深夜の妖怪の森、私は一人ある目的の為に森の奥にある池へと向かって歩いていた。
しばらく歩いて行くと小さな祠の建てられた池へと辿り着く。空を見上げると満月が池を照らすように冷たく輝いている。
「もうそろそろね……」
そう呟き池へと視線を下ろすと、池の中央付近がキラキラと輝き出す。輝きは徐々に広がり木々に遮られ影になっている場所の手前で止まった。
数年、いや数十年かも知れないが、ある特定の時期になるとこの池は月の光を浴びて清らかな水となり負の力を浄化する働きをもつようになる。
だから、その時になると池の周りからはそういう気配を嫌う妖怪などが居なくなる。だから厄神である私も本来ならここには近寄らないほうがいい、溜めた厄が漏れ出ていく可能性があるからだ。
でも私は厄を限界まで溜めてここを訪れた。なぜならこれから私の中に溜まり凝縮された厄を落とすためだ。
「そろそろいいわね」
私は池の畔に立ち周囲に誰もいないのを確認すると靴を脱いだ。胸元の紐を解くとスルリと着ていた服が地面に落ちる、最後に髪や腕につけていたリボンを外しその端を池につけて服の上に置いた。裸になった私はゆっくりと池の中へと足を入れた。
「つめたっ!」
思わず足を引っこめる。予想より冷たい水温に少し怒りが湧いたが、どうしようもないことなのであきらめしかない。
「よしっ!」
気合いを入れるために浅く短い息を吐くと、池の中へと入っていった。
「っーーーーー」
歯を食いしばり、体を抱きしめながら池の中央へと進んでいき、腰まで浸かったところで一度止まった。そこから先は月の光りの射す、清らかな池だからだ。
何度が深呼吸をして心を落ち着かせると、手を下ろしゆっくりとけれどしっかりとした足取りで歩きだした。
ピリピリとしびれるような痛みが体にはしる。私の中の厄と浄化の力が反発し合っているのだ。
水深が深くなるにつれ歩みは遅くなり、痛みのはしる箇所が増えていく。やがて首の下あたりまで水に浸かったところで池の中央へと辿り着いた。見上げると満月が変わらずに輝いている。
私は目を閉じると全身の力を抜いた。ゆっくりと体が浮き上がっていき体が横になった。
「はあぁぁぁぁ……」
抑え込んでいた厄が私の中からものすごい勢いで抜けていく。同時に清らかな浄化の力が全身へと沁み込んでいった。
厄神である私にとって厄を手放すことは命を危険にさらす行為でもある。それでも、私は厄落としをしなければならない。なぜなら……凝縮された厄が溢れ出して、大きな厄災を起こすのを防ぐためだ。
そう、もうあんな辛い思いはしたくないから……
※ ※ ※ ※
あれはまだ私が外の世界にいた頃のことだ。私は山奥の小さな村のはずれに祀られていた。小さな祠が建てられ、厄除けの神様として崇められていた。
厄神の私は周りの厄を吸い取るから厄除けの神として崇められたのもあながち間違いではない。そのころの私は神としての祀られて思いあがっていた。だから悲劇が起きた。
その村では毎年一回、祠の前までやってきて古いお守りや身代わり人形を焼いて供養する習慣があった。もちろん私も目の前で行われるのだから立ち会っていた。姿は見えないけれどね。だけど、私は毎年行われる行事が辛かった。供養されるとき私の中の厄も一緒に持っていかれるからだ。それは私にとってすごく苦しく辛いことだからだ。
厄神にとって厄が抜けるというのは命が吸い取られるのと一緒。だから私はいつしか行事の日になると祠から抜け出していた。おかけで厄はどんどんと溜まっていった。それにつれて私は力をつけていった。力がつけばさらに厄が吸い取れる、それは村の平和につながる。事実、村は何年も災いがなく幸せの中にあった。そんな日々がずっと続くと思ってた。けれど幸せはある日突然終わりを迎えた。
ある日目が覚めると私の周りにあった濃密な厄がすべて消えていた。どこへ行ってしまったのだろうかと村中を飛び回って探した。けれど、厄は全く見つからなかった。私は厄が無くなったことに肩を落としながら祠に帰り不貞寝した。
それから何日かが過ぎたところで私は外がおかしいことに気付いた。例年なら雨の多い季節なのに一回も雨が降らないのだ。その時私は胸の奥に言い知れぬ不安を感じた。そして、それは的中した。
その年、村は干ばつにより農作物ができず飢饉に見舞われた。さらに、疫病が村を襲った。それにより村人は激減し、ほとんど人影を見ることもなくなった。そして……地震が今までに経験したことのない大地震が村を襲った。私はものすごい揺れに驚き空高く飛び上がった。それとほぼタイミングを同じくして、山が崩れ村を飲み込んだのだ。
一瞬の出来事だった、何が起こったのか理解できなかった。けれど、私はさらに信じられないものを見た。それは厄だった。私の所から消えた厄があった。いいえ、厄に包まれていたと言った方がいい。だって村があった場所を中心にして周囲の山々を厄が包み込んでいたのだから。そこで私は理解した。村が消えた原因は私のせいだと。
厄神は厄を集めるほど力を増す、けれどそれは必ずしもいいことじゃない、集められて凝縮された厄は飛び散ったとんでもない厄災となるのだ。そうならないために村は毎年供養の行事を行っていたのだ。
それから私は厄を集めては時々厄落としをしながら各地を転々とした。
そして、この池の存在を知るのと幻想入りするのはほぼ同時だった。以来私は幻想郷の厄を集めてはこの池で厄落としをしている。
※ ※ ※ ※
目を開けると全身を疲労感が包み込んでいた。体の中の厄が全て抜けきったみたいだ。ゆっくと体を反転させると、服を脱いだ場所まで泳いでいく。そして、這いずるようにして池からあがった。
服を見ると、抜け出た厄が服にしっかりと集まっていた。池の中へとたらしたリボンを伝って厄が服に逃げ込んだのだ。私は立ち上がると、脱いだもの一式を手に持った。私が触れている部分だけ厄が避けているのが見えた。今回も厄落としはうまくいったみたいだ。あとはこれを供養するだけだ。けれども急がなければいけない、厄を服に押し込めておける時間はそう長くはない。
私はふらつきながらもゆっくりと歩いて行く。そして、事前に用意しておいた櫓の前まで来ると持っていた服一式を中へと放り込んだ。
「悲運『大鐘婆の火』」
櫓に手をかざしスペル宣言をすると、ボッっと火の玉が一つ現れ服に燃え移った。少し不安だったけどちゃんと仕込んでおいたスペルカードは発動できたようだ。厄の無い状態の私はそこらへんの野良妖怪と大差ない力しかでない、だから火の玉も一つ出せるかどうかギリギリなのだ。
徐々に火は大きくなり櫓を飲み込み燃え上がった。空へと昇っていく煙と共に厄が上っていった。
ああ良かった、今回も厄落としはうまくいったみたい…………
意識が遠のき足の力が抜けていく。もう立っているのも限界だった、そのまま地面へと倒れようとした時だった。
「おっと危ない危ない」
私は何かに支えられた。だけど周りには誰もいない。こんなことができるのは、私の知り合いのなかでは一人しかいない。
「にとり?」
声をかけると、にとりが姿を現した。恐らくステルス迷彩とかいう機械を使って隠れていたのだろう。
「あいかわらず無茶するよね、雛は……はいコレ、いつまでも裸だと風邪ひいちゃうよ」
にとりは私にバスタオルをかけてくれた。ああ、暖かい。
「じゃあ、家まで送っていくよ」
にとりはそう言うと私を抱き上げた。なんだがにとりの顔が頼もしく見える。抱き上げられながらにとりの顔を見ていたけど、徐々に瞼が重くなり閉じていく。
「にとり、ありがとう……」
お礼を言うのが精一杯だった。そのまま私は意識を手放した。
翌朝
私はまた日課の厄集めに出る。新品の服はやっぱり気分がいい、気持ちも新たに引き締まるというものだ。
「さあ、また厄を集めに行きますか」
人知れず幻想郷の平和を守るために、今日も私は厄を集めるのだった。
しばらく歩いて行くと小さな祠の建てられた池へと辿り着く。空を見上げると満月が池を照らすように冷たく輝いている。
「もうそろそろね……」
そう呟き池へと視線を下ろすと、池の中央付近がキラキラと輝き出す。輝きは徐々に広がり木々に遮られ影になっている場所の手前で止まった。
数年、いや数十年かも知れないが、ある特定の時期になるとこの池は月の光を浴びて清らかな水となり負の力を浄化する働きをもつようになる。
だから、その時になると池の周りからはそういう気配を嫌う妖怪などが居なくなる。だから厄神である私も本来ならここには近寄らないほうがいい、溜めた厄が漏れ出ていく可能性があるからだ。
でも私は厄を限界まで溜めてここを訪れた。なぜならこれから私の中に溜まり凝縮された厄を落とすためだ。
「そろそろいいわね」
私は池の畔に立ち周囲に誰もいないのを確認すると靴を脱いだ。胸元の紐を解くとスルリと着ていた服が地面に落ちる、最後に髪や腕につけていたリボンを外しその端を池につけて服の上に置いた。裸になった私はゆっくりと池の中へと足を入れた。
「つめたっ!」
思わず足を引っこめる。予想より冷たい水温に少し怒りが湧いたが、どうしようもないことなのであきらめしかない。
「よしっ!」
気合いを入れるために浅く短い息を吐くと、池の中へと入っていった。
「っーーーーー」
歯を食いしばり、体を抱きしめながら池の中央へと進んでいき、腰まで浸かったところで一度止まった。そこから先は月の光りの射す、清らかな池だからだ。
何度が深呼吸をして心を落ち着かせると、手を下ろしゆっくりとけれどしっかりとした足取りで歩きだした。
ピリピリとしびれるような痛みが体にはしる。私の中の厄と浄化の力が反発し合っているのだ。
水深が深くなるにつれ歩みは遅くなり、痛みのはしる箇所が増えていく。やがて首の下あたりまで水に浸かったところで池の中央へと辿り着いた。見上げると満月が変わらずに輝いている。
私は目を閉じると全身の力を抜いた。ゆっくりと体が浮き上がっていき体が横になった。
「はあぁぁぁぁ……」
抑え込んでいた厄が私の中からものすごい勢いで抜けていく。同時に清らかな浄化の力が全身へと沁み込んでいった。
厄神である私にとって厄を手放すことは命を危険にさらす行為でもある。それでも、私は厄落としをしなければならない。なぜなら……凝縮された厄が溢れ出して、大きな厄災を起こすのを防ぐためだ。
そう、もうあんな辛い思いはしたくないから……
※ ※ ※ ※
あれはまだ私が外の世界にいた頃のことだ。私は山奥の小さな村のはずれに祀られていた。小さな祠が建てられ、厄除けの神様として崇められていた。
厄神の私は周りの厄を吸い取るから厄除けの神として崇められたのもあながち間違いではない。そのころの私は神としての祀られて思いあがっていた。だから悲劇が起きた。
その村では毎年一回、祠の前までやってきて古いお守りや身代わり人形を焼いて供養する習慣があった。もちろん私も目の前で行われるのだから立ち会っていた。姿は見えないけれどね。だけど、私は毎年行われる行事が辛かった。供養されるとき私の中の厄も一緒に持っていかれるからだ。それは私にとってすごく苦しく辛いことだからだ。
厄神にとって厄が抜けるというのは命が吸い取られるのと一緒。だから私はいつしか行事の日になると祠から抜け出していた。おかけで厄はどんどんと溜まっていった。それにつれて私は力をつけていった。力がつけばさらに厄が吸い取れる、それは村の平和につながる。事実、村は何年も災いがなく幸せの中にあった。そんな日々がずっと続くと思ってた。けれど幸せはある日突然終わりを迎えた。
ある日目が覚めると私の周りにあった濃密な厄がすべて消えていた。どこへ行ってしまったのだろうかと村中を飛び回って探した。けれど、厄は全く見つからなかった。私は厄が無くなったことに肩を落としながら祠に帰り不貞寝した。
それから何日かが過ぎたところで私は外がおかしいことに気付いた。例年なら雨の多い季節なのに一回も雨が降らないのだ。その時私は胸の奥に言い知れぬ不安を感じた。そして、それは的中した。
その年、村は干ばつにより農作物ができず飢饉に見舞われた。さらに、疫病が村を襲った。それにより村人は激減し、ほとんど人影を見ることもなくなった。そして……地震が今までに経験したことのない大地震が村を襲った。私はものすごい揺れに驚き空高く飛び上がった。それとほぼタイミングを同じくして、山が崩れ村を飲み込んだのだ。
一瞬の出来事だった、何が起こったのか理解できなかった。けれど、私はさらに信じられないものを見た。それは厄だった。私の所から消えた厄があった。いいえ、厄に包まれていたと言った方がいい。だって村があった場所を中心にして周囲の山々を厄が包み込んでいたのだから。そこで私は理解した。村が消えた原因は私のせいだと。
厄神は厄を集めるほど力を増す、けれどそれは必ずしもいいことじゃない、集められて凝縮された厄は飛び散ったとんでもない厄災となるのだ。そうならないために村は毎年供養の行事を行っていたのだ。
それから私は厄を集めては時々厄落としをしながら各地を転々とした。
そして、この池の存在を知るのと幻想入りするのはほぼ同時だった。以来私は幻想郷の厄を集めてはこの池で厄落としをしている。
※ ※ ※ ※
目を開けると全身を疲労感が包み込んでいた。体の中の厄が全て抜けきったみたいだ。ゆっくと体を反転させると、服を脱いだ場所まで泳いでいく。そして、這いずるようにして池からあがった。
服を見ると、抜け出た厄が服にしっかりと集まっていた。池の中へとたらしたリボンを伝って厄が服に逃げ込んだのだ。私は立ち上がると、脱いだもの一式を手に持った。私が触れている部分だけ厄が避けているのが見えた。今回も厄落としはうまくいったみたいだ。あとはこれを供養するだけだ。けれども急がなければいけない、厄を服に押し込めておける時間はそう長くはない。
私はふらつきながらもゆっくりと歩いて行く。そして、事前に用意しておいた櫓の前まで来ると持っていた服一式を中へと放り込んだ。
「悲運『大鐘婆の火』」
櫓に手をかざしスペル宣言をすると、ボッっと火の玉が一つ現れ服に燃え移った。少し不安だったけどちゃんと仕込んでおいたスペルカードは発動できたようだ。厄の無い状態の私はそこらへんの野良妖怪と大差ない力しかでない、だから火の玉も一つ出せるかどうかギリギリなのだ。
徐々に火は大きくなり櫓を飲み込み燃え上がった。空へと昇っていく煙と共に厄が上っていった。
ああ良かった、今回も厄落としはうまくいったみたい…………
意識が遠のき足の力が抜けていく。もう立っているのも限界だった、そのまま地面へと倒れようとした時だった。
「おっと危ない危ない」
私は何かに支えられた。だけど周りには誰もいない。こんなことができるのは、私の知り合いのなかでは一人しかいない。
「にとり?」
声をかけると、にとりが姿を現した。恐らくステルス迷彩とかいう機械を使って隠れていたのだろう。
「あいかわらず無茶するよね、雛は……はいコレ、いつまでも裸だと風邪ひいちゃうよ」
にとりは私にバスタオルをかけてくれた。ああ、暖かい。
「じゃあ、家まで送っていくよ」
にとりはそう言うと私を抱き上げた。なんだがにとりの顔が頼もしく見える。抱き上げられながらにとりの顔を見ていたけど、徐々に瞼が重くなり閉じていく。
「にとり、ありがとう……」
お礼を言うのが精一杯だった。そのまま私は意識を手放した。
翌朝
私はまた日課の厄集めに出る。新品の服はやっぱり気分がいい、気持ちも新たに引き締まるというものだ。
「さあ、また厄を集めに行きますか」
人知れず幻想郷の平和を守るために、今日も私は厄を集めるのだった。
……と思ったw。
だがエロガッパww
故にエロガッパでは無いと主張してみるけれど無理がありすぎですかそうですか。
自分のイメージでは流し雛は「厄や穢れを移して流す」くらいしかないので謎は深まるばかり…。
しかしおかしいな、にとりは雛を見守ってただけなのにどうしても覗き見をしてたようにしか思えないww
しかしまぁ、もう少し感情移入できたら、話しに深みが出たと思う。
私の中では雛の厄は自然に消えていくイメージですね。こう、バシュン! と。
そうそう、雛が意識を手放してからにとりは雛に何をしたんですか?
雛様も色々とつらい思いをしてますね。頑張れ。
それにしてもエロガッパの人気に吹いた。
あまりの人気にパルスィになりそうw
厄の処理の事ですが、
受けた厄は神々に渡していると明言されていたりします。(霊夢と雛の会話)