多少壊れているかもしれません。あと、小ネタがマイナーです。
「ねぇ、交換日記をしない?」
「はぁ?!」
ここは紅魔館の地下に存在する『ヴワル魔法図書館』。どうも、正式名称は違うらしいのだが
皆がそう呼んでいる。瀟洒なメイド十六夜咲夜によって空間を操作され、広大な空間に拡大された
この図書館には、古今東西ありとあらゆる書物が存在し、そして今なお増え続けていると言う。
この図書館の管理者であるパチュリー・ノーレッジですら全ての本を把握していないらしい。
パチュリーの使い魔であり、この図書館付き司書である小悪魔は把握しているらしいが眉唾である。
そして冒頭のシーン、奇妙な提案をしたのがパチュリー・ノーレッジ、素っ頓狂な声をあげたのが
七色の人形遣いこと、アリス・マーガトロイドである。
「ごめんなさい、あなたが何を言いたいのか良く理解できないわ」
アリスがそう答えるのも仕方が有るまい。アリスは魔理沙程ではないが時折この図書館にやって来る。
魔理沙と違い、美鈴を通しキチンと手続きを踏んで紅魔館に入館し、本を借りるにしてもパチュリーの
許可を得てから借りて行き、今まで返却が遅れたことも無い。また、稀に差し入れと称して自作のお菓子
を持ってきては紅魔館のメンバーとお茶会を楽しむ為、レミリアやフランドールとも面識があった。
そんな礼儀正しさからか、紅魔館ではそれなりに上客として扱われ(フランに至ってはお菓子を楽しみに
している節がある)、アリスにしても紅魔館の面々は友人と呼んでも良いものだと思っていた。
……しかしである。パチュリーと小悪魔の3人で楽しんでいたささやかなティータイム、突然のパチュリーの
言葉には首を傾げざるを得ない。
交換日記とはどういう事だろう?改めて自分との友人関係を構築するつもりなのか?だとしてもパチュリーに
そんな乙女趣味があったのか?
……もしかして新手の告白だったりしたらどうしよう。
『今日も一日アリスの事が頭から離れなかった。この気持ちは何だろう……いえ、判ってはいるの。
でも、認めたくない。まさか女同士で恋だなんて。
……昨日まではそう思ってた。でももう我慢出来ない。だから嫌われても良い、自分に嘘は吐けないもの。
私、パチュリー・ノーレッジはアリス・マーガトロイドが好きです!』
……なんて日記を渡されたらどうしよう?……とりあえず逃げよう。魔界に帰って神綺様の後を継いで
農業をやろう。そして何処かの金持ちの次男坊あたりとお見合いをして、幸せな家庭を築こう……
「何を考えているのかしら?」
「い・いえ、何でもないわ!」
突然のパチュリーの声に現実に引き戻される。どうやら少しトリップしていた様だ。
アリスは慌てて頭を振った。
「交換日記というのは冗談よ。どちらかと言うと情報交換かしら?」
「情報交換?」
「ええ。貴女、自立人形研究の進展が思わしく無いのでしょう?」
「まぁね、色々と試してはいるのだけど思わしくないわ」
そういうアリスの顔に落胆は無い。アリス自身、この研究の完成には自分の人生を捧げる程の苦労が必要だと
理解していた。
「それでね、お互いの研究成果を簡単なレポートにして見せ合うの。そうね、例えば私ならホムンクルスや
錬金術についての考察とか。」
「ふむふむ」
「貴女は今まで行ってきた実験や研究についての考察や、人形作成についてのレポートなんかどうかしら?」
「それを行う事によるメリットは?」
「他人の研究は新しい発想を与えてくれる可能性があるわ。また、私にとっては貴女の研究成果を纏める事によって
新たな知識と書が手に入る可能性……かしら。
もちろん、いきなり本一冊分のレポートなんて必要無いわ。数枚の簡単なレポートで十分よ。
それを見て何かインスピレーションが湧けば、次回のレポートで言及し合えば新たな発想や進展があるかもしれない。
最初に『交換日記』と揶揄したのもあながち間違いではないわ」
なるほど。アリスは素直に感心した。
確かに自分の研究を他人に見てもらう事によって、新たな発想が生まれるかもしれない。
知識は魔女にとっては財産であるが、この方法ならばお互いの知識の等価交換である。悪い話では無い。
また、自身が改めて文章に纏める事によって、今まで見落としていた事柄を見つけられるかもしれない。
何より、この知識と日陰の少女が不器用なりに自分に友情を示してくれようとしているのだ。
「確かに良い案だわ。でも私の人形作成のレポートなんて、あなた興味あるの?」
「お人形にはあまり興味無いわ。でも、魔女として「精巧な人形(ヒトカタ)」には興味あるかも」
「なるほどね」
「とりあえず、一週間に一度位のペースで始めてみてはどうかしら?」
「週刊ペースね。ちょっとキツそうだけど、最初はそれくらいでやってみましょうか。
それじゃあ、今日はもう帰るわ。来週来る時までに最初のレポートを用意しておくから」
「ええ、私もそうするわ」
「じゃあ、さようなら。パチュリーのレポート、楽しみにしているわ」
「ええ、さようなら。期待しておいてちょうだい」
ん。と頷くと、アリスは図書館を後にした。どんな事を書こうか等と考えながら……
あれから一週間。アリスは今朝方ようやく書き上げたレポートを持って紅魔館に向かった。
何を書けばよいのかを迷った為に、書くのに時間が掛かってしまったが、いざ書き出してしまえば
それは非常に有意義な作業であった。
今回アリスが書いたのは、いわゆる自分が行おうとしている物の到達点について。
つまりは自分が思い描いている「自立人形」とはどういう物なのか。例えば、無名の丘に住んでいる
「メディスン・メランコリー」との違いは?魂の有無についての考察、では、何を以って自立人形の完成と
するのか?等、自分の原点に触れる部分の考察である。
アリス自身、あまりにも長い間に渡って考え続けた事柄でもあり、当たり前に成りすぎていた為
いざ、文章の纏めてみると自分が自立人形の作成を誓った当時の感覚が蘇り、研究意欲もさらに大きくなった。
それだけでも意義があったと思う。そう考えれば、この話を持ち掛けてくれたパチュリーには感謝すべきだろう。
紅魔館に着いたアリスは、門番の美鈴に挨拶をすると図書館への入館の許可を求める。
美鈴がパチュリーの許可を取りに行っているのを待っていると、現れたのは小悪魔であった。
「アリスさん申し訳ありません。本日はパチュリー様の体調不良の為、お引取り頂いても宜しいでしょうか?」
「また喘息?」
「ええ、昨日発作が起こりまして。」
「それなら仕方が無いわね。じゃあ、悪いけどこれをパチュリーに渡しておいてもらえるかしら?」
そう言ってアリスは小さな紙包みを小悪魔に渡した。
「これは?」
「前にパチュリーと約束した『交換日記』よ」
「あぁ、レポートで御座いますね。そう言えばパチュリー様から伝言が」
「伝言?」
「ええ、『レポートはもうすぐ完成するから、明日にでも届けさせるわ』との事です」
「体調が悪いなら無理しなくても良いのに」
「私もそう言ったんですけどね。あれで頑固な所がありますから」
「まぁ良いわ。パチュリーに無理しないでって言っといて。……あと、楽しみにいてるって」
「かしこまりました。少し拝見いたしましたが、中々凝ってましたよ。パチュリー様のレポート」
「へぇ、それは益々楽しみね」
「パチュリー様も凝り性ですから」
そう言って2人で笑った。
翌朝、アリスの家の玄関に小包が置かれていた。
メモが挟んであったので見てみると、どうやら美鈴が朝早くに持ってきてくれたらしい。
早朝の所為か、返事が無かったので玄関に置いておいたと書いてある。
「美鈴には、今度あった時にでも礼を言わなければいけないわね」
そう思いながら、アリスは朝の紅茶の準備をする。とは言え、準備をするのは人形達なのだが。
上海人形がお茶の準備をしているあいだ、小包を開けてみる。おそらくはパチュリーのレポートなのだろうが、
妙に大きい。
包みから中身を取り出してみて納得した。
これは一度、香霖堂で見た事がある。確か『バインダー』という名称だったか、用途は「書類等を整理する物」
だったと思う。中には十数枚の手書きと思われるレポートが挟み込んであった。
なるほど、これならば次回以降のパチュリーのレポートを保存しておくのも容易になる。
今回アリスがパチュリーに渡したレポートは、ただ簡易に紐で綴じただけの物だった。
「次回にでもバインダーを用意しておこう」
そう考えたアリスは、とりあえず上海の用意した紅茶を飲みながら、パチュリーのレポートを見てみる事にした。
まず目に付いたのは、レポートが綴じられている「バインダー」である。
表側をなめした皮であしらい、角の部分を金属で補強してある。その補強金属も、ただ付けてあるのではなく、
微かに装飾が施されていた。まるで一見魔道書の様にも見える。
昨日、小悪魔が「凝っている」と言っていたが、なるほど、これはと思える。この様子なら内容にもかなり
期待が持てるだろう。そう思いながら表紙を捲って見た。
「ぶほぉっっっ!!!!!」
中身を見た瞬間アリスは紅茶を盛大に噴き出した。
「げはっ、ごほっ、がふっ……」
あまりに豪快に噴き出した為、咳き込んでしまう。慌てて蓬莱人形がタオルを持ってくる。
「ごほっごほっ……ありがとう、蓬莱」
蓬莱人形に礼を言いながら、アリスはパチュリーのレポートを一瞥する。
そこに書かれていた物は
『週刊 Dearごっすんティーニ 創刊号!!
あなたにも出来る!ホムンクルス生成!
パラケルススの実験記録から、ゲーテのファウストまで、ホムンクルスの全てを網羅する
初の完全ビジュアルマガジン!
また、ホムンクルスの練成法から生成・育成に至るまでを、あらゆる角度から徹底解説!
誰も見たことがなかったビジュアルや初公開となる情報も続々登場します!
創刊号は特製バインダー付き!!』
アリスは一度大きく深呼吸をすると、大声で叫んだ。
「何考えてんだ、あの魔女は!私に何を求めてるのよ!『Dearごっすんティーニ』って何よ!
『Dear(親愛なる)』って事は『ごっすんティーニ』って私の事?!イタリア人みたいに言うな!!
ってか『ごっすん』言うな!!!」
一気に捲くし立てると、アリスはテーブルに突っ伏した。
呪詛でも吐く様に「畜生……」と呟く姿が非常に不気味である。
しばらくブツブツと言っていたアリスだが、気を取り直しレポートに目をやる。
「そうよ……タイトルに面食らっただけで、肝心の中身までふざけているとは限らないじゃない」
そう言って内容を読み始めたアリスだったが、次第に真剣な顔になっていく。
初めは何処かに落とし穴でもあるのかと警戒していたアリスだが、内容を読み進めていくと、かなり
真面目にホムンクルスについて言及している。また、所々にパチュリー自身の考察も添えられており
あまり錬金術に詳しくないアリスにとって興味深いものであった。
「ふう」
一気に最後まで読み終えたアリスは、ため息を一つ吐く。
最初はどうなるかと思ったが、読んで見ると非常に興味を引かれた。まだまだホムンクルスについての
さわり部分だけであるが、こうなれば次回以降のレポートも期待して良いだろう。
「さすがはパチュリーね」
そう言ってカップに口をつけた時、随分と紅茶がぬるくなっている事に気が付いた。
アリスが新しい紅茶を淹れようと立ち上がった時、バインダーから一枚の紙が落ちたのに気が付く。
何だろうと思い拾ってみると、そこには『定期購読申込書』とあった。
定期購読も何も、最初から続けるつもりではなかったのか?アリスは少し考え込む。
「なるほど」
アリスの結論は、パチュリーのちょっとした悪戯である。つまり、
「面白かったでしょう?」
とアリスに問い掛けているのだ。確かに内容的には満足のいくものであった。
しかし、このままパチュリーの思惑に沿うのも何か面白くない。さて、どうしたものかと思案していると
定期購読申込書とは別の紙があることに気が付いた。
アリスが何気なく手にとって見た内容は
『ただいま『週刊 Dearごっすんティーニ』を定期購読していただけると、毎号「上海強化パーツ」が
付いてくる!!パーツを集めるとあなたの上海人形が『パーフェクト上海』に!!
パーツはパチュリー・ノーレッジにしか練成できないと言われている魔法金属『ミスリル』をふんだんに使用!
高級感あふれる仕様となっております。
さあ!!あなたの上海をあなただけの『パーフェクト上海』に!!
お申し込みは今すぐ!!』
なんか、下のほうには物凄い綺麗な完成予想図とか載っている。
完成予想図によると、各部に増加装甲が施され、右腕にはビームガン・左腕にはシールド(裏面に機雷付き)・
脚部には増加ブースター・背中のバックパックには巨大なキャノン砲が一本付いていた。
アリスは用紙をテーブルに置くと、ゆっくりとソファに向かう。あまりの凄絶な笑顔に上海と蓬莱が部屋の隅で
ガタガタと震えながら命乞いをしている。もちろん神様にはお祈り済みだ。
ソファの傍まで来ると、アリスは置いてあるクッションをいきなり殴りつけた。
パンチ!パンチ!パンチ!エルボー!パンチ!パンチ!……
「だ・か・ら!!何考えてんのよ!あの魔女はぁ!!『あなただけの上海』って最初から上海は私だけの物じゃない!!
何よ『パーフェクト上海』って!右腕のビームガンはまだ判るわよ!上海レーザーを応用って書いてあるし!!
なんで盾の裏に機雷が付いてんのよ!!んなモンで攻撃を受けたら誘爆するわ!!大体ビームガンは攻撃出来るのに、
なんで背中のキャノン砲が水鉄砲なのよ!一体何対策なのよ!!発光ダイオードで電飾した魔理沙でも出て来るの!?」
殴り疲れたのか、クッションに顔を埋め肩で息をしているアリス。見様によってはエロティックだが、
「畜生……畜生……畜生……畜生……」とブツブツ聞えてくるので台無しである。
たっぷり15分は経過しただろうか、憔悴しきったアリスはテーブルに向かうと「定期購読申込書」に署名する。
「だって、しょうがないじゃない。ミスリルなんだもの……私、練成出来ないんだもの……」
そう呟いてアリスはテーブルに突っ伏した。
傍で『パーフェクト上海・完成予想図』を目を輝かせて見ている上海とは非常に対照的だった。
再び一週間が過ぎた。
アリスは紅魔館地下のヴワル図書館に来ていた。先週はパチュリーの体調が悪かった為に
2週間振りである。パチュリーと2人で小悪魔の淹れた紅茶を飲んでいた。
「アリスさん、お茶のおかわりはいかがですか?」
「ありがとう小悪魔。でも、今日はもう帰らなくっちゃいけないの」
そう言って、アリスはおかわりを用意しようとしていた小悪魔に微笑んだ。
「あら、もう帰るの?」
「ええ、ごめんなさいねパチュリー。もっとゆっくりしていきたいんだけど」
そう言いながら、アリスは鞄から紙包みを取り出す。
「これ、今週分のレポートよ」
「あら、随分大きいのね」
「私も『バインダー』を用意したのよ」
「『バインダー』ならまだあるから気を使わなくても良かったのに」
「まぁ、気分の問題ね」
「ありがたく受け取っておくわ……はい、これがこちらの今週分のレポートよ」
「ありがとう。家でゆっくり読ませてもらうわ」
そう言ってパチュリーにウインクを一つすると、アリスは図書館から出て行く。
パチュリーに気付かれない様に笑いを押し殺しながら。
アリスは先日、パチュリーの用意した『定期購読申込書』を上海に紅魔館まで届けさせてから
考えに考え抜いたのだ。
どうすればパチュリーをぎゃふんと言わせられるのか。
結論は簡単であった。
「やられた事をやり返せば良い」
アリスは帰り道、今回用意したレポートの表紙を思い出す。
『週刊 Dearゴスめーりん 創刊号
待望の古今東西あらゆる人形に関するデータブックが新創刊!!
アンティークドールはもとより、ぬいぐるみから魔術用ヒトカタまで完全網羅!
また、随所にイラスト・写真をふんだんに使用し、人形初心者の方でも安心!
人形制作から手入れの方法まで判り易く解説!
これであなたも「ドールマスター」!!
また、毎号付いてくるパーツを集めると、精巧な「めーりん人形(ゴスロリVer)」が完成します!
もちろん、人形制作はアリス・マーガトロイドによる手作りです!
さあ!パーツを集めて、あなただけの「めーりん人形(ゴスロリVer)」を完成させて下さい!!
定期購読のお申し込みは今すぐ!!魔法の森・アリス・マーガトロイドまで!!』
アリスは確信している。パチュリーは必ず食い付いてくる。
知っているのだ。紅魔館の面々が美鈴に首っ丈なのを。
今日さっさと帰ってきたのも、パチュリーがレポートを見た時、傍に自分が居ない様にするためだ。
あの魔女の事だ、自分が居ると
「あら、中々面白そうね」
等と言いながら、用意しておいた『定期購読申込書』に涼しい顔でサインするだろう。内心を隠して。
さぁ、お膳立てはしてやった。存分に悶えるが良い!
アリスは意地悪く笑った。
あれから数時間して、紅魔館のメイドが一通の封筒を持って来た。
予想通りの展開に、アリスは内心笑いを堪え切れない。
メイドに「ご苦労様」と言って、お礼に焼いたばかりのクッキーを渡す。メイドは何度も礼を言って帰って行った。
アリスはリビングで紅茶を用意すると、早速封筒を開ける。
中身を取り出してみると、予想通りの『定期購読申込書』だったが、その他にも数枚の紙が入っている。
何だろうと思ったが、とりあえず見てみる事にした。
まず目に入ってきたのはパチュリーのサイン。動揺していたのか僅かにサインが傾いている。
次に目に入ったのは「5冊定期購読希望」の文字……
「5冊ぅ?!」
思わず声を出してしまった。慌てて2枚目の紙を見る。そこに書かれていたのは
『めーりん人形希望衣装:レミリア・スカーレット 『ボンデージ(女王様風)』
フランドール・スカーレット 『いつものめーりんのふくがいい』
十六夜咲夜 『女教師風(眼鏡付き)』
小悪魔 『えっちな水着』 』
ダンッ!!!!
アリスは思わずテーブルを叩く。
「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁ!!あそこの連中は何考えてんのよ!!『ゴスめーりん』だっつってんだろうが!!
勝手に衣装を指定してくるな!って言うか小悪魔!何だ『えっちな水着』って!大人しくて良い子だと思っていたのに
裏切ったな!父さんと同じで私を裏切ったんだ!!それよりレミリア!!お前フランと当主代われ!!!!」
一気に大声で捲くし立てると、アリスはゼェゼェと肩で息をした。
そして睨み付けるかの様に3枚目の紙を見る。それはパチュリーからの手紙であった。
『もちろん、レポートは1冊で良いわ。それに5体分の人形の対価も用意させてもらうわ。
以下のリストが残り4体分の対価よ。』
アリスが4枚目の紙を見ると、そこには
『『蓬莱・増加ウエポンシステム(フルアーマー蓬莱)』
『ヘビー仏蘭』
『パーフェクト・オルレアンⅢ(レッドウォーリア)』
『武者グランギニョル』 』
と書かれており、イラスト入りで詳細が記されていた。
「……」
しばらく呆然としていたアリスだが、おもむろに紙をテーブルに叩きつけると寝室へと駆け込む。
寝室に着くとベッドに飛び乗り、普段使っている自分の枕に拳を叩きつけた。
「畜生!あの魔女め!本気で意味判んないわよ!何で?何で『フルアーマー蓬莱』にも水鉄砲がついているのよ!
『パーフェクト・オルレアンⅢ』って『Ⅱ』はドコにいったのよ!何でイキナリ『Ⅲ』なのよぉ!!
「ミスリル」をふんだんに使用って書いておきながら、『ヘビー仏蘭』の装甲だけ何で鉄粉を混ぜた
ウレタン樹脂なのよぉぉぉ!!畜生!畜生!!畜生!!!」
髪を振り乱しながら、一心不乱に枕を殴り続ける。
やがて勢いが無くなって行き、アリスはまるで土下座をするかの様な姿勢で枕に顔を埋めた。
「畜生……畜生……安○先生……『武者グランギニョル』が欲しい……です……」
アリスは、そう小さな声で呟いた。
秋晴れの気持ちの良い午後。アリスは窓辺の机で行っていた人形修繕の手を止めた。
あれから数ヶ月。
今もあの『交換日記』は続いている。
時折、パチュリーのレポートと一緒に咲夜の新しい料理のレシピや、レミリアの手紙、フランドールの人形の
作り方についての質問なんかも入っていた。
アリスもまた、質問への回答や、お菓子のレシピ等を添えている。
図書館に行ったときに、作りかけの『めーりん人形』が置かれているのを見た事もある。
皆……そう、あのレミリアですらが、人の手に頼らず自分で人形を組み立てているらしい。そこまでしてもらえれば
人形師冥利に尽きるというものだ。
「ん……」
アリスは小さく伸びをしてから、雲ひとつ無い空を見上げた。
なるほど……これも一つの友情の形なのだろう。パチュリーは「揶揄」と言っていたが、確かにあれは交換日記だった。
上海に紅茶を淹れてもらおうと思って振り返ったが、思い直して自分で淹れる事にした。
見れば、上海達は未完成の強化パーツを手に取り、楽しそうにしている。
その様子を見てアリスは「ひょっとしたら上海達には自我が目覚めているのでは?」と思う時がある。
……ありえない話では無い。確か「付喪神」と言ったか。自分の愛情と、魔法の森の魔力を浴び続けているのだ。
そういった物になっていても不思議ではない。
自分の目指す「自立人形」とは違うが、上海達に自我が目覚めていれば、それは何て素敵な事だろう。
アリスは自分で淹れた紅茶を手に持ち、もう一度空を見上げた。
今度は永遠亭の薬師にでも『交換日記』を持ちかけてみようか?
『週刊 Dearゴスれーせん』とかを持っていった時の薬師はどんな顔をするだろうか?
「ふふっ」
例えばこんな交換日記から始まる友情も、それは素敵な事ではないか。
アリスは永琳の顔を想像して楽しそうに笑った。
「ねぇ、交換日記をしない?」
「はぁ?!」
ここは紅魔館の地下に存在する『ヴワル魔法図書館』。どうも、正式名称は違うらしいのだが
皆がそう呼んでいる。瀟洒なメイド十六夜咲夜によって空間を操作され、広大な空間に拡大された
この図書館には、古今東西ありとあらゆる書物が存在し、そして今なお増え続けていると言う。
この図書館の管理者であるパチュリー・ノーレッジですら全ての本を把握していないらしい。
パチュリーの使い魔であり、この図書館付き司書である小悪魔は把握しているらしいが眉唾である。
そして冒頭のシーン、奇妙な提案をしたのがパチュリー・ノーレッジ、素っ頓狂な声をあげたのが
七色の人形遣いこと、アリス・マーガトロイドである。
「ごめんなさい、あなたが何を言いたいのか良く理解できないわ」
アリスがそう答えるのも仕方が有るまい。アリスは魔理沙程ではないが時折この図書館にやって来る。
魔理沙と違い、美鈴を通しキチンと手続きを踏んで紅魔館に入館し、本を借りるにしてもパチュリーの
許可を得てから借りて行き、今まで返却が遅れたことも無い。また、稀に差し入れと称して自作のお菓子
を持ってきては紅魔館のメンバーとお茶会を楽しむ為、レミリアやフランドールとも面識があった。
そんな礼儀正しさからか、紅魔館ではそれなりに上客として扱われ(フランに至ってはお菓子を楽しみに
している節がある)、アリスにしても紅魔館の面々は友人と呼んでも良いものだと思っていた。
……しかしである。パチュリーと小悪魔の3人で楽しんでいたささやかなティータイム、突然のパチュリーの
言葉には首を傾げざるを得ない。
交換日記とはどういう事だろう?改めて自分との友人関係を構築するつもりなのか?だとしてもパチュリーに
そんな乙女趣味があったのか?
……もしかして新手の告白だったりしたらどうしよう。
『今日も一日アリスの事が頭から離れなかった。この気持ちは何だろう……いえ、判ってはいるの。
でも、認めたくない。まさか女同士で恋だなんて。
……昨日まではそう思ってた。でももう我慢出来ない。だから嫌われても良い、自分に嘘は吐けないもの。
私、パチュリー・ノーレッジはアリス・マーガトロイドが好きです!』
……なんて日記を渡されたらどうしよう?……とりあえず逃げよう。魔界に帰って神綺様の後を継いで
農業をやろう。そして何処かの金持ちの次男坊あたりとお見合いをして、幸せな家庭を築こう……
「何を考えているのかしら?」
「い・いえ、何でもないわ!」
突然のパチュリーの声に現実に引き戻される。どうやら少しトリップしていた様だ。
アリスは慌てて頭を振った。
「交換日記というのは冗談よ。どちらかと言うと情報交換かしら?」
「情報交換?」
「ええ。貴女、自立人形研究の進展が思わしく無いのでしょう?」
「まぁね、色々と試してはいるのだけど思わしくないわ」
そういうアリスの顔に落胆は無い。アリス自身、この研究の完成には自分の人生を捧げる程の苦労が必要だと
理解していた。
「それでね、お互いの研究成果を簡単なレポートにして見せ合うの。そうね、例えば私ならホムンクルスや
錬金術についての考察とか。」
「ふむふむ」
「貴女は今まで行ってきた実験や研究についての考察や、人形作成についてのレポートなんかどうかしら?」
「それを行う事によるメリットは?」
「他人の研究は新しい発想を与えてくれる可能性があるわ。また、私にとっては貴女の研究成果を纏める事によって
新たな知識と書が手に入る可能性……かしら。
もちろん、いきなり本一冊分のレポートなんて必要無いわ。数枚の簡単なレポートで十分よ。
それを見て何かインスピレーションが湧けば、次回のレポートで言及し合えば新たな発想や進展があるかもしれない。
最初に『交換日記』と揶揄したのもあながち間違いではないわ」
なるほど。アリスは素直に感心した。
確かに自分の研究を他人に見てもらう事によって、新たな発想が生まれるかもしれない。
知識は魔女にとっては財産であるが、この方法ならばお互いの知識の等価交換である。悪い話では無い。
また、自身が改めて文章に纏める事によって、今まで見落としていた事柄を見つけられるかもしれない。
何より、この知識と日陰の少女が不器用なりに自分に友情を示してくれようとしているのだ。
「確かに良い案だわ。でも私の人形作成のレポートなんて、あなた興味あるの?」
「お人形にはあまり興味無いわ。でも、魔女として「精巧な人形(ヒトカタ)」には興味あるかも」
「なるほどね」
「とりあえず、一週間に一度位のペースで始めてみてはどうかしら?」
「週刊ペースね。ちょっとキツそうだけど、最初はそれくらいでやってみましょうか。
それじゃあ、今日はもう帰るわ。来週来る時までに最初のレポートを用意しておくから」
「ええ、私もそうするわ」
「じゃあ、さようなら。パチュリーのレポート、楽しみにしているわ」
「ええ、さようなら。期待しておいてちょうだい」
ん。と頷くと、アリスは図書館を後にした。どんな事を書こうか等と考えながら……
あれから一週間。アリスは今朝方ようやく書き上げたレポートを持って紅魔館に向かった。
何を書けばよいのかを迷った為に、書くのに時間が掛かってしまったが、いざ書き出してしまえば
それは非常に有意義な作業であった。
今回アリスが書いたのは、いわゆる自分が行おうとしている物の到達点について。
つまりは自分が思い描いている「自立人形」とはどういう物なのか。例えば、無名の丘に住んでいる
「メディスン・メランコリー」との違いは?魂の有無についての考察、では、何を以って自立人形の完成と
するのか?等、自分の原点に触れる部分の考察である。
アリス自身、あまりにも長い間に渡って考え続けた事柄でもあり、当たり前に成りすぎていた為
いざ、文章の纏めてみると自分が自立人形の作成を誓った当時の感覚が蘇り、研究意欲もさらに大きくなった。
それだけでも意義があったと思う。そう考えれば、この話を持ち掛けてくれたパチュリーには感謝すべきだろう。
紅魔館に着いたアリスは、門番の美鈴に挨拶をすると図書館への入館の許可を求める。
美鈴がパチュリーの許可を取りに行っているのを待っていると、現れたのは小悪魔であった。
「アリスさん申し訳ありません。本日はパチュリー様の体調不良の為、お引取り頂いても宜しいでしょうか?」
「また喘息?」
「ええ、昨日発作が起こりまして。」
「それなら仕方が無いわね。じゃあ、悪いけどこれをパチュリーに渡しておいてもらえるかしら?」
そう言ってアリスは小さな紙包みを小悪魔に渡した。
「これは?」
「前にパチュリーと約束した『交換日記』よ」
「あぁ、レポートで御座いますね。そう言えばパチュリー様から伝言が」
「伝言?」
「ええ、『レポートはもうすぐ完成するから、明日にでも届けさせるわ』との事です」
「体調が悪いなら無理しなくても良いのに」
「私もそう言ったんですけどね。あれで頑固な所がありますから」
「まぁ良いわ。パチュリーに無理しないでって言っといて。……あと、楽しみにいてるって」
「かしこまりました。少し拝見いたしましたが、中々凝ってましたよ。パチュリー様のレポート」
「へぇ、それは益々楽しみね」
「パチュリー様も凝り性ですから」
そう言って2人で笑った。
翌朝、アリスの家の玄関に小包が置かれていた。
メモが挟んであったので見てみると、どうやら美鈴が朝早くに持ってきてくれたらしい。
早朝の所為か、返事が無かったので玄関に置いておいたと書いてある。
「美鈴には、今度あった時にでも礼を言わなければいけないわね」
そう思いながら、アリスは朝の紅茶の準備をする。とは言え、準備をするのは人形達なのだが。
上海人形がお茶の準備をしているあいだ、小包を開けてみる。おそらくはパチュリーのレポートなのだろうが、
妙に大きい。
包みから中身を取り出してみて納得した。
これは一度、香霖堂で見た事がある。確か『バインダー』という名称だったか、用途は「書類等を整理する物」
だったと思う。中には十数枚の手書きと思われるレポートが挟み込んであった。
なるほど、これならば次回以降のパチュリーのレポートを保存しておくのも容易になる。
今回アリスがパチュリーに渡したレポートは、ただ簡易に紐で綴じただけの物だった。
「次回にでもバインダーを用意しておこう」
そう考えたアリスは、とりあえず上海の用意した紅茶を飲みながら、パチュリーのレポートを見てみる事にした。
まず目に付いたのは、レポートが綴じられている「バインダー」である。
表側をなめした皮であしらい、角の部分を金属で補強してある。その補強金属も、ただ付けてあるのではなく、
微かに装飾が施されていた。まるで一見魔道書の様にも見える。
昨日、小悪魔が「凝っている」と言っていたが、なるほど、これはと思える。この様子なら内容にもかなり
期待が持てるだろう。そう思いながら表紙を捲って見た。
「ぶほぉっっっ!!!!!」
中身を見た瞬間アリスは紅茶を盛大に噴き出した。
「げはっ、ごほっ、がふっ……」
あまりに豪快に噴き出した為、咳き込んでしまう。慌てて蓬莱人形がタオルを持ってくる。
「ごほっごほっ……ありがとう、蓬莱」
蓬莱人形に礼を言いながら、アリスはパチュリーのレポートを一瞥する。
そこに書かれていた物は
『週刊 Dearごっすんティーニ 創刊号!!
あなたにも出来る!ホムンクルス生成!
パラケルススの実験記録から、ゲーテのファウストまで、ホムンクルスの全てを網羅する
初の完全ビジュアルマガジン!
また、ホムンクルスの練成法から生成・育成に至るまでを、あらゆる角度から徹底解説!
誰も見たことがなかったビジュアルや初公開となる情報も続々登場します!
創刊号は特製バインダー付き!!』
アリスは一度大きく深呼吸をすると、大声で叫んだ。
「何考えてんだ、あの魔女は!私に何を求めてるのよ!『Dearごっすんティーニ』って何よ!
『Dear(親愛なる)』って事は『ごっすんティーニ』って私の事?!イタリア人みたいに言うな!!
ってか『ごっすん』言うな!!!」
一気に捲くし立てると、アリスはテーブルに突っ伏した。
呪詛でも吐く様に「畜生……」と呟く姿が非常に不気味である。
しばらくブツブツと言っていたアリスだが、気を取り直しレポートに目をやる。
「そうよ……タイトルに面食らっただけで、肝心の中身までふざけているとは限らないじゃない」
そう言って内容を読み始めたアリスだったが、次第に真剣な顔になっていく。
初めは何処かに落とし穴でもあるのかと警戒していたアリスだが、内容を読み進めていくと、かなり
真面目にホムンクルスについて言及している。また、所々にパチュリー自身の考察も添えられており
あまり錬金術に詳しくないアリスにとって興味深いものであった。
「ふう」
一気に最後まで読み終えたアリスは、ため息を一つ吐く。
最初はどうなるかと思ったが、読んで見ると非常に興味を引かれた。まだまだホムンクルスについての
さわり部分だけであるが、こうなれば次回以降のレポートも期待して良いだろう。
「さすがはパチュリーね」
そう言ってカップに口をつけた時、随分と紅茶がぬるくなっている事に気が付いた。
アリスが新しい紅茶を淹れようと立ち上がった時、バインダーから一枚の紙が落ちたのに気が付く。
何だろうと思い拾ってみると、そこには『定期購読申込書』とあった。
定期購読も何も、最初から続けるつもりではなかったのか?アリスは少し考え込む。
「なるほど」
アリスの結論は、パチュリーのちょっとした悪戯である。つまり、
「面白かったでしょう?」
とアリスに問い掛けているのだ。確かに内容的には満足のいくものであった。
しかし、このままパチュリーの思惑に沿うのも何か面白くない。さて、どうしたものかと思案していると
定期購読申込書とは別の紙があることに気が付いた。
アリスが何気なく手にとって見た内容は
『ただいま『週刊 Dearごっすんティーニ』を定期購読していただけると、毎号「上海強化パーツ」が
付いてくる!!パーツを集めるとあなたの上海人形が『パーフェクト上海』に!!
パーツはパチュリー・ノーレッジにしか練成できないと言われている魔法金属『ミスリル』をふんだんに使用!
高級感あふれる仕様となっております。
さあ!!あなたの上海をあなただけの『パーフェクト上海』に!!
お申し込みは今すぐ!!』
なんか、下のほうには物凄い綺麗な完成予想図とか載っている。
完成予想図によると、各部に増加装甲が施され、右腕にはビームガン・左腕にはシールド(裏面に機雷付き)・
脚部には増加ブースター・背中のバックパックには巨大なキャノン砲が一本付いていた。
アリスは用紙をテーブルに置くと、ゆっくりとソファに向かう。あまりの凄絶な笑顔に上海と蓬莱が部屋の隅で
ガタガタと震えながら命乞いをしている。もちろん神様にはお祈り済みだ。
ソファの傍まで来ると、アリスは置いてあるクッションをいきなり殴りつけた。
パンチ!パンチ!パンチ!エルボー!パンチ!パンチ!……
「だ・か・ら!!何考えてんのよ!あの魔女はぁ!!『あなただけの上海』って最初から上海は私だけの物じゃない!!
何よ『パーフェクト上海』って!右腕のビームガンはまだ判るわよ!上海レーザーを応用って書いてあるし!!
なんで盾の裏に機雷が付いてんのよ!!んなモンで攻撃を受けたら誘爆するわ!!大体ビームガンは攻撃出来るのに、
なんで背中のキャノン砲が水鉄砲なのよ!一体何対策なのよ!!発光ダイオードで電飾した魔理沙でも出て来るの!?」
殴り疲れたのか、クッションに顔を埋め肩で息をしているアリス。見様によってはエロティックだが、
「畜生……畜生……畜生……畜生……」とブツブツ聞えてくるので台無しである。
たっぷり15分は経過しただろうか、憔悴しきったアリスはテーブルに向かうと「定期購読申込書」に署名する。
「だって、しょうがないじゃない。ミスリルなんだもの……私、練成出来ないんだもの……」
そう呟いてアリスはテーブルに突っ伏した。
傍で『パーフェクト上海・完成予想図』を目を輝かせて見ている上海とは非常に対照的だった。
再び一週間が過ぎた。
アリスは紅魔館地下のヴワル図書館に来ていた。先週はパチュリーの体調が悪かった為に
2週間振りである。パチュリーと2人で小悪魔の淹れた紅茶を飲んでいた。
「アリスさん、お茶のおかわりはいかがですか?」
「ありがとう小悪魔。でも、今日はもう帰らなくっちゃいけないの」
そう言って、アリスはおかわりを用意しようとしていた小悪魔に微笑んだ。
「あら、もう帰るの?」
「ええ、ごめんなさいねパチュリー。もっとゆっくりしていきたいんだけど」
そう言いながら、アリスは鞄から紙包みを取り出す。
「これ、今週分のレポートよ」
「あら、随分大きいのね」
「私も『バインダー』を用意したのよ」
「『バインダー』ならまだあるから気を使わなくても良かったのに」
「まぁ、気分の問題ね」
「ありがたく受け取っておくわ……はい、これがこちらの今週分のレポートよ」
「ありがとう。家でゆっくり読ませてもらうわ」
そう言ってパチュリーにウインクを一つすると、アリスは図書館から出て行く。
パチュリーに気付かれない様に笑いを押し殺しながら。
アリスは先日、パチュリーの用意した『定期購読申込書』を上海に紅魔館まで届けさせてから
考えに考え抜いたのだ。
どうすればパチュリーをぎゃふんと言わせられるのか。
結論は簡単であった。
「やられた事をやり返せば良い」
アリスは帰り道、今回用意したレポートの表紙を思い出す。
『週刊 Dearゴスめーりん 創刊号
待望の古今東西あらゆる人形に関するデータブックが新創刊!!
アンティークドールはもとより、ぬいぐるみから魔術用ヒトカタまで完全網羅!
また、随所にイラスト・写真をふんだんに使用し、人形初心者の方でも安心!
人形制作から手入れの方法まで判り易く解説!
これであなたも「ドールマスター」!!
また、毎号付いてくるパーツを集めると、精巧な「めーりん人形(ゴスロリVer)」が完成します!
もちろん、人形制作はアリス・マーガトロイドによる手作りです!
さあ!パーツを集めて、あなただけの「めーりん人形(ゴスロリVer)」を完成させて下さい!!
定期購読のお申し込みは今すぐ!!魔法の森・アリス・マーガトロイドまで!!』
アリスは確信している。パチュリーは必ず食い付いてくる。
知っているのだ。紅魔館の面々が美鈴に首っ丈なのを。
今日さっさと帰ってきたのも、パチュリーがレポートを見た時、傍に自分が居ない様にするためだ。
あの魔女の事だ、自分が居ると
「あら、中々面白そうね」
等と言いながら、用意しておいた『定期購読申込書』に涼しい顔でサインするだろう。内心を隠して。
さぁ、お膳立てはしてやった。存分に悶えるが良い!
アリスは意地悪く笑った。
あれから数時間して、紅魔館のメイドが一通の封筒を持って来た。
予想通りの展開に、アリスは内心笑いを堪え切れない。
メイドに「ご苦労様」と言って、お礼に焼いたばかりのクッキーを渡す。メイドは何度も礼を言って帰って行った。
アリスはリビングで紅茶を用意すると、早速封筒を開ける。
中身を取り出してみると、予想通りの『定期購読申込書』だったが、その他にも数枚の紙が入っている。
何だろうと思ったが、とりあえず見てみる事にした。
まず目に入ってきたのはパチュリーのサイン。動揺していたのか僅かにサインが傾いている。
次に目に入ったのは「5冊定期購読希望」の文字……
「5冊ぅ?!」
思わず声を出してしまった。慌てて2枚目の紙を見る。そこに書かれていたのは
『めーりん人形希望衣装:レミリア・スカーレット 『ボンデージ(女王様風)』
フランドール・スカーレット 『いつものめーりんのふくがいい』
十六夜咲夜 『女教師風(眼鏡付き)』
小悪魔 『えっちな水着』 』
ダンッ!!!!
アリスは思わずテーブルを叩く。
「なんじゃそりゃぁぁぁぁぁ!!あそこの連中は何考えてんのよ!!『ゴスめーりん』だっつってんだろうが!!
勝手に衣装を指定してくるな!って言うか小悪魔!何だ『えっちな水着』って!大人しくて良い子だと思っていたのに
裏切ったな!父さんと同じで私を裏切ったんだ!!それよりレミリア!!お前フランと当主代われ!!!!」
一気に大声で捲くし立てると、アリスはゼェゼェと肩で息をした。
そして睨み付けるかの様に3枚目の紙を見る。それはパチュリーからの手紙であった。
『もちろん、レポートは1冊で良いわ。それに5体分の人形の対価も用意させてもらうわ。
以下のリストが残り4体分の対価よ。』
アリスが4枚目の紙を見ると、そこには
『『蓬莱・増加ウエポンシステム(フルアーマー蓬莱)』
『ヘビー仏蘭』
『パーフェクト・オルレアンⅢ(レッドウォーリア)』
『武者グランギニョル』 』
と書かれており、イラスト入りで詳細が記されていた。
「……」
しばらく呆然としていたアリスだが、おもむろに紙をテーブルに叩きつけると寝室へと駆け込む。
寝室に着くとベッドに飛び乗り、普段使っている自分の枕に拳を叩きつけた。
「畜生!あの魔女め!本気で意味判んないわよ!何で?何で『フルアーマー蓬莱』にも水鉄砲がついているのよ!
『パーフェクト・オルレアンⅢ』って『Ⅱ』はドコにいったのよ!何でイキナリ『Ⅲ』なのよぉ!!
「ミスリル」をふんだんに使用って書いておきながら、『ヘビー仏蘭』の装甲だけ何で鉄粉を混ぜた
ウレタン樹脂なのよぉぉぉ!!畜生!畜生!!畜生!!!」
髪を振り乱しながら、一心不乱に枕を殴り続ける。
やがて勢いが無くなって行き、アリスはまるで土下座をするかの様な姿勢で枕に顔を埋めた。
「畜生……畜生……安○先生……『武者グランギニョル』が欲しい……です……」
アリスは、そう小さな声で呟いた。
秋晴れの気持ちの良い午後。アリスは窓辺の机で行っていた人形修繕の手を止めた。
あれから数ヶ月。
今もあの『交換日記』は続いている。
時折、パチュリーのレポートと一緒に咲夜の新しい料理のレシピや、レミリアの手紙、フランドールの人形の
作り方についての質問なんかも入っていた。
アリスもまた、質問への回答や、お菓子のレシピ等を添えている。
図書館に行ったときに、作りかけの『めーりん人形』が置かれているのを見た事もある。
皆……そう、あのレミリアですらが、人の手に頼らず自分で人形を組み立てているらしい。そこまでしてもらえれば
人形師冥利に尽きるというものだ。
「ん……」
アリスは小さく伸びをしてから、雲ひとつ無い空を見上げた。
なるほど……これも一つの友情の形なのだろう。パチュリーは「揶揄」と言っていたが、確かにあれは交換日記だった。
上海に紅茶を淹れてもらおうと思って振り返ったが、思い直して自分で淹れる事にした。
見れば、上海達は未完成の強化パーツを手に取り、楽しそうにしている。
その様子を見てアリスは「ひょっとしたら上海達には自我が目覚めているのでは?」と思う時がある。
……ありえない話では無い。確か「付喪神」と言ったか。自分の愛情と、魔法の森の魔力を浴び続けているのだ。
そういった物になっていても不思議ではない。
自分の目指す「自立人形」とは違うが、上海達に自我が目覚めていれば、それは何て素敵な事だろう。
アリスは自分で淹れた紅茶を手に持ち、もう一度空を見上げた。
今度は永遠亭の薬師にでも『交換日記』を持ちかけてみようか?
『週刊 Dearゴスれーせん』とかを持っていった時の薬師はどんな顔をするだろうか?
「ふふっ」
例えばこんな交換日記から始まる友情も、それは素敵な事ではないか。
アリスは永琳の顔を想像して楽しそうに笑った。
次はドールシミュレーションで成果発表という名のバトルですね分かります。
いや、レイセン人形じゃなくても良いから、むしろ俺は上海希望!!!
まぁ冗談はさておき、かなり面白かったですよ♪
特に、最後のオチがw
あとオプションでストロードールも付けて貰えませんか。
武者は惚れたぜ。
アリスも分かっていらっしゃる。
アイデアの勝利ですね、堪能しました。
えーりんも5体全部欲しがりそう。
対価は何をだしてきますかねー。
そらアリスも欲しがるわ
その調子で幻想郷の知識人全員と交換日記したらどうだ?w って体もたないか・・・
なんか、小悪魔がえっちな水着のめーりん人形を希望しときながら、結局着せないでスッパのまま置いてるという電波を受信した。どうしよう?
そーなんだみたいなやつが幻想入りしたんでしょうかww
さて、うちはブレザー校なので①を
この中身にはやられましたね…(笑)
やっぱりパチュリーのが上手ですね
いゃ~、楽しく読めた。
>>1様
たぶんドールシミュレーションでは「サッキー魔理沙」とか出てきます。
>>塊様
当方では無理ですが、香霖堂でも受け付けている様です。
>>3様
馬型ストロードールと合体するんですねw
>>4様
同志よ!スク水はジャスティスです!!
>>5様
たぶん永琳なら蓬莱の薬でも出すと思いますw
>>6様
たぶん武者グランギニョルは一番人気w
>> 灰華様
『Dearゴスれいむ』とか『Dearゴスさなえ』とか、物凄く需要がありそうな……
>>電波を受信した。
こちらも受信致しましたが、書いたら凄く大変な(変態な)物になりそうで怖いですw
>>てるる様
たぶん過去のシリーズが幾つか幻想入りしたんでしょう。『週刊 大和』とか。
>>Unknown様
たぶんパチュリーはアリスが吹くタイミングまで計算していたと思いますw
>>10様
パチュリーは、こういった事には一切手を抜かないイメージですw
きっとパチェはアリスと同じような手順で
アリスに交換日記を持ちかけたんだろうなぁ
だとしたら、多分相手は魔里沙だ
昔、恐竜の光る骨格標本のを買ってましたが途中で投げ出しました。
あ、れーせんは③でお願いします。
水鉄砲は吸血鬼対策?
れーせんは④でお願いします。
いや、面白かったw掻い摘んで読めば良い話っぽいのにw
>>12様
たぶん魔理沙ですw
>>13様
アリスイエー! パチュリーイエー!でも微妙にパチェアリでは無い所が良いと思うのですがどうでしょう?
>>14様
書けば書くほど、上海達に愛着が沸きました。ニンギョウッテイイネ!
>>15様
あらすじを要約すると良い話っぽいですw
あ、定期購読申し込むんでれーせん人形はスタンダードに①でお願いします。
ところで神綺様は魔界神なのに何やってんすかwww
そしてアリス、父さんと何があったw
ちなみにれーせんは②で。
>>17様
神綺様はほっ被りが似合う気がするのは私だけでしょうか?
>>18様
ありがとうございます。やっぱ、アリスはママっ子なのでしょうwそもそも父親いなさそうですが。
文章もメリハリもオチも最高でした!