Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

さとりのしょ

2008/11/15 23:30:16
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地霊殿の主である、古明地さとりは書を嗜んでいた。

それは手記に然り、日録に然り。
相手の考えている事が読めるさとりは、彼女自身の考えを著すことで、それを相手に伝える代替行為を好んでいるのである。
とは言っても、読ませるものは選んでいるし、その相手も極々一部に限られてはいるが。
そんな彼女が今宵も自室で筆を動かしている最中、屋敷に珍妙な来客が訪れた。
こんな夜分に誰が来たのか、と思うのも束の間、足音は真っ直ぐにさとりの元へと近づき、襖が勢いよく開かれた。

「ういーっす。精が出てるねぇ。何をやっているんだい?」
「あなたは……」

伊吹萃香。
強大な力を持つ鬼の筆頭格。小さな百鬼夜行。片時も酒瓢箪を離さない、折り紙付のうわばみ。
そんな彼女が、一体何用でこの場に現れたのか。
萃香の赤く火照った顔を見たさとりは露骨に顔を歪め、そしてぴしゃりと誘いを断った。

「行きませんよ」
「あんた相手だと説明の手間が省けて助かるね。それにしたってつれない返事だなぁ」
「宴に誘いたいのであれば、こんな急ではなく、もっと段取りを踏まえてからにすべきでは?」

さとりの物言いに、萃香は両手を頭の後ろに置き、つまらなそうに口を尖らせた。
どうやら彼女は、さとりを飲みに誘うため、屋敷まで馳せ参じたらしい。
旧都で友人と飲んでいたのだが、イマイチ盛り上がりに掛けるので、一興として星熊勇儀にこんな話を持ちかけたのだそうだ。

『どっちが、この場に縁のなさそうな珍しい者を連れてこれるか、勝負しないか?』

さとりからすればいい迷惑である。早急にお帰り願いたかった。
だが、これで大人しく引き下がるような萃香ではない。

「こんな薄暗い部屋に引き篭もってばかりじゃ身体が腐っちまうよ。
たまにはパーッ、とウサを晴らすのもいいもんさ! ホラホラ行こうぜ~ぃ」
「ちょ。う、腕をひっぱらないで」

千鳥足で近づいた萃香は、そのままさとりの腕をグイグイと引っ張った。
力は抑えてあるが、それでも鬼の怪力はさとりの細腕にとってかなり痛い。
強引な誘いに、さとりは顔をしかめながら否定の意を口にするが―――

「―――あれ? 書き物してたんだ。日記でもつけてたの?」
「あ! ダメです。見ないで!」

彼女の目がふと、さとりの脇にある竹簡に留めた。
さとりの反応に、酔っていた萃香はいたずらっぽい笑顔を浮かべ、書き物の方に目を通してみる。
本当に読むつもりはなかったのだが、ついついからかってしまいたくなったのだろう。

「はは。流石に綺麗な字だねー。まるで稗田の……―――え?」
「もうっ! これ以上悪戯が過ぎると本当に怒りますよっ」
「す、すみませんでした!」
「……は?」

さとりを隅に押しのけ、竹簡と向かい合っていた萃香がいきなり最敬礼で頭を下げて謝った。
突然の180度の様変わりに、毒気を抜かれたさとりは思わずぽかん、と口を半開きにする。

「度重なる非礼、本当に謝罪の仕様も御座いませんが、どうか……どうか寛大な御心を」
「い、いえ。そこまで畏まらなくても」
「酒ですか? 酒がわたしをこんな愚に走らせたというのであれば」

追い詰められた表情で、萃香は伊吹瓢を中庭へと投げ捨てた。
コロコロと転がった瓢箪は、庭に設けられた池にポチャリ、と落ちる。
自身の一部ともいうべき酒虫を捨てる。その事実にさとりは心底驚愕した。
萃香の顔をマジマジと見てみるも、そこには心から申し訳ない、という贖罪の念しか伝わってこない。
彼女が言うならそれは絶対である。
あまりの改心っぷりに、さとりは喜ぶよりもむしろ困り果て、当惑の面持ちで萃香に話しかけた。

「……なぜ、こんな真似を?」
「どちらにしろ、今のわたしには酒に溺れる暇などありません。新しい呪文の研究に身を窶さねばならないからです」
「え? 今なんて?」
「それでは失礼致します。本当に申し訳ありませんでした」

最後に一礼すると、萃香は風のように去っていった。
そこには、何がなんだかわからぬまま、唖然とするさとりだけが残された。









―――古明地さとりの書いた物を読むと、心根が真っ直ぐになる。

そんな噂を、いち早く耳にしたものがいた。
永遠亭の薬師、八意永琳である。
ぐうたらな我が姫を矯正する為なら、と永琳は文字通り地の底まで駆け付けた。
ひと悶着はあったが、さとりが適当に書いたサインを無事手に入れ、彼女は蓬莱山輝夜の元へと戻った。
そして、今に至る。

「……んで何? 私に見せたいものって?」
「古明地さとりの直筆サインです」
「それって地底にいるムツゴロウさんのこと? 何で私が彼女のサインなんか拝まなきゃいけないのよ」
「姫にとってそれが必要なことになるかもしれないからよ」

呆れ顔で返す輝夜の頭をむんず、と掴んだかと思うと、永琳は固定した輝夜の視界の前に例のサインを置いた。
思い通りになるものか、と輝夜は固く目を瞑るが、永琳のもう片方の手が抵抗を許さない。
強引に瞼をこじ開けられ、ついに輝夜の網膜がサインの文字を捉えた。
突如、急速に頭の中に流れ込んでくる膨大な知識に、輝夜は脂汗を流しながら紙切れを手で弾き飛ばした。

「……な、なにこれ? じゅもん……呪文の研究をしなくちゃ」
「姫?」
「永琳! 貴方、私に何を見せたのっ!? こんな……この胸から湧き上がってくるような熱い情熱は一体何?」
「仰ってる意味がよくわかりませんが、品行方正に目覚められたのですね?」
「そ、そう。賢者たるものは常日頃から、他の模範になるよう規律に殉じ……」

物々と独り言をのたまう姫に、永琳は僅かに眉を顰めた。
噂の真偽を確かめる為に、永琳は実証例である萃香の所へも事前に立ち寄った。
そこには、素面で何やら勉学に勤しんでいる、普段では考えられない鬼の姿があったのだ。
幻想郷もついに終わりか? と、呆気に取られていた傍観者たちの顔が、妙に印象的だった。
眉唾ではない、と確信がある。だが、今の輝夜を見ているとどこか様子がおかしい。
もしかしてサインでは駄目だったのか、と永琳が考えあぐねていると、輝夜が妙にさっぱりした口調で、ある提案を切り出してきた。

「……ねえ、永琳。貴方のラボラトリーを少しの間貸してもらいたいのだけど」
「それはかまいませんが、何をするおつもりで?」
「妹紅を完全に滅する呪文の開発がしたいの。今の私なら出来そうな気がするわっ!」
「……どういうことですか?」

いよいよ自分の望んだ方向性とは若干ズレていることに、永琳もようやく気付き始めた。
輝夜は、あの不死の娘を少なからず好んでいたきらいがある。
悪意に近いものとはいえ、輝夜にあれほど激しい感情をぶつけてくれる相手など、藤原妹紅以外に有り得ない。
かぐや姫にとって、彼女は絶対に壊れない、至上の遊び相手であるはずなのである。
それを滅するとは何のつもりか? 
永琳にすら容易ではない荒行を、出来る気がする、とはどういうことか?
問い尋ねようとしたが、すでに輝夜の姿はどこにもなかった。

永琳は、改めてさとりのサインに目をやってみた。
……自分には何の感慨も起こらない。ただの達筆な文字でしかない。
あの姫に一体どういう効果を齎したのか。さしもの天才にも理解出来なかった。








―――それから輝夜は三日三晩、永琳のラボに篭もり続けた。
これでは前と何も変わらないではないか、と頭を抱える兎たちの嘆きなど目もくれず、輝夜はただひたすらに研究に没頭した。
そして、そしてついに。

「完成したわっ! 不死者でさえ圧倒する究極の呪文をっ!」

両手を天に掲げ、輝夜は哄笑をあげた。
着衣は薄汚れ、艶のある自慢の黒髪もボロボロに痛み、目の下には濃いクマが出来ている。
そんなことにはかまわず、輝夜は屋敷を飛び出し、満天の星空へと躍り立った。
無論、我が宿敵と決着をつける為にである。
蓬莱人の気配を感じ取ったのか、彼女の家に辿り着く前に妹紅とかち合った。
竹林の夜空の中、二人の少女の視線に火花が飛び散る。

「……最近顔を見せないと思ったら、ようやくその気になってくれたのね。嬉しいよ輝夜。―――さあ! 殺り合おうか!」
「ガンガンいこうぜ!」
「はっ? な、何言ってんだコイツ」

紅い瞳と背後に闘志の炎を燃やし、意気揚々と吼える妹紅の鬨に対し、輝夜の叫びはやる気を萎えさせるには十分すぎるほどに間が抜けていた。
妹紅は、先日永遠亭に奇襲を掛けに行った際、薬師に言われたことを思い出していた。

『私のせいなんだけど、あの子少しおかしくなっていてね。貴方も今は姫に関わらない方がいいわよ』

……確かにおかしいかもしれない。
身だしなみには特に気を遣う輝夜なのに、今の彼女は見る影もないほどに薄汚れている。
言動もアレだし、今日のところはお流れにした方がいいかもしれない、と妹紅が迷っていると。

「フッ。隙だらけよ妹紅! 私が編み出した新呪文で跡形もなく消え去るといいわっ!」
「お、おい。ちょっと待て!」
「―――ニフラムっ!!」


……その後、彼岸を漂っている、怒りに狂った妹紅の魂を見たとか見なかったとか。
ピロリン♪ チャララチャッチャッチャッチャー♪ かぐやのレベルがあがった!

え? ニフラムじゃ経験値がもらえない? そうですか……。
発泡酒
コメント



1.aho削除
てっきりザキかと思ってたのにw ああでも蓬莱人には効かないのか……
っていうかニフラムでこんなあっさり消えるってことは、蓬莱人ってアンデットモンスターだったんですね!
それとも妹紅のレベルが輝夜より低かったのか……なんにしても酷い話ですw
2.名前が無い程度の能力削除
こうして遊び人は賢者に転職する訳ですね
3.名前が無い程度の能力削除
ニフラムは自分より弱い敵にしか通用しないので、妹紅に失礼だと思いますw

あとこれは真面目な感想なんですが、さとりの書が与えた影響が萃香と輝夜で異なる理由がわかりません。
そこの説明って大事だと思うんですが。
4.名前が無い程度の能力削除
あそびにんにさとりのしょをつかうとはなにごとか!
5.発泡酒削除
コメント返しです。

>1様 憧れのaho氏からコメント頂き嬉しいです。確かニフラムはアンデ以外にも効いたはずなんです!
    輝夜は悟りを開いて妙なパワーアップをしてしまった、という事で勘弁してくだされw

>2様 仰せの通りで御座います。もしかしてネタ被りしていました? パクリじゃない(ハズ)ですよ!
    皆さんのコメントで、私も色々な悟りを開けそうな気分です。

>3様 輝夜は悟りを開いてみょんな(ry
    賢者といってもその性格や口調は十人十色と判断したつもりでしたが、やっぱり不自然ですかね?
    同じようなご指摘やご感想が続くようであれば修正させて頂きます。ありがとうございました!

>4様 すみませんすみません。ほんの出来心だったのです!(違
    ありがちなネタだな、と突っ込まれずに済んで、胸を撫で下ろしている今日この頃で御座います。
6.名前が無い程度の能力削除
>それって地底にいるムツゴロウさんのこと? 
思わず吹いたww

つまり、輝夜はどこまで行ってもゲームから抜け出せないのですね。
7.発泡酒削除
コメント返しです。

>6様 いやー、どう見ても動物王国の住人でしょう彼女w
    遊び人っていったらもうお姫様しか思い浮かばなくて! 歪んだ愛故です。
8.名前が無い程度の能力削除
メドローアが来ると思っていたのに…

ニフラムかよw GJ
9.発泡酒削除
>8様 正直、もうコメント来てないだろうと思って投げっぱなしに(ry
    遅レスすみません、そしてありがとうございます! ポップは俺の嫁。