白い綿雪は、未だ止みそうになかった。
「こうも寒くっちゃ、人間だって冬眠してしまうぜ」
「ん? 魔理沙は冬眠する人間?」
フランは不思議そうに、しかし興味深そうに問いかけた。
魔理沙の持ってきた本は既に飽きたのか、うつ伏せに寝そべって足をパタパタと揺らしている。
図書館で騒ぎすぎた彼女達は、喘息持ちの主の顰蹙を買い、居間へと追いやられていたのであった。
「あー、したいなぁ、冬眠。寝てるだけで生活できるんだぜ。とってもエコロジーだ」
「ふぅん、でもそれ、つまらなさそう」
「寒いと遊ぶ気力もなくなるからなぁ」
パチュリーが聞いたら、なら大人しくしてればいいのに、とでも言っただろう。
深々と雪の降る中、はるばる紅魔館まで遠征してきた魔理沙は言動が矛盾していた。
「人間は、寒さに弱いんだね」
「そうだな、強くはないな。だから防寒具を着込む。今日は私も完全装備だ」
そう言って魔理沙は首もとのマフラーを指で摘み、歯を見せて笑った。
随分と毛羽立ったそのマフラーは、しかし暖色系の色でまとまっており、なるほど暖かさを感じさせる。
白から橙、赤へと変わるグラデーションを見つめて、フランはポンと、如何にも良いアイディアを思いついたと言わんばかりに手を叩いた。
「そっか、じゃあ燃やせばいいよね」
「は? 何をだ?」
魔理沙の問いかけを無視し、左手の指をパチン、と勢いよく鳴らす。
それはきっとコンダクターの合図だったのだろう。その音に驚いた時には既に、その部屋には四方から気品溢れるワルツが流れ満ちていた。
どこにどれだけ隠れていたのか、メイド達が弦楽器を弾く。管楽器を吹く。小さなジャズドラムすら揃えている。
そしてフランはスポットライトを纏い、優雅に回りつつ部屋の中央に躍り出る。背中の羽がシャラン、と音を立てた。
爪先立った足は規則正しく三拍子を刻む。
ルンタッタ、ルンタッタ、と小さく呟いているのはフランではない。その白く美しい足と大理石の床が織り成すシンフォニーだった。
フランは頭上に手をかざして大きな輪を作り、片足を前に出してポーズを取る。そして静かに軽やかに、しかしよく通る声で歌うのだ。
「アン、ドゥ、ドロワーズ!」
声と同時に、その手が握り締められる。
ならば、魔理沙のドロワーズが爆発炎上したのも同時だった。
「あちいいぃぃぃーー!!」
床を転がって沈下すればいいものを、腹より下が熱いとそう考える余裕もなくなるのだろうか。魔理沙は必死に飛び跳ねて熱さに悶えていた。
黒と白の無彩色の中、赤とオレンジをアクセントとした彼女は中々に見栄えのするものであったが、傍からは放屁に引火させて空を飛ぼうと画策する痴れ者にも見えた。
「ケツに火がついたって、こういう状況なのねー」
何だか可哀相なものを見る目でフランが呟く。
魔理沙のリアクションが思ったよりも激しかったせいか、握った拳を所在なさげにニギニギと繰り返していた。
その度に魔理沙のケツが火を噴く。まるでマシンガンレベルの重火器だった。
兎のねぐらにはあると言うが、実物を見た事はない。フランは初めて見るその『武器』に目を輝かせた。
「すごいすごい! 魔理沙、もっとやって!」
「いや、やってって、お前が勝手にやってるだ」
皆まで聞く必要はない。そうだ、私が握ればいいんだ。明日を見据えながら、フランは胸に硬い拳を掲げる。
その後ろでまた魔理沙が飛び跳ねていた。
「魔理沙、私頑張るね!」
「マジやめて」
もの凄い早口だった。流れ星が流れてたら、流れてる間にきっと三回言い切れた。
しかしその速さを以ってしても、フランの耳には届かなかった。
フランはテニス部に入部したかの如く、猛烈に手を握って開いてを繰り返し出したのであった。
「あああああぁぁぁぁ……!」
幻想郷初の人力ロケットは、こうして宇宙を目指したのである。
あと、
>「アン、ドゥ、ドロワーズ!」
すごいなドロワ祭りwww