Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

大人は汚い

2008/11/23 00:03:47
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手を伸ばせば湯飲みがあり、目の前には従順な狐がいる。

「お茶一杯」

紫はこたつの中で大きく脚を伸ばした。

「はい」

藍が即座に急須を掴み、立ち上がる。
紫は「平和」と呟いた。
おお。背後を仰げば、張り替えたての障子に夕焼け空。久々の我が家はかくも素晴らしい。
紫は昨夜、旅先から帰宅したばかりであった。
さて、ここで襖が開き浮かぬ顔の橙が入ってくる。

「藍様、ちょっと」

橙はもじもじと身をくねらせながら、コタツの方に近寄ってくる。
寝転がっていた紫はばね仕掛けのように身を起こす。
橙は後退った。

「あら、どうしたの橙。藍は、今お茶を用意しているからコタツに座って待ってなさい」

橙は立ったまま首を振る。

「何?」

「いえ、あの」

藍が「あ」と声を上げる。
紫は訝しく思う。
自らの可愛い式の式に大事があってはいけない。

「体、どっか悪いの?」

「そ、そんなことないです。でも」

「でも?」

「ら、藍様じゃないと」

「どうした、橙」

突如、紫と橙の間に藍が割って入った。
橙は紫を避けるようにして、藍に飛びつく。
紫はおろおろ、と手をこまねく。

「藍様、実は」

紫がぎこちなく二人の方を振り向くと、藍の顔がいつになく神妙になる。

「まさか」

「はい」

橙は脚腰をくねらせ、顔を赤らめる。

「あれか?」

「えっと、その」

橙は紫の顔色を窺ってから小さく頷いた。

「な、何かしら」

藍は「少々、失礼します」と言うと、橙の手を引いて部屋から出て行こうとした。
何だこの雰囲気は。

「あ、あの。何かあったの?」

その時、紫は橙が自分に対して軽蔑の視線を向けたように感じた。

「ええ。まあ、ちょっと」

「私にも何か手伝うことない?」

紫は笑顔を作って藍に聞いたが、藍は苦笑いすると、「私が何とかしますから。さあ、橙行こう」と言って背を向けた。
その時、橙が紫の方を振り返る。

「あの、紫様」

紫の心持ちがやや明るくなる。

「あら、何かしら」

紫は威厳を崩さぬよう、笑顔を作ってあくまでもローペースに話す。

「覗かないでくださいね」

橙が踵を返し、ぴしゃり、と襖が閉まった。
足音が遠のいて行く。
二人の話し声も小さくなっていく。

「全く、橙は。これは私達の宿命みたいなもんだから恥ずかしくなんかないんだぞ」

「だって」

「今、何とかしてやるからな」

紫は口を開けたまま、固まっていた。
どうなっているんだ。これは。まさか。
何だ。この雰囲気は。まるであの二人の態度と来たら。
自分が家を空けている間、橙の身に何が起きたというのか。
明らかな場違いさに苛まれた紫は、ふらふらと立ち上がる。

「がんばれ、紫。がんばれ、紫」

紫は自分を励ましながら立ち上がる。

「橙が、橙が、私の橙が」

あの態度。あの雰囲気。自分はこのシチュエーションを知っているぞ。間違いない。

 



 
 橙は少女から女へと変身したのだ。
 疑いようのない事実であった。
どこぞの部屋へ隠れてしまった橙と藍は、未だ戻ってこない。
 もしかしたら、自分がいるから戻ってこないのかも知れない。
 紫は次回、二人に顔を合わせる時の言葉を考えた。
何はともあれ、祝福しなければなるまい。おめでとう。
馬鹿か。面と向かって「おめでとう」なんて言う保護者がどこにいる。
 ただでさえ、自分は信用されていないのに。

「せ、赤飯」

 紫は気を紛らわせようと、台所に入る。
野菜をかき分けて餅米と小豆を探し当てたが、食紅が見当たらない。
 これでは、赤飯が作れない。
再び、こたつに腰を下ろすも全く落ち着かない。
 二人が申し訳なさそうな顔して入って来るのに、馬鹿みたいに笑って冷や汗垂らす自分の姿が浮かぶではないか。
こんなことならば、帰って来なければ良かった。
 紫は自分を嗤い、コタツから抜けだし、玄関を出た。
 何も居心地が悪くなったから家を出たのではない。逃げるわけではない。食紅を買ってくるのだ。
橙を祝福してやるのだ。





 紫は食紅を売っている店など知らない。
いつも買い物全般を藍に任せているからだ。
 里の上空まで来たはいいが、もう真っ暗な冬のこと、たいがいの店はすでに閉まっているようであった。
 それと入れ替わるように開くのが酒屋である。
真っ赤な提灯を見て紫は、ごくり、と喉を鳴らしたが、止めた。
 紫にはそこまで自分は落ちぶれていない、と妙なプライドがあった。
 結局は長い散歩であった。
 隙間を使って帰る気も起きず、紫は手持ちぶさたに日傘を持ってのろのろと元来た空路を引き返していく。






 5分程行ったであろうか、
森に差し掛かった辺り、紫は木々の中に光を見つけた。
 下降して近づいていくと話し声が聞こえてくる。
 紫は夜雀の屋台の話しを思い出した。
もはや何の考えもなしに、紫はただふらふらと光に引き寄せられていく。
 やはり、光は屋台の灯りであった。
この手の灯りには魔性の魅力がある。
 屋台の前に6つ並んだ腰掛けの2つには先客が座っていた。
 紫はこの先客、伊吹萃香と霧雨魔理沙の顔を見ると、脇に座った。
彼女らは相当量の酒を飲んでいるようで、すっかり出来上がっており紫の顔を見るなり手を振って席に招いた。
 屋台の奥でミスティアが何やらせわしなく動いている。

「お、紫。よく来たな」

「まあね」

 萃香は手に持った徳利を煽り、手元の煮干しをかじった。

「ちょっと話し相手になって行けば」

 頼まれては仕方ない。
紫はミスティアに熱燗を頼んだ。
魔理沙が何やらにやついて、「ほう」と言った。

「何か、うかない顔してるね」

「まあ、いろいろあってねえ」

「何だ、何だ。差し支えなければ聞かせてほしいんだぜ」

 これだから、酔っぱらいはあつかましくて困る。
紫は熱燗を待ち遠しく思う。

「いや、まあ。いろいろ」

 紫は、へへへ、と頭を掻いた。
ミスティアが徳利と猪口を紫に渡す。

「ふうむ、人生色々。魔法も七色」

 魔理沙が笑い、萃香が笑う。
どこが面白いのか分からない自分はまだ酒が足りないのだ。
熱いのを我慢して速攻で徳利の中身を飲み干すと、もう一本ミスティアに頼む。

「つまみは頼まないのか」

 魔理沙は目の前の白身魚を突く。
萃香は煮干しやら落花生を囓っている。

「これから、家に帰らなくちゃいけないから」

 二人は「うぉう、家と来たもんだ」と冷やかす。

「これから、酒を飲むってのにね。家なんかそんなもんは置いておきなさいよ」

 二本目を勢いよく飲みながら、紫は指先を回す。

「あんた達は家を大切にしないから分からないのよ」

「家なんて、嫌なことを思い出すじゃないか。止めだ止め」

 魔理沙が手を振る。
萃香は息を吐いた。
奥の方からミスティアの「誰も八つ目を頼まない」との愚痴が聞こえた。

「家なんて邪魔、邪魔。その日眠る所が家」

 萃香が言うと魔理沙が、ぱん、と手を叩く。

「いや、全く良いことを言った。その通り」

 1対2では分が悪い。紫は2本目を飲み干して、ミスティアに聞く。

「ここって食紅置いてない?」

「いや、食紅は置いてないです」

 余計に帰りたくなくなった。
紫は3本目を注文しようかどうか悩む。

「今日はこのまま飲み明かそう」

 魔理沙が萃香の肩を叩いた。
駄目だ。3本目など注文したら、こいつらに流されて本当に帰れなくなってしまう。
ほどよく酔ったところで、勢いに任せて帰ろう。

「お勘定」

 紫は立ち上がってミスティアに熱燗2本分の金を払う。

「おい。何だよ帰っちゃうの?」

「もう帰る」

 魔理沙と萃香は興冷めしたようで、もう何も言わなかった。
 悪いことをしたな、と紫は足早にその場を離れて帰路に着く。
やはり足取りは重かった。





「ただ今」

 紫が玄関から入ると、藍が駆けてきた。

「お酒臭い。どこに行ってたんですか」

「ごめん、食紅買えなかった」

 紫は笑うでもなく、ただ申し訳なさそうな顔をして言った。

「食紅? 何のことですか」

「橙のこと。大丈夫?」

 何とも、滑稽であった。
旅先から浮かれて帰ってきた昨日の自分を引っぱたいてやりたい。

「ああ。橙ですか。もう落ち着きました。もう、何だかすみません。何か過剰に反応しちゃったみたいで」

「いいのいいの。確かに恥ずかしいことだから気にしないで」

 紫は靴を脱いで座敷に上がった。

「何だ、知ってたんですか」

 藍が笑う。
紫も赤い顔で笑った。

「まあね、普通気付くわよ」

「やはり、あの年では恥ずかしいみたいですね。私もそうだった覚えがあります」

「そうね」

 そうだ。みんな大人になる。そんなことは当然だ。
紫は投げやりに相づちを打つ。

「全く、ノミ取りってのは私達の宿命ですからね」

紫は足をもつれさせ、隙間を開く間もなくガラス戸へ突っ込んだ。
これだから、大人は。
yuz
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コメント



0.簡易評価なし
1.無評価名前が無い程度の能力 削除
どうせそんなオチだろうと思ってたさ(褒め言葉です)
2.無評価名前が無い程度の能力 削除
くそ!オチが読めなくて無駄に納得しちまった!
3.無評価名前が無い程度の能力 削除
ちくしょう・・・俺のときめきを返せwwwwwww
4.無評価名前が無い程度の能力 削除
あ~・・・
取り敢えずお疲れ様でした、紫様(苦笑)。
5.無評価名前が無い程度の能力 削除
霖之助のところにノミ取り首輪を買いに行くべきだぜ。
6.無評価名前が無い程度の能力 削除
最後の一行が本当に、本当に美しかったです。
7.無評価Unknown 削除
ノミ取りとは…見抜けなかった、この海のリハk(ry

帰って来たばっかりでいつもの調子じゃないときに失敗ってするんですよね(笑)
8.無評価名前が無い程度の能力 削除
リグルにノミを説得してもらうという手も!
それにしてもはじゅかしがる橙はかわいいぞと。
9.無評価名前が無い程度の能力 削除
そう来ましたかww
10.無評価名前を表示しない程度の能力 削除
これだから、これだから大人ってやつは!

とりあえず紫に続いてガラス戸に突っ込んできます。
11.無評価名前が無い程度の能力 削除
とりあえずゆかりんお疲れ。恥ずかしがる橙にときめいたよ。

発情期という言葉が真っ先に頭に浮かんだ俺もガラス戸に突っ込んだほうが良さげですね。
ノミ取りは流石に見抜けないわw
12.無評価名前が無い程度の能力 削除
ノミか、猫に狐ならしょうがないよなw
ところで赤飯ってのは食紅で色を着けるのではなく小豆で色が着くものだよ
13.無評価名前が無い程度の能力 削除
さあ期待させてきたオチは、と半ば不安も持ちつつ読んでいったらノミ取りw
紫同様綺麗にすっ転ばされてしまいましたw
14.無評価yuz 削除
コメント欄に失礼します。
>>12様
驚いたので、調べてきました。
赤飯には小豆を使う地方と食紅を使う地方があるようです。
15.無評価ルル 削除
ノミってかゆいもんらしいですね、獣にとっては。
赤飯に食紅なんて使うところもあるんですな。我が山陰では小豆一辺倒だったけど。
16.無評価名前が無い程度の能力 削除
赤飯の食紅は家事をしないから間違えてるのかとばかり……
17.無評価名前が無い程度の能力 削除
食紅赤飯は初めて知った。
魔理沙かわいいよ魔理沙。
18.無評価名前が無い程度の能力 削除
これは読めないwwww
笑わせていただきましたw
橙の血を吸う蚤め……!