ある日、自分の家の庭にいたら、空――地上の連中の感覚で言うと、天井から――、何か降ってきたわ。
それが何で分かったかって? 私の頭にぶつかったからよ。ああ、もう。妬ましいわ。
落ちてきた物を見る。袋のようね。けれど驚いたわ、でかでかと私の名前が書かれてるじゃないの。
多分、この袋だか、袋の中身の名前なのでしょうね。
腹立ったわ。何よこれ、私の名前騙ってんじゃないわよ。
全くもって妬ましい、一体何なのよこれは。
腹立たしい。そして妬ましいわ。
大体ね、私の名前騙るんなら、こんなやたら爽やかなデザインしてるんじゃないわよ。
もっと妬みとかを再現した毒々しい感じのデザインでしょうが。
全く、何様なの?答えなさいよ。たかだか物風情が、橋姫たる私に並ぼうなんておこがましいわ。
ああ、そうだ、どの程度か試してあげようじゃない。
私の名前を冠するんだもの、大したこと無かったら許すもんですか。一生妬んでやるわ。
私より凄いなんてことがあったら、それはそれで妬むけどね。
袋の封を切って、中を見てみた。
砂くらいの大きさの、白い粉末……粒、と呼んだほうがいいのかしら? たくさん入ってるわね。
多分、内服薬か何かでしょうね。
いや、わざわざ私の名前を騙ってるくらいだもの、薬と言うよりは毒……かしら?
毒、か。
妖怪である以上、人間向けの毒なら耐えられるけれど、これがもし妖怪向けの毒なら、舐めてみるって訳にはちょっとばかりいかないわね。
誰か試してみる手頃な奴っていたかしら。
ヤマメ辺りにくれてやるのもいいけど――というか、真っ先にヤマメが浮かんだけれど、あいつ旧都の方で人気有るらしいし(ああ、もちろん妬ましいわ)、毒殺したとなると、ただでさえ低い私の評判が(人気高い奴が妬ましいわ)更に下がるわね。
妬い、妬いわ。
同じ様な理由で、さとりも勇儀も却下。さとりに至っては多分、服用させられないでしょうね。
心を読むなんて妬ましいわ。
さとりの妹ってのも、無意識とやらで行動するから捕まらない。
何よ、考えてみれば誰も居ないじゃないの。妬ましい、妬ましいわ。
ふと足下を見やると、鼠が居たわ。正しくは鼠の妖怪ね。まあ、私を人間に例えたら、こいつは普通の鼠。
ちょうど良いわ、こいつにくれてやれば良いじゃない。これが毒なら、少量でも鼠くらい殺せるでしょうよ、妬ましいことにね。
毒なら何かに使えるでしょうから取っておくし、もしそうでないなら……とりあえず、放り投げて捨てるわ。
私は、袋から砂のような粉末をひとつまみほど取り出し、鼠にくれてやった。
さあ、どういう風に悶え苦しむのかしら?
私の名前を持ってるものねえ、そりゃあ生半可な死に方じゃないでしょう?
ええ、期待したわ。期待したけれど、妬ましいことに鼠は死ななかった。
むしろ喜んで粉末を平らげたわ。
思わずにらみつけたわよ。袋と鼠、ダブルで。妬ましい。
鼠は逃げていったわ。そうでしょうね、あと少し居たら私の弾が鼠を圧殺してたでしょうから。
勘の良い鼠だわ。ああ、妬ましい。
「や、パルスィ、遊びに来たよー」
ナイスタイミングでヤマメが来たわ。もうこの際こいつで試したんでいいでしょうよ。
とりあえず、紅茶を入れてやる。こっそりヤマメの分にだけ、混ぜる。
私が紅茶を出すと、ヤマメは驚いたわ。驚きやがった。
「わあ、ありがとねパルスィ」
イイ笑顔ね。妬ましさで頭の血管が切れそうになったわ。私には無いものだからね。
もう飲んじゃなさい。ほら早く。
よし飲んだ。どうなる、どうなる。
「あ、砂糖入れてくれたんだ。私、紅茶って砂糖入れないと飲めないんだよ。でも言い出せなくてさ。ありがと」
あれ?
妙ね。砂糖? 入れてないはずなのだけれど。妙ね……あ、まさか。
私は、例の砂のような粉末の入った袋を見た。これが甘みを出したんだろうか。
「ヤマメ。ちょっとこれ舐めてみなさい」
もうこの際ストレートでいいわ。ヤマメは人を疑わないから、問題ない。
私は粉末を皿に小さく盛ると、ヤマメに差し出した。
「ん、何これ?……、甘い」
甘い? と言うことは、毒じゃないのかしら。いやいや、毒の筈よ。だって私の名前が付いてるんだもの。
そうよ、そういえばヤマメは病気を操れるのよね。毒が効かなくてもおかしくはないわ。
となると、ヤマメ以外に舐めさせてみないとね。
「ヤマメ、勇儀の所に行くわよ」
ヤマメの手をひっつかんで、引っ張る。
ここまで妬ましい思いをしたのだもの。何なのか掴まないと気が済まないわ!
「わ、ちょ、パルスィ!」
ヤマメが何か言ってるけど気にしない。
ずかずかと、旧都の中を突っ切っていった。
「勇儀!」
たどり着いたのは、勇儀行きつけの飲み屋。
飲み屋とは言っても、ここは旧都、鬼の住む都だ。飲み屋の規模はとてつもなく大きい。
しかもここは旧都でも最大級の大きさを誇る飲み屋だから、普通の鬼なら簡単には見つけられないけれど。
「おお、パルスィじゃないか。珍しい。お、ヤマメもいるな」
妬ましいことに、勇儀は山の四天王とか何とか言う鬼なのよね。専用席があるのよ。あー、妬ましさが全身を駆けめぐる。ほんっと、妬い、妬いわ。
あ、私の名前を先に呼んだことは評価してやろうかしらね。
勇儀は酒を呑んでいた。酒樽から直でぐびぐびと。良くそれでべろんべろんにならないわね。妬ましいわ。
「ちょっとこれ舐めてみなさい」
ストレート。というか、小細工したって無駄な気がするもの。酒樽経由で飲ませるんじゃ、手元の量じゃたりないし。
「……なんだこれ」
「え、えーと……酒のつまみよ!」
「甘いんだよー」
ヤマメ、フォローしてくれなくていいわ。なんか悲しくなってくる。
「ふむ。ま、お前達だから、酷い悪戯でも、激辛パウダーとかそんな所だろうな。どれ」
ぺろり。
勇儀は私たちを信用したらしいわね。粉末を舐めたわ。
そしてすぐに、眉をひそめた。
「ん、本当に甘いな。塩味か辛味だと思ってたのに。少なくとも、酒のつまみにはならない」
甘い? ヤマメもそんなことを言っていたわね。でも、私の名前の付いてるものが、なんで甘いのかしら。
手にとって舐めてみる。妬ましく甘いわ。
「いったい何なのかしらね。これ」
「砂糖じゃないの?」
「どれ、ん? パルスィ、ここに書いてあるの、お前の名前じゃないか。お前が作ったのか?」
「知らないわよこんなの。……何なのかしらね……」
最後まで、この甘い何かがなんなのか、分からなかった。
毒ではないらしいけどね……。
袋には、『パルスイート』と書かれてあったわ。
>妬い、妬いわ
ねたい、ねたいわ・・・?読み方これでいいのかな?w
>灰華 様
いつもありがとうございます。
はい、負けです。チョキに対するパーです。
読み方はそれでオーケーですよ~。何だか眠たそうだw
逃げてっ、さもないと「帰って来た勇儀姐さんをエプロンで赤面しながら出迎えるぱるしー嬢」が現実に……ん?別に良いか。
>「妬い、妬いわ」
ずっと見てたらゲシュタルトがほーかいしちゃう。
でも逝き着く先は「コールゲシュペンスト!」SFC版ギリアムは見紛う事無きヒーロー。やべぇ、コメって無ぇ。
私が言えることは一つ
落ち着け
だがあくまでも地霊殿ではお空で、カップなら燐空で、でも嫁はにとりで、でもそうするとめーりんとよーむが……
そうか、めーりんとよーむでカップリングか。でもそうするとパルスィがおいていかれて……
とりあえずパルスイートうめえ
タイトルと白い粉でヤマメ登場前にパルスイートというオチをすぐ理解してしまったがなんともないぜ!
そんなわけで今度は名前だけでなく何もかも甘々なパルさんを書(恨符「丑の刻参り」
パルスィートうめぇ。
ようめー、いいですねぇ。
>6 様
wAwaWA喚く狂人ですから。お褒め頂き光栄です。
やはり予想できたか!
何もかも甘甘なパルスィのお話は次の惑星直列までお待ちください。
ちなみにあの中の甘味料にはアスパルテームってのが入ってて、それにはアスパラギン酸とフェニルアラニンが(ry
もちろん性的な意味でですよn(へんじがない、ただの屍のようだ
>欠片の屑 様
お砂糖一杯です。いや、パルスィートは厳密には砂糖じゃ無いとは思いますが。
理系の話を俺に振るんじゃねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!
でもテンポが良くてすっきり読めたぶん最後が分からなくても問題なかったです。
ところで、三作貴方のSSを読んできて、何かファンになりかけている自分がいるんですが旅のお供にどうですか?
です。
>11様
ノンカロリーの砂糖みたいなものです。
アスパルテームがどうこうって話らしいですが、私には理系の話はさっぱりで。
てへへ、ほめられちった。
ファンになりそうなのですか、つまり換気扇のくるくる回る部分になりそうなのですか!?
それは大変だ!