Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

グリーンアイドバタフライ

2008/10/05 20:42:09
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美しいものが好きだった。
目の前を優雅に舞い、ひらひらと戯れるそれらを、ただ眺めているだけで心が安らいだ。
やがて、その美しさが羨ましくなって、そっと手を伸ばす。
けれど指先をするりとすり抜け、せせら笑うかのようにそれらは遥か高く遠くへと飛び去ってしまう。
そしてふと気付くのだ。伸ばした自分の手、鬼のように醜く卑しい己の姿に。
掌の中には、潰れて羽のもげた蝶の残骸が残されていた。

(……しまった)

居眠りしていたらしい。パルスィはうーんと声を漏らし、大きく伸びをした。

(まぁ、仕方ないわよね。こんな場所にいつまでもいればさ)

誰に叱られるというわけではないものの、言い訳だけは思い浮かべておく。
飄々と風の吹きすさぶばかりの、延々と連なる暗闇。地上と旧都とを繋ぐ広大な空洞のおよそ中央部に、寝転がったような姿勢で彼女は漂っていた。浮遊しながらくつろぐのは、最近になって身につけてしまった悪しき習慣だった。
地上世界からの侵入者、あるいは地下世界からの外出者を取り締まるのが、パルスィの受け持つ役目である。
しかし、地上から忌み嫌われた(まったくもって理不尽な話だ)自分達の住むこの世界に足を運ぼうとする者など、そうは現れない。また同じように、住み心地の良い旧都からわざわざあの緑臭い大地に出向こうとする輩もまたいなかった。
ようするに、退屈なのだ。意味のない使命を押し付けられ、厄介払いされているかのように一人、こんな場所を漂っていなくてはならない。
実際、厄介払いされているのだろう。

(えぇ、そうよ。どうせ友達なんていないわよ)

誰にともなく毒つき、パルスィは口をすぼめた。
嫉妬を操る程度の能力。こんな力を身に宿しているがために、彼女は地上はおろか地底の妖怪全般からでさえ煙たがられていた。彼女自身、誰よりもこの力を忌み嫌っている。
あぁ、妬ましい。この呪われた力とは縁のない、私以外の全てが妬ましい。

(……まただ)

悪い癖とは思いながらも、結局のところこれが唯一飽きずにいられる退屈しのぎだった。他人を羨み、嫉み、憎む。何の損得にもならないからこそ、キリなく続けられる。
何にせよ、そろそろ退屈を紛らわす事の意義すら曖昧になってきた。どうせ今日はもう誰も訪れはしまい。ようするに、帰りたい。旧都の自宅にいようと一人なのは変わらないが、少なくとも温かい布団と熱い風呂にはありつける。
あるいは、ここで本当に寝入ってしまってもいいかも知れない。何やら見ていたような気がする夢の続きに耽るとでもしようか。我ながらひどいサボり癖がついてしまったものだと省みつつ、うつらうつらと頭を揺らす。
刹那。

「パァァァルスゥィィィィィィちゃぁぁぁぁぁぁ」

「っ!?」

突如として、暗い竪穴に幾重にも響き渡る薄ら寒い呼び声に、パルスィはびくりと寝転んだ姿勢を解いて身構えた。
鳥肌の立つ二の腕をさすりながら、きょろきょろと周囲を見渡して声の出所を探す。そのうちに、ふと眼に入るものがあった。
竪穴の遥か上方にぽつりと浮かぶ粒のような物体。それは徐々に大きさを増して―――否、こちらへと急接近しつつある。
よく眼を凝らして見れば、それは直立した人間のようで。更に良く見れば、それっは良く知った顔をしていて。
冷静に分析している己を馬鹿かと罵って、パルスィが慌てて避けようとするよりわずかに早く。
さながらロケットのように飛来してきた(落下してきたとも言えるが)少女は、パルスィの胸に頭をうずめて抱きついてきた。

「ぁぁぁぁぁぁんむごごごごご!」

「ぎゃああああああっ!?」

悲鳴を上げながら、パルスィは少女の頭を鷲掴みにして引き剥がそうともがく。ついでに下からげしげしと膝を喰らわせるが、腰に両手を回されてしまっているため少女はびくともしない。

「あーもう、離れなさいったら!」

宙を漂いながらひとしきり暴れること数分ののち、少女はようやくパルスィを解放した。ぜぇはぁと荒い呼吸をしながら肩を上下させるこちらへと、彼女は何食わぬ顔で向き直る。人の顔を覗き込むようにやや屈んで、

「……避けないと危ないよ?」

「ヤーマーメーぇ……?」

くぐもった声でパルスィは呻くと、恨みがましく少女を睨み返した。
花瓶を逆さにしたような茶色いワンピースに、同じような色合いのリボンをつけた檸檬色の髪。一見して地味な外見ではあるが、パルスィからすれば彼女のイメージはやはり外見そのまま、甘ったるいチョコレートパフェといったところだった。
黒谷 ヤマメ。パルスィと同じように、旧都で暮らす地底の妖怪である。その鼻先へと指を突きつけて、ようやく呼吸を落ち着けながらパルスィは言葉を紡ぐ。

「いきなり何するのよ、あんたは!?」

「ん、ちょっと地下2000mバンジーをね」

「下に誰もいないのを確認しなさいって、あれほど言ったでしょ……」

うすぼやけて奥の知れない上層から伸び、自分の足首に巻きつけられた白い糸の束をぶらぶらと見せつけてくるヤマメを、呆れ顔で咎める。
雪の降る旧都の寒さは、虫の妖怪であるヤマメにとって堪えるものなのかも知れない。それに関してはまったくの憶測だったが、彼女はもっぱらパルスィのいるこの場所より遥かに高い地点に生息している事が多かった。
もしかしたら、彼女は今も地上が恋しいのかもしれない。実際、地底の淀んだ薄闇と空気には似つかわしくないほど、彼女はつとめて明るく奔放に生きている。

「ごめんねぇ、急いでたものだからさ。私ってば普通に飛ぶと遅いから、自由落下に身を任せた方が手っ取り早いんだよね」

「あっそう……」

頭を掻き、気楽な調子で弁解するヤマメに、パルスィは適当に相槌を打つ。
地底の妖怪なだけあって、彼女もまたご多分に漏れず人には歓迎されない呪われた力を持っている。病を操る程度の能力。妖怪からすれば他愛もない力であるとはいえ、脆弱な人間達にとっては深刻な脅威となるのだ。
パルスィの能力が人の心を病ませるものだとするなら、ヤマメの能力は肉体を蝕むものだと言える。対のようでも、また近しくもある力を持つ同士だというのに。
パルスィは、彼女が苦手だった。

「いやぁ、でもパルスィがいて助かっちゃったよ。これだけ暗い中あれだけ速度出したら周りがまったく見えないからさ。旧都にクレーター作るところだったかも」

「人をクッション代わりにするんじゃないの。自機一個減るかと思ったわよ」

「ごめんってばさー」

「だー、くっつくな」

両手を差し伸ばして寄って来るヤマメを、ローキックで牽制する。膨らんだスカートがぼふっと音を立てるのが、なんとなく蹴り心地が良くはあるものの。やはりあまり近付かれるのには抵抗があった。

(……どうして、この娘は明るいんだろう)

いったーい、と言いながらも何故か嬉しそうに笑うヤマメを見て、思う。
パルスィと同じように忌み嫌われた異能を身に宿し、暗い地底へと押し込められた境遇だというのに。卑屈になることなく、彼女は今の生活を謳歌している。その周りにはいつも沢山の妖怪たちが寄り集まり、ヤマメを慕っている。

(きっと、それも才能なんだわ)

生まれながらにして持ち合わせる、才能。悲境を嘆かず、人の心を和ませてくれる、天然にして無垢な笑顔。
それを羨ましいと思う自分に。同時に憎らしく、恨めしく思う自分に、嫌気がさす。醜く卑しい心を曝け出させられているようで、嫌になる。

「パルスィ?」

自然と俯いてしまっていたらしい。ヤマメがやや腰を落として(宙に浮いているにも関わらず)こちらの顔を覗き込んでくる。パルスィは慌て気味に視線を逸らして、適当に話題を探した。

「ていうか、急いでるんでしょ?さっさと行けば?」

「あ、うん。それなんだけどね」

ヤマメはまるで今思い出したとでも言うようなあっけらかんとした声を上げて、真下を指差した。足元の遥か下方、やはり底の知れない深淵からは、風の音しか聞こえてこない。

「今日は旧都で月に一度の宴会なんだって」

「……毎日やってるじゃない。あの鬼たち」

旧都に住み、いつも片手に酒のなみなみ注がれた盃を掲げている酔っ払いを連想する。パルスィたち呪われた妖怪を率いて地下に潜った、もっとも力ある種族、鬼。もっとも、この辛気臭い穴倉を安住の地とでも決め込んだのか、現在ではひがな一日酒を浴びてばかりいる。執着心の欠片もない、堕落しきった連中だ。だというのに、彼女たちは地下の妖怪たちから広く信頼と畏敬の念を集めている。パルスィとて表面上は取り繕ってはいたが、性分ゆえ妬ましい事このうえない相手である。
ヤマメもまた、鬼を敬い親しみを抱いている一人だ。呑気な顔をして話を続ける。

「あれはリハーサルなんだってさ。それで、たまにはお前も来なよってお呼ばれされちゃったのさ」

「……へぇ」

(私は呼ばれてないわよ)

思わずひくつきそうになる唇を内側から噛んで抑えて、パルスィはくぐもった声で返事をした。心の中で鬼の脳天に五寸釘を打ちつけ二本角にしてやる。
が、ヤマメには不満を見抜かれてしまったらしい。にこりと眼を細めて、

「パルスィについてはね、私が呼んだってあの捻くれ者が来るわけないから、あんたが連れてきておくれ、って。星熊さまが」

「へぇーそーあの方がそうおしゃったんだ」

鬼の頭に三本目の角を追加して、パルスィは今度こそ押し隠すことなく不満をあらわにして呻いた。眉間に皺を寄せ、宙に浮いた靴底で地面を叩くような仕草をする。
そんな人の気など知りもせずに、ヤマメは輝かしいまでに期待を瞳に浮かべて、ずいっと詰め寄ってきた。

「いくよね?パルスィ」

「……いかないわよ。何言ってんの」

手でヤマメの頭を押しのけて、パルスィは吐き捨てるように告げる。額を押さえつけられながら、ヤマメはきょとんと目を点にした。こちらの腕にに体重を乗せて、駄々をこねる子供のように間延びした声で、

「なんで?いこうよー」

「だから、いかないって」

「どうしてさ?絶対楽しいよ?」

童心の眼差しで見つめ、しつこくすがりついて来るヤマメから、顔を背ける。このままでは埒が明かず(そろそろ腕も疲れてきたし)、観念するように、うつむいて。パルスィは掠れるほどの小さな声で吐露した。

「……どうせ、誰も私に来て欲しくなんかないもの」

その声がヤマメに聞こえたかどうかはわからない。ただ、彼女の頭を押しのけていた腕から不意に重みが失われ、距離を置かれたのを気配で察する。しかしそちらに振り向く事はせず、パルスィは闇の奥底に視線を彷徨わせた。
ヤマメの顔色を覗う事も出来なければ、こちらの表情を見られる事にも耐えられそうにない。心の弱さを曝け出したところで、後悔と恥辱とがざわめくばかりでしかないというのに。彼女にならば、などと愚にもつかない思いを抱く自分もまた内在している。澄ましていて何になるわけでもないのに。
ふと、沈黙が思いのほか長い事に気付く。ひょっとしたら諦めて一人で宴会に向かってしまったのかも知れない。ほのかな不安と共にちらりと横目を向けると、ヤマメの足元が視界に入った。
かけるべき言葉が思い浮かんだわけではないにせよ、いたたまれなさに根負けする。振り返り、ヤマメの顔を見やる。そこまで距離があるわけでもなく、彼女は変わらずそこにいた。むず痒そうに眉を寄せ、何か口に含んでいるのか、両頬をふっくらと膨らませて-――

「…………ヤマメ?」

呆気にとられ、パルスィが上擦った声で囁く。刹那、

「ひぇい!ひゃふひゃーうぇぶ!!」

「ちょ、え、きゃあああっ!?」

ヤマメが勢い良く口から吐き出した白い粘液状の物体が、一瞬のうちに網のように展開して、パルスィに覆い被さった。細かな糸で編まれた粘着質の網に手足を絡め取られて、なす術もなくその場に転倒する。
赤子のように屈みこんだ体勢のまま身動きがとれず、パルスィはがむしゃらに悲鳴を上げた。

「いきなり何するのよあんたはー!?」

「よいしょっと」

非難の声を颯爽と無視して、ヤマメは口元についた糸の端を袖で拭った。ついで、パルスィを包んだ網の端を引っ張り持ち上げて、背中に担ぐ。お互い宙に浮いているため、重さも何もないのだろうが。パルスィは顔を赤らめながら、逆さに吊り下げられて落ちそうになるスカートを抑えた。
背中をわずかに丸めてまるで人攫い然としたヤマメの、あくまで呑気な声を聞く。

「言う事聞かないわからずやは~ヤマメちゃんが取って丸めて食べちゃうぞ~」

「歌うなっ!さっさと下ろしなさいってば!」

「聞こえなーい。何もかも聞こえなーい」

げしげしと肘で背中を小突くが、ヤマメは意にも介さず妙な音程で喋り続ける。周りの景色、岩壁が徐々に動いているのを見るに、彼女はパルスィを背負ったまま高度を下げているようだった。
このまま旧都に向かうつもりなのだろうか。こんな無理矢理な誘い方があってたまるものか。あの鬼はこうされる事をわかっていたのではないか。湯気のように沸いて出る憤りに任せて、網を引きちぎろうと足掻く。
そんな折だった。
不意に、ヤマメが小さな声で呟くのを、背中越しに聞いた。

「……私は、パルスィのこと好きだから」

「…………」

聞いて欲しいのか、それとも聞き逃して欲しいのか判別のつかない、まるで彼女らしくない控えめな告白。パルスィはぴたりとあがくのを止めて、尖った耳を澄ませる。

「呪われた力だとか、そんなの関係ない。だからパルスィも、自分のこと嫌いになっちゃ駄目だよ」

「……何それ。馬鹿じゃないの」

「あはは。そうだね、馬鹿だね」

心の篭らない笑い声をあげて、それきりヤマメは黙ってしまう。パルスィが抵抗をやめた為か、下降する速度はわずかに上がったようだった。
決して、わからないような事ではない。彼女もまた私となんら変わらない、人から忌み嫌われ、遥か地底の深淵へと追いやられた妖怪なのだ。悲しくない筈などない。何の痛みも感じずに笑っていられる筈がない。
それでも彼女は笑う。誰かに笑ってもらう為にこそ、彼女は笑うのだ。

(あぁ、妬ましい)

妬ましい。輝かしい彼女の笑顔が。
彼女のようになれるだろうか。彼女が私を照らしてくれるように、私もまた彼女を照らしてやる事が出来るだろうか。

(……でも今は、まぁ、いいわ)

すぅ、とか細く息を漏らして肩から力を抜く。ぐらぐらと揺れる網の中に、パルスィは身をゆだねた。ヤマメの背中は、衣装のためかクッションのように柔らかく、思いのほか身体が沈み込んでくれる。
そろそろ雪のちらついてくる頃だろうか、徐々に気温が低くなっていくのを肌で感じる。そのせいだろう、ヤマメの身体からほのかに伝わる微熱は、母におぶわれているかのように心地が良かった。
≪ Ex ≫

「捕まったパルスィは、このあとヤマメが美味しく頂きました。蜘蛛だけにな!!」

「うるさい、馬鹿オニ!」



オワリ



かの偉大な劇作家の作品に、こんな台詞があります。

「勇×パルか、ヤマ×パルか。それが問題だ」

自分は後者を選びました。何故かですって?お釈迦様に聞いてください。

というわけで、息抜きにと思って短げなお話を書いてみました。
パルスィが好きです。こんな虐げたくなるキャラは個人的にアリス以来です。あぁ、孤独死させたい。

土蜘蛛にせよ鬼にせよ、地霊殿の体験版組って本当に素敵な人ばかりですね。

は、姉妹?かぶってんだよ。
猫、鳥?かぶってんだよ。
早苗?前作からかぶってんだよ!

あ、つるべ落としも良いですよね。では。
転寝
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
ヤマ×パル良かったです。が!
キスメさんに!キスメさんに出番をぉぉう!
少しで良いから出してあげてください……。
パル×キスとかどうでしょう。
基本的に1、2、3面は素敵なメンバーばっかりさ!
2.名前を表示しない程度の能力削除
パルスィかわいいよパルスィ。
いいヤマパルをごちそうさまでした、無論○的な意味で。

しかし地下2000mバンジーに失敗したらクレーターを作る程度……だと?
さすがというべきか呆れるべきか悩むところですね。
3.名前が無い程度の能力削除
リハーサルに吹いた。