Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

魔女の家で10月31日

2008/10/31 23:44:02
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「トリックオアトリート」
「・・・・・・」

玄関のドアを開けたら魔女が立っていた。
右手には籠を持っている。
ついでに言えば、いつもついている帽子の月が、星と太陽になっていた。太陽には顔まで描いてある。ちょっと怖かった。

イメチェンでもしたのかも知れない。

しかし、確かにちょっといつもと違う気がするからイメチェンとしては成功なのだろうけど、その太陽はどうかと思う。もっとマシなアクセサリーはなかったのだろうか。頭の太陽は怖いぐらいにニヤついていて、正直気味が悪い。
ファッションにこだわるアリスは、ついまじまじと相手の服装を見てしまう。しかし、頭の星と太陽以外は、相手はいたって普段どおりの格好であった。紫を基調とした服装。ネグリジェにカーディガン。いつも通りのスタイルに、ちょっとホッとした。

「トリックオアトリート」
「へ?」

いけない、いけない。
頭の太陽が余りにも斬新すぎて、肝心の訪問者のことをすっかり忘れていた。

「あ、な、何しに来たの?」
「トリックオアトリート」
「は?」
「トリックオアトリート」

アリスは首をかしげる。さっきからこれしか言わない。遊びに来たとも、本を読みに来たとも言わず、ただトリックオアトリートをオウムのように繰返している。

「だから、トリックオアトリート」
「なによそれ」
「トリックオアトリート」
「・・・・・・」
「何もないの?」
「だからなんなのよそれは」
「何もないのね・・・・・・それなら仕方がないわね」
「は?」
「こんなこと、私だって・・・・・今までしたくてもできなかったのよ」
「だから一体何」
「でも、しょうがないわね。アリスの選んだ道だもの」
「説明しなさいよ!さっきからトリックオアトリートって一体何・・・・・・」

アリスが全てを言い終わる前に、魔女はいきなりアリスのスカートに手をかけ、

「トリック!」

おもむろにアリスのスカートをめくり上げた。

「キャ・・・・・・なにすんだよこのモヤシ!」

ドゴッ

アリスはスカートを抑えながら、間一髪のところで魔女のみぞおちに一発パンチを食らわし、事なきを得た。危なかった・・・・・・あと少しで桃源郷を見せる羽目になっていた。
相手は腹を抱えてうずくまっている。

「ゲホッ・・・・・・ひ、ひどいわアリス。なんてひどいの。普段クールぶっているけど本当は寂しがり屋の一人上手で友達いないくせに」

魔女はとても失礼なことを言っているが、アリスは気にしなかった。
それよりも、今の相手の行動に対して憤りを感じていた。

「ひどいのはそっちでしょ!一体何しに来たのよ!私のスカートめくりに来たわけ!?」
「うん」

一瞬反応に困るアリスであった。まさか肯定されるなんて思ってもみなかった。

「冗談よ。そんなに変態じゃないわ。惜しかったけど」
「当たり前よ。アンタの感性を疑うわ」
「そうかしら。トリックオアトリートでトリックを選択されたら然るべき行動だと思うんだけど」
「さっきからなんなのよそれ。トリックオア何たらって言うの」
「知らないの?」
「知らないわよ」
「フッ・・・・・・未熟者ね」

カチン。

魔女は鼻で笑いながら、こちらを見下している。私の方が背が高いというのに。
事あるごとに未熟者と言っている気がするが、そんなに先輩面したいのだろうか。

「こんな事も知らないなんて」

こんな事って何だ。トリックオアトリートでトリックを選択するとスカートを捲られるという馬鹿げた知識の事か。
待てよ?トリックは罠、オアはどちらか一方、トリートは交換という意味だから・・・・・・。

「罠か交換か?」
「惜しい。でもやればできるじゃない」

カチン。

なんでこういちいち上から目線なんだよこの魔女は!

「カタカタカタ」
「シ、シャンハーイ!」
「ホ、ホラーイ」
「アリス?震えているわよ?」

いけないいけない。つい歯をガチガチと鳴らしてしまった。人形たちも怯えている。落ち着け、落ち着け。

「深呼吸、深呼吸・・・・・・」

スーハー、スーハー。
とりあえずこの場は笑顔でやり過ごそう。そしてこいつが帰ってから神社に人形を持っていこう。ストレス発散の為に。

「大丈夫?」

とても心配していそうな目でこちらを見ている。だが十中八九演技だということは明らかである。

「まだカルシウムが足りないの?」

まだって何だ。もらった覚えもない。むしろカルシウムは奪われていく一方だ。

「シ、シャンハーイ・・・・・・!」
「ホ、ホラーイ・・・・・・!」

人形たちが怯えている。いけない、いけない。
こんなことで頭に来ているようでは、クールなキャラとはいえない。
冷静になって話題を変えよう。

「で、罠か交換かってどういう意味よ。いきなり家に押しかけられても訳がわからないんだけど」
「本当に知らないのね・・・・・・魔界にはそういう習慣はないのかしら」
「聞いたことがないわよ。トリックなんたらって」
「仕方がないわね・・・・・・こっちへ来てそんなに経ってないんだっけ。去年は内輪だけでハロウィンをやってたからね。レミィは神社に行っていたけれど」

そうか。そのトリックなんたらってやつは幻想郷の習慣か。にしては去年そんなに騒がしいことは起こらなかった筈だけど・・・・・・。

「元々西洋の習慣だからね。でも浸透させようと今必死にレミィは神社に向かっているわ」

霊夢・・・・・・合掌。
なにされるかわからないけど。

「仕方ないわね。知識の乏しい未熟者のために教えてあげるわ。ハロウィンの何たるかを」
「・・・・・・」

突っ込むな。
突っ込むな私。
コイツがいちいち失礼な上から目線な物言いをしてても気にしてはいけないのだ。クールなキャラなんだから。

「シ、シャンハーイ・・・・・・!」
「ホ、ホラーイ・・・・・・!」
「カタカタカタカタ」

頭では反応してはいけないとわかっていたアリスも、体はとっても素直なので、つい反応してしまう。
ちなみにあっちの話ではない。

「で?ハロウィンって何?」
「ああ、ハロウィンってね、西洋での習慣のことよ。毎年の行事みたいなものね」
「そうなんだ」
「本当に知らないのね」
「いいから、早く説明してよ」
「そうね」

それから数分、アリスはパチュリーによるハロウィン講義を聞いていた。
パチュリー曰く、ハロウィンとは10月の終わりの日に行う西洋の行事の事をいうらしい。その日は仮装をして、街を練り歩き、各家の玄関でトリックオアトリートと叫び、お菓子を頂戴するのが習慣だという。トリックオアトリートとは、「お菓子くれなきゃいたずらしちゃうぞ!」の意味であり、お菓子をもらう為の決まり文句である。西洋ではこの日、各家でお菓子を用意し、子供たちを待っているという。
今でも外の世界で行われている習慣なせいか、幻想郷にはあまり普及していないらしい。

「そもそもハロウィンとは約600年前に・・・・・・」
「いや、だいたいわかった。もういいわ」

危ない、危ない。自分の知識を喋りだすとこの魔女は平気で3時間ぐらい喋りだすのだ。そうなってしまうと厄介だ。面白いのだけれど。

「と、いう訳でアリス、トリックオアトリート」

魔女は再び手を差し出す。一瞬何のことかわからなかったが、アリスはその意味を理解した。

「いや・・・・・・いきなりお菓子出せとか言われてもないんだけど」
「トリック!」
「きゃあ!」

魔女は再びスカートを捲る。とっさに手でそれを押さえる。

「なにすんのよ!」
「話を聞いていなかったの?未熟者。トリックオアトリートと言ったのよ」
「それはあんたが勝手に・・・・・・」
「トリートできないならトリックしかないじゃない」

パチュリーは悪びれもなくそう返す。

「いやだからいきなり言われても!」
「まさか・・・・・・アリスはトリックの方を選ぶと言うの?あえてトリックを」
「まだ何も言ってないでしょ!トリックでスカート捲られるならトリートを選ぶわよ!」
「流石はアリスね。侮れないわ。いつも私の予想の斜め45度を行く」
「聞けよ人の話!」
「でも私は大歓迎よ!」
「だから違うわよ!コラ!スカート掴むな!」
「トリック!」
「こんのもやしがあああ!」

バキィ。

アリスの右ストレートが、パチュリーのわき腹にヒットした。
危ない、危ない。もう少しで桃源郷を・・・・・・いや事なきを得たからもういいか。
パチュリーは再び床にうずくまっている。なんかちょっと可哀想な事したかな。

「ひどい・・・・・・ひどいわ・・・・・・」
「あ、アンタが人の話聞かないから悪いんでしょ。ちゃんと聞いてなさいよ」
「ぐすん」
「な、泣かないでよ!ほらちゃんとトリートするから!」

そんなパチュリーの姿を見て、つい慰めてしまう。

「いいの?」
「いいわよ。ただし、もう二度とこんなことしないでね」
「本当に?」
「二度とこんなことしないならね」
「本当にくれるの?」
「あ・・・・・・う・・・・・・」
「くれるの?」
「・・・・・・」
「くれるの?」
「い、いいけど別に」

涙目で見つめられ、思わず頷いてしまった。
それが魔女が仕掛けた罠だと気付く頃にはもう遅かった。

「グッド!」
「・・・・・・」

魔女はいい笑顔で親指を立てていた。
先ほどの病弱さはひとかけらもない。顔色も良さそうだ。ついでに涙も流れていない。
わかっていた。わかっていたのだ事実はこうなんだって。

「紅茶はダージリンね」
「・・・・・・」 
「どうしたの。お茶も出さないのこの家はへぶっ!」

暴力に訴えてはいけないとわかっていても手を出さずにはいられなかった。アリスのチョップは頭の太陽に直撃した。

「ひどい、ひどいわ。暴力に訴えるなんて。やっぱりアリスったらそっちの趣味が」
「ないわよ!紅茶なら今淹れるから黙って椅子に座ってろ!」

追い返す気力も残っていない。アリスはキッチンへと消えていく。
とっととクッキー作って全てを終わらせよう。体に毒である。




「ところでアリス」

アリス亭、台所。現在アリスはクッキー生地を作っている。やってきた魔女はと言えば、椅子に座ってくつろぎながら紅茶を飲んでいる。
実に腹立たしい。

「貴方は誰かにトリックオアトリートしに行かないの?」
「行かないわよ。ていうか行けないでしょ。クッキー作ってからじゃないと」
「そんなに私のトリックが嫌だったの?」

嫌に決まっているだろう。スカート捲られてどこが嬉しい奴がいるか。
アリスはひたすら生地をこねる。それはもう憎しみを全てクッキー生地に込めるようにひたすらこねる。

「折角100年の知識の詰まったトリックを教えてあげるのに」

いらんわ。そんな知識。

「あ、アリスったらちょっと赤くなってる」
「なってないわよ!」
「なに想像したのよ。いやらしい」
「なってないつーとるだろ!」

はあはあはあと息が切れる。やっぱりコイツ、外で待たせておくべきだったな。
すんげえ疲れる。

「でも本当はトリックされたいって思っているんでしょ」
「思ってないわ!」
「質問していい?」
「断る」
「質問するわね」
「だから聞かれても答えないわよ!」
「この中であなたがトリックされたい相手を選びなさい。
 1白黒鼠、
 2ミコミコ霊夢、
 3大図書館の偉大なる主」
「何よその質問!誰もトリックなんかされたくないわ!つか3て何よ3て!美化しすぎでしょ!」

あ、しまった。つい話に乗ってしまった。

「嘘ね。それは嘘よ。この中に必ずトリックされたい相手がいるはずよ。私の目に狂いはないわ」

いや、どう転んでも3とかありえませんから。
というかなんて質問をしてくるんだこいつは。

「まあ・・・・・・1はあれよね。されたいというよりしたい側よね。トリックされても途中で立場が逆転するわね」

なにやらぶつぶつ言っているのが聞こえる。確かに1にいたずらされてもあまりダメージが・・・・・・いやむしろいたずらすると色々美味しい気が・・・・・・いや本気で考えるな、私。

「3もあれよね。逆の方がしっくりくるわね」

そうか?
そ、そうか?
私にいたずらされたいのかお前は。

「そう思わない?アリス」

いやそんな質問こっちに振るなよ!どう答えればいいのよ!

「どう思う?」
「え、ど、どうって」
「どう思う?」
「・・・・・・」

正直言って、アリスはいつもいたずら、いや嫌がらせを受けている側なので、パチュリーにいたずらをするという図式が思い浮かばなかった。
でもそれ以前に、この質問自体が馬鹿馬鹿しいと感じていた。ここはクールに受け答えるべきである。

「どうも思わないわ。第一いたずらし合うような関係でもないでしょう」

これが一番無難だ。というよりアリスの本心であった。

「残念ね。そんな風に思われるなんて」
「当然でしょう」
「ならやっぱり本命はミコミコ霊夢かしら」

ならって何だならって。元々その選択肢は有り得ないと言うのに。

「ミコミコ霊夢なのね」

私はまだ何も言っていないのに、この魔女は。
第一霊夢なんて、頭が春な巫女なんて、

・・・・・・。
・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

やめよう、やめよう。向こうの思う壷だ。

「あ、今想像した?想像してちょっといいかもなんて思った?」

パチュリーはニヤニヤしている。半分的中していることが実に腹立たしい。

「してないわ。残念だけれど」

こんな時こそ冷静に返さなくてはいけない。赤くなって感情をあらわにする事は小さい子供がすることだ。
私はもう子供ではないのだ。冷静に受け止めよう。

「誰にもいたずらなんかされたくないわよ。これが答え」
「嘘でしょう」

さっきからしつこいなこの魔女は。

「だってこの中でトリックできるのはミコミコ霊夢しかいないもの」
「人の話を聞けよ!」
「しかもちょっといいかもとか思っているでしょう」
「思ってないわよ!そもそも選択肢以前にトリックを選択しないわよ!」
「あ、しまった!大事な選択肢を忘れていたわ!」
「ちょっともういい加減に」
「4 ゆうかりん」
「有り得ない」

即答だった。今までのどの突っ込みよりも早くアリスは回答に至った。

「チッ・・・・・・」

パチュリーは軽く舌打ちをしていたが、アリスは聞かないことにした。

「ゆうかりん泣くわよ」
「絶対嫌」

アリスはひたすら断固拒否の姿勢を崩さない。トラウマでもあるのかも知れない。

「折角いじめられるアリスを見れると思ったのに」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

どうしよう。ときどきこいつの考えていることがわからないんですけれど。

沈黙が部屋を包む。生地を伸ばすアリスの手も止まっている。
すごく気まずい。

「そういうアンタはどうなのよ」

とりあえず、アリスは話題を変える作戦に出た。そうしないと共倒れな気がしたからだ。

「私?」
「そう、アンタ」

正直聞きたくなかったが、こうでもしないとさっきの状況から抜け出せそうにないから仕方がない。勘違いされそうだが、背に腹は変えられない。

「そんなに私の趣向が知りたいの?アリスったら。キャー」

ほらやっぱり。思ったとおりの行動で、実に腹立たしい。

「別にどうでもいいんだけどね」
「そんな事言っても聞きたいというオーラがにじみ出ているわよ」
「・・・・・・」

こちらから話を振ったのだからこういう反応をされるのは仕方の無いことである。しかし

「もう・・・・・・アリスったら。照れちゃうわ」
「なんとなく聞いただけよ!妙な勘違いするな!」

目の前で本で顔を隠している魔女にどう言えば伝わるのだろうか。いや十中八九茶化しているだけだろうけど。

「仕方ないわね。アリスだけに特別に教えるわ。実は」
「実は?」
「実は・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

何かを言いかけて、パチュリーはまた黙ってしまう。心なしか顔も赤い。
一体何よその反応は。自分から振っておいて。

再び沈黙が部屋に訪れる。始めは顔を上げていたパチュリーも、段々と下に下がっていき、ついには7割方本の向こう側に隠してしまった。
あれ?なんかちょっと可愛い?

「・・・・・・」
「・・・・・・」
「あの」
「な、何?」
「言いたくなければ別に」
「あ、そう」

パチュリーは本から顔を出す。なんなんだ一体。



そうこうしているうちに、人形たちはクッキーの型を抜き終えていた。いつも悪いわね、上海、蓬莱。
いよいよ焼く作業に入る。
しかし、どうしようか。普通に私が火をつけるのもアリだとは思うが・・・・・・。

「火、出せない?」
「私?」

パチュリーに振ってみる。もともとこの魔女の為に作ってやっているんだ。それぐらいしてもらってもいいだろう。

「えー、嫌よ面倒くさい」

予想された答えが帰ってきた。

「何の為の七属性なのよ」
「そんな夢のない使い方はしないわ」
「実用性重視じゃないの?」
「そんなこと言っているから未熟者なのよ」
「利用できるものは最大限利用するべきだとは思わない?」
「それって私のこと?」
「それもあるわね」
「それを言われて実行するとでも思って?」

一応火の魔法は自分でも扱えるが、ここで引き下がるのはなんか癪だった。こんな時こそブレインだ。

「後学の為に見せて欲しいのよ。それともできないとか?」
「・・・・・・」

パチュリーは一瞬目を見開いた。

「使えるならそんなこと言わないものね」
「・・・・・・」
「制御しきれないとか?」
「・・・・・・」

意地悪く追い討ちをかけてやる。
パチュリーはこちらを睨みつけている。今の言葉が癪に障ったに違いない。

「馬鹿にしないで頂戴」

パチュリーはそう言うと、オーブンの前に立ち、スペルを唱える。こちらの思惑通りに事は進んだようだ。案外この魔女も単純なのかもしれない。

「ロイヤルフレア10000分の1」

ボウッ!

オーブンの下の火を付ける場所に火がつく。パチパチと薪が音を鳴らしている。
アグニシャインではなくロイヤルフレアを使ったことに驚いた。もしかしたら私に見せ付けたかったのかもしれない。普通あのような大型魔法を使えば、被害は甚大になる。しかし、パチュリーはそれを手のひらサイズで抑えて魔法を出した。
制御するには余程修練を積まないと出来ないことだ。

「ざっとこんなものね」
「素直にアグニシャインでやればいいのに」
「なんか言った?」
「なんでもない」

これ以上相手の神経を逆撫でするのもアレだ。このくらいにしておこう。

「なんか腹立つわね・・・・・・まあいいけど。大目に見てやるわ」

今わざと聞こえるように言ったな。でもこれぐらいで動じる域はもう過ぎたのだ。残念だけど。
少しでも優位についた事により冷静になっているアリスであった。

「・・・・・・これからが本番なんだから」

だからかもしれない。魔女がぼそりと呟いた言葉に、アリスが反応することはなかった。
これが新たなる悲劇の始まりだったとは知らずに、アリスはキッチンを後にした。







そしておよそ1時間後。

玄関に魔女が立っていた。右手には籠を持っている。
あれから焼き終えるまでの間、パチュリーはずっと本を読んでいた。先ほどのやり取りで、少し気分を害したのかもしれない。だが、私にはどうでもいい事だった。
トリックオアトリートのトリートを、パチュリーに渡す。

「これで交渉成立よね」
「ええ」

パチュリーは顔色一つ変えていなかった。さっきの杞憂は気のせいだろうか。
やっぱりどうでもいいけど。

「ところでさ」
「何?」
「さっき仮装がどうのこうのって言っていたけれど、それってもしかしてその頭の?」
「あらわかる?」

帽子にある太陽と星を指す。相変わらず太陽はニコニコ顔で不気味だった。

「かわいいでしょ」

とてもいい笑顔で言う。正直センスを疑うのだが・・・・・・。

「でもやっぱり私に太陽は似合わないわね。月のほうが良いわ」

うん。とってもそう思います。
顔さえなけりゃ普通のアクセサリーなのにな、アレ。

「顔が気に入っているんだけどね」

そ、そうか
そうなのか。
日陰の少女の趣味はよくわからない。

「どう思う?アリス」
「ど、どうって」

話をこちらに振られても困る。なんて答えればいいのだろう。先ほどの馬鹿げた4択よりも答え難いのだけれど。
あんまり答えを伸ばすのもアレよね。よし、ここは無難に。

「いいんじゃないかしら。可愛いわよ、それ」
「やっぱり」

なんか嬉しそうだな。

「時々コレ付けようかしら。宴会の時にでも」

やめてください。お酒吹きそうです。

「そろそろ行くわね」
「もう行くんだ」
「行って欲しくないの?」
「そんなことないわ」
「しゅん」

パチュリーはシュンとした顔になった。正直どうでもいい。

「とっとと行きなさいよ。他の奴らがくるかも知れないんだから」
「それもそうね。じゃあそろそろ行くわね」

パチュリーは玄関のドアに手をかける。あれ、今日は本当にすぐ帰るのか。

「何?やっぱり居て欲しいの?子猫ちゃんね」
「子猫とか言うな!気色悪いわ!とっとと行け!」
「相変わらず冷たいのね。でもそんなところが癖になりそう」

その言い方はやめてもらいたい。偏見を持ちそうだ。

「いいから早く」
「わかっているわよ。グッバイ、アリス」

ふわり。


魔女は空に向って飛び立つ。そしてあっという間に彼方へ消えていった。

「はあ・・・・・・」

なんだかどっと疲れが出た気がする。二度と来るなぐらい言っておけばよかっただろうか。でも無限ループいなるから何も言わなくて正解だ。

「クッキーでも食べようかしら」

こんな時には甘いものが一番である。カリカリしているのはカルシウムだけでなく、糖分も足りていないからだ。丁度紅茶も余っている。
次には一体誰が来るのだろうか。魔理沙?霊夢?ハロウィンを知っている知り合いといえば、これぐらいしか思い浮かばない。
にしては去年は来なかったわね。なんでだろう。まあいいか。

アリスはキッチンのドアを開けた。



「・・・・・・」



そこで見た、衝撃の事実。

キッチンの窓が開いている。
テーブルには、大きな皿が。具体的に言えば、さっきまでクッキーが大量につまれてあった皿が、皿だけ残っていた。
皿の横には、一枚の手紙が置いてあった。



「「「トリックオアトリート!」」」




玄関から3人の声がした。どれも、アリスになじみのある声である。

「お菓子だお菓子!じゃないとトリックだぜ」
「お菓子出さないと夢想封印食らわすわよ。腹減っているのよはやく出しなさい」
「当然出してくれるのよね?じゃないといたずらっていうか色々するわよ」

しかし、その声も、今のアリスの耳には一言たりとも届かなかった。アリスはただ、置手紙と思われるものをまじまじと見ていた。
筆跡は、間違いなく奴である。きっと今ごろ、夜空を飛びながら笑っているに違いない。





『ごちそうさま』




「もやしがあああああ!」






次の瞬間、アリスは窓から空に向って飛び出した。レーザーを逆方向に放ち、普段からは考えられない速度で紅い館の方向へ飛び出していった。

それを見るのは、3人の来客者。

「あ!アリス!」
「逃げやがったな!アリスの奴!」
「アリスのくせにいい度胸ね」

光速の90パーセントの速さで移動を続けるアリスの後を、3人の旧作勢は追いかける。
アリスが目指すは、あの紅い屋敷の地下の図書館。今ごろ含み笑いをしているに違いない魔女の姿を思い浮かべ、さらに移動速度を増していく。クッキーなどは正直どうでも良かった。ただこのまま引き下がるのは己のプライドが許さなかった。
しかし、それをできるかどうかは、彼女に追いつくことよりも、今アリスに光速の95パーセントで近づいてくる3人の旧作勢を振り切れるかにかかっていることを、当の本人は気付けなかった。


「「「お菓子くれなきゃいたずらするぞ!」」」


魔理沙の魔砲が、霊夢のお札が、幽香の元祖マスタースパークが、アリスに向って放たれる。しかし、最早ターゲットの事しか考えていないアリスは本能でそれを避けつつ、光速の97パーセントの速さで紅い館へ向って行く。

「げ」
「うそぉ」
「アリスの癖に!」

ハロウィンの夜はまだまだこれからである。いや、始まったばかりなのだ。

「絶対取り返してやる!」

彼女はまさに修羅であった。光速の90パーセント以上の速さで移動をしているため表情は伺えないが、それはそれは凄まじいオーラであった。
それを追いかける3人もまた、凄まじい闘気を放っていた。



その日、4つの流れ星が幻想郷の夜空を飾ったのを、郷の住民は人妖問わず目撃したという。



ま、間に合ったー!!!
トリックオアトリート!sirokumaです。
ハロウィンには魔女魔女書かなきゃ終われないなーと思い筆を綴りました。

実は記念すべき10作目にあたります。
10作中5作が魔女でした。どんだけ好きなんだと自分でも思いました。

こんなss書きましたが、実は先輩が後輩にトリックされる図式のほうが好きなんです。つまりは誘い受k(ry
sirokuma
http://sirokuma.turubeotoshi.com/
コメント



1.喚く狂人削除
これは良い策士なパチュリー。
だがあえて聞こう。なぜそのままトリックを押し切らなんだのかを。

間に合ったといえば、ハロウィンの日にち間違えてSSポシャッちゃったんだよなあ……。
いえまあ、後輩が先輩にトリックするとか、そんな構図は一切なかったんですが
2.喉飴と嶺上開花削除
パチュリーとアリスのやりとりテンポがめっちゃ面白かったです!
面白かった…うん、純粋に面白かった!(感動中
3.名前が無い程度の能力削除
こ、これは取り戻せなかったらアリスの貞操ががが
4.謳魚削除
アリっさん、良い拳をお持ちで。
パッチュさんは『図書館』フラグを立てに来ただけとか。
アリっさん、結構人気で良かった良かった。
この後追いついた三人娘は戯れあってるアリパチュを目撃して拗ねちゃったり。
5.欠片の屑削除
押しかけられて、すったもんだの挙句に自宅でぶつぶつ言いながらクッキーを作る、全然楽しくない菓子作りww
さあ!宴はこれからだww
6.sirokuma削除
作者です。10月31日に間に合わせたことが最早奇跡で力尽きました。
でもよく考えると読んでる人には間に合わなかったんだよね・・・・・
ミステイク!でも読んでくれてありがとう!

以下レス返し

>1様 先輩はシャイなのでコミュニケーションをとることだけで一杯一杯だったんです。
ところでそのss見てみたいんですけど。で、できれば指定した構図でっ

>2様 あああああざーっす!「感動」の二文字にめっちゃ感動しております!これからも頑張ります、超頑張ります!

>3様 そんなss見てみた・・・・・・すいませんやっぱり聞かなかったことにして下さい。

>4様 先輩はシャイなのでコミュニケーションを(ry

>5様 なんやかんや言っても作ってしまう、そんなアリスが大好きです。
7.謳魚削除
すいませーん。
レス2回目&今更で大変申し訳ないのですが。
>「~の魔胞が~」→「魔砲」ではないかと。
いや、『胞』の方がむしろ正解?魔理沙だし。
どう頑張っても幽香さんに悪戯されるとアリっさんがエプロン着けて「逝ってらっしゃい」のでぃぃぷほっぺちゅーを毎日出かける度に幽香さんにプレゼントする所までしか幻視出来ません。
助けて。
8.sirokuma削除
うおっとー!大変失礼いたしました!ご指摘ありがとうございます!
ちょっとそんな幽アリだなんて悶えますよ私は!
こめかみピクピクさせながらちゅーするんですね、わかります。
9.名前が無い程度の能力削除
怒りは人を強くする