Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

ふたりでもにんじん

2008/10/18 22:49:34
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ある日のこと。


妖夢は目の定期診察のため、永遠亭へお邪魔していた。
丁度診察が終わり、帰ろうとしていた時だった。
中庭の方をぶらぶらしていると、見覚えのある姿が目に映る。

「ボリボリボリ」
「・・・・・・」

鈴仙が人参を食べていた。

「た、食べるんだ」
「ふぇ?」

鈴仙は、声に反応して振り返る。勿論人参を口にしたままだ。
その姿を見て、妖夢はびっくりした。
考えてみれば、彼女はうさぎだ。うさぎなのだ。人参食べて当然なのだ。
しかし耳がついているとはいえ、所詮は人型。原型はうさぎなのかもしれないが、今は人型。人間が生の人参をほお張っていたら誰だってびっくりする。

「そっか・・・・・・考えてみればそうだよね」
「どうしたの妖夢」
「いや、おいしそうに食べているなって思って」

バリバリボリボリ。

人参を噛み砕いている音がする。
人参、人参ねえ。普通に考えて生の人参がうまいと聞かれれば、大抵そうではないと答えるだろう。
しかし隣のうさぎはとてもおいしそうに食べている。
やっぱりうさぎなのかもしれない。

「妖夢も一本いる?」
「え」

人参を差し出される。
普段から義理堅い性格の妖夢は、差し出されたものをつい受け取ってしまう。

「おいしいのよ、とっても」

にっこりと笑われると、何だかここで食べなければいけないような気がしてくる。
しかし、生の人参である。以前人参スティックなどというものを自分の主に作ったことがあったが、あれは一口サイズだったし、マヨネーズもついていた。
泥はついていないとはいえ、皮はついている。
さて、これをどうするべきか。

「何事も経験よ」

そんな我が主の声が聞こえた。確かに、主ならばきっとこの生の人参にかぶりつくだろう。
しかし、人参、人参かあ。

正直苦手なんだよね。

じーっと人参を見つめる妖夢。
それをじーっと見つめる鈴仙。

(ここは食べなきゃいけないんだろうなあ。仕方が無い。乗り気じゃないけど、食べることにしよう)

妖夢は人参にかぶりついた。

バリバリボリ。

口の中には生の人参の味が広がる。独特の、青臭い味がする。

(やっぱり苦手・・・・・・)

「どう?とってもおいしいでしょ」

隣の鈴仙はにっこり笑う。それにつられて妖夢も笑う。

「う、うん」

(まずいなあ。これは全部食べなきゃいけない雰囲気だ。でも顔色変えずに食べきれるかな・・・・・・)

こんなときに、なんでも食べられる我が主が居てくれたらと思う妖夢だった。

(考えろ・・・・・・考えるんだ・・・・・・!)

ぐるぐる思案する妖夢。

(そうだ、こんなときにはこう言えばいい)

「で、でもこれ鈴仙のでしょ。悪いよもらうなんて」
「いいのよ。だって友達だもん」

Oh・・・・・・これは不意打ちだった。
確かに目の治療で何度か永遠亭にはお邪魔しているし、宴会場では幾度と無く酒を飲み交わした。

「お互い苦労するね」

そんなことを言いながら、後片付けをする傍ら、明け方まで飲み交わしたものだ。

「従者バンザァァイ!!」
「私たちは偉いんだぞぉぉぉ!!」

言うなれば、彼女は同士だった。付き合いは短いが、お互いがお互いの気持ちをよく理解していた。

あるときは、薬の実験につき合わされ。
あるときは、くじらが食べたいと言われ、この世の果てまで探し回り。
またあるときは、散々あおられた挙句、過去の失敗を暴露される。
そんなお互いの近況を知るたびに、彼女らは共感したものだった。

「お互いがんばろうね!」

朝日がまぶしい神社の境内で、涙を流しながら彼女らは固く抱き合った。それはそれはとても官能的でしたと、後に天狗の新聞で語られるが、それはまた別の話である。

「で、でもさ、これ昼ごはんじゃないの?悪いよやっぱり」
「平気よ。もう三本食べ終わったし」

さ、三本・・・・・・
生の人参を三本か。うさぎにとっては普通なのかな。

「いつも一日にどれぐらい食べるの」
「15本ぐらい」

そ、そんなに食べるんだ。知られざるうさぎの生態を知った気分だ。
永遠亭のエンゲル係数も案外うちと同じぐらいヤバイのかもしれない。
テレビゲームをする主の傍ら、やりくりに思案する薬師の姿が思い浮かんだ。
苦労しているんだろうな、あの人。

そんな事を思いながら、再び生の人参にかぶりつく。
やっぱり苦手だ。

「おいしいでしょ」

ニコニコ顔で言ってくる。私は正直冷や汗ものだった。
多少苦手というのもあるけれど、普通食べないし。
でもここで折角築いた友情を崩すわけにはいかない。これからも彼女とは友好な関係でいたい。
だけど正直限界だった。
これ以上は食べられない。

「うっぷ・・・・・・」
「どうかした?」
「いやいやなんでもないよ鈴仙!」

吐き出しそうになるのを慌ててこらえる。だめだ。飲み込むんだ魂魄妖夢。

ごくん。

妖夢は涙目だった。平気だろうと高をくくっていたら、案外駄目だった。
これ以上食べたら吐く。確実に。

「も、もうおなかいっぱいだからお土産に持って帰るね!ありがと鈴仙」
「そっかあ」

ちょっと残念そうな顔をする鈴仙。これで納得してくれただろうか。

「じゃあ今度は宴会始まる前に持ってくるね」

とてもいい笑顔で言われる。冗談じゃないと切り捨てたいところではあるが、鈴仙が相手となると、切り捨てようにも切り捨てられない。大事な友達なのだから。

「あはは・・・・・・ありがとう」

空笑いをしてしまう。

持ってくるなら、せめて茹でてからにして欲しい。そんなことを思っても、きっとかなわないだろう。
料理とかってしないのだろうか。それはそれで手間が省けるけれど・・・・・・。

「ねえ鈴仙、いっつも生で食べてるの?」
「生って?」
「えーっと、茹でたりしないかって事」
「茹でるって?」
「沸騰したお湯の中に入れるってこと・・・・・・鍋と同じよ」
「そ、そんな残酷なことするの!?」

残酷なのか。人参なのに。
鈴仙は信じられないという風に目を見開く。生でそのまま食べる方が信じられない。

やっぱり彼女はうさぎなのかもしれない。

「美味しいんだけどなあ・・・・・・煮物にすると」

人参が苦手な妖夢ではあるが、煮物であれば食べられる。自分が小さかった頃、師匠がよく作ってくれたのだ。嫌いだと言って聞かないものだから、煮物に入れて無理やり食べさせられた。いつの間にかその味が忘れられなくなるぐらい好きになっていた。
今はもう居ないけれど、師匠が作ってくれた味なら、自分で作ることができる。
幽々子様も大好きな一品である。

「煮物って?」
「えーと、出汁に浸して茹で上げて味をつけるんだけど・・・・・・実物ないならわからないか」
「おいしいの?」

そりゃおいしいよ。だって師匠直伝の味なんだし。

「今日の人参のお礼に、次の宴会で作ってこようか?」
「え、いいの?」

そのほうが私としても好都合だ。だって生の人参食べられないもん。煮物にしたほうがずっと美味しい。

「ありがとう。楽しみにしてるわね」

ええ。楽しみにしていてください。腕をふるいますから。


「そういえばお茶も出していなかったわね」

鈴仙は立ち上がる。

「あ、いえ平気だから、気にしないでよ」
「駄目よ、大事なお客様なんだし。ちょっと待ってて」

そう言うと鈴仙はお茶を汲みに行ってしまった。

「気にしなくていいのになあ」

そんなことを呟いても、足早に去っていく彼女には聞こえないだろう。もしも彼女が自分の家に来たら、同じ事をするだろうし。

そして数分後。

永遠亭の縁側に、再び二人は座っていた。
今日の用事を済ませた妖夢はすることがない。だから、今日はのんびりしていられる。
たまにはこうやって他の家に行くのもいいよなあ、なんて事を思う。
そんな折、鈴仙は懐から再び人参を取り出した。ボリボリと食べている。ていうかずっと人参しか食べないんだろうか。ちょっと疑問に思う。

「人参しか食べないの?」
「そんなことないけど。月に居たときは餅だったし。でも人参の方が好きだから」
「餅?」
「そう、餅。でも人参のほうが美味しいわ」

ボリボリボリ。

噛み砕いている音がする。おいしそうに食べている彼女を見ると、本当に美味しそうに見えてくる。

(うーん、でもやっぱり匂いが苦手かなあ)

生の人参には癖があるというものだ。もしかしたら、その癖がたまらなく美味しいのかもしれない。

「鈴仙ってさ」
「ボリボリ・・・・・・んぐ、何?」
「ジャンプ力すごいの?」

普段から疑問にしていることを聞く。うさぎだったら、とてもジャンプ力があるのだろう。
元々飛んでばかりいるからあんまり目立たないというだけで、人間の何倍も飛べるに違いない。

「飛ばないでってこと?」
「そうそう、飛ばないで」
「えーと、それほどでもないよ?人間と同じぐらいじゃない」

あれ、そうなんだ。ちょっと期待はずれだなあ。

「地球って重力がすごいのよ。初めて来たとき地面から起き上がれなかったもの。月なら人間の16倍は高く飛べるよ」

そうなんだ。じゅうりょくってなんのことかわからないけれど。後で幽々子様にでも聞いてみようかな。
人間の16倍か。すごいな鈴仙。

「あはは、でもそんなにすごい方じゃなかったんだ。平均よりもジャンプ力は下だったよ」
「月のうさぎってそんなに高く跳べるんだ」
「飛んじゃうから意味ないけどね」

うさぎってどんな筋肉しているんだろう。本当に疑問だ。

「・・・…でも、こっちの方が、地に足がついている感じがしていいかな」
「え?」
「ああいや、なんでもない。独り言」

そういうと鈴仙は再び人参を食べだす。本当に美味しそうに食べている。

うさぎって、やっぱりよくわからない。

縁側からは竹薮が見える。聞こえてくるのは鳥のさえずりと、人参を食べる音。
静かな空間に、ただ座ってぼーっとする。家に居るときなら考えられない。だけど、たまにはこんな日があってもいいような気がする。

「妖夢はいっつもなに食べているの?」
「幽々子様の余りかな」
「・・・・・・なにも食べられないでしょそれじゃ」

案外それがそうでもなかったりするんだな。沢山食べる割に食べ方粗いから、あの人。

「種類だったら色々だよ。ああでも人参の煮物は大好物」
「さっきも言っていたわよね、それ」
「うん。それぐらい大好物なんだ」

昔、初めて師匠が作ってくれた事を思い出す。嫌だ嫌だと言って聞かなかった自分に、一口でいいから食べてみろ、と言われ、仕方なく食べたらびっくりするほどおいしかった。
それ以来、幽々子さまにも譲れない一品になっている。

「そんなに美味しいなら、食べてみたいな」
「うん。だから今度作ってくるよ」

うさぎの口に、煮物は合うのかなあ、とちょっぴり疑問だが、餅を食べるぐらいだ。きっと平気だろう。
次の宴会では腕を振るわなくっちゃなあ。今から楽しみだ。

「たまにはこうやってのんびりするのもいいね」
「いつも忙しいもんね」
「うん」
「お互いね」
「そうだね」
「いつでもおいでよ。歓迎するわ。妖夢なら」

全く、いい友人を持ったものだなあ、と妖夢は思う。いつも苦労している甲斐があるというものだ。

懐にある人参で今日は何を作ろうか。久しぶりに、大好物のものでも作ろうかな。
もう少しここでのんびりしたら、里へ材料を買って行こう。きっと幽々子様も喜ばれるに違いない。




おわり
ボケとボケの会話になっちゃったなあ。

この二人はなんて平和で友好的なんだろう。

人参食べてる鈴仙が書きたかった、ただそれだけの話。
sirokuma
コメント



1.欠片の屑削除
生の人参は鮮度がよければ割りと甘くて旨いですよ? 私が悪食なだけかも知れませんが。
妖夢のリアクションがそれらしくてほんわかしましたw
2.名前が無い程度の能力削除
(・・)ニヤニヤ
3.名前が無い程度の能力削除
まったりまったり。
たまにはこんな鈴妖も良いんじゃないかと。
最初百合ん百合んかと思いました。
主にタイトルで。
4.喚く狂人削除
タイトル見間違えて「そそわでネチョとな!?」とか言った俺はえーりんにしばかれてきます
5.卯月由羽削除
これはいいほのぼのうどみょん
6.ナム削除
良い。とてもとても良い。
何かありそうで何もないこの雰囲気。たまりませぬ。
7.名前が無い程度の能力削除
これは・・・なんかいいなあ
8.名前が無い程度の能力削除
和みました。
女の子二人でいるのに百合の匂いがしなくてさわやかなお話でした。
妖夢はいい子だなぁ
9.名前が無い程度の能力削除
普通に生でバリバリ食べますが……
15本も食わないけど
10.名前が無い程度の能力削除
生は鮮度が命。
個人的には、そのまま食べたほうが美味しい時すらあると思う。
でも食べ過ぎるとお腹を壊す。
11.名前が無い程度の能力削除
 これはなごみますなあ。
 ちょっと野菜スティック食ってきます。
12.名前が無い程度の能力削除
生で大きいニンジンかじった
半分でギブアップ
お腹壊した
茹でるか煮るかしたニンジン美味い・・・
13.名前が無い程度の能力削除
にんじんの丸かじり甘くて美味いじゃん
家の畑で取れたやつ皮だけ削り落としてそのまま食うよ
スーパーとかで買ったやつはちょっと怖いから食わないけど
14.名前が無い程度の能力削除
なんかいいなぁ…
なんだろう、SS全体に流れている空気みたいなものがすごく好き。
15.灰華削除
生のニンジンおいしいよね。最近は丸齧りしてないな~・・・
ちなみに兎はみんなニンジン好きってわけじゃないんだよね。
家で飼ってた兎、ニンジン全然食べなかった。ニンジンの葉はおいしそうに食べてたがw
16.sirokuma削除
「ところで鈴仙、嫌いな食べ物は?」

「うどん」





こんにちわ。きのことピーマンと茄子が嫌いな偏食家の作者です。
人参はあんまり得意な方じゃないんですが、今日人参スティック食べました。普通に美味しかったです。人参に謝って来ます。人参好きな人にも謝って来ます。OTL。

たくさんのレス、ありがとうございます。正直びっくりしています。全部は返すと長くなりそうなので、一部だけ。

>4 おおお落ち着いてください!見間違えるのもわかりますが、落ち着いてください!
漢字に変換しなかったことが思わぬ方向にw