「ねえお姉ちゃん、恋ってなあに?」
結構ボインしてるさとりも思わず抱きしめたくなるくらい無邪気なこの質問にはビビった!
「(来てしまった……ついにこの日が……!)」
倒置法で驚きを強調するさとり。
こいしが巫女や魔法使いと関わるようになった時から、そう遠くないうちにこの話題を振られることはさとりも覚悟していた。
こいしは好きとか嫌いとか言い出す前に心を閉ざしてしまったので、恋だの愛だのという概念をよく知らない。
それが最近、少しずつではあるが心を開き始めて、今まで意識していなかった事物や感情に興味を抱くようになった。
大抵はさとりが教えたり、こいし自身が考えるだけで事足りたのだが、これが恋となるとそうは問屋の大根おろしがちょっとカビててあら大変焼肉のタレが血の池地獄。
恋とはいい年かっぱらった大人さえ、精神的に成熟している妖怪でさえも翻弄されかねない、嵐の海のような感情なのである。
「あら……どうしたの、いきなり?」
平静を装ってさとりが聞き返した。
「この間地上に行った時、魔理沙が言ってたのよ」
「……あの魔法使いが?」
「うん、私は恋の魔法使いだって。スペルカードの名前にもたくさん恋って入ってたし」
「その時に教えてもらわなかったの?」
「聞いたわ。そしたら見た方が早いって言って、巫女に抱きついて蹴っ飛ばされて石段から落ちてた」
「(また随分と間をすっ飛ばしたわね……!)」
さとりは自分がついて行かなかったことを激しく後悔した。
いくらなんでも、いきなり実践してみせるアンポンタンがどこにいる。
百聞は一見に如かないのは確かだが、すべて見るだけで済むなら耳などとっくの昔に退化している。
生ぬるい地上の、まだ若い少女だからと見くびっていた。この手の話は若いほど露骨になるのだ。
「ま、まあ、やり方はちょっと乱暴だけどおおむね間違っては……」
「でもその後、恋符とか恋風とか言いながらレーザー撃ったり回したりしたのよ」
「その技は……」
こいしの言葉で、さとりは先の異変を想起する。
あの時魔理沙の心には、時計の針のようにレーザーを回転させる攻撃や、ごんぶとレーザーを二本同時に発射する弾幕があった。
魔理沙も使わなかったしさとりも利用(つか)わなかったが、恋という字を冠したカードを複数持っているのは確かである。
その内のどれかを使ったのだろう。
「それでよく分からなくなっちゃった。レーザーと抱っこって、ぜんぜん関係ないじゃない」
こいしが小さくお手上げをした。
いくらごっこ遊びとはいえ、弾幕は基本的に攻撃の手段である。
今のこいしは物心つき始めの子どものようなものなのに、情熱的な抱擁の次に見せられたのが山よ吹き飛べ海よ割れろと言わんばかりのレーザーでは理解に苦しむのも無理はない。
「確かにこんがらがるわね……って、ちょっと待って。こいしも”恋”ってつくスペルカードを持ってるわよね?」
「あるけど、あれはあんまり意識しないでつけた名前だもん」
「……なるほど。改めて考えてみたら、ということね」
「ということなの」
今まで何気なくやっていたことでも、ふとしたきっかけで気にし始めたが最後、変に意識してしまって仕方がない。
そういうことは珍しくない。
皮肉にも、それは恋に似ていた。
「それで結局恋って何なの?」
「う……」
再度、致命的な質問が来た。
さとりが精神的に後ずさる。
「それは……その……うーん、なんて言えばいいのかしら……」
人妖どころか怨霊にまで恐れられていたさとりもまた、まともに恋などしたことはなかった。
ペットやこいしに対する愛情はあるが、それはあくまでも愛であって恋ではない。
つまり彼女の心は強靭さと純粋さをいい感じに両立したタフネス☆ピュアネス☆テンダネスハートであり、ほんとうにつよいものはけっしていばらない。弱い者いじめなどとんでもないという古人の名言を完璧に体現、いやさ心現しているのである。
よってさとり様はかわいいは正義は愛はさとり様は以下略。
オッケーイ!さとり様 フォー ジャスティス!
それはともかくさとりが必死で頭──妖怪の頭部に脳はないが便宜上頭と表記する──をひねっていると、こいしが小さくくすりと笑って、
「恋のことは分からないけど、お姉ちゃんが今なんて言えばいいかは分かったわ」
「え?」
「分からないって言えばいいの」
「!」
無邪気な言葉で痛いところを突いた。
さとりは反射的に言い訳を試みたが、すぐにそれは無駄だと悟った。
こいしには無意識を操る程度の能力がある。
妖怪の本質は精神であるから、嘘をついて心を偽ることになると、少なからず肉体にも影響が出る。
こいしはそうした無意識の反応を無意識に捕捉して、無意識のままに真実に到達するのだ。
ってマタタビでメロメロになったお燐が呂律の回らない口で言ってたってお空が考えてるのをさとりが読んだ。
「……どうして分かったの?」
「うふふ。だって、お姉ちゃんが悩むなんて滅多にないもの」
「そんなことないわよ、私だってたまには」
「分からないことくらいある、でしょ?」
「……んもう。こいしったら、こういう事には鋭いんだから」
「まあ、お姉ちゃんじゃ私には勝てないってことよ」
両の掌にあごを乗せて、花のように微笑むこいし。
どうやら無意識云々以前に、普段のさとりを知っている者にはモロバレだったようである。
誰だよ……無意識の反応がどうとか適当なこと言ったやつ……。
「というわけで、一緒にお勉強しに行きましょ」
「えっ!?」
「いい機会だから、お姉ちゃんも誰かに恋のイロハを教えてもらうのよ」
「わ、私はいいわよ……今のところ予定もな」
「とまあよく考えても分からなかったから、ろくすっぽ考えてなさそうなおくうのところに来たの」
「そういうことならお任せください! 元野生動物の繁殖力(おとめごころ)、存分にご教授いたしましょう!」
「よろしくお願いします! おくう先生!」
「──ハ! ここは!?」
突然世界が白転し、さとりは慌てて首を左右に振った。
そこには煌びやかなステンドグラスもこないだ空のマリモ頭が削った床も魔理沙が爆発して作った壁の穴の修理跡もなく、赤い墨を垂らした水のように揺らめく炎の炉心だけが、轟々と唸り声を上げていた。
隣にはちょこんと正座したこいしが、目の前には男らしく胡坐をかいた空がいる。
さとりはこいしの能力によって、気づかぬ間に灼熱地獄へと連れてこられていたのである。
「あらさとり様、おはようございます」
「おはよっ、お姉ちゃん」
「……おはよう。これがあるから、こいしには敵わないのよね」
「こいし様のお力は強烈ですからねー。私も知らないうちに昨日の晩ご飯忘れたりしてますし」
それは金輪際関係ない。
「で、何をお教えすればいいんでしたっけ? 人生、宇宙、すべての答えでしたっけ?」
「じゃなくて、恋焦がれるような恋の方法(やりかた)」
「そうそう、それでした」
「またずいぶん壮大に勘違いしたわね……」
でも恋ってそれくらい果てしない話かもしれないなぁと、さとりは思った。
ついでにすべての答えとやらも気になったので心を読んでみたら、「なっとう」という単語が飛び出してきた。
それは昨日の夕食だった。
生きてた! おくうちゃんの記憶、記憶失ってたけど生きてた!
何はともあれ、さとりは内心ほっとしていた。
自分も一緒に来いと言われた時はどうなることかと思ったが、聞く相手が空なら心配ない。
彼女なら難しいことやえげつないことは言わないし、そもそも考えていないだろう。
というか実際考えていない。読めるから分かる。
「おーいお空、怨霊のおかわりだよー」
「わお、丁度よすぎるところに。おーい、怨霊はいいからちょっとこっち来てー」
「あいよー……って、さとり様にこいし様? こんにちはー」
火車を置いて寄ってきた燐が、さとり達に気づいて手を振った。
「こんにちはお燐、いつもお仕事お疲れ様」
「えへへ、こりゃどうも。さとり様にそう言ってもらうと疲れも吹っ飛びますねえ」
擽ったそうに首をすくめる燐。
子供のように緩む頬が、燃え盛る人工太陽の傍らにおいてもなお霞まないくらいキュートな桜色に染まっている。
尻尾があれば猛烈に振り乱していたことは想像に難くないデレデレぶりだが、実際あるのに何故ぴくりとも動いていないのかというと、あまりに速く振りすぎて止まっているように見えるからである。
「ところで、お二人が灼熱地獄(ここ)にいらっしゃるなんて珍しいですね。何の御用でしょ」
「お姉ちゃんがどうしても恋のことを知りたいっていうから、しぶしぶ連れて来てあげたの」
「無理矢理の間違いでしょう」
「えー……お姉ちゃん、私と一緒にお勉強するのいや?」
「誤魔化さないの」
常人ならゼロコンマ二秒とて耐えられない、こいしの精神攻撃と書いてわたしのこときらい? オーラを華麗に受け流すさとり。
実は相当キュンとしたのはさとりだけのささやかな秘密である。
「まあ発端はともかく、恋のお勉強に来たってわけですね。でも正直ここじゃあそんな色気のある話は……」
「大丈夫よ、私が先生役やるんだから」
空が立ち上がって胸を叩くと、燐は狐につままれたような顔をして聞き返す。
「……先生? お空が?」
「わたしが」
「恋のイロハを?」
「恋のイロハを!」
「さとり様とこいし様に?」
「そのとーり!」
ドガーン(胸のところのボタンが弾け飛んだ効果音)と誇らしげに胸をはる空。
つられて、頭の小ささと反比例するかのごとき巨大なる質量を持った地獄の天然太陽が跳ねた。
そのガッツなデカさと説明不要の超ド迫力はまさしくメガフレア! まさしく核反応制御不能! まさしくプラネタリーレボリューション!
話がそれた。
「ぷっ……あっはっはっは! よっ、よりによってお空が恋の手ほどきなんて! ご冗談でしょ!」
あまりにも自信満々な空の勇姿に、燐は爆発的に吹き出してしまった。
空の頭があったかいことは、燐が一番よく知っている。
そのニュークリアダイナマイトなバディ以外はおこちゃまなお空が、言うに事欠いてさとり様に恋のレクチャー。
燐の腹をよじるには十分過ぎるほどの破壊力がある発言だった。
「笑ってる場合じゃないわよ、お燐にも手伝ってもらうんだから」
「あはは……は? あたいも?」
「当たり前じゃない。パートナーがいなくちゃ恋はできないでしょう」
「(ま、まさか……)」
「どうしたのお姉ちゃん、なんだか顔色いいわね」
さとりは生物的な本能で危険を察した。
こいつ、やる気だ……!
ちなみに顔色がよくなったのはほのかな期待に胸がドキドキして頭に血が上りかけているからなのだが、それはこの際どうでもいい。
「ちょっ、ちょっと待ってお空。念の為に聞くけどあなたまさか……」
「そう! さとり様もご存知の通り、こういうのは実演が一番ですわ!」
「やっぱり……!」
いやな予感が当たってしまった。
よくよく考えてみれば、あの魔法使いより単純な空がこの結論にたどり着かないはずがないのだ。
──読もうと思えば読めたはずなのにこうなったのは、自分も内心恋の最前線を見たがっていたのだろうか。
いやだ、私ったらはしたない! さとりは己の心を恥じた。
もちろん恋する乙女の恥じらい的な意味で。
「実演はいいけど、あたいは何すりゃ……わひゃっ!?」
燐が言い終わらないうちに、空が彼女の肩をつかんで引き倒すように抱き寄せた。
いきなりのことに、成す術もなく胸の中に引っ張り込まれた燐を、翼を使って優しく押さえつける。
その熱い抱擁の余波で二対の太陽が押し付けられて潰しあい、いかん! この弾幕は絶対に避けられない! ルール違反だもっとやれ!
「きゃーっ! やったーカッコイイー!」
「……!」
深窓の令嬢をかっ攫うちょいワル王子様のごとき空の勇姿に、こいしが思わず歓声を上げた。
さとりは口元を手で覆って、驚愕に目を見開いている。
「まずはこうして、意中の相手に狙いを定めます」
「さ、定めるどころかふん捕まえてるじゃないか!」
「私のターゲットがお燐ってことはみんな知ってるから省略したの」
「なんだそうなの……そうなの!?」
「ねえねえ、それより次は? 次はどうするの?」
「ふふふ、ここからが本番ですよぉ。相手をがっちり捕まえたら、すかさず愛の言葉を囁きます」
空が顔を引き締めて、颯爽と燐の方に向き直る。
熱い視線と視線を交わし、情熱的な求愛の声を天使がつがえる矢に変えて、キミのハートを貫くぜ。
死に馬の目にハゲワシがたかる厳しい野生を生き抜くための、基本かつ必須のスキルである。
「おりん……きみの瞳は太陽よりもハゲしくかがやいているね」
「後半のイントネーションに嫌味な不自然さを感じるんだけど無理してるよね!? 明らかに無理してるよね!?」
「無理なんかしてないよ。このよでおりんの前でだけ、わたしはほんとうのじぶんをかいほうできるの」
「お空はもともと自由だよね!? いつでもどこでも無闇に自由だよね!?」
「ほらもっとよくわたしをみて」
「にゃ……!」
”君の瞳は百万、あと適当な単位”と”君だけは特別”のあわせ技。
古臭いうえに単純ながらも男前かつ威力の高い殺し文句である。
いつもは誰も意識していない、燐より目玉一個分ほど高い空の身の丈もまた、いい感じにかっこよさを増幅している。
おまけに神、いわゆるゴッドである八咫烏と融合した空の男前度は文字通り神の領域に達していて、そのアホらしいほど正直な視線と、芝居のはずなのにまったく裏表のない言葉の直撃を受けた燐の顔面が一瞬にして灼熱地獄と化した。
燐が火車ではなく鍋の妖怪変化だったら、頭の中身がまるごとふきこぼれていただろう。
「(お、お空ったら……いつの間にこんなこと覚えたのよ……!)」
灼熱地獄の放射熱は、傍で見ているさとりにもしっかり届いていた。
しょっぱい妄想や劣情ならまだしも、空の情熱はどこまでも直線的かつ純粋で、それが逆に恥ずかしい。相手が悪いとはこういうことだ。
さっきまでバブバブ言ってた乳幼児がいきなりシェケナベイベーとか口走ったような意外性(ギャップ)もまた、戸惑いと恥じらいに拍車をかけている。
「ま、待ってよお空、こんなのあんたにゃ似合わなゴロニャーゴ! ゴロニャーゴ!」
「おくう! おりんの様子がおかしいわ!」
「マタタビに酔ったみたいでしょう? ハートにビンビン感じてる証拠ですわ」
「ビンビン……!? わ、私はそんな言葉を教えた覚えありませんよ!」
「えへへ、頑張って覚えたんですよぉ」
「努力を褒めた覚えもないわよ!?」
「まあそれはともかく、相手がこの状態になったら総仕上げに入ります。さあお燐、私と一緒にフュージョンしましょ!」
「ゴロニャ……はぷにゅ!?」
ドキドキの終わりはいつだって唐突で、そしてあっけない。此度もそれは例外でなかった。
さとりが目を覆うより速く、こいしがフュージョンの意味を尋ねるより速く、そして燐が心の準備をするより速く。
烏が喜々として光り物を咥えるように、ハゲタカが貪欲に死肉を啄ばむように、鷹が颯爽と獲物を仕留めるように、空が燐の唇をかっぱらった。
この瞬間、究極無敵のエネルギーにして遥か未来の彼方の幻想、心と心の核融合が本当の意味で完成したのである。
後にこの歴史を垣間見た知識と歴史のヘッドバッドティーチャーが感動に咽び泣きながら勝負下着に着替えて知り合いの蓬莱人の家に駆け込むことになるのだが、それはこの際関係ない。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおお! こっ、恋したっていいじゃなーい!」
「はわわわわわわわわわわわわわわ……!」
「んむぐぐぐ……う……ふぅ……!」
こいしがスタンディングしてオベーションする。
さとりは顔面に血液を集めることしかできない。
溺れる者が藁でもいいから掴もうとするように、燐の両手がかくかくと動く。
「んー」
「うう……ん……んん……っ」
求愛行動は止まらない。
燐は最後の力を振り絞って空を押し返そうとするが、基本が動物なのでそういう「嬉しいけどみんなの前ではダーメ☆」みたいな器用な真似はできない。
やがて彼女も本能に負け、糸が切れるように腕と瞼が下がり、そのまま動かなくなった。
そして核融合反応が落ち着くころには、すっかりゆでダコならぬゆでネコと化していた。
授業完遂の証を見届けて、空がゆっくりと顔を離していく。
「……とまあ、ざっとこんな感じですわ。お分かりいただけましたか?」
ぐったりした燐を左手で抱えながら、何かを成し遂げた勇者の顔で空が言った。
「はわわわわわわわわわわわわ」
「あの、さとり様? 何か質問でも?」
「え!? あ、いえ、そんな、はい! 全部わかりましたし!」
いきなり意識を引き戻され、正座したままピョコンと跳ねるさとり。
おまけに不気味な敬語まで飛び出して、さとりは自分で自分がよく分からなくなった。
「ありがとうおくう! すごく勉強になったわ!」
こいしが笑顔で空に駆け寄った。抑え切れないワクワクが、顔から声からにじみ出ている。
単純ながら一貫していて、単純だからこそ分かりやすい空の講義に大満足のようだった。
「それは何よりですわ。いいですね、恋とは戦い! 自分の全てをぶつけて相手の全てを手に入れる未来最強限界バトルなのです!」
「はい!」
「あっ、でも相手が嫌がったらすぐ止めなくちゃだめですよ」
「はいっ!」
選ぶ権利は相手にあり、負けたらスパっと諦める。
それが野生のルールである。
姿勢を正して元気に返事をするこいしを見て、空は満足げに頷いた。
それから二つ三つのとりとめない問答をした後、こいしは未だ衝撃から復帰しないさとりの手を引いて帰っていった。
中庭に通じる穴めがけて飛んでいく姉妹の姿は天使を髣髴とさせる神秘的な清らかさに満ち満ちていて、空は一瞬ここが地獄であることを失念した。
普段から結構な頻度で忘れていることは既に忘却の彼方だ。
「ふふ……うふふ……おくう……うっふふ……」
「……ん?」
──そして空が忘れていたのは、今現在の所在地だけではなかった。
それは絶対忘れちゃいけない野性の世界の厳しいルール。
完膚なきまで止めを刺すまで、勝った負けたは決まらない。
「やってくれたね、お空……。まだそんな季節じゃないけど、あたいすっかり火がついちゃったよ……」
燐が妖しく艶笑しながら、雌豹の姿勢で空に這い寄る。
獲物を狙う狩人の目がギラギラ真赤に燃え上がる。
恋の灼熱地獄の炎が、とんでもない所まで延焼してしまった。
「お、お燐? 火がついたなら早く消さなきゃ……」
「ニャーン!」
「ぬわ──っ!」
動物的な本能で危険を察した空が後ずさる。間髪入れず、燐が飛びついて押し倒した。
倒れこみながら、軟体動物のように蠢く手が空の手首を押さえつけた。猫の手も借りたいという諺の意味が変わった歴史的瞬間である。
ウブなネンネにゃ見せられない阿鼻叫喚の最終ラウンドが今、幕を開けた。
「ふふふ、いいんだよね。お空があんなことしたってことは、あたいもやっていいってことだよね」
燐が舌なめずりをする。ざらつく舌が焔を映してぬらりと艶かしく光る。
恋は双方向通信だから、片一方の理屈では動かない。
してもらったことはしてあげて、自分がやったことは相手にやられても構わないという覚悟が必要なのである。
「待って! ちょっと待って! し、仕事さぼったらさとり様に怒られる……」
「生き物本来の仕事はこれさ。ほらほら、さとり様が見てない間に命の洗濯ぅ♪」
「いや普通に見てたって! 今ごまかすみたいにそっぽ向いたけどすっごいこっち見てたって!」
「授業の〆にはぴったりじゃないか? それに猫はねぇ、一度始めちゃうと引き返せないようにできてるんだよ?」
「そうだったの!? どーりでいつも長引くと思った!」
「あたいの気持ち、分かってくれたかい? それじゃあお空、二人で一緒にキャッツウォークしましょ!」
「う……うにゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
──一皮向けば猫と烏。
勝敗の行方は、火を見るよりも明らかである。
かくして、授業は終わった。
恋の意味を知ったこいしの心は、また少し柔らかくなり。
必要以上に心をもみもみされてなんか揉み返しが来てる感のあるさとりは、ペット達の悲鳴いやさ喜鳴を背中に浴びながら、あっ今もっとすごいことをしているわね、ふむふむ参考にしておくわとしみじみ思うのであった。
「ふーん、それなら早速二人で復習しない?」
「あら、それは助か……って何で即刻バレてるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
「うふふ、心は読めないけど顔に書いてあることなら簡単に読めるわー! 恋したっていいじゃなーい!」
「あ、ちょ、ま、や……はっふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅん!」
こいしは無意識の反応を無意識に以下略。
お空はつるぺた説を主張してやまない私ではありますが、下っぱさんのSSを読むときだけは自説を曲げることにします。
しかしやっぱりこいしは可愛いなあ。
地底一家が大好きです。
またしても甘々なファミリー生活を体験させてもらいました。
ちょっとフュージョン習得してきます。
しかしなんてかわいい地霊殿ファミリーだ…
さとりのかわいさはガチ。
これが野生化ですね。
面白かっただけでは感想が伝わらないじゃない!
えーと……えーと…………面白かったわ!
そしてあとがきの最後で本音が駄々漏れしてますよ。
>後にこの歴史を垣間見た~
先生何やってんすかwwwwwww