Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ルーミアに御馳走を食べさせたかった

2008/11/17 01:29:23
最終更新
サイズ
4.08KB
ページ数
1
「お腹が減って動けない……」

 静寂に包まれる街道の傍らで、弱々しく切り株にその背中を預けるのは、宵闇の妖怪と恐れられている"ルーミア"だった

「もう何でも良いから食べたいのだ……」

 俯いて独り言を呟くルーミアは、足下に生えている萎びた雑草を手で千切って口に詰め込んでみた
クシャクシャと新鮮な音も立てずに、口の中で独特の青臭さが広がる

「ま、不味いのか~……」

 苦虫を噛み潰した様子で口の中の雑草をベタベタと吐き出す
口を半開きにしてしかめっ面を浮かべる姿は、まるで猫のフレーメン反応のようだった

「残念、私の人生はここで終わってしまったのだ~……」

 そんなことを呟いて、ルーミアはゴロンと雑草の絨毯に大の字に寝転がる
極度の空腹状態で、目の前に食べ物の幻まで見えてしまう始末だ

「あれは虹鱒の塩焼き……美味しそうなのだ~…………」

 目の前で湯気を立てる焼き魚の幻を手で掴もうとするが、触れるか触れないかの瞬間でスッと消えてしまう
そんな非常な現実に引き戻されるも、目を背けるようにゴロンと寝返りの要領で逆を向くルーミアの目の前に再び、美味しそうな食べ物の幻がルーミアを誘惑するように浮かび上がる

「これは豚肉の生姜焼き……食べたいのだ~…………」

 再び手を伸ばすも、やはり直前でスッと消えてしまう
そしてルーミアは空を見上げて静かに呟いた

「幻想郷の皆、ルーミアは食べ物に囲まれて幸せなのだ…………」

 徐々に視界は薄れていき、少しずつ力が抜けていく
そんな、白目を向いて空を見上げるルーミアに呼びかける人物がいた

「お前は……こんな所で死にそうな顔をして何をしているんだ?」

 声が聞こえるや否や、人妖どちらでも食べることができればいいという考えで、ルーミアは牙を剥き出しにして勢い良く飛びかかる

「念願の食料なのだ、殺してでも奪い取るぞ~!」

 しかしルーミアが飛びかかろうとした途端に、まるで蝿を叩き落とすかとのように棒状の得物で先程の雑草の絨毯に吹き飛ばされる

「ふげっ!」

 それと同時に、背中を預けていた切り株に頭を強く打つ

「いきなり襲いかかるのは非常識だぞ」

「痛いのか~……」

 頭を両手で抑えて涙目になりながらも、目の前に立つ"上白沢慧音"を上目遣いで見つめる

「……お腹が減って力が出ないのか~」

「そうか。妖怪も大変だな」

「……あなたは何か食べさせてくれる人類?」

 暫しの沈黙が続く。慧音は長い沈黙に耐えきれずルーミアに背中を向ける

「……じゃあな、ルーミア。その……妹紅が待っているのでな。食料調達、頑張るんだぞ」

 そう言って歩みを進めるが、生死が賭かった今の状況で救いの光を易々と見逃す訳にはいかないと、ルーミアは先程よりも声高に懇願する

「……お腹が減って力が出ないのか~!」

 慧音の足が一瞬だけ止まるも、首を横に思いっきり振って再び歩き出す
こんな時間帯に人里から出る人間など殆どいないので、目の前の慧音だけがルーミアの唯一のライフラインだった
折角のチャンスを逃すものかと再び自分に喝を入れ、より大きな声で慧音に遠回しに食事を要求する

「お・な・か・が・へ・っ・て……!」

「わかった! わかったから……私の家で食べていけ……」

 流石の慧音もしつこく繰り返される言葉に折れたのか、複雑な表情をしながらもルーミアを人間達に目立たないように人里へと連れ込んだ



「……で、こいつも来た訳か」

「いい匂いなのだ~」

 稀に人里へと足を運ぶ蓬莱人"藤原妹紅"が慧音に事情を聞いている傍らで、箸を片手にまだかまだかと鍋の具材が煮えるのを、首を右へ左へとリズミカルに揺らしながら満面の笑みを浮かべて待つルーミアがいた

「あんな場所で一人寂しく過ごすルーミアを想像してしまってな……つい…………」

 妖怪とは言っても、見た目は十にも満たない程の姿をした少女だ
そんな少女が人里から離れた場所で、空腹に耐えながら倒れ込むように眠る様子を考えただけでも慧音は耐えることができなかった

「まぁ、御飯は大勢で食べた方が楽しいだろ! 私達も食べようか」

 目の前に用意された鍋の具材は、妹紅が妖怪の山へ自ら赴いて厳選した極上の山菜や、とある河童から提供して貰った新鮮な川魚の切り身など、旬の食材をふんだんに使用した豪勢なものである
そんな自然の宝が詰まった上蓋を妹紅は頃合いを見て開いた

 ルーミアなどの夜型の妖怪が活動するであろう時間帯は、人間達は警戒してまず里を出ることは無い
その為か、最近まともな食材を摂ることが敵わなかったルーミアにとってこの鍋は、今まで食べてきたどの食べ物よりも輝いて見えた

「食べ物が輝いて見えるのよ~!」

 両手を合わせて目をキラキラと煌めかせるルーミアが感嘆の声を上げる

「これだけ喜ばれると悪い気はしないな。それじゃあ、頂きますか!」

 そして人里に建つ一件の家屋からは、数時間に渡って美味しそうな匂いの煙が立ち昇ったそうな
リハビリ

ルーミアを喜ばせてみたかった

それだけ
Ph
コメント



1.喉飴と嶺上開花削除
泣いたwそして最後ちょっと幸せな気持ちになる、そんな温かい作品でした。
2.名前が無い程度の能力削除
オチもない。ひねりもない。
だというのにこの満足さあふれる読後感はなんでしょうか。いいものを読ませていただきました。
こういうルーミアも可愛いですよね。
3.名前が無い程度の能力削除
人喰いオチだと期待したのに…
4.名前が無い程度の能力削除
いいねいいね、こういうのも。なんとなく幸せ。リハビリファイト!
5.名前を表示しない程度の能力削除
ルーミアがかわいいのかー。

>妖怪とは言っても(中略)耐えることができなかった
想像したらすごく複雑な気持ちになってしまった……これは慧音でなくても鍋に誘わざるを得ない。