早朝、レミリアの私室、まずは咲夜が音も無く入ってくる。
「お呼びですか。お嬢様」
「ええ」
部屋の中央に置かれたテーブルセットに腰掛けて、レミリアは赤く染まった瞳を咲夜に向けた。
咲夜がこのような早朝に呼び出されるのはついぞ無いことであり、胸中は穏やかならない。
未だ薄暗い空からは真っ赤な満月が落ちようとしている。
「戦いが」
レミリアは一旦区切って、咲夜の顔をじっと見据えた。
咲夜は半歩部屋に入り込み扉を閉めたきり、レミリアから目を反らせず身動きが取れずにいた。
「戦い」。まるで意味が分からない。
「戦いが始まろうとしているの」
咲夜はますます、レミリアから視線を外せない。
「は。戦いが」
「分からなかった?」
咲夜はもどかしく唇を噛み締める。
まるで意味が分からないのだ。
戦いといっても、弾幕ごっこが浮かぶばかりである。
「弾幕ごっこ、ですか」
そして、レミリアは伏し目がちに答えた。
「どうしてそう思ったの」
元々、大した考えも無しに発した一言である。
理由など説明出来るはずもない。
きっと、レミリアが自分に何らかのヒントを与え、そこから何らかの答え。ひいては何らかの余興を見出そうとしているのではないだろうか。
と、咲夜は考えるが、これにも今ひとつ確証が持てず口ばかりが動く。
「それは、私にはそう感じられたからです。それに、昨晩は満月でした」
「そういうことじゃないの」
心臓にどくり、どくりと血が流れ込んだ。
もはや考えはないのだが、それを見透かしたかのようにレミリアは話す。
「もっと具体的な話し。ごめんなさい、ヒントが少なかったみたいね。私のミスね」
「いえ」
良かった。自分が馬鹿な訳ではなかったのだ。
レミリアの苛立った表情からは、確かに早朝に呼び出すなりの理由を感じ取れた。
「実はね、私。追われてるの」
「は」
これまた、何とも具体とも何ともつかぬ話しが出てきた。
今までにもレミリアと会話する上で彼女の聡明さを感じる機会は多かったが、それは話しの分からぬ自分のような人間にも分かりやすく理解させてくれるからこそであった。
このようなポエムめいたものではない。
「誰にですか」
「満月に」
吸血鬼にとっての具体的な話しというのは、こういうことなのだろうか。
「朝が来るとまずいということですか」
「そうよ」
何だ、この程度の話しか。
「朝が来たら、私は死ぬの」
やはり寝ぼけて自分を呼んだのであろうか。
「でも、お部屋に光は差し込まないではありませんか」
「私はね。分厚いカーテンや扉に関わりなく突き抜けてくる悲しみの話しをしているの」
今度は何の隠喩か。お化けや幽霊の類だろうか。
レミリアは更に苛立たしげに机を叩いた。
「あの、紅茶を」
「紅茶ですって? 紅茶なんてものはね」
今まで、無表情を取り繕っていたレミリアの牙が剥き出しになる。
気を利かせた故の一言で、更にまずい方向へ向かったらしい。
「紅茶は悪魔よ。私なんかよりよっぽど。あんな悪い物はありません。セイロン島に血の雨」
「ああ、その、詩ですね。詩」
「話しが逸れたから分からなくなってしまったのよ。実は紅茶は関係ない。詩はもっと関係ない。大体あなたが悪い。今、何時かしら」
咲夜はレミリアに小馬鹿にされたような気分になって、懐中時計を取り出す。
「4時半です。レミリア様、私はこんな早くに呼び出されたのは、何か大事なのではないかと」
「そう。一刻の猶予もないわ。すぐに行動を開始しなさい」
咲夜はどうしていいのか分からず、いたずらに服の中のナイフをまさぐった。
「あの。もしかして、何か私には言えない事情があるとか」
咲夜は、窓に歩み寄る。
もしかすれば、レミリアの隠されたSOSではないだろうか。
「違う、咲夜。敵はいない。いるとすれば、満月が一つ。沈めば私も沈む」
念のため窓を開けて確認するが、煉瓦塀と月と星と太陽が見えるばかりである。
部屋に入ったときより、心なしか明るくなったように思える。
風が冷たかったので元通りに窓を閉め、カーテンも閉める。
「カーテンを閉めました。月は沈みません」
「違う」
先ほどよりも、声に刺々しさが含まれている。
「そういうことではない。ちゃちなポエムの話しをしているのではないわ。もっと、切実な話しをしているの」
咲夜は見透かされて、自分の浅はかさを後悔する。
「分かりません。お嬢様、私は愚鈍の人間です。どうか手がかりを。あなたは助けを必要としているのですね?」
レミリアは頷いた。
「咲夜、いい? 大声で騒ぎ立てるようなことではないの」
子供に諭す調子である。
「いいえ、大声で騒ぎ立ててはいけない。彼らはね、確実に私の心臓を射貫くのよ。私はこれ以上恐ろしいことはない、と思っているの」
「弓矢ですか」
「違うわ。武器の話しではない」
「では」
咲夜は再びレミリアの顔を見る。その顔は悲しげに見えた。
「血がたくさん流れたの」
「血ですか」
またもや、新たなワードが出現した。
「拭いても、拭いても、止まらない。分からない?」
「分かりません」
咲夜はもう、半ば諦めかけている。
「彼らはそっと、私に忍び寄ってくるわ。だから、これを分かってくれる人でなくては対抗出来ないの」
「はい」
「あなたは駄目だったわ。パチュリーを呼んでちょうだい」
がくり、と咲夜はうなだれた。
次にパチュリーが部屋に入ってくる。
「パチェ」
「こんな、早く部屋に呼び出すなんて、あなた」
「戦いが始まるの」
パチュリーは深く頷いた。
レミリアも深く頷いた。
言葉ではない。親友同士であるからこそ分かり得るのだ。
「分かってくれる?」
「ええ」
レミリアはパチュリーに駆け寄り、抱きついた。
「もう、大丈夫よ。レミィ。私が何とかしてあげる」
「良かった。私、本当に恐かったの」
レミリアは微笑んだ。
「ええ。本当に辛かったのね」
パチュリーはベッドの掛け布団をまくり上げた。
「寝小便もらしたのね」
「おねしょと言って」
「お呼びですか。お嬢様」
「ええ」
部屋の中央に置かれたテーブルセットに腰掛けて、レミリアは赤く染まった瞳を咲夜に向けた。
咲夜がこのような早朝に呼び出されるのはついぞ無いことであり、胸中は穏やかならない。
未だ薄暗い空からは真っ赤な満月が落ちようとしている。
「戦いが」
レミリアは一旦区切って、咲夜の顔をじっと見据えた。
咲夜は半歩部屋に入り込み扉を閉めたきり、レミリアから目を反らせず身動きが取れずにいた。
「戦い」。まるで意味が分からない。
「戦いが始まろうとしているの」
咲夜はますます、レミリアから視線を外せない。
「は。戦いが」
「分からなかった?」
咲夜はもどかしく唇を噛み締める。
まるで意味が分からないのだ。
戦いといっても、弾幕ごっこが浮かぶばかりである。
「弾幕ごっこ、ですか」
そして、レミリアは伏し目がちに答えた。
「どうしてそう思ったの」
元々、大した考えも無しに発した一言である。
理由など説明出来るはずもない。
きっと、レミリアが自分に何らかのヒントを与え、そこから何らかの答え。ひいては何らかの余興を見出そうとしているのではないだろうか。
と、咲夜は考えるが、これにも今ひとつ確証が持てず口ばかりが動く。
「それは、私にはそう感じられたからです。それに、昨晩は満月でした」
「そういうことじゃないの」
心臓にどくり、どくりと血が流れ込んだ。
もはや考えはないのだが、それを見透かしたかのようにレミリアは話す。
「もっと具体的な話し。ごめんなさい、ヒントが少なかったみたいね。私のミスね」
「いえ」
良かった。自分が馬鹿な訳ではなかったのだ。
レミリアの苛立った表情からは、確かに早朝に呼び出すなりの理由を感じ取れた。
「実はね、私。追われてるの」
「は」
これまた、何とも具体とも何ともつかぬ話しが出てきた。
今までにもレミリアと会話する上で彼女の聡明さを感じる機会は多かったが、それは話しの分からぬ自分のような人間にも分かりやすく理解させてくれるからこそであった。
このようなポエムめいたものではない。
「誰にですか」
「満月に」
吸血鬼にとっての具体的な話しというのは、こういうことなのだろうか。
「朝が来るとまずいということですか」
「そうよ」
何だ、この程度の話しか。
「朝が来たら、私は死ぬの」
やはり寝ぼけて自分を呼んだのであろうか。
「でも、お部屋に光は差し込まないではありませんか」
「私はね。分厚いカーテンや扉に関わりなく突き抜けてくる悲しみの話しをしているの」
今度は何の隠喩か。お化けや幽霊の類だろうか。
レミリアは更に苛立たしげに机を叩いた。
「あの、紅茶を」
「紅茶ですって? 紅茶なんてものはね」
今まで、無表情を取り繕っていたレミリアの牙が剥き出しになる。
気を利かせた故の一言で、更にまずい方向へ向かったらしい。
「紅茶は悪魔よ。私なんかよりよっぽど。あんな悪い物はありません。セイロン島に血の雨」
「ああ、その、詩ですね。詩」
「話しが逸れたから分からなくなってしまったのよ。実は紅茶は関係ない。詩はもっと関係ない。大体あなたが悪い。今、何時かしら」
咲夜はレミリアに小馬鹿にされたような気分になって、懐中時計を取り出す。
「4時半です。レミリア様、私はこんな早くに呼び出されたのは、何か大事なのではないかと」
「そう。一刻の猶予もないわ。すぐに行動を開始しなさい」
咲夜はどうしていいのか分からず、いたずらに服の中のナイフをまさぐった。
「あの。もしかして、何か私には言えない事情があるとか」
咲夜は、窓に歩み寄る。
もしかすれば、レミリアの隠されたSOSではないだろうか。
「違う、咲夜。敵はいない。いるとすれば、満月が一つ。沈めば私も沈む」
念のため窓を開けて確認するが、煉瓦塀と月と星と太陽が見えるばかりである。
部屋に入ったときより、心なしか明るくなったように思える。
風が冷たかったので元通りに窓を閉め、カーテンも閉める。
「カーテンを閉めました。月は沈みません」
「違う」
先ほどよりも、声に刺々しさが含まれている。
「そういうことではない。ちゃちなポエムの話しをしているのではないわ。もっと、切実な話しをしているの」
咲夜は見透かされて、自分の浅はかさを後悔する。
「分かりません。お嬢様、私は愚鈍の人間です。どうか手がかりを。あなたは助けを必要としているのですね?」
レミリアは頷いた。
「咲夜、いい? 大声で騒ぎ立てるようなことではないの」
子供に諭す調子である。
「いいえ、大声で騒ぎ立ててはいけない。彼らはね、確実に私の心臓を射貫くのよ。私はこれ以上恐ろしいことはない、と思っているの」
「弓矢ですか」
「違うわ。武器の話しではない」
「では」
咲夜は再びレミリアの顔を見る。その顔は悲しげに見えた。
「血がたくさん流れたの」
「血ですか」
またもや、新たなワードが出現した。
「拭いても、拭いても、止まらない。分からない?」
「分かりません」
咲夜はもう、半ば諦めかけている。
「彼らはそっと、私に忍び寄ってくるわ。だから、これを分かってくれる人でなくては対抗出来ないの」
「はい」
「あなたは駄目だったわ。パチュリーを呼んでちょうだい」
がくり、と咲夜はうなだれた。
次にパチュリーが部屋に入ってくる。
「パチェ」
「こんな、早く部屋に呼び出すなんて、あなた」
「戦いが始まるの」
パチュリーは深く頷いた。
レミリアも深く頷いた。
言葉ではない。親友同士であるからこそ分かり得るのだ。
「分かってくれる?」
「ええ」
レミリアはパチュリーに駆け寄り、抱きついた。
「もう、大丈夫よ。レミィ。私が何とかしてあげる」
「良かった。私、本当に恐かったの」
レミリアは微笑んだ。
「ええ。本当に辛かったのね」
パチュリーはベッドの掛け布団をまくり上げた。
「寝小便もらしたのね」
「おねしょと言って」
後書きで一番言いたかったことを言われてしもたwwwww
個人的には世界地図というキーワード絡めて欲しかったかもw
最後までわかんなかったよwww
読後感がいいというか、気持ちいいです。w
多分サイズも一回りお嬢様よりビッグな感じ。
ナイスオチだ!!!
で無ければ解る訳が無いw
このパッチュさん、妹様のおしめ代えたりしてそうだw
つまりパチェは解る
↓
なぜパチェは理解できるか?
↓
パチェはおぜうさまと同じ経験をしたことがある
↓
パチェもおねしょをしたことが(ry
おや?パチェが来たようなので逝ってきます
だから紅茶が悪魔なのかw 納得w
おもしろかったです
だって血とか言うんだもん…それはあくまで詩でしたか
この辺りでもしかしておねしょ?と思ったんですが何か?w
お嬢様のことならなんでも理解できると思っていたがさすがにパッチェさんには負けた・・・
二回目に読み返して吹きましたw