冬も終わりに近づき、春になりつつある季節の静かな夕暮れ時。
一人門の前に立ちながら、私はゆっくりと舟を漕いでいた。
「随分とお疲れね、美鈴」
突然声を掛けられた。良く知ったその声にハッとして姿勢を正す。
「お、お嬢様、お帰りなさいませ。あー、あのですねこれはなんといいますか……」
殆ど反射的に頭を下げ、居眠りをしていたことの言い訳を必死に考える。
その私の姿が可笑しいのか紅魔館の主はクスクスと笑う。
「そのことはいいわ、それより美鈴。今日から紅魔館で働く新しいメイドを紹介するわ」
そう言われて私は、初めてお嬢様の後ろに少女が一人立っていることに気がついた。
お嬢様よりも少し背が低く、おそらくプラチナブロンドであろう髪はぼさぼさで、着ている
服はところどころ破けてボロボロ。そして何より驚いたのはその少女が人間だということ
だった。
「えっと、お嬢様。その子は?」
「今言ったでしょう。今日から紅魔館で働く新しいメイドよ」
「メイド……ですか?」
「そう、メイドよ。それから、この娘の世話はしばらくあなたに一任するわ」
「ええ!?」
「なに、あなたは主である私の決定に何か文句があるのかしら?」
「い、いえそんな文句なんてありません」
周囲の気温が一度は下がりそうな気配を漂わせながら私を見るお嬢様に、慌てて
頭を振ると私は姿勢を正す。
「……わかりました。では、お嬢様。この子を紅魔館の新たな一員として迎えるという
ことでよろしいですね?」
「ええ、迎えるわ。美鈴、門を開けなさい」
「はい」
お嬢様の命令に私は深く一礼して自らの守る鉄製の門をゆっくりと押し開いていく。
バラの咲き誇る広大な庭に、血のように紅く染まった大きな屋敷が私の視界に入って
くる。
門が完全に開き切ったところで私はクルリと向き直ると、お嬢様の後ろで呆然と立ち
尽くす少女へと声を掛ける。
「あなたの名前は?」
少女はビクリと肩を震わせると私を見上げてから、お嬢様の方へと視線を向け、私へ
とまた視線を戻す。
少女が小さいけれどはっきりとした声を上げる。
「……咲夜。私の名前は、十六夜咲夜」
「咲夜か、いい名前ね」
その答えに私は笑顔で頷く。
そして、チャイナ服の裾を小さく持ち上げて礼をする。
「私はこの紅魔館の門番長、紅美鈴。小さなメイド、十六夜咲夜。ようこそ紅魔館へ!」
頭を上げ、もう一度笑顔を向けた。
―――これが私と十六夜咲夜との出会いだった。
一人門の前に立ちながら、私はゆっくりと舟を漕いでいた。
「随分とお疲れね、美鈴」
突然声を掛けられた。良く知ったその声にハッとして姿勢を正す。
「お、お嬢様、お帰りなさいませ。あー、あのですねこれはなんといいますか……」
殆ど反射的に頭を下げ、居眠りをしていたことの言い訳を必死に考える。
その私の姿が可笑しいのか紅魔館の主はクスクスと笑う。
「そのことはいいわ、それより美鈴。今日から紅魔館で働く新しいメイドを紹介するわ」
そう言われて私は、初めてお嬢様の後ろに少女が一人立っていることに気がついた。
お嬢様よりも少し背が低く、おそらくプラチナブロンドであろう髪はぼさぼさで、着ている
服はところどころ破けてボロボロ。そして何より驚いたのはその少女が人間だということ
だった。
「えっと、お嬢様。その子は?」
「今言ったでしょう。今日から紅魔館で働く新しいメイドよ」
「メイド……ですか?」
「そう、メイドよ。それから、この娘の世話はしばらくあなたに一任するわ」
「ええ!?」
「なに、あなたは主である私の決定に何か文句があるのかしら?」
「い、いえそんな文句なんてありません」
周囲の気温が一度は下がりそうな気配を漂わせながら私を見るお嬢様に、慌てて
頭を振ると私は姿勢を正す。
「……わかりました。では、お嬢様。この子を紅魔館の新たな一員として迎えるという
ことでよろしいですね?」
「ええ、迎えるわ。美鈴、門を開けなさい」
「はい」
お嬢様の命令に私は深く一礼して自らの守る鉄製の門をゆっくりと押し開いていく。
バラの咲き誇る広大な庭に、血のように紅く染まった大きな屋敷が私の視界に入って
くる。
門が完全に開き切ったところで私はクルリと向き直ると、お嬢様の後ろで呆然と立ち
尽くす少女へと声を掛ける。
「あなたの名前は?」
少女はビクリと肩を震わせると私を見上げてから、お嬢様の方へと視線を向け、私へ
とまた視線を戻す。
少女が小さいけれどはっきりとした声を上げる。
「……咲夜。私の名前は、十六夜咲夜」
「咲夜か、いい名前ね」
その答えに私は笑顔で頷く。
そして、チャイナ服の裾を小さく持ち上げて礼をする。
「私はこの紅魔館の門番長、紅美鈴。小さなメイド、十六夜咲夜。ようこそ紅魔館へ!」
頭を上げ、もう一度笑顔を向けた。
―――これが私と十六夜咲夜との出会いだった。