Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

素直じゃないのは相手のせい

2008/11/22 23:02:21
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百合注意。





















リビングで魔女がひたすら本を読んでいる。
隣には読み終わったであろう本がいくつも積まれている。
ここは彼女の家ではない。魔法の森の奥深くの、別の魔法使いの家である。
そしてその家主はといえば、たまに部屋を行き来しては、彼女の姿を横目で見ていた。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

お茶を淹れに、とか、お菓子取りに、とかそんな理由をいちいち付けてリビング入るも、向こうの反応はゼロ。
普通誰かが出入りすれば、視線をそちらに向けるとか、何らかの反応はあるはずである。
しかし、魔女は一切本から目をそらすことはなかった。かれこれ5時間、ずっとこの状態は続いていた。
家主が彼女に気が付いたとき、すでに現在の状態だった。つまりはひたすら本を読んでいた。
お邪魔しますの一言ぐらいは言ったのかもしれない。しかし、奥の部屋で実験をしていたせいで、来ていることに全く気が付かなかった。
最初居るのを見たときはびっくりしたが、読書の最中に話しかけられるのを彼女が好ましく思っていないことを家主はよく知っていた。
本来ならば向こうがこちらに断りを入れるべきである、そんな風に考えていたせいもある。
そのうち向こうから何らかのアクションがあるだろうと思っていた。
しかし、いつまで経っても魔女は本から顔を離さない。さっきから何度も移動しているのに、身動き一つしない。
端からみるとまるで人形のようだと思う。羨ましくなるほどの白い肌に、触れるだけで折れてしまいそうな身体。
そんな事を考えて、彼女をじっと見つめている自分に気が付いた。いけない、いけない。
慌てて目を逸らす。当人が気付いていないように見えるのが救いだった。

それにしても。

(勝手に人の家に上がって、一言も言わずに本を読み続けるコイツを黙って見過ごすほど私はお人よしじゃない)

そんなことを考えて、早5時間。
5時間のうちに交わした会話もゼロであれば、目を合わせた回数もゼロである。
黙っている向こうも向こうだが、未だに話しかけられずにいるこちらもこちらであった。
いつ見ても本に集中しきっているので、話しかけるに話しかけられない。相手の気分を害してしまうのが嫌で、黙って行き来をしているだけに留まっていた。
単に本を読んでいるだけなので、直接的な被害は家主にない。おまけに何も要求してこないので、客としては手がかからず、ありがたい方だったりする。
好きなようにやらせておけばいいだけの話なのだ。
それでいいといえばいいのかもしれない。気にしなければいいのだから。
しかし、一緒の空間でその姿を見せ付けられると、なんともいえない気分になってくる。

(本当にここに来る意味があったの?会話したくないとか。それならそれで別にいいけどさ。でもそうならなんでわざわざ家に?でも話しかけて欲しくなさそうだし)

頭のなかでぐるぐる考えてしまう。
そんな自分が馬鹿馬鹿しくなるが、思考は完全にループし、止められそうになかった。
魔女は相変わらず本を読んでいる。辺りが段々暗くなっていくのがわかる。もうすぐ日が暮れる。
いい加減話しかけないと、魔女はこのまま帰ってしまうだろう。しかし、上手い言葉が見つからない。
一言話しかけるだけなのに、なんでこんなことになっているんだか。
ほとほと自分に呆れる。そして相手にも呆れる。

(普通初見の人には挨拶ぐらいするだろう。それとも私が部屋を出入りするのに気が付いていないとか?あーもーイライラする)

ええい、もう一か八かだ。本なら十分読んだはずだ。話しかけても文句は言わない、いや、言わせない。
話しかけようと口を開く。

「パチュ」

ガタン。

魔女は椅子から立ち上がった。そしてこちらを見る。
ナイスタイミング。いや、決してナイスではないのだが、ある意味ナイスであった。

(空気読んだだろ、今絶対空気読んだだろ。)

ああもう、なんて間が悪いのだろう。覚悟を決めたつもりが、もう一度覚悟を決めなくてはならない。
緊張が、再び自分を追い詰めていくのがわかる。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

二人は互いに見つめ・・・・・・いや、睨み合っていた。
もしかしたら、向こうも耐えられなくなってきっかけを作ろうとした?なんてことを頭のどこかで考える。しかしそれは希望的観測だ。帰ろうとしたのではないだろうか。きっとそれが正しい答えだ。
互いに目が合っている状態というのは目を逸らされていた先ほどよりも辛いものがある。
何か言ってくれ頼むから、なんて他力本願な事を思う。
そうだ、さっききちんと決めたじゃないか。嫌な顔されても文句は言わせないって。
嫌な顔されたら嫌だけど・・・・・・うん、悪いのは向こうだ。こちらは何も悪くない。

「「ねえ」」

二人の声が重なる。
一瞬何が起こったかわからなかった。
オーケー、オーケー。落ち着け自分。一度や二度ぐらい重なることってあるって。
しかしこれでまた何かを言うタイミングを失った気がする。今日はとことん間が悪い。
なにかの力が働いている気がするのは気のせいか。この魔女ならそういう事をしても不思議はない。

「どうぞ」
「そっちこそ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

互いに譲っているようで全く譲っていないのが自分たちであると理解している。その証拠に声色が硬い。
とりあえずは、会話成立である。会話と呼べるかはわからないけれど。

「・・・・・・」
「・・・・・・」

繰返すが、互いに譲っているようで譲っていないのが自分たちである。
どうぞといいつつ、先にそっちが言えと心の中では思っているのが手に取るようにわかる。
いい加減にして欲しい。でも向こうも絶対そう思っているだろうし、私自身も自分に対してそう思う。

「どうぞ」
「そっちこそ」
「さっきも聞いたわ」
「同じでしょ」

怒っているのか、呆れているのか、表情は硬くいまいち読み取れない。
相手が何を考えているのか、わからないのが嫌だった。何でこんなことで不安になるのだか自分に呆れてしまうが、それでも止められない。おまけに相手がこの魔女なのがとても気に喰わない。気に喰わないが、頭で考えていることと心で考えていることは必ずしも一致しないものである。

「ねえ」
「な、何」

先に動いたのは、魔女の方だった。
返事をする自分の声がかすかに震えていることに気が付いた。

「別に」
「なによそれ」
「まあいいけど」
「だからなんなのよ」
「そんな死にそうな顔しないでよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「どういうことよ」
「そう見えただけ」

魔女は大きくため息をつく。呆れているといったように。
言わなきゃわからないか、と独り言を言うのをわずかに捉える。

「さっきまで本を読んでいたのは事実。それと、一応玄関では声をかけた。3回ぐらい。それでも返事がなかったから、リビングでも貴方を呼んだ。でも返事がなかった。癪に障った。だからここで本を読むことにした。そのうち貴方は来たけれど、何もしなかったから気にしなかった。以上」

魔女は一気にまくし立てる。
家主は目を白黒させている。

「えっと」

ちょっと待って。今こいつは何を言った?
一気に言われて思考が追いつかない。多分頭は真っ白になっている。
落ち着いて、ひとつひとつを整理しよう。

一応玄関では呼んだ、3回ぐらい。

よくある話だ。

リビングでも呼んだ。

・・・・・・・不法侵入とも言えなくはないが、日常の範囲ではよくある話である。

癪に障った。だからここで本を読むことにした。

・・・・・・。

あー、それはつまり。
気が付かなかったから拗ねていたとか、そういうこと?
だから私が部屋に来ても、反応しなかった?あえて無視していたのか?
なんだかそれではまるで・・・・・・。

「これ以上はいいでしょ」
「・・・・・・」
「なに笑っているの」
「え」

それではまるで、構って欲しいとせがむ子供みたいだ。

先ほどまでのイライラが自分の中から消えていた。そうしてようやく気が付く。
私は不安だったのだ。相手が自分のことに関心がないように見えたから。
けれどそれは全く逆で、私が彼女に気が付かなかったことに対しての仕返しだったというわけである。
憎たらしいやり方をとる奴だ。けれど仕返しは成功だ。悔しいけど。

「笑ってる?」
「ニヤついている」
「そ、そうかしら」
「そうよ。さっきまで死にそうな顔していた癖に」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「それは」
「いいけど。珍しい顔が見れたし。あーそうそう今日は泊まっていくから」

そう言うと魔女はリビングから出ていく。取り残された家主は、ガラスに映る自分の顔を見る。
・・・・・・確かに、さっきよりかは血行いいかも知れない。
死にそうな顔をしていたのか。イライラはしていたし、不安だったりもしたけれど。
だけどそうさせたのは誰だよと、改めて思う。
おまけにやり方が子供みたいだ。直接言えばいいのに。でもそんなことは絶対言わない難儀な性格であることも重々承知だ。
そしてその誰かさんのせいでイライラしたり、ニヤニヤしたりする自分に改めて気が付く。
無愛想なのはお互い様。だけど、案外そうでもないのかもしれない。
この部屋から出て行ったのも、照れ隠しだとわかっている。
素直じゃない所も、子供じみた所も、よく似ている。
だけど素直になれないのは、絶対相手のせいだと思う。


日は既に暮れていた。
暮れていたが、体の中はさっきより暖かい気がした。


おわり
おまけ

夜。
魔女は家主に話しかける。

「ねえ、さっき」
「何よ」
「さっき私のことじっと見て、何考えてたのよ」

ここで魔女が家主をからかっているのだということは家主も承知していた。
いつまでもやられっぱなしではない。だから家主はこう返す。

「教えて欲しい?」
「・・・・・・」
「泊まるなら今晩ゆっくり」
「あんた最近可愛げなくなった」



そうして魔女は家主に食べられてしまうのでした。めでたし、めでたし。





たまにはまともなパチュアリを書きたくなったんですが、あんまりいつもと変わらないような気がします。
こんなんでいいんですかねパチュアリって。
わかりません。
sirokuma
コメント



1.喉飴と嶺上開花削除
ディ・モールト良いですねぇパチュアリ
こう、なんて言うか、じわじわくる感じが良いですね。
2.名前が無い程度の能力削除
「「ねえ」」
やばい気まずい空間の二人想像したら口元がにやけてしょうがありません
あなたの描くパチュアリが大好きです。いいぞ、もっとやれ
3.謳魚削除
むしろパチュアリパチュと解釈しちゃう。
誘い受けパッチュさん、流石です。
最初は手玉に取っていたのにいつの間にやらみたいな。
でも黒白、紅白、花MASTERが外でパルパルしているかも……。
4.名前が無い程度の能力削除
氏のパチュアリは相変わらず素晴らしいなあ…今回も楽しませていただきました。
5.sirokuma削除
ギャグじゃないのを書くのは難しいと痛感している作者です。でも本当に書きたいのはこんな雰囲気のssだったり。
もうちょっと表現削れた気がするんじゃないかと反省中。
以下レス返し

>1様 あざーっす!ってJOJOネタですかwパチュアリにはまったならば是非供給を、供給を!

>2様 にやにやしてくれたならば本望であります。山なし落ちなし意味なしですがこんなんでよければ今後も書いていきたいです。

>3様 実はおまけが一番書きたかった。アリスさんは性格的に攻めだと思うんですよ(霊夢除く)。

>4様 過去作も見ていただいたようで、本当にありがとうございます。なんか間違っていると思いつつもついパチュアリを書いてしまいます。何故。