Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

誤り

2008/11/28 01:10:47
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/ 起

それは、何という事もない、些細なきっかけから始まった。
わたしの幼い頃からの腐れ縁であり、ガラクタ屋敷――本人は古道具屋と称しているが――の主でもある香霖が読んでいた新聞の一面に、わたしの写真が掲載されていて、それがチラリと目に付いた。
その新聞には覚えがある。里のブン屋がある時は派手派手しく、またある時は粛々と号外している文々。新聞だ。
だが、わたしはここ最近あいつの取材に応じた覚えはない。わたしのネタを写真とともに無断掲載しているのだとしたら、それはわたしこと―――霧雨魔理沙にとって甚だ面白くない事態だ。
内容が気になったわたしは、黙々と読み耽っているメガネから新聞を引っ手繰ってみせた。
香霖はムッ、と眉を寄せて、愛想のあの字も感じられない冷たい声色で抗議の声をあげた。

「……店に入り浸るのは構わないが、せめて僕の安寧な時間だけは邪魔しないでもらいたいね」
「わたしの写真がある。一体何が書いてあったんだ?」

そんな香霖の文句を聞き流し、わたしは彼の広い胸元に肩を寄せる。
ここ、ここ、と小さく切り取られたわたしの顔写真を指差してみると、香霖は得心がいったように、ああ、と一つ頷いた。

「匿名の投稿者によるポエムの欄だよ。最近は甘酸っぱい恋愛をテーマに描いたものが多いね。
そして、何故かその対象は決まって君だ。誰かに想いでも寄せられているんじゃないか?」
「げげっ、誰とも知れないヤツにそんなもん書かれてるなんて気持ちの悪い話だぜ」
「だが、中々に良く出来た作品だ。僕にはあまり興味のない話だが、投稿者の切ない想いを込めた綴りにはよく目を引かれるよ」

―――いつからだろうか。
    あなたの笑顔を、目で追うようになった
    その笑顔を向けられるたびに、心臓の鼓動が激しくなる
    彼女に気付かれていないか、不安になる
    あなたと手を繋いで空を飛びたい
    どこまでも、いつまでも、あなたのぬくもりを感じながら
    夕焼けの哀愁を、あなたと共に感じたい
    朝陽が昇る瞬間を、貴方の隣で眺めたい
    わたしは風であるべきなのに自由じゃない、あなたを見ていると心が縛られる
    お願い どうかあなたの手で、わたしの鎖を解き放ってあげて―――

香霖に薦められて、わたしもそのポエムとやらに目を通してみる。
……目を覆いたくなるような自己陶酔だ。わたしはホラ、と香霖に新聞を突っ返した。

「……どうした魔理沙。顔が真っ赤だぞ?」
「うるさいなぁ。誰だよこんな恥ずかしいもん書いたヤツ。載せる方も載せる方だぜ。
一言文句でも言いに行ってやろうかなっ」

ニヤニヤ、と嫌らしい笑みで、頬杖をつく香霖に背を向けて、わたしは店を後にした。
新聞の人気コーナーに対して文句を垂れる筋合いなんか、わたしにないことはわかっているが、写真まで載せて堂々と名指しで惚気られる、こっちの身にもなって欲しいぜ。
いや、こんなの書いた本人だって恥ずかしいだろうに。あの天狗は一体何を考えてやがるんだ?
せめて顔写真は伏せてくれ、と伝える為、わたしはホウキに跨り、全速力で山へと向かった。








/ 承

天狗の里の麓にある射命丸文の家まで赴くと、一心不乱に原稿の執筆に打ち込む、文の姿が中庭の窓からチラリ、と見えた。
家にいるようで何よりだ。わたしはガンガン、と窓を叩き、自分の訪問を彼女にアピールする。
それに気が付いた文は、驚いた顔で筆を止め、何やら慌てた素振りで引き戸のような窓をガラガラ、と開いた。

「……どうしたんですか魔理沙さん。わざわざこんな所まで来るなんて何かわたしに御用でも?」
「どうしたもこうしたもないぜ。何だあの新聞は! 何勝手にわたしの写真を使って、あんなクッサイ詩を載せてんだよ」
「……ああ、見たんですか。大方、香霖堂の店主さんからってとこでしょうか。
何か特別なことでも起きない限り、魔理沙さんはわたしの新聞なんて見向きもしませんし」
「お察しの通りだ。……何だよその嬉しそうな顔は。やましい真似をした妖怪のツラじゃあないな」

文は何を思ったのか、頬を染めて嬉しそうな声をあげやがった。
……気に入らない。ひどく腹立たしい。こいつの悪びれてない態度も、嬉しそうな笑顔も何もかもがだ。
こっちだって事を荒立てるつもりはなかったが、何だかこいつの澄まし顔を歪めてやりたくて、わたしは思わず文の胸倉を掴み上げた。

「きゃっ―――ん」
「ヘラヘラすんな。こっちはお前が思ってる以上に、怒っているかもしれないんだぜ?」
「……ご、ごめんなさい。ちゃんと説明します…から、手を離してくだ、さい」
「……ふん」

文の謝罪の言葉を聞き、わたしは乱暴に手を離す。
そっぽを向きながら、ブン屋の言い分を待つわたしに、文は「立ち話もなんですから」と家の中に入るよう促した。
そんなに長居するつもりはない、はずだったんだけど、打って変わった文の真摯な態度についつい頷いてしまう。
地面と縁側との段差を気に掛けたのか、文は黙って手を差し伸べてくる。私は何の気もなくそれを握り返した。
何故か文は、先ほど見せた嬉しそうな笑顔を再び浮かべて、わたしの手をギュッ、と握りしめた。








/ 転

「―――魔理沙さんはどの日のポエムを読んだのですか? その感想は? よろしければお聞かせ願えませんか」
「……それは取材のつもりか。それとも嫌がらせのつもりなのか? 質問するのはわたしの方だぜ」
「でも、…気になって」
「……だーっ! もうっ。さっき香霖が読んでたもんを覗いたから今日のだろ。空を飛びたいとか何とか書いてあったヤツ」
「あ、最新作ですか。……良かった、割とソフトな方で。それで……どう思いました? あの詩を見て」

客室に通され、適当な座布団の上に腰を下ろした途端、文はわたしの身体に纏わりつくかのように質問攻めをし始めた。
大方、想われてる方の意見を聞きたい、興味本位のつもりだろうが、生憎わたしには皮肉にしか聞こえない。
わたしが鬱陶しそうに突き放すと、文は寂しそうな声をあげてシュン、と俯いてしまった。
……もーっ何なんだよお前! 何でそんな真剣なんだよっ! 私が何読んで何を思ったかなんて、お前には関係ないだろ!
仕方なく手短に説明してやる。すると、文は何やら意味深な台詞を呟いて、さっきと同じ質問をした。

「……まるでお前が書いたような言い方だな」

感想なんぞ答えるつもりは更々なかったから、話題を逸らすつもりで適当に振った一言だった。
なのに文は、その一言を聞いた途端、カーッ、と茹蛸のように赤面して、僅かに身を震わせた。
……ってオイオイ、まさか―――

「―――マジ、か?」
「……マジです。ついでに言うならこの想いもマジです」
「ちょ! まっ!」

待て待て待て待て! こ、これって告白? What? 何でこいつが? わたしと文ってそんなに接点あったっけ? いやいやそういうことじゃなく! な、何だよこれ。ワ、ワケわかんない。ワケわかんないぜ!
きっと、わたしの顔も文に負けないくらい赤くなってると思う。突然のことに思考がまるで追いつかない。
羞恥に頬を染める文の熱い、潤んだ視線にわたしの脳みそまで溶かされているかのようだ。
何も考えられない。何も考えたくない。それなのに文のやつは―――

「……いつ、気付いてくれるかな、って。わかりやすく顔写真まで貼り付けて。
ずっと、ずっと……待っていたんですよ?」

膝をついて、四つん這いの態勢で、じりじりとわたしに近づいてくる。

「苦しかったです。まさか人間に、こんな想いを抱くようになるなんて思ってもみなかった。
一時の気の迷いと思い、忘れようと試みました。……でも、どうしても頭から離れてくれない。
仕事が手に付かなくて、何度も原稿を落としかけて」

恋する少女が、縋るような目でわたしの顔を見上げた。
熱い吐息が頬にかかる距離まで近づいたというのに、わたしは金縛りにでもあったかのように一歩も動けない。

「だから、……だからせめて、あなたを慕う心を詩で表そうと思ったの。そう慰めることでしか、心の均衡をはかれなかった」

「……文」

「直接想いを告げようにも、勇気が足りなくて、思い悩むだけの毎日は本当に……辛かった。
だから、わたしは誓いを立てた。もし貴方がわたしの詩に気付いてくれたなら、その時こそ自分の想いを打ち明けようって」

「……やめてくれ、文」

「―――あなたのせいで、わたしはこんなにも弱くなってしまったのよっ!
わたしだって……、わたしだって今していることが正しいかどうかなんてわかんないよぉ…」

文のこんな泣き顔は、初めてみた。
いつも飄々とした態度で、貪欲に新聞のネタを求め続けていた彼女が子供のように泣きじゃくっている。
本当にやめてくれよ文。ちっともお前らしくない。見ているこっちまで辛くなるよ。
だから、もう楽にしてやろうと思った。嫌うことで、嫌われることで、彼女の恋を終わらせる。
今のわたしには、それしか……出来そうもなかった。

「お、お前はわたしにとって、目の上のタンコブだ。き、嫌いだ。だいっきらいだ!
わたしが唯一誰にも負けなかったステータスを、我が物顔で奪い去った憎い……女だ」
「……嘘吐き」
「う、嘘じゃない! お前、今まで自分がどう思われてたかなんて気付かないくらい鳥頭なのかっ!」
「……魔理沙さんは嘘がヘタですもん。ずっと見てきたのだから、それくらいわかります。
貴方は優しいから……、諦めさせることで、わたしを縛る鎖を解き放とうとしてくれたんですね」
「……」

ああ、そうだ。お前の気持ちはわたしにとって重たすぎる。
正直嬉しくないわけじゃない。でも、こんなの初めてで、どうしたらいいのかわかんないんだ。

「でも、嘘なんかいらない。わたしは魔理沙さんの本当の気持ちが知りたい」
「……わたしには、わからない。お前が望むものを何も返してやれないっ」
「それでいいの。今だけでいいからそばにいて。手を……握って」

そう言って、文はわたしの肩に寄りかかり、うっとりと目を細めてしなだれた。
文の安らかな顔を見ていると、わたしにはもう何も言えない。
わたしはただ黙って、彼女の指と自身の指を深く、からめた―――















  
  
/ 結

魔理沙「―――という夢を見たんだ」

これがホントのアヤマリ。御後がよろしいようで。
一人称で話を進めるのって難しい。
発泡酒
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
畜生!
何故夢オチなんてつけやがった!このラヴ(発音注意)の続きが気になるのに夢だなんて!
♪だっけっどっ気にっなる~
昨日よりも~ずっと~
途切れた~夢~
二人の続きが知りたいっ!♪


はい。甘かったです。甘くて苦いどころじゃないです。ママレードですか!ボーイですか!ガールですね!
パチュリーかアリスのポエムだと思ったら意外ッ!それは射命丸!
2.名前が無い程度の能力削除
ちょっとソコに正座しなさい。先生からお説教があります。
3.名前が無い程度の能力削除
ちゃんとオチがあるって言ってますよね。これww
4.しんっ削除
夢オチが残念ですけどときめきましたwww
5.名前を表示しない程度の能力削除
まさかの夢オチwww
しかし「誤り→あやまり→文マリ」とはタイトル見ただけじゃ気づけねえw
6.名前が無い程度の能力削除
ゆ、夢オチ!!???

期待していたやつがここにいるwwwwwwwwwwwwwwww
7.名前が無い程度の能力削除
貴方の善行は夢オチを撤回、もしくは正夢にして続きを投稿することです!(褒め言葉
8.発泡酒削除
コメ返しです。

>1様 うっはー! 懐かすぃ! 赤チャとか天ないとか姫ちゃんとか俺のバイブルでしたよ!
    砂糖系ってけっこう苦手なジャンルですけど、コメントほんとに嬉しかったです。

>2様 お願い、アヤマリますから頭突きだけは! 頭突きだけは堪忍して! …アッー!

>3様 起承転結の見出しは蛇足かなー、と思ったんですけどねw どうしてもやりたかったんです。

>4様 詩とか全く心得なかったので不安でした! ときめいてくれてありがとうございます!

>5様 意外性のあるオチ話作るのって難しいですw 我が永遠の命題に御座います。

>6様 ひひひw そんな期待をいい意味で裏切るクオリティを目標に、これからも精進でさ!

>7様 今はまだ書けそうにないかもです。もうちょっと…もうちょっとだけ俺に、成長の機会を与えてくだされ! 閻魔さま~っ。