私は何時もそこに立っていた。
この変わらない風景を毎日見ていたし、何百年と前からも見ていた。
だから、ここに近づいてくる人や妖怪を見つけるのも簡単だった。
「よっ!」
昔に比べれば多少落ち着いた感じ、といっても普通に比べればかなり快活に挨拶をした。
それだけなら異変ではないが、今日は箒にも乗らず、ゆっくりと歩いてきており、私の目の前で止まっているのだから驚きである。
「珍しいですね、最近は具合が悪いから篭りきりと聞いたんですけど。
パチュリー様もここ五年くらいは、あなたのところに本を持って行ってたぐらいなんだから呼べばよかったんじゃないですか?」
「篭りきりって……どこかの人形遣いじゃあるまいし、この元気な魔理沙さんに出来るわけないだろ?」
そう言ってニカッと笑った顔は確かに何十年と前から変わらぬものだった。
ただ、見た目はそうでも中身は変わっている。気を操る妖怪である自分には、たかが人間の体を調べることなんて造作のないことなのだから。
しかし魔女は平然を装っているのだ、その小さな嘘を見ないフリをした。
「もういい年なんだから、もう少し落ち着いたらいいと思いますよ」
「こんな美人を捕まえて年寄り扱いはないだろう、去年里のヤツに告白もされたんだぜ。
とりあえず、その言葉をお前のご主人様に言えたら考えてやるよ。
まぁ、無理だろうけどな。
じゃあ、早速だけど通してもらうぜ!」
「ちょ、ちょっと待ってください。何が『じゃあ』、なんですか!」
「おいおい、こんな老いぼれとスペルカード対決をしたいなんて言う気か?
流石にこれで負けたら、弾幕が苦手なんて言い訳じゃ通らないぜ」
やれやれだぜ、と肩を竦める姿は何度見ても昔のままであり、そのことが一層思い出を刺激する。
霧雨魔理沙は何時も台風のように、私を困らせていた。彼女に潰された門を修繕するのは一度や二度ではないし。魔砲にやられて気がつけば永遠亭にいたこともあった。
自分の悩みの種の最上位に位置するのが彼女だった、しかしその小憎らしい顔を見るのが今日で最後だと思うと酷く悲しかった。
そう、今日で最後なのだ。
自分の能力でも、お嬢様の能力でも、パチュリー様の占いでも同じ未来を予想できた。
彼女ほどの実力だ、数年の研究をそれのみに傾ければ魔法使いという種にも成れただろうし。パチュリー様やアリスさんも手伝えばそれこそ一月も掛からずに人間をやめれただろう。
だが、彼女はしなかったのだ。
思えば咲夜さんも皺を気にしても吸血鬼にはなろうとしていないし、霊夢さんも人間のままに死んだ。
他にも人間のままに死んだ古い知り合い達もいる。
何故、彼女達が人間に拘るかは妖怪である自分にはわからないだろうし、知りたいとも思わない。
ただ、その短命さに憤りを感じた。
「ま、実はちゃんとした用もあるから聞くか?」
「それが門を通すようなことなら聞きます」
「一度くらいは正式に入りたかったからな。
まぁ、聞いて驚くなよ。この魔理沙さんは本の返却に来たお客様なんだよ」
そう言って、魔法でも使ったのかどこからともなく本を取り出した。
その本を見た瞬間、何かが決壊しそうになった。
確かに、いつも彼女が言っている返却日は今日なのだから。
私はわざとらしく驚いた顔をしながら、しょうがないですねと門を開けた。
「アリスさんも図書館にいますよ」
「おお、アリスにも借りた本を返そうとしたけどいなかったからな。いやぁ、良かった良かった」
門を通っていく彼女を見送り、再び門を背にする。
アリスさんも図書館にいますよ、なんて言葉が最後になってしまったけど、こんな関係が良かったのかもしれないな。
そう、離れていく弱弱しい気配を感じながら自分に言い聞かす。
しかし彼女は最後まで私を困らせたいようだった。
「紅美鈴!
色々と楽しかったぜ、ありがとう!!」
「……楽しかったのはこちらも同じです。ありがとう」
振り返り、大好きだった人間に手を振った。
盛り上がってもいないし、落ちてもいないし。なにがしたかったのやら。
せめて、魔理紗の終わりを書くか、なにかしてください。
じーんときてしまいました。
パチェリー → パチュリーです。
こういうのは大好きです
文章の後ろにある背景まで見えてきそうでした。
>>1
そうですね、起承転結がきちんと出来ていないお話です。
何もない日常の終わりを考えて書きましたが、その部分の物語性が薄いのは自分の筆力がないせいですね、精進します。
>>2
感想ありがとうございました。
きっと魔理沙は死ぬまで今と変わらない恋色魔法使いで、美鈴も変わらないのだろうと思ったらこのショートができました。
>>3
ご指摘ありがとうございます、修正いたしました。
>>4
そう言っていただけるとありがたいです。
>>5
確かに、色んなものを妄想して書きました。
作中は何十年後の話ですが、その間にも色んな物語があると思います。
>>6
複雑なものを書くのは苦手なので……感想ありがとうございます。
>>7
壮大というわけではないと思いますが、このシーン以外にも色んなものが書けそうですね。
>>8
死にネタですが、優しい雰囲気を感じていただいて嬉しい限りです。
>>9
SS書き冥利に尽きる言葉です、ありがとうございました。
ただ、まだパチェリーさんがいるようです………
(上から8行目)
いいわ。
なんだか長編作品のクライマックスだけを読んだ感じですが、この作品だけでも背景を色々想像できてとても感動できました。とても印象に残るよい作品だと思います。
題名からしても門番が主役であるので、ここで魔理沙の最後を詳しく書かれても、蛇足かなと。
何ともいえない切なさの残る作品でした。
なんだか情景を切り取ったヴィネットを眺めているようで素敵に感じました。
でも、これはこれで想像の幅を掻き立てるみょんな味が出てるかな?
今後の御活躍を期待してます
地球人撲滅組合さん
パチェさん、あなたは誰なんだ、何者なんだ。パチュさんとの違いはなんなんだ、2Pキャラなのか、ルイージなのかorz
感想、とご指摘ありがとうございました。以後注意いたします。
>>12
ありがとうございます。そういっていただけて幸いです。
>>13
自分の趣味の塊です、いつか酒でも飲みましょう。
>>14
その何かを文に起せば解決です、私も読みたいですw
冗談は兎も角、感想ありがとうございました。
>>15
そうですね、この前に長い長い物語があります。勿論この後にも……
>>16
ありがとうございます、こういう切ない終わり方が好きなので。
魔理沙の最後も書いていて楽しいものでもないですし。
>>17
彼女視点の、特にこんなシリアスな話は少ないので書いてみました。
>>18
詩的な表現ありがとうございます。
これの他に、普通に楽しい物語を書き、最後に「人形劇はこれでお仕舞いです」と少し寂しそうに村で人形劇を発表すr(ry
つまりこういう終わりが好きなんです。
シリアス大好きさん
蛇足な気がしますが、やはり書きたいし読みたい話ですね。
魔理沙は最後に誰と一緒に過ごしたのでしょうか。
つまり死ぬ時を悟ったから返すってことなんですかねぇ・・・
美鈴視点で描き、逝く姿を読者に見せないことで切なさが伝わってくる気がします。
良いお話を読ませていただきました。