「お嬢様、お聞きしたいことが」
「なにかしら咲夜?」
「美鈴がどこにもいないのです。誰に聞いても知らないと返ってきて。
お嬢様は美鈴がどこに行ったか知りませんか?」
「知ってるわ。
本格的な中華料理を習得するため、幻想郷の外に出ている。
あと十日は留守にするわよ」
少しだけ考えて咲夜は口を開いた。
「どうして中華料理を習得するため出たのですか?
昨日までそんなそぶりはまったくなかったのですが」
「美鈴自身が決めたことではないし。
昨日、私だけで霊夢のところへ遊びに行ったじゃない? そのとき話の流れで」
咲夜は昨日仕事が忙しく、レミリア自身がついてこなくていいと行ったので紅魔館に残っていたのだ。
「どのような話をしたのですか?」
「えっとね……霊夢と話していたら隙間妖怪が現れて、霊夢を独り占めするため弾幕勝負となりかけて、霊夢に強制的に止められたのよ。
ここらへんは関係からとばすとして、今まで食べたことのない料理の話になって、隙間妖怪が中華料理が美味しかったと言ったの。
それを霊夢が食べてみたいと言ったのね。そうきたら気を引くため食べさせたいじゃない?
でも私は作れないし、ここの住民も本格的には作れない。隙間妖怪も同じだったようで、どうすれば霊夢に食べさせられるか考えた。
中華といえば中国、中国といえば美鈴ってイメージで、隙間妖怪が中国に美鈴をとばすことを提案して、私が了承したと。
そういうわけ」
つまりは美鈴自身まったく知らないところで決まったことなのだ。前日にいなくなるそぶりがあるわけがない。
それどころかその話をうのみにすると、美鈴は自分がなんのために中国にとばされたのか理解していないのではなかろうか。
咲夜はそのことに気づいた。
「美鈴はいきなり飛ばされ、わけがわからず戸惑っているのでは?」
「その点は大丈夫。事情を書いた手紙も一緒にとばしておいたわ。
帰り際に隙間妖怪が美鈴の様子を見たときは、特級厨師というものに弟子入りして黄金炒飯を作っているということらしかったわ」
「まあ美鈴がいない理由はわかりました。
それによって問題が浮上しているのですが」
「どんなもの?」
「雑魚避けのことです。
美鈴が門番として立っているだけで、雑魚が紅魔館に近づかないのはお嬢様もよく知っているはずです」
「幻想郷に来た当初、紅魔館に近づくものは力の限り殲滅しなさいって言ったのは私だしね」
美鈴はその命令を忠実に実行し、紅の鬼人という二つ名を得た。
その戦いぶりは名の通り、力が荒れ狂ったものだったようだ。一時期は門に付着した血が乾くことなく、常に濡れた状態でいたらしい。
当時のことは今でも、武勇伝や恐怖話として妖怪達の間に伝わっている。
門番として失敗するようになっている今でも、美鈴が立っている門前に好んで近寄ろうとする妖怪は少ない。時おり徒党を組んで数頼みに突破しようとする妖怪がいるくらいだ。その妖怪達も美鈴と門番隊に返り討ちにされている。
弾幕勝負でなければ今でも門番としての仕事は完璧にこなしているのだ。
その美鈴がいないとなると、門を突破できるチャンスだと馬鹿な考えを持つ妖怪が押し寄せてくる可能性が高い。
美鈴は門前に立っているだけで仕事をしているのだった。
「今は知られていないでしょうけど、日が経つうちに知られるでしょうし、そうなると迎撃に忙しく館内の仕事が滞ることになります」
「ふむ……ならば美鈴が立っているように見せかければいい」
「といいますと?」
「それっぽい等身大人形を作るということよ。
咲夜、準備なさい」
「承りました」
「これなどいかがでしょうか?」
時を止めそれっぽいものを探し物求めた咲夜が戻ってきた。
持ってきたものはかかしだ。十日持てばいいので、精巧なものは作る必要なしと判断し、畑に立っていたかかしを無断で持ってきた。
のちに、かかしの持ち主である田吾作さんが盗んだ犯人を捕まえようと頑張ったらしい。咲夜が持っていくところを見た者などいないため、捕まえるのは無理だった。
「いいんじゃない? ここから美鈴に似せていきましょ」
「まずはいかがいたしますか?」
「そうね、服を変えましょうか。
美鈴の服を持ってきなさい」
「ありません」
即答だ。
「なぜ? 美鈴の持っている服がいつも着ているもの一着だけというわけではないしょ」
「クローゼットを覗いてきましたが、普段と同じものは残り一着しかなく、それは私がもらいましたので」
「それは困ったわね」
「はい」
「私がもらう分がないじゃないの」
「早い者勝ちです」
「仕方ないから緑色の服を着せておきなさい」
「はい」
咲夜が頷いた次の瞬間には、かかしは緑のドレスを着ていた。サイズは小さい。レミリアのものだった。
それに突っ込みを入れることなく、レミリアは次へと進める。
「次は顔。
紙に笑顔でも書いて張っておきましょ」
「はい」
かかしの顔に棒三本で構成された笑顔が張られた。
「次は一番目立つ髪ね。
スカーレットともいえるあの鮮やかな髪をなにかで代用するのは難しいわ。
なんとかなるかしら?」
「そうですね……見劣りはしますが同じ赤系の髪を持つものがいます。その者から髪を提供してもらうのはいかかでしょう?」
「パチェが許可出すかしらね」
決定権は小悪魔ではなくなぜかパチュリーにあるらしい。
「一応行ってみます」
姿を消した咲夜は五分ほどで戻ってきた。
その手には小悪魔の髪ではなく、ナポリタンが載った皿が。
「パチュリー様は許可されたのですが、髪の持ち主が嫌がって本を燃やすと脅しをかけたので、パチュリー様も許可を取り消したため入手は無理でした。
代用として昼食の残りのナポリタンを持ってきました」
「仕方ないわね。それで我慢しておきましょうか」
かかしの頭にべちゃりとナポリタンが乗せられた。赤いパスタに緑のピーマンがアクセントになってお洒落に見える、わけはなかった。
「仕上げは帽子ね。これは一つしか持っていないかもね」
「はい。残念ながら予備はありませんでした」
「となると……ワカメでは色が濃すぎるし、似た色のハンカチでも巻いておきましょうか」
レミリアの言葉に従いバンダナのようにハンカチを巻く。
「これで完成ね」
「パーフェクトでございます」
明らかに疑問の塊な物体を前に、一切の疑問を感じさせず言い切った。瀟洒の名は伊達ではないということか。
「メイド長! 隊長はみつかりましたか!?」
「しばらく帰ってこれないそうよ」
門にいる門番隊に囲まれ、咲夜はレミリアから聞いたことを話していく。
それを聞いて門番隊は、レミリアのいつものきまぐれかとあっさり納得した。
「それで代用がこれですか」
「ええ」
「メイド長失礼ですが、私にはそれが隊長には見えません」
私もですと、いくつもの声が上がる。当然だ。
しかし咲夜は動じない。
「私の言うとおりにしなさい。そうすれば見えるようになるわ」
皆が頷く。
「まず四mほど離れて。離れたわね。
次は薄目になりなさい。
そして心の目を開いてあれを見るの。
……どう? いつものように笑顔を浮かべた美鈴がいるでしょう?」
これだと心に思い描いた美鈴が見えているだけで、人形が美鈴に似ているというわけではない。
見えないと反論が返ってくるのが普通だが、ここは非常識の闊歩する幻想郷。
「たしかに隊長がいます!」
「いつもの素晴らしい笑顔です!」
「今日も一日頑張れます!」
などと力強い返事が返ってきた。
咲夜は満足そうに頷く。
「それでは仕事に励みなさい」
威勢のいい返事を背に咲夜は館内へと戻っていった。
こんな物体が役目を果たせるのか疑問が浮かぶのは仕方ない。
けれどもこの美鈴人形は役目を立派に果たしてしまっていた。
紅魔館近くを通った妖怪は美鈴人形を見て、紅魔館を避けて通っていたのだ。わりと人形の近く通ったにもかかわらずだ。
立派に役目を果たしつつ日数が過ぎていく。髪代わりとしていたナポリタンは毎日取り替えられる。たまにお腹をすかせた鳥がついばみにくる。
そして咲夜が避けたいと思っていた出来事が起きた。
魔理沙襲来である。
いつものように魔理沙が門番隊を蹴散らし門前にやってくる。
隊長不在のためしっかり守ろうと門番隊もいつも以上に気合が入っていて、魔理沙にボムをいくつか使わせていた。
「あいつらやけに気合入っていたな?
だが今日も通らせてもらうぜ。
というわけでマスタースパークだ!」
魔理沙も美鈴人形を美鈴と思い込む。ここまでくるとパチュリーが認識をあやふやにさせる魔法でも使ったのかと思えてくる。だがそんなものは使っていない。
いつみてもほれぼれとする威力の光が美鈴人形に襲い掛かる。
これが美鈴ならば、吹っ飛ばされ倒れ伏して回復中だ。大怪我を負わずにそれだけですむのも大概だ。
やがてマスタースパークはおさまり、起きた風も止み、巻き上げられた砂煙も晴れる。
そこにいた事情を知っている誰もが、壊れた人形の姿を予想していた。
しかしその予想に反して美鈴人形は大地に立っていた。その様、まさに威風堂々。多少のこげはあるが五体満足で魔理沙に立ちふさがっていた。
「なっ!?」
さすがに全員驚く。
「今日はなかなか気合が入っているじゃないか!
もう一度だぜ! マスタースパーク!」
本日最後のボムを渾身の力で、撃ち放った。
再び光が、風が、砂埃がなくなる。
そして美鈴人形がさきほどと変わらぬ姿で立っていた。
美鈴を模したが故だろうか? 美鈴自身のもつ非常識な頑丈さまでも真似たらしい。
人形故に回復力は持ち得ない、代わりに頑丈さがさらに上がっているというハイスペック。姿以外は美鈴に似せることができたようだ。
使った材料は何の変哲のないものなのだが。製作者の問題だろうか? レミリアの能力が知らずに発動して、人形の壊れるという運命を変えてしまったのか。もしくは咲夜の美鈴は頑丈という思い込みが人形に影響を与えたのか。それは誰にもわからない。
「なななななっんで!?」
破壊力は幻想郷でも随一と名高いマスタースパーク。魔理沙自身もまだまだ上を目指してはいるが、威力の高さには自信があった。
それを二度喰らって平然としていることにショックを受ける。心の中のなにかにひびが入った音がした魔理沙は、それを広げないため、
「次は倒してやるからな!
覚えてろーっ」
という捨て台詞を残して飛び去った。
門前から湧き上がる歓声。久々に魔理沙を撃退できて嬉しいのだろう。
結局美鈴人形は美鈴が帰ってくるまで、役割を果たし続けたのだった。
ちょっとした後日談がある。それは帰って来た美鈴が美鈴人形を見た反応だ。
「私がいるー!?」
これ以上は語る必要はないはずだ。
「なにかしら咲夜?」
「美鈴がどこにもいないのです。誰に聞いても知らないと返ってきて。
お嬢様は美鈴がどこに行ったか知りませんか?」
「知ってるわ。
本格的な中華料理を習得するため、幻想郷の外に出ている。
あと十日は留守にするわよ」
少しだけ考えて咲夜は口を開いた。
「どうして中華料理を習得するため出たのですか?
昨日までそんなそぶりはまったくなかったのですが」
「美鈴自身が決めたことではないし。
昨日、私だけで霊夢のところへ遊びに行ったじゃない? そのとき話の流れで」
咲夜は昨日仕事が忙しく、レミリア自身がついてこなくていいと行ったので紅魔館に残っていたのだ。
「どのような話をしたのですか?」
「えっとね……霊夢と話していたら隙間妖怪が現れて、霊夢を独り占めするため弾幕勝負となりかけて、霊夢に強制的に止められたのよ。
ここらへんは関係からとばすとして、今まで食べたことのない料理の話になって、隙間妖怪が中華料理が美味しかったと言ったの。
それを霊夢が食べてみたいと言ったのね。そうきたら気を引くため食べさせたいじゃない?
でも私は作れないし、ここの住民も本格的には作れない。隙間妖怪も同じだったようで、どうすれば霊夢に食べさせられるか考えた。
中華といえば中国、中国といえば美鈴ってイメージで、隙間妖怪が中国に美鈴をとばすことを提案して、私が了承したと。
そういうわけ」
つまりは美鈴自身まったく知らないところで決まったことなのだ。前日にいなくなるそぶりがあるわけがない。
それどころかその話をうのみにすると、美鈴は自分がなんのために中国にとばされたのか理解していないのではなかろうか。
咲夜はそのことに気づいた。
「美鈴はいきなり飛ばされ、わけがわからず戸惑っているのでは?」
「その点は大丈夫。事情を書いた手紙も一緒にとばしておいたわ。
帰り際に隙間妖怪が美鈴の様子を見たときは、特級厨師というものに弟子入りして黄金炒飯を作っているということらしかったわ」
「まあ美鈴がいない理由はわかりました。
それによって問題が浮上しているのですが」
「どんなもの?」
「雑魚避けのことです。
美鈴が門番として立っているだけで、雑魚が紅魔館に近づかないのはお嬢様もよく知っているはずです」
「幻想郷に来た当初、紅魔館に近づくものは力の限り殲滅しなさいって言ったのは私だしね」
美鈴はその命令を忠実に実行し、紅の鬼人という二つ名を得た。
その戦いぶりは名の通り、力が荒れ狂ったものだったようだ。一時期は門に付着した血が乾くことなく、常に濡れた状態でいたらしい。
当時のことは今でも、武勇伝や恐怖話として妖怪達の間に伝わっている。
門番として失敗するようになっている今でも、美鈴が立っている門前に好んで近寄ろうとする妖怪は少ない。時おり徒党を組んで数頼みに突破しようとする妖怪がいるくらいだ。その妖怪達も美鈴と門番隊に返り討ちにされている。
弾幕勝負でなければ今でも門番としての仕事は完璧にこなしているのだ。
その美鈴がいないとなると、門を突破できるチャンスだと馬鹿な考えを持つ妖怪が押し寄せてくる可能性が高い。
美鈴は門前に立っているだけで仕事をしているのだった。
「今は知られていないでしょうけど、日が経つうちに知られるでしょうし、そうなると迎撃に忙しく館内の仕事が滞ることになります」
「ふむ……ならば美鈴が立っているように見せかければいい」
「といいますと?」
「それっぽい等身大人形を作るということよ。
咲夜、準備なさい」
「承りました」
「これなどいかがでしょうか?」
時を止めそれっぽいものを探し物求めた咲夜が戻ってきた。
持ってきたものはかかしだ。十日持てばいいので、精巧なものは作る必要なしと判断し、畑に立っていたかかしを無断で持ってきた。
のちに、かかしの持ち主である田吾作さんが盗んだ犯人を捕まえようと頑張ったらしい。咲夜が持っていくところを見た者などいないため、捕まえるのは無理だった。
「いいんじゃない? ここから美鈴に似せていきましょ」
「まずはいかがいたしますか?」
「そうね、服を変えましょうか。
美鈴の服を持ってきなさい」
「ありません」
即答だ。
「なぜ? 美鈴の持っている服がいつも着ているもの一着だけというわけではないしょ」
「クローゼットを覗いてきましたが、普段と同じものは残り一着しかなく、それは私がもらいましたので」
「それは困ったわね」
「はい」
「私がもらう分がないじゃないの」
「早い者勝ちです」
「仕方ないから緑色の服を着せておきなさい」
「はい」
咲夜が頷いた次の瞬間には、かかしは緑のドレスを着ていた。サイズは小さい。レミリアのものだった。
それに突っ込みを入れることなく、レミリアは次へと進める。
「次は顔。
紙に笑顔でも書いて張っておきましょ」
「はい」
かかしの顔に棒三本で構成された笑顔が張られた。
「次は一番目立つ髪ね。
スカーレットともいえるあの鮮やかな髪をなにかで代用するのは難しいわ。
なんとかなるかしら?」
「そうですね……見劣りはしますが同じ赤系の髪を持つものがいます。その者から髪を提供してもらうのはいかかでしょう?」
「パチェが許可出すかしらね」
決定権は小悪魔ではなくなぜかパチュリーにあるらしい。
「一応行ってみます」
姿を消した咲夜は五分ほどで戻ってきた。
その手には小悪魔の髪ではなく、ナポリタンが載った皿が。
「パチュリー様は許可されたのですが、髪の持ち主が嫌がって本を燃やすと脅しをかけたので、パチュリー様も許可を取り消したため入手は無理でした。
代用として昼食の残りのナポリタンを持ってきました」
「仕方ないわね。それで我慢しておきましょうか」
かかしの頭にべちゃりとナポリタンが乗せられた。赤いパスタに緑のピーマンがアクセントになってお洒落に見える、わけはなかった。
「仕上げは帽子ね。これは一つしか持っていないかもね」
「はい。残念ながら予備はありませんでした」
「となると……ワカメでは色が濃すぎるし、似た色のハンカチでも巻いておきましょうか」
レミリアの言葉に従いバンダナのようにハンカチを巻く。
「これで完成ね」
「パーフェクトでございます」
明らかに疑問の塊な物体を前に、一切の疑問を感じさせず言い切った。瀟洒の名は伊達ではないということか。
「メイド長! 隊長はみつかりましたか!?」
「しばらく帰ってこれないそうよ」
門にいる門番隊に囲まれ、咲夜はレミリアから聞いたことを話していく。
それを聞いて門番隊は、レミリアのいつものきまぐれかとあっさり納得した。
「それで代用がこれですか」
「ええ」
「メイド長失礼ですが、私にはそれが隊長には見えません」
私もですと、いくつもの声が上がる。当然だ。
しかし咲夜は動じない。
「私の言うとおりにしなさい。そうすれば見えるようになるわ」
皆が頷く。
「まず四mほど離れて。離れたわね。
次は薄目になりなさい。
そして心の目を開いてあれを見るの。
……どう? いつものように笑顔を浮かべた美鈴がいるでしょう?」
これだと心に思い描いた美鈴が見えているだけで、人形が美鈴に似ているというわけではない。
見えないと反論が返ってくるのが普通だが、ここは非常識の闊歩する幻想郷。
「たしかに隊長がいます!」
「いつもの素晴らしい笑顔です!」
「今日も一日頑張れます!」
などと力強い返事が返ってきた。
咲夜は満足そうに頷く。
「それでは仕事に励みなさい」
威勢のいい返事を背に咲夜は館内へと戻っていった。
こんな物体が役目を果たせるのか疑問が浮かぶのは仕方ない。
けれどもこの美鈴人形は役目を立派に果たしてしまっていた。
紅魔館近くを通った妖怪は美鈴人形を見て、紅魔館を避けて通っていたのだ。わりと人形の近く通ったにもかかわらずだ。
立派に役目を果たしつつ日数が過ぎていく。髪代わりとしていたナポリタンは毎日取り替えられる。たまにお腹をすかせた鳥がついばみにくる。
そして咲夜が避けたいと思っていた出来事が起きた。
魔理沙襲来である。
いつものように魔理沙が門番隊を蹴散らし門前にやってくる。
隊長不在のためしっかり守ろうと門番隊もいつも以上に気合が入っていて、魔理沙にボムをいくつか使わせていた。
「あいつらやけに気合入っていたな?
だが今日も通らせてもらうぜ。
というわけでマスタースパークだ!」
魔理沙も美鈴人形を美鈴と思い込む。ここまでくるとパチュリーが認識をあやふやにさせる魔法でも使ったのかと思えてくる。だがそんなものは使っていない。
いつみてもほれぼれとする威力の光が美鈴人形に襲い掛かる。
これが美鈴ならば、吹っ飛ばされ倒れ伏して回復中だ。大怪我を負わずにそれだけですむのも大概だ。
やがてマスタースパークはおさまり、起きた風も止み、巻き上げられた砂煙も晴れる。
そこにいた事情を知っている誰もが、壊れた人形の姿を予想していた。
しかしその予想に反して美鈴人形は大地に立っていた。その様、まさに威風堂々。多少のこげはあるが五体満足で魔理沙に立ちふさがっていた。
「なっ!?」
さすがに全員驚く。
「今日はなかなか気合が入っているじゃないか!
もう一度だぜ! マスタースパーク!」
本日最後のボムを渾身の力で、撃ち放った。
再び光が、風が、砂埃がなくなる。
そして美鈴人形がさきほどと変わらぬ姿で立っていた。
美鈴を模したが故だろうか? 美鈴自身のもつ非常識な頑丈さまでも真似たらしい。
人形故に回復力は持ち得ない、代わりに頑丈さがさらに上がっているというハイスペック。姿以外は美鈴に似せることができたようだ。
使った材料は何の変哲のないものなのだが。製作者の問題だろうか? レミリアの能力が知らずに発動して、人形の壊れるという運命を変えてしまったのか。もしくは咲夜の美鈴は頑丈という思い込みが人形に影響を与えたのか。それは誰にもわからない。
「なななななっんで!?」
破壊力は幻想郷でも随一と名高いマスタースパーク。魔理沙自身もまだまだ上を目指してはいるが、威力の高さには自信があった。
それを二度喰らって平然としていることにショックを受ける。心の中のなにかにひびが入った音がした魔理沙は、それを広げないため、
「次は倒してやるからな!
覚えてろーっ」
という捨て台詞を残して飛び去った。
門前から湧き上がる歓声。久々に魔理沙を撃退できて嬉しいのだろう。
結局美鈴人形は美鈴が帰ってくるまで、役割を果たし続けたのだった。
ちょっとした後日談がある。それは帰って来た美鈴が美鈴人形を見た反応だ。
「私がいるー!?」
これ以上は語る必要はないはずだ。
恨むぞ!私はこの案山子を作った(?)田吾作を恨む!美鈴の存在意義(アイデンティティ)を奪いやがって!
まぁ前記の部分は置いとくとして、もっと何か美鈴中毒症状みたいなものが出てくるかと思ってました。
というより、もっと話の波を期待してました。勝手な言い分ではありますが。もうちょっと長く読みたかったです。折角十日以上もありますから。
そういうSSは他にたくさんありますから、別にいいですけど。(いいのかよ)
それにしても、まさか役立ち度が「案山子>美鈴」とは・・・。
でも面白かったです。
> 見劣りはしますが同じ赤系の髪を持つものがいます。
咲夜さんヒデェw
ちぉっと待てwwwwwwwwww