ピピピピピピピ……
「んぅ……」
無機質な機械音が部屋に鳴り響く。最初はぼんやりとしていた意識も、その目覚ましの音に無理やり叩き起こされる。
「もう朝ですか…… まずは着替えて朝食の準備…… いえ、天気もよさそうですし洗濯から先にしちゃいましょう。神奈子さまも諏訪子さまもまだまだ起きないでしょうし」
頭の中で今日の予定を立てながら服を着替える。最近ブラがきつくなってきた気がする。
ここで新しいサイズのものなんて手に入るのだろうか。今度そこはかとなく霊夢さんにでも聞いてみよう。
着替え終わり、部屋を出る直前、ふと目覚まし時計が目に入る。こちらへ来るときに一緒に持ってきたものだが、そろそろ寿命らしい。
電池は来る直前に変えたからまだまだ持つだろうが、如何せん私がまだ小学生のころから使い続けているものだ。ガタが来ているのだろう。最近ちょくちょく止まるようになってきた。
「新しいの、欲しいなぁ」
何気なく口にしてみたが、一度思うと諦めきれない。まずはにとりさんにでも相談してみよう。新しいのがダメでもこれを直してくれるかもしれないし。
「そうと決まったらやることちゃちゃっと終わらせちゃいましょうか」
今日の最重要課題を決めた私は、目下の課題である洗濯と朝食の準備をすべく自室を後にした。
「目覚まし時計? ああ、前に椛に作ってあげたやつかぁ。それなら大丈夫、新しく作ってもいいし、そのガタのきているのも直すのもどっちでもいけるよ」
「本当ですか? どっちもいけるのかぁ、ちょっと悩んじゃうな……」
やるべき事を済ませ、うきうきとにとりさんに相談しに行くと予想以上の答えが返ってきた。まさかどちらでも大丈夫だとは思ってもいなかった。河童の技術侮りがたし。
ふむ、だとするとこういうのもいけるのだろうか?
「ねぇ、にとりさん。例えばこういうのも作れますか?」
「ん? どれどれ…… うん、特に問題はないね。……しっかし可愛いデザインだねぇ。これ、あの湖の妖精でしょ?」
「ええ、お友達も含めて皆可愛いですよねぇ…… はぅ」
「ま、否定はしないけどね」
にとりさんが苦笑を浮かべる。
私と親しい人は知っているのだが、私は可愛いものが好きだ。それこそ外の世界にいた頃は、某アメリカ鼠とかこんにちは子猫ちゃんやら電気鼠は当たり前。
果てにはサターンさんやぷいにゅーとかまぁと鳴く猫社長を模したものまで幅広く集めていた。
こっちに来た際に大部分は処分してしまったが、一部は今でも部屋に置いてあるし、手入れもしてある。
「でだ、デザインや中身に関しては問題ないんだけどね、一つだけあたしじゃどうしようもなんないとこがあるんだ」
「え、なんでしょうか?」
「この『なんと! チルノちゃんがアナタの名前を呼んで起こしてくれる! チルノちゃんの素敵目覚ましボイス!』なんだけどさ
流石にいかな河童のあたしでもチルノのサンプルボイスはもってないのさ。そこでだ」
「実際に録音してくればいいんですね」
「そそ、これがレコーダーね。 音声そのままで登録するから呼んで欲しい言葉を録音してきてねー」
「わかりました。それじゃあ行ってきますね」
「うん、こっちもこれから作るとするよ。大体明後日ぐらいにはできてると思う」
「それじゃあ、お願いします」
にとりさんからレコーダーを受け取り、チルノちゃんにどんな事を喋ってもらおうかと考えながら、私はチルノちゃんがよく遊んでいる湖へと向かった。
「えっと、チルノちゃんは…… あ、いたいた」
空中から目標を探す。予想通り湖畔で確認。周りにはいつも通りの夜雀、蛍、十進法、あとは……大妖精だったか。計5人。
ちょっとこの人数では交渉が捗らない恐れがある。ここはひとつ、私の能力で…… キラッ☆
「わ!? 風であたしの帽子が! 待ってー!」
「あれ? 幽香さんこんなところで会うなんて奇遇ですね。え、一緒に来い? いや、今はチルノ達と遊んで…… わかりました!わかりましたから蔦で捕まえるのはーっ!」
「ん? このおいしそーな匂いは…… こっちの方なのかー?」
ふう、これで邪魔者は排除できました。まぁ、妖精の一人ぐらい一緒でも大丈夫でしょう。それになんとなく、彼女から同じ匂いを感じます……
それではチルノちゃんに会いに行くとしますか。
「ううー、みんなあたいを差し置いてどっかいっちゃった……」
「大丈夫だよチルノちゃん、みすちーは帽子さえ見つかれば戻ってくるよ。……他の2人は戻ってくるかわからないけど」
「こんにちは、チルノちゃん、大妖精ちゃん」
「あ、さなえだー!」
「こんにちはです、早苗さん」
やさしく丁寧に話しかける。こういうのは相手に警戒心を抱かせてはダメなのだ。
私の目的を悟られないように、且つ迅速に目的を達成できるように話の方向をそちらへと持っていかなくては。
向こうで培われた私の『目的を達成するための会話テクニック100』を駆使しなくてはこのミッションは達成できまい。
『千枚舌の早苗』と呼ばれた私の話術、とくと見るがいい!
「ところでチルノちゃん、『さなえー、起きてよー、時間だよー、起きてくれないとあたい寂しくて泣いちゃう……』もしくは『さなえぇ…… 起きてよぉ…… あたい、一人じゃ寂しいよぉ……」って言いたくなる時とかありません?」
「……へ?」
ちぃっ! 頭が弱いからいきなり本題に入ればよくわからないままOKすると思ったのに! まさか言ったことすら理解してくれないとは! ⑨っぷりを甘く見ていた……!
仕方ない、ここは大人しくこちらの事情を話して協力してもらおう。
「ああ、ごめんなさい。いきなり過ぎたよね。えっとね、今ね私、目覚まし時計っていうのを作ってるんだけど、それがもう少しで出来そうなのね。
それで、最後の仕上げにチルノちゃんの声が必要なんだけど、手伝ってくれないかな?」
「ええー、なんかめんどくさそう……」
やはりそうきますか…… ふっ、だがそれは予測済みです! こういう時の為に大妖精ちゃんを残しておいたのです!
『説得手伝って!』
『えぇ…… でも……』
『手伝ってくれたらあなた用にも1つプレゼント! もちろん声は新規録音! なおかつデザインもあなたの好みを全面反映!』
『OK,全面的にバックアップしよう。だが数は使用用、保存用で2つだ』
『問題ない、アフターサービスも面倒みよう』
『ワタシハ、ダイヨウセイ、コンゴトモヨロシク……』
よっし! アイコンタクト完了! チルノちゃんの性格を熟知している大妖精ちゃんならこっちが失敗したとしても上手い事フォローしてくれるはず!
「チルノちゃん、そんな事言わないで手伝ってあげようよ。早苗さん、わざわざチルノちゃんを頼って山から飛んできたんだよ?
他の誰だって良かったのに、わざわざチルノちゃんを選んだ。それがどういうことだか分かる? そう、チルノちゃんが最強だからだよ!
チルノちゃんが最強だから早苗さんはチルノちゃんを選んだんだよ! そんな早苗さんの想いを無駄にしていいの?」
な、なんという説得! チルノの性格を熟知しているからこその見事な説得!
しかも、普段チルノ自身が自称している『最強』のキーワードを盛り込むことによってプライドを刺激して断りにくくしている!
くっ、流石幻想郷、常識に囚われてはいけないのですね……!
「だ、大ちゃんがそう言うなら…… んん~でもめんどくさいのイヤだし…… でもあたい最強だし…… んああああ!!」
「あっ! チルノちゃんどこ行くの!?」
あちゃあ…… 考えすぎてショートしちゃったかな。これは今日は無理ですかねぇ。
「しょうがないですね。今日は諦めます。また日を改めてお願いするとしましょう」
「わかりました。わたしもそれとなく説得は続けますので。それじゃあチルノちゃんを追いかけますのでこれで!」
言うや否や猛然とチルノちゃんを追いかけていく大妖精。うーむ、なんという甲斐甲斐しさ。大妖精はチルノの嫁。これテストに出るってけーねさんが言ってた。
しかしどうしましょうかねぇ。ここは大妖精ちゃんに任せておくしかありませんか。下手に私が言ってさらに混乱させてもいけませんし。
ま、今日の所は帰るとしましょう。そういえばお味噌切らしてたんでした。村に寄って買出ししていかないと……
「きゃあああああああああ!?」
今の悲鳴は…… 大妖精ちゃん!? 何かあったのかしら…… 悲鳴はこっちの方からだったはず!
全速力で大妖精ちゃんの声が聞こえた方へ飛んでいく。幸い湖畔から少ししか離れていない場所で見つかった。
相手は…… これまたでっかいカエルですね…… 何を食べたらあんなになるんでしょうか? それとも河童の発明から流れ出た『ナニか』に汚染されて突然変異?どれにしろロクなもんじゃない。
それよりも二人はだい……じょう……ぶ……
私の眼に映ったのは――
服をところどころ溶かされ 半 裸 状態の二人だった。
「ン? ナンダオマエハ。ワレハカエルヲダイヒョウシテコノヨウセイニオシオキヲ――」
「黙れエロ蛙!! 総符『忘却の一子相伝の白昼の客星の明るすぎる海が神風を喚ぶモーゼのグレイソーフルーツ(笑)~五穀豊穣サモン九字刺し神の神風風味~』!!」
「マ、マテ! スペルカードハイチマイズツジャア! シカモナニカヘンナノガマザッタゾ!?」
「私は奇跡を起こせるんです! 奇跡は起きます、起こしてみせます!」
「リユウニナッテ、アーッ!」
カエルが湖の方向へと吹っ飛んで行き、直後大きな水柱があがった。
これだけ痛めつけておけばもう二度とチルノちゃん達に手出しはしないだろう。しかしカエルよ。あなたには僅かながら感謝の気持ちもある。何故なら――
半裸姿の二人をこの目に焼き付けることができたのだから……
「早苗さん、ありがとうございました」
「ま、まぁ、あの程度の相手ならあたいがすぐに倒せたんだけどね! ほんのちょっと調子が悪かっただけなんだから! ……でもありがと、さなえ」
「いいんですよ、二人が無事だったんですから」
あの後、他の人から見えないように二人を隠し、幸い、近くにあった紅魔館に服を借りに行った。
事情を説明したところ、メイド長が快く服を貸してくれた。でも、なぜか妙に種類が多かった気がする。あとヒラヒラしたのが多かった。なんでだろう?
「それでチルノちゃん、やっぱり喋ってはくれませんか?」
「うー、なんでさなえはそんなにあたいの声にこだわるのさ。別に大ちゃんだっていいじゃん」
「そうですね、大妖精ちゃんの声でもいいんですけど、やっぱり、朝は一日の始まりですから。できれば元気で明るいチルノちゃんの声で起こしてほしいなー、と」
「ん? さなえを朝起こせばいいだけ? なら――」
「すー…… すー……」
「……え ……だよ ……なえ ……きてよ ……なえってばー」
ほっぺたをぺちぺちと叩かれる。ゆっくりと目を開けるとそこには満面の笑みを浮かべたチルノちゃんと、大妖精ちゃんがいた。
「あ、起きたなさなえ! おはよー!!」
「寝起きなんだからあんまり大きな声だしちゃダメだよチルノちゃん。――おはようございます、早苗さん」
目覚ましは、望んだものではなくなったけれど、望んだものより遥かに大切なものになった。
だから私も挨拶を返す。この幸せを実感するために。
「おはようございます、二人とも。さぁ、今日は何をしましょうか?」
幻想郷キャラクター目覚まし好評発売中!
あの人気者たちがあなたの朝を素敵に変えます! さらに付属のメモリーユニットに声を録音すれば世界であなただけの目覚まし時計が完成!
キャラクターラインナップはチルノ、橙、キスメ、椛、小町、ミスティア、レミリア、妖夢が発売中!
ラインナップは今後も増加予定だからお好みのがないキミも待っていてくれ!
値段はそれぞれ2106本きゅうりとなっております!
お求めは香霖堂か、お値段異常、お近くの河城にとりまで!
ありかとうございました。
っていうか、そういうボイスであってください。
だめだ動きやしない
なんか食われるところが想像できた(食的な意味で
アッー!この時計止まってるぞ!
んではお返事させていただきます
>>1様
マジで? ちょっと現代のにとりにアポイントメントとってきます。
>>2様
そう言っていただけるとなによりです。これからも頑張ります。
>>ティファーリア様
大丈夫、あなたが望むのならどんな声だっていけるんです。さぁ、まずはまたたびでも持って橙を探しましょうか。
>>4様
お目が高い。とりあえず胡瓜を手土産に仲良くなるところから始めてみてはどうでしょう。
>>5様
衣玖時計は全幻想郷リュウグウノツカイ委員会からクレームが来て発売延期と相成りました。
天子時計は現在開発中ですが、いくら叩いても音が止まらないため、開発は難航しているそうです。
>>喚く狂人様
冬以外ではたまにその役目を果たしますが、一回で起きないと隙間の中で目覚める羽目になるそうです。
>>7様
むしろ電池がものすごい勢いで食われます。
>>8様
おぜうさま時計を起こしに行かなければならないので他の人を起こす余裕がないそうです。
見た目も似てるし相性いいのかな?
一箇所だけ二重カギ括弧が普通のカギ括弧になってしまってますよ。