『椛が覆面をかぶりました』『ベルト』等のお話を引き継いでおります
つまり、幻想郷にプロレスが流行っているというお話です
あいも変わらず、脇役の世界のプロレスです
プロレス嫌いな人、脇役が嫌いな人は…
苦情だけは書かないで?お願い
後、香霖がかっこいいです
では、覚悟の上でお話をどうぞ
妖怪にとっては数年と言うのは短い時間
それは人間にとっては長い長い時間
だが、半人半妖の僕にとって…数年はブランクに入るのだろうか?
(なあ、香霖はお店に来る前は何をしていたんだ?)
ああ、懐かしい夢だ…僕が霧雨の親父さんの所で
修行させてもらっていた時の記憶か
(…人には言えない事かな?)
(なんだよ…人でも食べていたのか?)
そうだ…この頃から魔理沙は僕に懐いてくれた
(もし、そうだとしたら魔理沙は僕から逃げるかい?)
普通の人なら逃げていくだろう
(香霖は人間を食べるような奴じゃないぜ)
(もしかしたら、君を食べるかも知れないよ?)
そう言って、僕はその話を煙に巻こうとしたっけ
(大丈夫だ、香霖はそんな事しないって私が保障するぜ!)
(…まったく、魔理沙にはかなわないな…)
ああ、その台詞が僕には嬉しかった
だからだろう…つい、魔理沙に昔の事を話してしまったのは
(いいかい?魔理沙…僕はこのお店に来る前は…)
「…懐かしい夢だったな」
数年前の事を妖怪の尺度で懐かしい事と言えば良いのか
それとも、少し前と言うのか…それはどうでもよかったが
それと同時に、商人をする前の自分の事を少し思い出してしまった
「…忘れよう…」
思い出してはいけない物もある
自分がかつて悪魔と罵られていた事は
(がらがらがっしゃ~ん!)
ベッドの上で昔の事を懐かしがっていた僕の耳に
困ったお隣さんが、お店のドアが吹っ飛ばす音がしてきたので
ため息をついて、お店の中に向かう事にした
「君はまともにドアも開けて入ってこれないのかい?」
「まあまあ、細かい事は気にしないでくれ」
ドアを破壊された事は細かい事ではないが
魔理沙がドアを破壊するのは何時もの事なので諦める
「それよりも、朝ご飯まだだろ?」
まあ、朝ご飯を作りに来てくれたみたいだから
僕も無下に帰れとは言えない
「一人分よりも二人分の方が美味しいぜ」
「…それで?本当の事は?」
「…味噌貸してくれ」
「わかった、奥に白味噌があるから使ってくれ」
僕はそう言うと、お店のドアを直しに向かった
「そうだ、大切な事を言い忘れてたぜ」
お店のドアを直して、魔理沙と一緒に食事を取っている時に
魔理沙が何かを思い出したかのように声を出す
「どうした?八卦炉の整備はまだ早いと思うが」
「違うぜ?まあ、また持ってくるけどな」
それ以外の事になると、何か厄介な事かもしれない
僕が身構えていると、魔理沙が口を開いた
「今度私も新団体を作り上げる事にしたぜ」
その言葉に僕は口に含んだ味噌汁を噴出しそうになった
今、幻想郷では弾幕以外にプロレスが流行っている
ちょっと前までは、紅魔館の門番隊と永遠亭の方で密かに行なわれていたが
現グリーンカラーシスターズの会長である魅魔が新たに作った
『幻想郷ジュニアヘビーベルト』と現チャンピオンである『ムシキングリグル』のおかげで
今では、里の方で子供達から大人まで、幻想郷でのプロレスを楽しんでいる
「ちょ、ちょっと待て…新団体を作るって…」
だが、その中で新団体を作ると言うのはかなり難しい
先に作った団体の方にいろんな人が見に来るからだ
新たに作った新団体の方は、それを上回る何かを持ち出さないと人は来ない
「おう、すでに新団体にアリスとパチュリーも加わってもらっているぜ」
だが、魔理沙は面白そうにしているだけである
どれだけ辛いかという事を知らないのに…
「…君は自分の事がわかっているかい?魔理沙」
「な、なんだよ…急に…」
僕の声に、魔理沙も少し驚く
だが、それでも言わないといけない
「パチュリーやアリス等がプロレスをやるのは別に構わない」
彼女達はあれで居て強者だ
ある程度の事なら、難なく対処できるだろう
「だが魔理沙、君がプロレスをやるのなら僕は反対する」
だが、魔理沙がプロレスをすると言うのなら僕は全力で反対する
「な、なんでだよ!?」
なぜならそれは…
「君が人間だからだよ」
脆い肉体の人間だからだ
「れ、霊夢だってやっているじゃないか」
「君と霊夢では格が違う、霊夢は妖怪退治のプロだ!それがプロレスでも意識下で働く」
故に博麗の巫女なのだ、巫女とは孤高の存在なのだ
「今からでも遅くない、過ぐにやめ…」
(ぱーん!)
気がついたら僕は魔理沙に顔を叩かれていた
「…もういいぜ、香霖にはもう何も言わない」
僕の顔を叩いた魔理沙は下を向いて体を震わせていた
「…魔理沙」
「うるさい!とにかく私は勝手にやるからな!」
心底怒ったような口調で魔理沙はお店から出て行った
その時、目元が光っていたのは多分泣いていたのだろう
それから数日して、号外の新聞がお店に届いた
「霧雨魔理沙氏、新団体『ウィッチズ三銃士』を立ち上げる」
「『デンジャラスA』アリス・マーガトロイドと『図書館の帝王』パチュリー・ノーレッジも参戦」
「魔理沙氏『プロレスはパワーだ!』と言葉の確信」
とりあえず、僕が見たのはそれよりも一番下
「試合予定…天魔会長のジムと試合が決まっている」
(不味いな…)
思わず舌打ちした…
妖怪の山の選手と言えば『ザ・グレート・あやや』
『スペル・ティグレ・モミジン』の両名が居る、そのどちらもスピードが速い
(人間である魔理沙が優位に立てるのはスピードだって言うのに!)
しかも、これが初の試合のはず、こんな大物相手だと
見せ場もなく瞬殺されかねない
(…どうする?)
本来ならそれで放って置いても仕方が無い
一応、僕は魔理沙に忠告をしたのだ
だが、下手すれば大怪我する事は必死である
(何とか…止められないか…)
人が来ないお店の中で必死に考える
そのうち、考えているうちに僕は椅子の上で眠りについていた
(いいかい?魔理沙…僕がお店に来る前まではね…)
ああ、あの夢の続きか…
(何をしていたんだ?)
…何も知らない魔理沙は面白そうに聞いている
(そうだね、まず始めに言わなきゃならない…)
どれだけ、僕が周りの人から怖がられていたかを
(魔理沙…僕はね…覆面レスラーだったんだ)
『レスラー殺し』
幾人もの相手を試合で再起不能にしてきた
名前を狙って、襲い掛かってくる者も少なくなかった
だが、あるとき気がついた…それがどれだけむなしい事かを…
(香霖がレスラー?あはは、面白い嘘だ)
ああ、笑ってくれた方がいい…もう二度と戻る事はない
ただ、相手を倒す事だけを考える戦いは
(じゃあ、私がピンチの時には香霖に助けてもらうことにする)
…そうか、誰かを守るために戦うか…
(ああ、そうだな…魔理沙がピンチの時にはせいぜい壁位にはなる事にするよ)
そうだ…やはり昔なのだろう…こんな事まで忘れてしまうなんて
「…よし…」
夢から覚醒した僕は、お店の前に『しばらく休業します』の看板を立掛ける
そして、お店の中に戻ると、自分が座っていた椅子をどけ
その下にある床を外す
「…よもや、もう一度この中に入る事になるとはな…」
そこには、人が一人通れる位の縦穴が…
(試合までの時間は…少ないな…)
急いでその穴を降りる
そして、降り切った先にあるのはボロボロになったトレーニング機材
「急ピッチで仕上げる…多少の無茶は承知の上だ」
眼鏡を外すと目の前にある軽めのバーベルを持ち上げる事を始めた
「…なんだよ…香霖のお店はまだお休みなのか」
試合の日にちが近づく中、魔理沙は香霖堂の前に来ていた
だが、ここ数日はお店の看板は『臨時休業』の文字しかかかってなかった
(せっかく謝りにきたのに)
後になって、考えればあれは自分が悪い
(わかっている…人間の私だと怪我をしやすい事なんて)
霖之助は自分を心配してくれただけなのだ
こんな事しているよりも、試合の事を考えるのなら
アリスとパチュリーと一緒に特訓する方が良い
それでも、魔理沙は毎日、香霖堂の前に通っていた
「ふん、居ないのなら帰るぜ」
誰も居ないお店の前で魔理沙はそう呟くと、箒に乗らずに
走り込みでアリスの家に向かっていった
(香霖の馬鹿…せっかく謝りにきたのに)
そうしている内に、遂に試合の日がやってきた
「結構大きいわね」
試合の経験が多いアリスが妖怪の山の特設リングを見てそう呟く
「…大きさなんて関係ないわ」
喘息…そんな身体の弱点を抱えながらも外の世界から来た本に書いてあった
喘息を抱えながらも戦う『怖いもの知らず』と呼ばれる男に感動して
プロレスをする事をきめたパチュリーがそれを見て呟く
「……」
「魔理沙?」
そんな中、一人だけ何も言わずにじっと、
リングを見ている魔理沙にアリスが声をかける
「あ、ああ…なんでもないぜ」
「そう…ならいいんだけど」
アリスも魔理沙が試合前で緊張していると思っていたので
別段なにも思わずに、選手の控え室に向かった
(…香霖…見に来て居ないんだな)
魔理沙がそう考えるが、自分の頬を軽くパンパンと叩くと
「ふん、あんな奴どうでもいいぜ!」
魔理沙がリングから離れた
遂に、試合が始まる時間が来た
妖怪の山の選手は謎の覆面レスラー
『スペル・ティグレ・モミジン』『ザ・グレート・あやや』
それと特別所属は違うが、この試合に参戦してくれた『鍵山雛』であった
それに対して『ウィッチズ三銃士』の面々は
デンジャラスA事、アリスマーガトロイド
図書館の帝王事、パチュリー・ノーレッジ
そして、今回が初試合になる霧雨魔理沙であった
「…いってくるわね」
「行ってらっしゃいパチュリー」
「おう、勝ってこいよ!」
アリスと魔理沙の激励を受けてパチュリーがリングの上に上がる
「雛さん、頑張ってください」
「かっこいい所、ばっちり収めますからね」
「もちろん…でも、写真はやめて恥ずかしいから」
一方、雛も覚悟十分でリングの上にあがる
「赤コーナー!グリーンカラーシスター所属!鍵山~ひ~な~!」
独特の回転をしながら、雛がリングの上に現われる
その登場に、ファンのみんなから拍手と歓声が沸きあがる
「青コーナー!ウィッチズ三銃士…パチュリ~ノーレッジ~!」
病弱と呼ばれているパチュリーがリングに上がると
雛にも負けない歓声が起こる
「…貴方が厄神ね?」
「ええ、あまり近づかない方がいいわ…」
「でも近づかないと投げれないわ」
「…とりあえず、よろしく」
リングの上で二人が挨拶をすると同時に
(カーン!)
試合開始のゴングが鳴った
試合の結果は引き分けに終った
だが、パチュリーが試合開始に即座に放った
エベレストジャーマンは、この試合の中での一番の見せ場であっただろう
「むきゅ~…喘息が出なければ…」
「よくやったわパチュリー…」
「ああ、喘息が無ければお前の勝ちだったぜ」
喘息が出始めたパチュリーがとっさの機転で雛を連れたまま
場外に飛び出して、意地をかけたパチェスペシャルで両者リングアウトになった
「…面目ないわ」
「わう、相手も強かったですよ」
「あやや、意外でしたねパチュリーさんがあれほどのやり手だとは」
妖怪の山選手陣も、少し驚いていた
そして二回戦目
「覆面ね…まあ、誰が相手でも全力で行くだけね」
「…(ど、どうしよう?か、勝てる気がしませんよ~)」
デンジャラスA対スペル・ティグレ・モミジンの試合だが
正直に言って、椛とアリスでは格が少々違っていた
試合はアリスが優位に進められた
「非情の顔面蹴り!」
「わう~(涙)」
開幕からのアリスの顔面蹴りが決まる
その後も、顔面ステップキックからの後頭部に踵落とし
水面蹴り等の、キック技のオンパレード
アリスの技の隙間を縫って椛も必死に抵抗をするが
「裏拳!」
渾身の後頭部裏拳の後のストレッチプラムが決まった際に
「あややや!雛さん!タオルタオル!」
「了解!」
セコンドからタオルが飛んだ
そして三試合目
霧雨魔理沙とザ・グレート・あややの試合になる
「…う~ん、正直言ってあまり気が進みませんね」
リングに上がったあややが魔理沙にそう声をかける
「なんだ?試合前から苦戦宣言か?」」
魔理沙があややに対して声をかけるとあややが首を横に振る
「いえ、苦戦宣言じゃなくて…」
(かーん!)
あややの言葉が途中の中、試合開始のゴングがなる
「先手必勝!」
それと同時に魔理沙があややにドロップキックを敢行する
それをまともに受けるあやや
吹っ飛ばされて、リングに倒れたあややに対して
魔理沙がエルボーを落とす
(なんだ、たいした事無いじゃないか)
魔理沙がそう思ってストンピングをきめる
「…やっぱり…」
「あん?」
倒れているあややが呟く、魔理沙がストンピングを一瞬止める
「私の相手としては物足りませんね」
「!?」
あややがため息をつきながら、魔理沙を足を掴むと
魔理沙の足を刈り、地面に倒す
そして、そのまま魔理沙の脇腹を狙って
「…せめて一発ぐらいは耐えてくださいね?」
(ミシッ!)
「あぐっ!?」
力を籠めたサッカーボールキックを放った
激痛に魔理沙が苦しむ
そんな魔理沙をあややが無理やり起すと
「まだ試合は始まったばかりですよ?」
魔理沙の両手で抱きかかえてリングに叩きつける
リングの中央で苦しむ魔理沙
その魔理沙を尻目にあややが高速でコーナに向かって走りこむと
「弾幕決闘ならいざ知らず!肉弾戦で人間が妖怪に勝てると思っているんですか!?」
そのまま、リングの上で倒れている魔理沙に向かって
ムーンサルトプレスを敢行してくる
(人間だから…?)
朦朧とした意識の中、魔理沙がその言葉で覚醒する
「ふざけんな!?人間を舐めるな!」
「!?」
動けないと思って完全に油断していたあややが驚く
そして、ムーンサルトプレスに対して
魔理沙が膝をつきたてる
「ぐぇっ!?」
流石に自分の体重の全てをまともにお腹に喰らったあややも
苦悶の表情で、リングにのた打ち回る
「うぐぐっ…」
だが、膝を立てた魔理沙もそれだけの衝撃を受けて
ただで済む筈が無い、結局お互いに痛み分けをする
両者がリングに倒れこんだ為に、レフェリーがカウントを取り始める
「1…2…3…4」
二人とも、リングで倒れこんでいたが
「あ、甘く…見すぎてました…」
ギリギリの所であややが立ち上がり
この勝負はザ・グレート・あややの勝ちになった
これで、一勝一敗一分となり
少しの休憩を挟んだ後に最終戦である
タッグマッチ戦を残す事になった
「魔理沙大丈夫?」
控え室の中で、アリスが魔理沙に声をかける
「…ああ、生きてるぜ」
何とか声を出す魔理沙だが雰囲気は沈んでいた
「次はタッグマッチね…ごほごほっ!」
パチュリーが声を上げるが、口元には酸素マスクをつけていた
やはり、喘息の身での試合は無茶があったのだ
「魔理沙…次の試合なんだけど」
「なんだよ?パチュリー」
「…アリスの代わりに私が出るわ」
パチュリーの言葉にアリスと魔理沙が驚く
「ちょ、ちょっと?いきなり何を言うのよ」
「そうだぜ!パチュリーは喘息で…」
パチュリーが驚く魔理沙とアリスを無視してアリスの腕を掴む
「いっ~!?」
「あ、アリス?」
尋常でない痛がりかたに魔理沙が心配そうにアリスを見つめる
だが、魔理沙が見てると気がついたアリスが
必死に痛がるのを我慢する
「…痛くないわ…」
「折れてるんでしょ?」
パチュリーの指摘にアリスが渋々頷く
「…何時の間に怪我をしたんだ?」
魔理沙の問いかけに、アリスが静かに答える
「…裏拳はなった時…」
モミジン戦の最後に放った裏拳が原因だった
「…すぐに治療しなさい」
「無理よ!パチュリーだって喘息で…」
アリスとパチュリーが言争う
「…私一人で十分だぜ」
「「魔理沙?」」
アリスとパチュリーが魔理沙の方を向くと
魔理沙は試合会場に続くドアに向かっていた
「ま、待ちなさい!貴方一人じゃ!」
「そうよ魔理沙!」
「うるさいな!怪我人は黙って治療に専念してろ!」
アリスとパチュリーを置いて、魔理沙が一人でリングに向かう
リングの上ではすでにタッグの相手である
『スペル・ティグレ・モミジン』と『ザ・グレート・あやや』
の両名が上っていた
「わう?魔理沙さん…タッグパートナーは?」
モミジンの言葉に対して、魔理沙が啖呵をきる
「うるさいぜ、お前ら二人ぐらい私一人で十分だぜ!」
「…魔理沙さん、あまり私とモミジンを舐めないでください!」
あややが怒ったように魔理沙に話しかける
「いいのか?ゴングが鳴るぜ」
(かーん!)
魔理沙のタッグパートナー不在の中
試合を告げるゴングが鳴らされる
観客も、それが何かのサプライズだと思って気にしていない
「うら~!」
一番始めに攻撃したのはやはり魔理沙だった
対戦相手である、モミジンにたいしてエルボーを敢行する
「わう~!」
それに対して、モミジンもエルボーを返す
そのまま、エルボー合戦になる
だが、魔理沙の方がやはり押される
(ぐっ…負けてたまるか!)
モミジンが放つエルボーを魔理沙がしゃがみ込んでかわすと
「行くぜ!」
「わ、わう~!?」
そのままモミジンを後方に投げ飛ばす
綺麗な投げっぱなしジャーマンであった
「行くぜ、追撃!」
投げっぱなした後、魔理沙が更に追撃をしようとする
「そうは行きませんよ!」
「うげっ!」
だが、その背後からあややがドロップキックを放つ
後方からの一撃に魔理沙が吹っ飛ばされる
(ち、畜生…)
吹っ飛ばされた魔理沙が起き上がるまでに
モミジンがすでにあややにタッチを済ませている
しかも、魔理沙が起き上がるのを待って
トップロープの上にあややが立っていた
「これで試合終了です!」
そして、起き上がった魔理沙に対して
あややがミサイルキックを放つ
「ま、まだまだ!」
それに対して、魔理沙が起き上がり
「カウンター顔面蹴り!」
「なっ?まだそんな力が」
あややの足に向かってカウンターのキックを放つ
空中でぶつかるあややと魔理沙
リング際で放ったその一撃によって
あややは、リングの中に落とされた
だが、魔理沙は場外に向かって吹き飛ばされる
しかも、落下地点には鉄柵が
その上に落ちる様子が魔理沙の目にゆっくりうつる
(ああ…香霖の言った通りだったな…)
朦朧とした意識のまま、魔理沙が鉄柵の角に
後頭部の部分からまともに落ちていく
観客からも悲鳴が上がる
(あ~…せめて香霖に謝ってから死にたかったぜ)
魔理沙も覚悟を決めて後頭部に来ると思われる衝撃に備える
(ポフン!)
だが、何時までたってもその衝撃がこない
(随分と長いな?)
魔理沙が不思議に思って目を開けると
「…謎の覆面レスラーだ…」
目の前に居たのは虎の仮面を模した
謎の覆面レスラーが自分を抱きかかえていてくれた
謎のレスラーの登場に会場がざわつく
「お前は…誰だ?」
魔理沙が驚きながらもそう声をかけるが
「……」
その覆面レスラーは何も言わないで魔理沙を下ろすと
魔理沙の手をタッチする
「な、なんだよ?」
「…助太刀する、しばらく座ってろ」
「なっ?」
突然の助太刀宣言に魔理沙が驚くが
そんな事を無視して、覆面レスラーがマットの上に上がる
「…なるほど、貴方がウィッチズ三銃士の切り札ですか」
先ほどの激突の衝撃から起き上がったあややがリングの上で
その覆面レスラーを待ち構える
「……」
だが、覆面レスラーは無言でリングの上に立つ
「無言ですか、まあいいです私の勝ちに変わりはありませんから!」
あややがロープの反動を使って
その覆面レスラーに体当たりを敢行する
(さて、どうでますか!?)
あややが目の前の相手を品定めするように放った一撃に対して
「……」
(回避しない?)
一切動こうとしないで、構える
(上等です!)
あややが動かない覆面レスラーの
お腹目掛けて体当たりを仕掛ける
「ふん!」
「えっ!?」
あややが驚愕する、確かに力を籠めてぶつかったのに
(どーん!)
「な、なんだ?あれは」
コーナーでその光景を見ていた魔理沙も驚愕した
ぶつかっていったあややが逆に吹き飛ばされたのだ
「な、なんて腹筋…」
「レスラーにとって、腹筋を鍛えるのは当然の事だ」
動揺が隠せないあややに対して、覆面レスラーが一言告げると
今度は覆面レスラーが、あややの方に走りこむと
ドロップキックを敢行する
「ぐっ、舐めないでください!」
あややがそれを両手でガードしようとしたら
その両足が首に巻かれる
(あややっ!?)
そしてそのまま、覆面レスラーが後方に一気に捻りかえる
綺麗なフランケンシュタナーであった
あややをリングに沈めると覆面レスラーは追撃をしないで
魔理沙の所に向かうと、無言で手を差し出す
「な、なんだよ…」
「…交代だ」
その言葉に、魔理沙がリングに向かう
そこにはあややに代わってモミジンが待っていた
「アシストは任せろ、君の邪魔はしない」
その言葉を聞いて、魔理沙が頷く
「よし!魔理沙様のプロレスを見せてやるぜ!」
リングの中央に向かって魔理沙がかけていく
先ほどの覇気の無い顔ではない
何時もの弾幕合戦をするようなすがすがしい顔であった
そこからは、魔理沙の動きは断然違っていた
ボディースラム、エルボー、ドロップキック等の基本的な技で相手を攻撃する
それに対して、モミジンも引けをとらない攻撃を繰り出す
フロントキック、トラースキック等で距離を測りながら時折関節技をかけようとする
だが、その度に、謎の覆面レスラーにカットされる
「モミジン!タッチしてください!」
回復したあややがモミジンと交代する
「さっきの私とは違うぜ!」
「ええ、動きが全然違います」
リングの上で、改めて魔理沙とあややが試合をする
「いくぜ!」「行きますよ!?」
魔理沙とあややがお互いにロープに飛び込んで
リングの中央に走りこむ
「ラリアット!」
あややが珍しいラリアットを敢行する
だが、それに対して魔理沙が放ったのは
「ジャンピングニーだぜ!」
お互いの膝と腕が空中でぶつかり合う
「あたたっ…」
流石に膝と腕ではあややの方が分が悪い
だが、魔理沙が放った膝は
「いっ~!」
先ほどの試合であややに放った剣山によって
怪我をしている方の膝であった
膝を抱えて、痛がる魔理沙に対してあややが攻勢にでる
「今の魔理沙さんでも、この一撃で!」
膝を抱えている魔理沙に対して
あややが再び渾身のサッカーボールキックを決めようとする
「喰らってたまるか!」
魔理沙がそのキックをギリギリでかわすと
あややの背後に回りこむ、そして両手で体を抱え込む
(後は投げ捨てれば…)
だが、その時魔理沙の顔が歪む
「ひ、膝が…」
度重なる膝への衝撃で、足の踏ん張りが利かないのだ
「ぐっ…投げられてたまるものですか」
しかも、あややが魔理沙のクラッチを切りに力を籠めている
その上、すぐにでもモミジンがカットに入ろうとするのが魔理沙に見えた
「今カットに…」
モミジンがリングに入り込んだ瞬間
何者かが、モミジンと魔理沙の間に入り込む
「邪魔はさせない」
覆面レスラーがリングに入り込んできたモミジンの膝の上に足をかけて
もう片方の足で顔の片側を固定、膝の上に乗せた足で顔をはさむ
一瞬の出来事であった
「シャイニングウィザード!」
まさに、閃光のような一撃がモミジンの意識を刈り取ると
「魔理沙!そのままクラッチに力を傾けろ」
「わ、わかった!」
魔理沙が言われた通りに、あややへのクラッチに力を籠める
そして、覆面レスラーが魔理沙を背後から抱きかかえる
「なっ?(こ、この感覚は)」
「そのまま力を緩めるな!」
「わ、分かったぜ」
覆面レスラーが魔理沙の体を抱きしめると
「ふん!」
あややと魔理沙の体重二つ分を強引にぶっこ抜いた
あややにジャーマンをかけようとした魔理沙事思いっきり後方に投げた
もちろん、魔理沙は地面にぶつかって居ない
あややだけが、リングに背中からぶつけられたのだ
「1…2…3!」
そのまま、ゴングが入り観客席から盛大な拍手と歓声と怒号が鳴り響いた
「魔理沙!」
「魔理沙…ごほっ!ごほっ!」
リングの上にパチュリーとアリスが上がってくる
「よお…何とか勝てたぜ」
リングの上に三人がそろう
「所で魔理沙…あのレスラーは誰?」
「そうね…魔理沙の事を知っていたみたいだけど」
アリスとパチュリーが魔理沙に詰め寄るが
気がついたら、謎の覆面レスラーはリングから姿を消していた
「…そうですね、私も話のネタに…」
「わう、私も…」
ついでに敗れたあややとモミジンも現われる
「でも、その前に観客に挨拶しないとね」
背後から現われた雛の一言で皆一斉にリングに並ぶ
そして、観客に向かって全員が挨拶をすると
観客達の拍手が会場を埋め尽くした
試合が終った後、魔理沙は永遠亭に運ばれた
やっぱり膝に負担がかかっていたのだ
幸い、そこまで酷いものではないが念のために入院と相成ったのだ
「で?結局あの覆面レスラーは一体誰なの?」
「だから…私にも分からないんだって」
そして、覆面レスラーの正体は結局誰にも分からないままだった
アリスとパチュリーが魔理沙に質問をするのだが
魔理沙も分からなかった
「そんな貴方に良い情報がはいりましたよ!」
そんな時、射名丸文が魔理沙の入院している部屋に入ってきた
「もう、前の試合のおかげで文々。新聞が大繁盛しています」
「じゃあ、ただでくれ」
「う~ん…まあ、魔理沙さん達のおかげですし…わかりました」
文が魔理沙に新聞を手渡した
『謎の覆面レスラー乱入!?』
『一瞬の早業、閃光の魔術』
『幻想郷にまだあのようなレスラーが眠っていた?』
「…なんだよ、結局正体が分からないじゃないか」
魔理沙が呆れたように文に文句を言うと文が指を振る
「これは妖怪の山でも、機密ですから誰にも言わないでくださいね?」
そう声をかけてから、文が話を始める
「天狗の頭領である天魔様が昔の話をしてくれたんです」
レスラー殺し…かつて神綺や魅魔、風見幽香が第一線を張っていた頃
レスラー殺しと呼ばれる覆面レスラーが居た
相手の技を受けず、相手の見せ場を見せず
正統派の技も極悪な凶器攻撃もこなし
一点集中の技を使いこなす伝説のヒールファイター
「そんなレスラーが居たのか」
「でも、どんな歴史書にもそんなレスラー聞いたこと無いわよ?」
パチュリーがそう口に出す
「いえ、どうも随分と昔の事と、表舞台に殆ど出なかったみたいで」
「表舞台にでない?」
それほどの技術を持ちながら、表舞台に一切出なかった
「じゃあ、なんでその情報を天魔とやらは知っていたの?」
アリスの言葉に、文が答えた
「どうやら…一度リングの上で戦った事があるらしくて…」
その言葉に、周りのみんなが唖然とする
天狗の頭領と呼ばれる人物と戦ったとは…
「そ、それで?どうだったんだ?」
「え~と…此処からが機密なんですけど…」
天魔様が気絶させられたそうです
「わう…それがあの技でしたか」
「うむ…随分技の切れは落ちていたが…間違いない
あの、閃光の魔術があやつの得意技じゃ」
文が魔理沙の所に言っている間
天魔が椛の顔に氷嚢をあてがっていた
「わう…でも、わざわざ天魔様が私なんかに…」
「馬鹿を言うな、あの技の恐ろしさはワシが良く分かっておる…一晩熱を持つはずじゃ…」
「わう…」
椛がため息をつく…
一応、天魔自らの密命のため、椛は何処かに行っている事になっているが
実際は天魔の隠れ家で手当てを受けていた
覆面レスラーの正体をばらすわけにはいかないからだ
「ワシも意識を刈り取られたからのう」
「て、天魔様もですか!?」
椛の声に、天魔が頷いた
「…しかし…もう随分と音沙汰が無かったのに…一体何故今更表舞台に?」
「わう~…」
そればかりは、天魔でも椛でもわかりっこないだろう
「へっぷし!…やはり、無茶は良くないな」
香霖堂の椅子の上で、霖之助がくしゃみをした
(もう二度とプロレスなんてやらないぞ)
全身の筋肉痛に悩まされながら、霖之助はそう誓った
いや、ホンマに面白かったですw
流石脇役さんw
あと「恋人の祟り神(後編)」楽しみにしてます
だからこそ!蜜柑・・・じゃなかった。未完の作品達の続きを読みたいっ!
ってなわけで「特命門番」を筆頭にお待ちしております。
香霖がパワータイプと試合をやるなら是非!是非タイガースピンを!