藍は一睡もできぬまま、翌朝を迎えた。文は、「側にいてあげたいけど、私は組織に縛られてる身なので…ごめんなさい。橙さんの無事を心から祈っております」と言い、去って行った。
襖から鈴仙が出てきた。
「八雲藍さん、どうぞ。手術は成功しました。今はまだ眠ってますが、顔を合わせてあげて下さい」
すぅ……すぅ……
規則正しい呼吸が聞こえる。
「橙…良かった…」
藍の顔から不安が消える。
「永琳さま、本当に有難うございました。何とお礼を申し上げたら…」
「いいのよ。後は、目を醒ますまで待つだけね。それにしても大変だったわねぇ。あの子に夢中で気付かなかった?貴女も傷だらけじゃないの」
「あ…」
藍は全く気付かなかった。自分の体をこんなにも無理強いしていた事を。
「治しておくわ。私からのサービスでいいわよ」
治療を終えた藍は立ち上がると、山菜を山ほど詰め込んだ籠を背負い、一旦帰宅することにした。
紫に頼まれてた物を運ぶのと、紫に今の状況を報告するためだ。
「気をつけてね、橙ちゃんは私が看ててあげるから」
「有難うございます」
数刻後、永遠亭。永琳が出迎えてくれた。
「お帰り…って、あらら…どうしたの?」
「面目ありません…」
「それより、橙ちゃん起きたわよ。すぐに行ってあげなさいな」
「は…はい!!」
「橙!!」
「藍…さま?」
「私が分かるか?分かるんだな?」
「藍さまぁ…っ!!」
「橙…!!うわぁぁぁぁ!!」
二人はお互いの存在を確かめ合うように抱き合いながら、涙が枯れ果てるまで泣いた。
「橙…ごめんなさい…」
藍は橙に土下座をした。
「私の不甲斐なさが、お前を此処まで大変な目に遭わせてしまった…私は…情けなくて、惨めで、みっともない…最低の主人だ…」
「藍さま…顔を上げて下さい。私は無事だったんです。だから、今回の事はもう大丈夫です」
「許してくれるのか…こんな駄目な主人を…」
「藍さまは私の…橙の唯一絶対のご主人さまです」
「橙…っ!!」
「あの…藍さま?」
「ん?」
「その…頭にでっかいたんこぶが…」
藍の頭には、橙の拳より一回り大きい瘤があった。
「う…これは…紫さまに思いっきり傘で殴られてしまって…『お前をこんな式神に育てた覚えはない』ってな…」
「くすっ…ふふっ、あははははっ」
「そんなに笑わないでくれ、恥ずかしい…あっ、こら、指をさすなっ。益々惨めになっちゃうじゃないか」
「あはっ、く、苦しいよぉっ、あははははははっ」
藍は、自分はいかに無能であるかを思い知った。
橙もまた、自分の無力さを知った。
同時に、二人の間には強い信頼関係があることも知った
二人の絆は、何があっても断ち切る事はないだろう。
藍の優しさがある限り。
橙の笑顔がある限り。
今日も二人は、幻想郷を駆け巡る。
さて…次はBパートだなっと