※地霊殿エキストラまでの内容を前提としております。
なにしろファンタズムなもので。
冬も本番。
きりりと鋭く澄みきった寒さの中、触れれば押し返してきそうなほどに濃い純白の湯煙が、もうもうと立ち込めている。
その白く霞んだ岩場の片隅、岩と岩のちょっとした隙間からは、ときおり勢いよく熱水が噴き出している。
熱水の一部は空中で急激に冷やされてキラキラと輝きながら舞い落ち、また一部は熱さを保ったまま傍らの低地に流れ込んで、幻想的な美しさと頃合いの湯加減を生み出していた。
「ふー。ごくらく、ごくらく……」
ここは温泉。
名前はまだ無い。
地獄の排熱が地上に偶然もたらした、幻想郷の新たな名所である。
一時は湯と共に怨霊が湧いて出るといった異変もあったが、それも既におさまり、今やすっかり近隣住民の憩いの場となっていた。
「いや、たまらんねえ……。酒と胡瓜を持ってくるんだったよ」
今もこのように、河童の少女が一人、広い岩風呂を独占して豊かな湯を満喫している。
……のだが、実際のところ湯舟のどこにもその姿はない。
なんとなればこの河童、いつものツーテールをほどいた頭の上に、光学迷彩タオルをちょこんと乗せているからである。
生来の人見知りである彼女は、他人に構わず気楽に湯を楽しもうと、このような小道具で姿を隠しているわけであった。
◇
「へえー。これがあの巫女さんの言ってた、おくうが沸かしたっていう温泉かあ」
ふらりと岩場に現れ、お姉ちゃんへの土産話がまたひとつ云々――などと言いながらいそいそと服を脱ぎ始めたのは、瞳を閉ざしたさとりの少女。
いっさいの意識を伴わずに行動する彼女は、基本的に他者から感知されるということがなかった。
そのため、先客である河童は少女の来訪に気付かず、少女もまた誰の姿もない温泉を前にして――、
「わーい、貸し切りだ―――っ!」
ざっぱーん。万歳のポーズで湯舟にダイブした。
飛び込んだ勢いのまま全身を湯に沈め、手足を伸ばして少しの距離をすいすいと泳ぐと、少女は濡れ髪の張り付いた顔をぽっかりと浮上させる。
「はー。ぢごく、ぢごく……」
地底の住人はこう言うのである。
◇
「うわぁ素敵! ここが噂の地獄温泉ね!」
次に現れたのは、輝くような笑みで湯に駆け寄る太陽の妖精と、
「ちょっとサニー、あんまり離れたらお互いの能力が届かなくなっちゃうでしょ」
仲間をたしなめながら静かに景色を楽しむ月の妖精と、
「それにしても凄い湯気ね。羽根が重いわぁ」
ひときわ大きな羽根を満更でもなさそうに揺らめかせる星の妖精だった。
悪戯が過ぎるせいでなにかと怨みを買いがちなこの三人組は、用心のため、光を歪め音を消し去るその能力でもって自らを完全に隠蔽していた。
よって、先客の河童とさとり、そして妖精たちは互いの存在を知らぬまま――、
「はぁ……気持ちいい。温泉いいなー。うちの近くにも湧かないかなぁ」
「温泉って森にも湧くのかしら……。そういえば、この前拾った絵本の中では、タヌキとシマリスとカワウソが温泉に入ってたわね」
「湧くのを待つより、ここの近くに別荘を建てたらいいんじゃないかしら?」
◇
入場者五名。
ただし、見かけ上は零名。
そんな癒しの空間に、また新たな来客が二人。
「うふー。やっぱり飲んだ後はお風呂よね~☆」
「……そういうものだっけ? 酔い潰れて沈んでも知らないわよ」
スキマ妖怪と紅白巫女。
前者はしっかりと、後者はそれなりに、酒が入っている模様。
当たり前だが、スキマも巫女も、身を隠すような真似はしていない。
やろうと思えばそれくらいの芸当は朝飯前の二人だが、少なくとも今その必要がないのは明白だった。
また、彼女らは先客の存在にも気付いていなかった。
本気で目を凝らせば光学迷彩だろうがブラックホールオカリナだろうがお見通しの二人だったが、酔っているせいもあり、そもそもこの場でそんな必要が以下略。
そんなわけで二人はするすると着衣を外し、酒で火照った肌を湯気と冷気にさらす。
「……」
繰り返すが、酔っ払っているのだ。スキマ妖怪は。
「……う、ふ」
二人っきりだと思っていたのだ。スキマ妖怪は。
「んっふっふ。ねぇ、れいむぅ……」
「な、なによ」
思っていたので、
「ちょっ……こら、紫――」
えっと、
うわ。
ブバァ――――――ッ!!
真紅の間欠泉が四つ、温泉の各所から忽然と噴き出した。
「ひゃあっ!?」
さすがの巫女も、これにはちょっと驚いた。
驚いた拍子に、針を一本、スキマ妖怪の脳天にさくりと刺した。
「いっ、異変だから! これ! 巫女だから私! い、行かなきゃ、私――」
真っ赤な顔で、乱れた台詞をわめきながら後ずさる巫女。
あたふたと服を着なおすと、逃げるように温泉から去っていった。
そうして、後に残されたのは――、
頭を抱えて唸るスキマ妖怪と、
血の池地獄と化した湯舟と、
そこに浮かぶ出血多量の四人と、
「え、なに? どうしたの? ねえ、なにやってたのあの二人? ねえってば、ルナもスターも起きてよー!」
ただ一人、自分が目撃したモノの意味を理解できないでいる太陽の妖精だった。
◇
かくして、幻想郷の新名所を襲った「紅色間欠泉異変」の原因を突き止めるべく、博麗霊夢は再び地霊殿へと向かうのであった――。
(続きはWEBで)
なにしろファンタズムなもので。
冬も本番。
きりりと鋭く澄みきった寒さの中、触れれば押し返してきそうなほどに濃い純白の湯煙が、もうもうと立ち込めている。
その白く霞んだ岩場の片隅、岩と岩のちょっとした隙間からは、ときおり勢いよく熱水が噴き出している。
熱水の一部は空中で急激に冷やされてキラキラと輝きながら舞い落ち、また一部は熱さを保ったまま傍らの低地に流れ込んで、幻想的な美しさと頃合いの湯加減を生み出していた。
「ふー。ごくらく、ごくらく……」
ここは温泉。
名前はまだ無い。
地獄の排熱が地上に偶然もたらした、幻想郷の新たな名所である。
一時は湯と共に怨霊が湧いて出るといった異変もあったが、それも既におさまり、今やすっかり近隣住民の憩いの場となっていた。
「いや、たまらんねえ……。酒と胡瓜を持ってくるんだったよ」
今もこのように、河童の少女が一人、広い岩風呂を独占して豊かな湯を満喫している。
……のだが、実際のところ湯舟のどこにもその姿はない。
なんとなればこの河童、いつものツーテールをほどいた頭の上に、光学迷彩タオルをちょこんと乗せているからである。
生来の人見知りである彼女は、他人に構わず気楽に湯を楽しもうと、このような小道具で姿を隠しているわけであった。
◇
「へえー。これがあの巫女さんの言ってた、おくうが沸かしたっていう温泉かあ」
ふらりと岩場に現れ、お姉ちゃんへの土産話がまたひとつ云々――などと言いながらいそいそと服を脱ぎ始めたのは、瞳を閉ざしたさとりの少女。
いっさいの意識を伴わずに行動する彼女は、基本的に他者から感知されるということがなかった。
そのため、先客である河童は少女の来訪に気付かず、少女もまた誰の姿もない温泉を前にして――、
「わーい、貸し切りだ―――っ!」
ざっぱーん。万歳のポーズで湯舟にダイブした。
飛び込んだ勢いのまま全身を湯に沈め、手足を伸ばして少しの距離をすいすいと泳ぐと、少女は濡れ髪の張り付いた顔をぽっかりと浮上させる。
「はー。ぢごく、ぢごく……」
地底の住人はこう言うのである。
◇
「うわぁ素敵! ここが噂の地獄温泉ね!」
次に現れたのは、輝くような笑みで湯に駆け寄る太陽の妖精と、
「ちょっとサニー、あんまり離れたらお互いの能力が届かなくなっちゃうでしょ」
仲間をたしなめながら静かに景色を楽しむ月の妖精と、
「それにしても凄い湯気ね。羽根が重いわぁ」
ひときわ大きな羽根を満更でもなさそうに揺らめかせる星の妖精だった。
悪戯が過ぎるせいでなにかと怨みを買いがちなこの三人組は、用心のため、光を歪め音を消し去るその能力でもって自らを完全に隠蔽していた。
よって、先客の河童とさとり、そして妖精たちは互いの存在を知らぬまま――、
「はぁ……気持ちいい。温泉いいなー。うちの近くにも湧かないかなぁ」
「温泉って森にも湧くのかしら……。そういえば、この前拾った絵本の中では、タヌキとシマリスとカワウソが温泉に入ってたわね」
「湧くのを待つより、ここの近くに別荘を建てたらいいんじゃないかしら?」
◇
入場者五名。
ただし、見かけ上は零名。
そんな癒しの空間に、また新たな来客が二人。
「うふー。やっぱり飲んだ後はお風呂よね~☆」
「……そういうものだっけ? 酔い潰れて沈んでも知らないわよ」
スキマ妖怪と紅白巫女。
前者はしっかりと、後者はそれなりに、酒が入っている模様。
当たり前だが、スキマも巫女も、身を隠すような真似はしていない。
やろうと思えばそれくらいの芸当は朝飯前の二人だが、少なくとも今その必要がないのは明白だった。
また、彼女らは先客の存在にも気付いていなかった。
本気で目を凝らせば光学迷彩だろうがブラックホールオカリナだろうがお見通しの二人だったが、酔っているせいもあり、そもそもこの場でそんな必要が以下略。
そんなわけで二人はするすると着衣を外し、酒で火照った肌を湯気と冷気にさらす。
「……」
繰り返すが、酔っ払っているのだ。スキマ妖怪は。
「……う、ふ」
二人っきりだと思っていたのだ。スキマ妖怪は。
「んっふっふ。ねぇ、れいむぅ……」
「な、なによ」
思っていたので、
「ちょっ……こら、紫――」
えっと、
うわ。
ブバァ――――――ッ!!
真紅の間欠泉が四つ、温泉の各所から忽然と噴き出した。
「ひゃあっ!?」
さすがの巫女も、これにはちょっと驚いた。
驚いた拍子に、針を一本、スキマ妖怪の脳天にさくりと刺した。
「いっ、異変だから! これ! 巫女だから私! い、行かなきゃ、私――」
真っ赤な顔で、乱れた台詞をわめきながら後ずさる巫女。
あたふたと服を着なおすと、逃げるように温泉から去っていった。
そうして、後に残されたのは――、
頭を抱えて唸るスキマ妖怪と、
血の池地獄と化した湯舟と、
そこに浮かぶ出血多量の四人と、
「え、なに? どうしたの? ねえ、なにやってたのあの二人? ねえってば、ルナもスターも起きてよー!」
ただ一人、自分が目撃したモノの意味を理解できないでいる太陽の妖精だった。
◇
かくして、幻想郷の新名所を襲った「紅色間欠泉異変」の原因を突き止めるべく、博麗霊夢は再び地霊殿へと向かうのであった――。
(続きはWEBで)
ディレクターズカット版を切に願います。
ところで、飲酒で温泉っていいですよね。体には悪いですけど。
色々ふいたw
頭を抱えて唸るスキマ妖怪で吹いた私は少数派かな?
これは流行りそうww
しかし心が読めると大変だな、いろんな意味でw
こいつぁ傑作だ!
サニーはやっぱり純粋だった・・・
サニーかわいいよサニー
スターかわいいよスター
ルナかわいいよルナ
さとりも気の毒にwww
とりあえず、見たままでいいから教えてサニーwwww
さとりも大変だなw
温泉浸かりながら飲酒って下手したら脳溢血モンらしいですがそこははーじごくじごくで。
さとりは普段から妄想慣れしてそうだから以外とつらっと澄まして状況説明しそうな気もするw
ブバァ。
>ただし、見かけ上は零名。
確かになwww