「それじゃあこちらが今回の分のお薬になります」
「いつもすまないな」
「いえ、こちらこそウチのお薬をひいきにしてもらってありがとうございます」
「永遠亭の薬は効き目がいいからね。頭痛、腹痛、腰痛に手足の冷えまでなんでもござれ。
……これで輝夜が妹紅と争わなかったら万々歳なんだけどね……」
あはは……と苦笑いを浮かべながら私はいそいそと帰り支度を始める。
と、塾の子供たちが絵やら花やらを準備しているのを見かける。
「そういえば慧音さん、子供たちが何かしてますけど、何かあるんですか?」
「ああ、今度の休みに、いつも働いている両親に感謝の意を込めてなにか贈り物をしようと考えてな。
その為の贈り物を其々に準備させているところだ」
「へぇ……いいじゃないですか、その考え」
「ああ、我ながら中々の考えだと思っている。……そうだ、鈴仙も誰かに贈り物をしたらどうだ?」
「そうですね……考えてみます。それじゃあ私はこれで。またよろしくお願いしますね。」
永遠亭に帰り、師匠に売上とどういった薬が売れたか、どのような薬が欲しいか、などといった
データをまとめた用紙を渡すと、自室に戻ってさっきの慧音さんの話を思い出す。
「贈り物かぁ…… 私が送るとしたら師匠にだよね…… でもなぁ…… 師匠が喜びそうなものなんて知らないしなぁ……」
問題はそこである。そもそも幻想郷一の天才である師匠に欲しいものなどあるのだろうか?
仮にあったとしても、師匠ほどの頭脳なら自力で手に入れてそうなものだ。
「うーん……どうしよう……」
「なにがさ?」
「うわっ!ちょっとてゐ、勝手に人の部屋に入ってこないでよ!」
「えー、あたしちゃんと呼んだよ?『うどんげー、入ってもいーい?』って」
「返事してないでしょ!? まったくもう……そうだ、あんたならどうする?」
と、先ほどの慧音さんとの会話を掻い摘んで話した。
「ふーん、ま、あたしには感謝するような人もいないし、どうでもいいや」
「な……! あんたいつも師匠や姫様にお世話になってるでしょう!?」
「あれはお世話になってるんじゃなくて、お世話させてあげてるの。そこんとこ、間違えないようにね♪」
この腐れう詐欺が……あとで師匠に言いつけてやる……
「んー、でもまぁ、浮かばないのであれば、逆の発想でもいいんじゃない?」
「逆?」
「そう、相手が喜ぶんじゃなくて、自分が喜ぶの。自分がもらって嬉しいものなら相手も嬉しいんじゃないかなぁ」
そうか、そういう考えもあるのか。てゐにしてはいい考えじゃないか。う詐欺呼ばわりは酷かったかな、やっぱりもとの兎って――
「なんてネ♪ やっだ、うどんげったら本気にしたの?やっぱうどんげは単純でおバカさんだねー♪」
前言撤回。そしてこいつは師匠たちに報告する前に今この場でブチのめす。
「待ちなさいこの腐れう詐欺ー!!!!」
「キャハハハハハハ、うどんげが怒ったー♪」
「二人とも夕食までには戻ってきなさいよー」
師匠の声が聞こえたような気がしたが、今の私にはそんなのどうでも良かった。
「あのう詐欺め…… いつか負かしてやるんだから……」
てゐとの弾幕勝負中、いつの間にか近くに来ていた師匠に二人ともフルボッコにされ、引きずられながら永遠亭まで戻り、そして夕食を取り、今私は湯浴みの最中である。
ちなみに今日の夕食係は姫様であった。姫様はあれで料理が上手なんだよね……
やることなかったから覚えてみた、って言ってたけどこのぐらい出来るなら料理屋でも営めばよかったんじゃないかしら。
まぁ、めんどくさい。の一言で終わりそうだけどね。
「自分がもらって嬉しいものかぁ……」
私だったら何が嬉しいだろう? 人参? 確かに好きだが流石に師匠にはあげられない。貴金属は私の小遣いでは到底買えない。となると――
「んー…… 花、とかどうだろ?」
いいかもしれない。あれなら綺麗だし、いい香りだし、水につけておけば結構もつし。
「それに、頭に着けても似合うかもしれないしね……」
と、頭の中で頭にプレゼントした花をつけてニッコリとほほ笑む師匠を思い描いて――
「あう……のぼせたかも……」
とりあえず、贈り物は決まったことだし、詳細は明日にしよう。
そう決めると、湯だった頭を冷やすため、私は浴場を後にしたのだった。
「花といってもどういうのにしようかしら? 種類が豊富だからいざあげるとなると迷うわね……」
慧音さんから借りてきた辞典とにらめっこしながら送る花をチョイスしていく。ちょっと時期はずれなものもあるが、
そこは四季のフラワーマスターである、幽香さんに頼めばなんとかなるだろう。……代償がちょっと怖いが。
「……ん、バラだ。これもいいかなぁ……あれ?」
ふと私は気づいた。
「バラって青色ってないんだ……あったら綺麗だよね?」
いつもはあまり褒めてくれない師匠でも、流石に今までなかったものを作り出せば褒めてくれるのではないだろうか?
「ようし…… 種類も決まったし、あとは調達するだけね。時間もないし、手っとりばやく準備しないと……」
そうと決まれば話は早い。私は花の肥料や、その他諸々をひっつかむと幽香さんのところへ急ぐのだった。
「ふーん、最近自室に籠ってると思ったらそういう事ね…… だったら――」
「花の贈り物 ?へぇ、なかなか面白いことするじゃないの。花を愛でてくれるなら断る理由もないし、いいわよ」
幽香さんの所へ行き、事情を説明して協力を頼むと、意外にあっさりと承諾してくれた。普段はちょっと怖いけど、花の事になると違うんだなぁ……とか思ってしまった。
だって、花の手入れを見学させてもらったけど、あの時の幽香さん、本当にやさしい顔してた。ちょっと花たちが羨ましかったり。
「それでですね、こっちが本命なんですけど。青いバラって作れますか?」
「青いバラ? ……そうねぇ、作れないこともないけど、ちょっと時間が足りないわね」
「そ、そうなんですか!? うぅ……なんとかならないですかね?」
「この短期間だと出来ても1本、最悪、出来ないかもしれないわね」
「それでもいいです! 私もなんでも手伝いますから、お願いします!」
「私も見てみたいしね、できるだけの事はするわ」
「ありがとうございます!」
そしてその日から泊まりがけで作業を手伝った。他の花は準備できたが青いバラだけはなかなか咲いてくれなかった。
そして当日――
「残念だけど……」
「やっぱり、時間、足りませんでしたね……」
そういう私の掌には青い花びらが一枚。今日ギリギリになって咲いた1本から採れたものだ。
他の花びらは咲かなかったか、咲いても枯れてしまっていた。
「でも、一応出来ましたし、これで満足です。今度はちゃんと時間をとって花束にしてから贈ろうと思います。お時間とらせてしまって、すみませんでした」
「いいのよ、これはこれで面白かったしね。今度来るときには花壇に青いバラ、満開にしておくわね。
……ああ、そうだ。どうせそれしか出来なかったのだから、加工してみたら如何?たとえば栞なんかいいと思うわ」
「そうですね、それだとずっと取っておけますもんね。何から何までありがとうございます。」
「どういたしまして。それより急がないと渡す時間なくなっちゃうわよ?」
「ああっ、もうこんな時間。じゃあ今度は何かお土産もってお邪魔しますねー!」
「ええ、またいらっしゃいな。花を愛でる人ならいつでも歓迎よ」
そう言い、私は幽香さんの家を後にする。これから慧音さんの所にいって栞の作り方を教わって、かぁ。
間に合うかなぁ……いや、間に合わせてみせる!
「ま、伊達にフラワーマスターなんて名乗ってないんだから、作れない花なんてないんだけどね。
永琳…… だっけかあの薬師。めんどくさい事するわねぇ」
「……できたぁ!ありがとうございます、慧音さん!助かりました!」
「いやいや、このぐらいならお安い御用さ。それより早く戻るんだな、もう暗くなり始めてる。」
「そうですね。あ、この借りてた辞書お返ししますね。すっごく助かりました。それじゃ私、戻ります。……ありがとうございましたー!」
言うやいなや私は、永遠亭までの道を猛スピードて飛んで行った。
……うぅ、間に合わないかも……それでも、諦めてたまるか……!
「あそこまで慕われるあの薬師が羨ましいよ…… お、妹紅じゃないか、どうしたんだ?――」
「えーっと、師匠、ちょっとお時間いいですか?」
夕食のあと、一人になったところを見計らって声をかける。
「ええ、もうすぐ洗い物も終わるしね。私の部屋でいいかしら?」
「あ、はい。それじゃちょっとしたらお邪魔しますね」
「ええ、待ってるわ」
自室に戻り、準備した花束と、活けるための花瓶、それと幽香さんや慧音さんに協力してもらって作った青いバラの栞。
それを携えて師匠の部屋の前まで行く。
「師匠、いいですか?」
「ええ、お入りなさい」
失礼しますと断り、師匠の部屋へ入る。
「それで、数日も家を開けてどうしてたのかしら?」
「えーっとですね、慧音さんから今日はお世話になっている人に感謝する日だと聞きまして。それでいつもお世話になってる師匠に贈り物を」
そう言って私は手にしたものを渡す。
「色々考えたんですけど、いいの浮かばなくて。でも花だったら、見た目にも、匂いでも楽しめるからいいかなー、って。
それで、こっちが本命なんですけど……」
そう言って栞を渡す。
「へぇ、花束にはナズナにまんじゅしゃげ、アイビーねぇ…… 分かってるのかしら? それに栞は青いバラ……」
「本当は、バラも束で渡したかったんですけど、ちょっと時間が足りなくて……」
「じゃあ私からもお返しね」
「え? ってこれ……!」
「これが私からのお返し、ちょっと量が多かったかしら?」
そう言って師匠から渡されたのは大輪の青いバラ。
「これ……どうしたんですか?しかもこんなに大量……」
「私は幽香みたいに作れないから、薬でちょっと……ね」
「……! 知ってたんですか、師匠!?」
「当たり前でしょう、弟子の事を知らない師匠なんていないのよ。
……まぁ、ただ単に鈴仙の部屋の前を通りかかったら襖がすこし開いててそこから聞こえただけだけどね」
「そんなぁ・・・」
「でも私のは天然モノじゃなくて人工モノ。来年は期待してていいのかしら?」
「あ……はい! 来年はきっと天然の青いバラ、大輪で持ってきますね!」
良かった、師匠がこんなに喜んでくれて。後で慧音さんや幽香さんの所へお礼を持っていこう。
「でも嬉しいわ、鈴仙がこんなにも私を思ってくれているなんてね」
「え、それってどういう……」
「なら後でこの花の花言葉を調べてみなさい……フフ、知らずに選んだのならそれはそれで凄いわねぇ……」
「ちょっと師匠、なんなんですか!? ていうかなんでこっちににじり寄ってくるんですか!?」
「まだ私はお返し、あげきってないもの。夜はまだまだこれからよ? 鈴仙?」
「師匠! ほんとに目が怖いです!ちょっとゆっくり話し合いましょうよー!!」
私の永い夜はまだ始まったばかりのようだ……
「えーりーん、この植物なんとかしてよー、聞いてるの?えーりーん」
※おまけ
「うわ、すごい御馳走……どうしたんだ、これ?」
「慧音にはいつもいろいろと世話になっているからな。その、今日は世話になっている人に感謝する日なんだろう?
だから、腕によりをかけて準備してみた。……迷惑だったか?」
「そんな訳ないだろう! 本当に、すごく嬉しいよ、妹紅!」
「そ、そうか!良かったよ。これが自前の焼き鳥、こっちが夜鳥から貰ってきた鰻、それから――
ん? 慧音、なんで震えてるんだ?ってなんで獣人化してるんだよ! 今日満月でもないだろ!?
あ、バカ、やめろ、せめてご飯食べてから……ひゃう」
なずなの花期は2~6月、まんしゅしゃげ(彼岸花)は9月
>>1
様しょうがないんです。最近じゃあ百合要素のないものでも女性キャラ同士が絡んでるだけで妄想してしまうんです。
そんな俺が書いた作品なのでお察しくださ(ry
>>2様
なん・・・だと・・・
ご指摘ありがとうございます。次回はきちんとそういうところも調べて作りたいと思います。
花言葉ありきで作ってしまったのでこんな事に・・・
>>3様
ですよねー。ゆうかりんなら7色の薔薇だって作ってくれるはず・・・!
しかし青いバラがもしあったとしたら花言葉は何になるんだろう……?
>万々歳なんけどね
万々歳なんだけどね、ですかね?
コメ返し失礼。
>>5様
誤字報告ありがとうございます。修正させていただきました。
いつかこの二組の合同結婚式が(ry
>>6様
……あるの!? どうみても調べ不足です本当に(ry
やっぱり「青いバラは確か珍しかったはず」なんて半端な知識だけだといろいろとキツいですね……
ちょっと好意的に解釈して「(この想いを止めるのは)不可能」ということで。