※弾幕ごっこがドッグファイトと化しています
「今日は何をお探しだい?」
「ウチの門番に贈り物を」
「じゃあこの櫛はどうかな。女性なら髪の手入れは気になるだろうし」
「…あれは何です?」
「あぁ、あれはね…」
今日も良い天気だ。
咲夜さんが来たら洗濯を手伝おう。
そんな事を考えてると館の中から皆が出てきた。
一体なんだろうか。
日傘を差したお嬢様にパチュリー様、咲夜さんも。
お嬢様が凛とした声で言う。
「美鈴。突然だけどプレゼントよ」
「私にですか?」
「咲夜が見つけたのよ。何だか良い物が見付かりそうな気がして香霖堂に行かせたの」
「あ、ありがとうございます!」
プレゼントって咲夜さんが台車で押してきたアレだろうか。
凄く大きいけど布が被せられていて中身は分からない。
「さ、布を取って頂戴」
咲夜さんが布を引く。
台車に乗せられていたのは鈍く黒光りする鉄の塊だった。
筒状の棒が6個、円盤型の板にはめ込まれている。
棒の後ろの部分から帯が出ていて四角い箱と繋がっている。
何だか強そうな雰囲気だ。
「これは…」
「咲夜、説明してあげて」
「香霖堂から聞いた話だと、これは外の世界の弾幕ごっこに使う道具で『M134』って名前らしいわ。別名ガトリングガン。目的は制圧射撃用ですって。壊れてたからパチュリー様と河童の協力を得て改造したのよ。まずこの箱ね、これは本来のバッテリーとか言う中身が壊れてたから貴女の気の力をそのまま弾幕に変換出来る装置と取り替えたの。早速背負ってみて」
背中に当たる部分に魔方陣が描かれているようだ。
言われたとおりに背負ってみる。
意外と軽い。
妖怪の私にとってはだが。
「弾幕はこの筒から出るんですか?」
「えぇ。二つある上の取っ手を握ってみて。後ろの取っ手の方に発射ボタンがあるわ。」
早速取っ手を握って動かしてみる。
大きさの割りに軽くて扱いやすそうだ。
「似合うわよ美鈴。大きい人が大きい武器を持つと絵になるわね」
パチュリー様が嬉しそうに言う。
自分も何だかこんな大きい武器を持ったせいか強くなった気がする。
「香霖堂の店主は『本来の用途は据え付けて使うもので、人間が持つのは不可能』って言ってたけど美鈴なら全然問題無さそうね。威力は一緒に売られてた外の世界の弾と、河童たちが見積もった発射速度からパチュリー様が計算したの。外の世界にあった時と同じ威力が出るはずよ」
「どれぐらい早いんですか?」
「河童たちは改造したから毎分6000発の弾幕を形成できるって自慢してたわ」
そりゃ凄いです。
人間の目には見えないぐらい高速なのは確実ですね。
「でね、撃つ時は気を込めてね。そうすると自動で安全装置が外れるから後はさっきのボタンを押すだけ。操作はそれだけよ。簡単でしょ?河童たちがやたらメンテナンス要らずって点も強調してたわね」
なんだか凄すぎて怖いんですが。
でも簡単な操作というのは魅力的だ。
大昔、方天戟の訓練した時は時間かかりましたもん。
「じゃあ美鈴。私に試し撃ちしなさい」
お嬢様が興味津々と言った顔で言う。
流石に自分の主を撃つなんて気が引ける。
「お嬢様自らなさらなくても。その辺の岩に撃ちますから」
「良いじゃない。外の世界の弾幕も見たいし」
「…分かりました。では撃ちます」
お嬢様に正面から向き合う。
他の皆には念の為下がってもらう。
「では…いきます!」
ボタンを押すと同時に低音で巨大な虫の羽音のような轟音が響く。
筒の先から炎まで出ているようだ。
そして弾はお嬢様の顔面に命中。
お嬢様が縦方向に回転しながら吹き飛ぶ。
…吹き飛んじゃった。
「「お嬢様!」」
「レミィ!」
慌てて皆で駆け寄る。
良かった。
顔に目立った怪我は無い。
「痛い…」
「大丈夫ですか!?何処が痛みます!?」
「心が痛い…この威力、節分にフランからぶつけられた豆と同じよ…」
嫌な思い出が蘇ってしまったようだ。
「あぁ、お嬢様…つらい時はいつでも私の胸をお貸しします」
「ありがとう咲夜…」
二人がひしと抱き合う。
完全に二人の世界に入ってしまった。
「美鈴、これで威力は分かったでしょ?今日から使ってね」
パチュリー様が完全に二人を無視して話を進めだした。
「は、はい!大事にします!」
当然だ。
皆が私の為に作ってくれた武器。
想いの詰まった武器は何よりも強い。
そして二人が庭の日陰でちゅっちゅし始めていた。
見なかったことにしよう。
次の日、黒白がやってきた。
すぐにM134を背負い迎撃に向かう。
「何だ?随分ご大層なマジックアイテムだな」
「今日は通さないわ!」
構えて射撃を開始する。
黒白がすぐさま回避行動に移る。
「反応早いわね!」
「初めて見る武器だからな。警戒して当然!」
やはり早い。
この武器は弾速は速いが範囲が少々狭い。
的としては小さい黒白には当てにくいようだ。
私は背後を取ろうと旋回しながら撃つ。
「おぉ!?今日は随分動き回るんだな」
もちろん考えあっての事だ。
負けず嫌いの黒白なら張り合って同じように私の背後を取ろうとするだろう。
やはり私と同じように旋回し始めた。
「いつもマスタースパークじゃ芸が無いからな。そっちも新しい武器だし今日はブレイジングスターでいくぜ」
私の後ろを取って無防備な背中に一撃当てるつもりのようだ。
かかった!
黒白の弱点はさっきの旋回運動で再確認出来た。
彼女の加速とトップスピードは幻想郷でも最上位だろう。
平均的な天狗のスピードなんて軽く凌駕している。
だが彼女は推力変更が苦手で小回りが利かない。
事実、先ほどもかなり大回りだった。
高速で飛びながら、あえて後ろを取らせてスペルカードの宣言を待つ。
宣言の声が聞こえた。
「貰った!」
私はその瞬間急上昇を開始する。
「え!?」
黒白が驚いている。
人間がこんな機動を行えば体にかかる負担は致命的だろう。
妖怪もただでは済まない。
だが私は頑丈さが取り得だ。
急上昇した私に反応出来ず黒白が私を追い抜いて行く。
私は上昇を止め降下し、そのまま元の位置に戻る。
黒白の背後を取る位置だ。
ちょうど射線の延長上に黒白は居る。
そしてそのまま全力で撃ち込む。
黒白が避けきれず弾幕を受けて墜落する。
勝利の喜びも束の間、ふと我に返る。
しまった。
やり過ぎた。
慌てて黒白の墜落地点に向かう。
黒白の惨状が予想できる。
門のすぐ近くで墜ちた黒白を発見。
想像通りの目を覆いたくなる事が起きてしまった。
黒白はやはり全裸で大の字になって伸びてしまっている。
予想通りの酷い事態だ。
女の子がこんな格好で。
すっかり失念していた。
彼女は妖怪と互角以上に戦うために魔力で筋力を強化し、体中に障壁を張り巡らせているが、それは生身の部分だけで衣服には及んでいないのだ。
毎分6000発の弾幕は彼女の服を綺麗に剥ぎ取ってしまった。
全裸の女の子に近づく妖怪。
どう考えてもまずい。
どう考えても私がヤバイ。
黒白が気絶しているのが不幸中の幸いだった。
今の内に彼女を門番の詰め所に連れて行かなければ。
咲夜さんに訳を話して服を貸してもらおう。
そして黒白を抱きかかえようと手を触れた瞬間背後から声がした。
「めめっめっめ美鈴さん!?あ、あんた一体何してるんだ!?」
やっばああぁぁぁっ!
この声はいつも来る豆腐屋のおじさん!
今日はおじさんが行商に来る日だった!
これはどう言い訳すれば!
このまま帰せば今までコツコツ築いてきた里での「優しいお姉ちゃん」のイメージが崩れてしまう!
「違うんです!これは不慮の事故なんです!」
叫びながら振り向いた途端、筒の先がおじさんの方に向いてしまった。
またミスった!
「ひえぇ」
おじさんが危険な武器だと判断したのか慌てて逃げ出す。
追いかけて誤解を解かなければ。
「ち、違うんです!逃げないで下さい!」
「じゃあ何でその変な武器振り回して追っかけてくるんだあぁぁ!」
またミスったあぁぁ!
非常にまずい。
どんどん誤解が進む。
M134を外している間におじさんは逃げてしまった。
逃げ足速ぇぇ。
「どうしよう…」
頭を抱えていると今度は黒白が目を覚まして起き上がった。
悲鳴が上がる。
終わった。
私の評判が。
その日から「紅魔館の門番は男を見ると鈍器を振り回して殴りつけ、女を見ると服を無理やり脱がせる」と噂が流れるようになった。
「だ、誰も門に来ない…」
「流石です!お嬢様!一人の犠牲者も出さずに恐怖の門番として美鈴が名を轟かせるなんて!」
「私の能力を持ってすればこんなものよ」
「ありがとう、レミィ。これで私の紅が狙われる心配は無くなったのね」
「もっと褒めても良いのよ」
>私の紅が狙われて持って行かれる心配は
誤字なのかシャレなのか…?
面白かったです。きっとガトリングガンは回転スペルのように弾幕ごと避けるタイプの攻撃なのですね。
「意外と軽い」のは、美鈴にとっては軽いということですか?
障壁越しとはいえ、なんてものを生身の人間に撃ち込みやがるw
次は魔理沙が箒ではなくてパンツァーファウストにまたがってリベンジですな!
どうでもいいけど、撃ちたて熱々のガトリングガンの砲身をどう持ってるのかは知らないけど、衣服が焦げるぜ…
ご指摘ありがとうございます。修正しました。
>2.様
「私の紅を持って行かないでー」です。はい。
>3.様
ドッグファイトと化してます。
>4.様
求聞に出てきた豆腐屋さんは勇気ある人だと思います。
>5.様
まぁ、その辺は気で撃ってるって事で…