ある日突然に、博麗神社の近所に間欠泉が湧き出した。
しかし、湧き出した当初の間欠泉は温泉卵がほんの数分で作れてしまうほど熱かったので、とてもじゃないが入浴に使えるようなものではなかった。
そこでお鉢が回ってきたのが、水を操る程度の能力を持った河童――河城にとりだった。博麗霊夢をはじめとする人妖たちは、にとりのその能力に期待して「この間欠泉を温泉として入浴に堪え得るものにしてくれ」と頼んだ。
しかし、エンジニア気質のにとりは、「これは科学に対する自然からの挑戦と見たね!」と言って、自らの能力を活用することなく、なにやら水温を調節する機械を作り始めてしまった。
そんなわけで、にとりに仕事を頼んだ者たちは「駄目だこりゃ」と、間欠泉を温泉として利用することを早々に諦めてしまった。
みんながそのことをすっかり忘れてしまっていたある日、何事かを成し遂げて満足げな様子のにとりが神社を訪れ、間欠泉の水温を下げる『さーもすたっと』なる機械が完成して温泉に浸かれるようになった、と霊夢に告げた。
それは、冬の異変からだいぶ時間が過ぎた、すでに幻想郷中の桜の花たちが咲きはじめた春の日のことだった。
今宵は満月。
薄靄のような湯気が立ち上り、ゆらゆらと揺れる月影が映る温泉の湯に、ふたりの少女が浸かっている。
「はー、ちょうどいい湯加減ねぇ」
湯に肩まで浸かった博麗霊夢が、まるで極楽浄土にいるかのような恍惚とした表情で大きく息をついた。
「あの河童、良い仕事したわね。今度きゅうりの二、三本でも持ってお礼を言いに行くことにするわ」
「安いもんだなぁ」
霊夢の言葉に、もうひとりの少女――霧雨魔理沙が苦笑いをした。
「それにしても、間欠泉が湧いてから、こうやって入浴できるようになるまで長かったな。最初のころは、地霊だかなんだか訳のわからんものも湧いて、おかげでいろいろと手を焼くハメになったぜ」
温泉のすぐそばには桜の木々が立ち並んでおり、ひらひらと淡紅色の花びらを湯に散らしていた。そのせいで湯の表面にはたくさんの花びらが浮いてしまっているが、まあ、地霊なんかに比べればこれも風流なものだろう。
「手を焼く、といえば、」
霊夢が魔理沙の左手を見遣った。さっきから魔理沙は、温泉を縁取る岩にもたれかかるようにして、左腕を湯に浸けないように気をつけているようだった。
「その火傷、どうしたのよ」
「ああ、これか」
魔理沙は、火傷して軽く化膿した掌を空にかざしてみせた。
「新しい魔法薬の調合中に、ちょっと、な。湯に浸けると、滲みちゃって痛いんだ」
「ふーん」
それを聞いた霊夢は、にわかに意地の悪い笑みを浮かべると、掌に湯を掬い、魔理沙の手の火傷にぶっかけた。
突然のことに「ひゃあっ」と可愛らしい悲鳴をあげる魔理沙。
「いきなり何すんだ!? 痛いだろーっ」
「温泉の湯は火傷に効くって聞いたことあるから、湯治してやろうかと思って」
涙目の魔理沙に、霊夢は涼しげな顔をして言った。
「だからって、おまえなぁ……、って! やめろって言ってるだろ!」
左手を庇う魔理沙に、ばしゃばしゃと執拗に湯をかける霊夢。
「ほらほら、そんなんじゃ治るもんも治らないわよ!」
「余計なお世話だぜ!」
「わたしはあんたを心配して言ってるのよ?」
「嘘だ! おまえ、絶対楽しんでるだろ!」
負けず嫌いの魔理沙は、火傷を庇うのもそこそこに、大量の湯を霊夢にかけ返してやった。するとそれを避けようと身体を傾けた霊夢が、バランスを崩して頭から湯に浸かってしまう。
「あっはっは、ざまぁみろ!」
魔理沙は、ちゃぽん、と頭を出して湯を吐き出す霊夢を見て笑った。霊夢も、自分たちのやっていることが無性に馬鹿馬鹿しく思えて、笑った。
「ところで――、こんなのも用意してあるんだが」
そう言って魔理沙が、温泉の脇の浅場に浮かべていた木桶を取ると、霊夢に差し向けた。霊夢がなかを覗き込むと、徳利が数本と御猪口がふたつ、入っていた。
「なるほど。温泉に浸かりながら、月見酒ってわけね。なかなか気が利くじゃない」
「花見酒でもあるぜ」
「まさに至れり尽せりね」
木桶のなかで温められた徳利は、ちょうど人肌といった程度の熱燗になっていた。酒を注いだ御猪口を、かちん、と軽くぶつけて、ふたりは顔を見合わせて微笑みを交わした。
「乾杯」
「何に?」
「何かに」
御猪口に軽く口をつけ、こくり、と喉に流すと、その道筋から腹にかけてがほんわかと温まるのを感じた。湯の温もりが合わさり、まるで身体全体が温もりに包まれているようだ。
「――わたしたちは、こういう時間を守るために異変を解決したりしているのかもしれない」
藪から棒にそう言う霊夢に、魔理沙は「そもそも異変が起こらないのが一番なんだけどな」と笑った。
手のなかの御猪口の酒に躍る月が、薄闇に映える。
月影が映った酒を飲み干すことで、妖怪たちは月の力を得る。永夜異変を解決して皆で月見酒をしたとき、八雲紫が教えてくれたことだ。
そんなことを思い出しながら、霊夢が満月の浮かぶ空を仰ぐと、「おまえがなにを考えているか当ててやろうか?」と魔理沙が言った。
「当ててごらんなさい」
「ずばり、紅霧異変のことを思い出してたんだろう」
「ああ、そういえばあのときも満月だったわね」
「そうそう、そして幻想郷中がこんな感じに霧に包まれて……」
魔理沙は、湧き立つ湯気に手をかざしながら言った。
「でも不正解。永遠亭の連中が月を隠したときのことを、思い出してたの」
「あー、そっちだったか。そういえば、あんときは勘違いした霊夢が襲い掛かってきて、災難だったぜ」
「ちょっと! 勘違いしていきなり攻撃してきたのはそっちでしょ。『撃つと動く!』とか言っちゃって」
「そうだったか?」
記憶が曖昧になっているところがあるが、だからこそ懐かしい。
ずっと昔のことにも思えるし、ほんの最近のことにも思える。
遠くて、近い。
まるで手のなかでぼんやり光る、酒に映る月のように。
思い出とは、そういうものだ。
「じゃあさ、あの桜の花を見て、おまえはなにを思う?」
魔理沙は酒を一気に呷ると、御代わりを注ぎながら、周囲の桜を差した。
そう、舞い散る桜の花びらは、別の異変を想起させるものだった。
「懐かしいわね」
そう言いながら霊夢が空になった御猪口に酒を注ごうとすると、徳利を持っていた魔理沙が酌をしてくれた。
「ああ、あのときもおまえとぶつかりあったよな」
「えっ、そうだったかしら?」
かつて、西行寺幽々子が妖怪桜・西行妖を咲かせようとして、幻想郷中の春を集めてしまったことがあった。そのせいで、雪が溶けることがない白銀の春がきた。それを人々は春雪異変と呼んでいる。
「あのときは、わたしが幽々子と戦っているあいだ、魔理沙が妖夢を退き付けておいてくれたから解決できたのよ。ぶつかりあったどころか、むしろ協力してたじゃない」
「ちょっと待った。さっきから何の話をしてるんだ? 桜の花といったら、大量の亡霊のせいであっちゃこっちゃで花が一斉に咲いた異変のことだろう」
どうやら、魔理沙は大結界異変のことを言っていたらしい。
ふたりは堪えきれず、くすくす、と笑い合った。
「本当にわたしたちって、」
「気が合わないなぁ!」
だが、そこがいいのかも知れない。
笑いながら霊夢が酒に口をつけると、ふと、酒つながりで今度は大酒飲みの鬼が起こしたとある異変のことを思い出した。
そして目のまえで同じように酒を呷る魔理沙を見て、おおかたあっちはあっちで、毎日酒を浴びるように飲んでいる天人の起こしたあの異変のことでも思い出しているんだろう、と霊夢は思った。
気が合わないからこそ、相手の考えがわかることだって、ある。
温泉に浸かるようにふたりが思い出に浸っていると、なんだかこうしていることが奇跡のように尊いもののように思える。
実際のところ、何度も生命を落とすような危ない場面はあったのだ。そして、それは両手でも数えきれないほど多くて、まるで細くて長い綱を渡るような儚いバランスの末に、現在という時間は存在するのだ。
霊夢がそのことを口にすると、魔理沙は、うーむ、と唸った。
「そのことだが、異変の度に思うことがあるんだ」
魔理沙は「思う、というより、感じる、と言ったほうが近いかな」と呟き、続けた。
「わたしたちって、死ぬかもしれない、っていうくらい危ない目に何度も遭ってきたじゃないか。そういうとき、わたしは誰かの『意思』みたいなものを感じるんだ」
魔理沙によって静かに語られる不思議な話に、霊夢は真剣な表情をして耳を傾けている。
「その得体の知れない意思に導かれるようにして、毎回助けられてきた。そういうのって、霊夢もないか?」
「ええ。――実はわたしも、そういうの、あるわ」
霊夢が頷くと、魔理沙は「やっぱりか」という顔をした。
「魔理沙がいうその『意思』みたいなもの、わたしは『祈り』として感じるの。きっと、どこか遠くでわたしたちの無事を願ってくれるprayer(祈祷者)がいて、それが力になってるのかもしれない」
「player(遊び人)だって? 不謹慎な奴だな。こっちは遊びでやってるんじゃないんだぞ」
「それはプレーヤー違いよ」
そう言って、霊夢が笑った。
「まあ、とにかくだ」
魔理沙が、自分と霊夢の空いた御猪口に酌をしながら言った。
「いまのわたしたちがあるのも、そのどっかの誰かさんのお陰かも知れない、ってことなんだろ」
「そうかもしれないわね」
「ならさ、この乾杯は、その誰かさんに捧げようぜ」
魔理沙の提案に、霊夢は「それ、いいわね」と賛同した。
「それじゃあ、」
「乾杯」
ふたりは、かちん、と御猪口を軽くぶつけると、顔を見合わせて微笑みを交わした。
空に浮かぶ満月が、そんな光景を無言で照らしていた。
(了)
しかし、湧き出した当初の間欠泉は温泉卵がほんの数分で作れてしまうほど熱かったので、とてもじゃないが入浴に使えるようなものではなかった。
そこでお鉢が回ってきたのが、水を操る程度の能力を持った河童――河城にとりだった。博麗霊夢をはじめとする人妖たちは、にとりのその能力に期待して「この間欠泉を温泉として入浴に堪え得るものにしてくれ」と頼んだ。
しかし、エンジニア気質のにとりは、「これは科学に対する自然からの挑戦と見たね!」と言って、自らの能力を活用することなく、なにやら水温を調節する機械を作り始めてしまった。
そんなわけで、にとりに仕事を頼んだ者たちは「駄目だこりゃ」と、間欠泉を温泉として利用することを早々に諦めてしまった。
みんながそのことをすっかり忘れてしまっていたある日、何事かを成し遂げて満足げな様子のにとりが神社を訪れ、間欠泉の水温を下げる『さーもすたっと』なる機械が完成して温泉に浸かれるようになった、と霊夢に告げた。
それは、冬の異変からだいぶ時間が過ぎた、すでに幻想郷中の桜の花たちが咲きはじめた春の日のことだった。
今宵は満月。
薄靄のような湯気が立ち上り、ゆらゆらと揺れる月影が映る温泉の湯に、ふたりの少女が浸かっている。
「はー、ちょうどいい湯加減ねぇ」
湯に肩まで浸かった博麗霊夢が、まるで極楽浄土にいるかのような恍惚とした表情で大きく息をついた。
「あの河童、良い仕事したわね。今度きゅうりの二、三本でも持ってお礼を言いに行くことにするわ」
「安いもんだなぁ」
霊夢の言葉に、もうひとりの少女――霧雨魔理沙が苦笑いをした。
「それにしても、間欠泉が湧いてから、こうやって入浴できるようになるまで長かったな。最初のころは、地霊だかなんだか訳のわからんものも湧いて、おかげでいろいろと手を焼くハメになったぜ」
温泉のすぐそばには桜の木々が立ち並んでおり、ひらひらと淡紅色の花びらを湯に散らしていた。そのせいで湯の表面にはたくさんの花びらが浮いてしまっているが、まあ、地霊なんかに比べればこれも風流なものだろう。
「手を焼く、といえば、」
霊夢が魔理沙の左手を見遣った。さっきから魔理沙は、温泉を縁取る岩にもたれかかるようにして、左腕を湯に浸けないように気をつけているようだった。
「その火傷、どうしたのよ」
「ああ、これか」
魔理沙は、火傷して軽く化膿した掌を空にかざしてみせた。
「新しい魔法薬の調合中に、ちょっと、な。湯に浸けると、滲みちゃって痛いんだ」
「ふーん」
それを聞いた霊夢は、にわかに意地の悪い笑みを浮かべると、掌に湯を掬い、魔理沙の手の火傷にぶっかけた。
突然のことに「ひゃあっ」と可愛らしい悲鳴をあげる魔理沙。
「いきなり何すんだ!? 痛いだろーっ」
「温泉の湯は火傷に効くって聞いたことあるから、湯治してやろうかと思って」
涙目の魔理沙に、霊夢は涼しげな顔をして言った。
「だからって、おまえなぁ……、って! やめろって言ってるだろ!」
左手を庇う魔理沙に、ばしゃばしゃと執拗に湯をかける霊夢。
「ほらほら、そんなんじゃ治るもんも治らないわよ!」
「余計なお世話だぜ!」
「わたしはあんたを心配して言ってるのよ?」
「嘘だ! おまえ、絶対楽しんでるだろ!」
負けず嫌いの魔理沙は、火傷を庇うのもそこそこに、大量の湯を霊夢にかけ返してやった。するとそれを避けようと身体を傾けた霊夢が、バランスを崩して頭から湯に浸かってしまう。
「あっはっは、ざまぁみろ!」
魔理沙は、ちゃぽん、と頭を出して湯を吐き出す霊夢を見て笑った。霊夢も、自分たちのやっていることが無性に馬鹿馬鹿しく思えて、笑った。
「ところで――、こんなのも用意してあるんだが」
そう言って魔理沙が、温泉の脇の浅場に浮かべていた木桶を取ると、霊夢に差し向けた。霊夢がなかを覗き込むと、徳利が数本と御猪口がふたつ、入っていた。
「なるほど。温泉に浸かりながら、月見酒ってわけね。なかなか気が利くじゃない」
「花見酒でもあるぜ」
「まさに至れり尽せりね」
木桶のなかで温められた徳利は、ちょうど人肌といった程度の熱燗になっていた。酒を注いだ御猪口を、かちん、と軽くぶつけて、ふたりは顔を見合わせて微笑みを交わした。
「乾杯」
「何に?」
「何かに」
御猪口に軽く口をつけ、こくり、と喉に流すと、その道筋から腹にかけてがほんわかと温まるのを感じた。湯の温もりが合わさり、まるで身体全体が温もりに包まれているようだ。
「――わたしたちは、こういう時間を守るために異変を解決したりしているのかもしれない」
藪から棒にそう言う霊夢に、魔理沙は「そもそも異変が起こらないのが一番なんだけどな」と笑った。
手のなかの御猪口の酒に躍る月が、薄闇に映える。
月影が映った酒を飲み干すことで、妖怪たちは月の力を得る。永夜異変を解決して皆で月見酒をしたとき、八雲紫が教えてくれたことだ。
そんなことを思い出しながら、霊夢が満月の浮かぶ空を仰ぐと、「おまえがなにを考えているか当ててやろうか?」と魔理沙が言った。
「当ててごらんなさい」
「ずばり、紅霧異変のことを思い出してたんだろう」
「ああ、そういえばあのときも満月だったわね」
「そうそう、そして幻想郷中がこんな感じに霧に包まれて……」
魔理沙は、湧き立つ湯気に手をかざしながら言った。
「でも不正解。永遠亭の連中が月を隠したときのことを、思い出してたの」
「あー、そっちだったか。そういえば、あんときは勘違いした霊夢が襲い掛かってきて、災難だったぜ」
「ちょっと! 勘違いしていきなり攻撃してきたのはそっちでしょ。『撃つと動く!』とか言っちゃって」
「そうだったか?」
記憶が曖昧になっているところがあるが、だからこそ懐かしい。
ずっと昔のことにも思えるし、ほんの最近のことにも思える。
遠くて、近い。
まるで手のなかでぼんやり光る、酒に映る月のように。
思い出とは、そういうものだ。
「じゃあさ、あの桜の花を見て、おまえはなにを思う?」
魔理沙は酒を一気に呷ると、御代わりを注ぎながら、周囲の桜を差した。
そう、舞い散る桜の花びらは、別の異変を想起させるものだった。
「懐かしいわね」
そう言いながら霊夢が空になった御猪口に酒を注ごうとすると、徳利を持っていた魔理沙が酌をしてくれた。
「ああ、あのときもおまえとぶつかりあったよな」
「えっ、そうだったかしら?」
かつて、西行寺幽々子が妖怪桜・西行妖を咲かせようとして、幻想郷中の春を集めてしまったことがあった。そのせいで、雪が溶けることがない白銀の春がきた。それを人々は春雪異変と呼んでいる。
「あのときは、わたしが幽々子と戦っているあいだ、魔理沙が妖夢を退き付けておいてくれたから解決できたのよ。ぶつかりあったどころか、むしろ協力してたじゃない」
「ちょっと待った。さっきから何の話をしてるんだ? 桜の花といったら、大量の亡霊のせいであっちゃこっちゃで花が一斉に咲いた異変のことだろう」
どうやら、魔理沙は大結界異変のことを言っていたらしい。
ふたりは堪えきれず、くすくす、と笑い合った。
「本当にわたしたちって、」
「気が合わないなぁ!」
だが、そこがいいのかも知れない。
笑いながら霊夢が酒に口をつけると、ふと、酒つながりで今度は大酒飲みの鬼が起こしたとある異変のことを思い出した。
そして目のまえで同じように酒を呷る魔理沙を見て、おおかたあっちはあっちで、毎日酒を浴びるように飲んでいる天人の起こしたあの異変のことでも思い出しているんだろう、と霊夢は思った。
気が合わないからこそ、相手の考えがわかることだって、ある。
温泉に浸かるようにふたりが思い出に浸っていると、なんだかこうしていることが奇跡のように尊いもののように思える。
実際のところ、何度も生命を落とすような危ない場面はあったのだ。そして、それは両手でも数えきれないほど多くて、まるで細くて長い綱を渡るような儚いバランスの末に、現在という時間は存在するのだ。
霊夢がそのことを口にすると、魔理沙は、うーむ、と唸った。
「そのことだが、異変の度に思うことがあるんだ」
魔理沙は「思う、というより、感じる、と言ったほうが近いかな」と呟き、続けた。
「わたしたちって、死ぬかもしれない、っていうくらい危ない目に何度も遭ってきたじゃないか。そういうとき、わたしは誰かの『意思』みたいなものを感じるんだ」
魔理沙によって静かに語られる不思議な話に、霊夢は真剣な表情をして耳を傾けている。
「その得体の知れない意思に導かれるようにして、毎回助けられてきた。そういうのって、霊夢もないか?」
「ええ。――実はわたしも、そういうの、あるわ」
霊夢が頷くと、魔理沙は「やっぱりか」という顔をした。
「魔理沙がいうその『意思』みたいなもの、わたしは『祈り』として感じるの。きっと、どこか遠くでわたしたちの無事を願ってくれるprayer(祈祷者)がいて、それが力になってるのかもしれない」
「player(遊び人)だって? 不謹慎な奴だな。こっちは遊びでやってるんじゃないんだぞ」
「それはプレーヤー違いよ」
そう言って、霊夢が笑った。
「まあ、とにかくだ」
魔理沙が、自分と霊夢の空いた御猪口に酌をしながら言った。
「いまのわたしたちがあるのも、そのどっかの誰かさんのお陰かも知れない、ってことなんだろ」
「そうかもしれないわね」
「ならさ、この乾杯は、その誰かさんに捧げようぜ」
魔理沙の提案に、霊夢は「それ、いいわね」と賛同した。
「それじゃあ、」
「乾杯」
ふたりは、かちん、と御猪口を軽くぶつけると、顔を見合わせて微笑みを交わした。
空に浮かぶ満月が、そんな光景を無言で照らしていた。
(了)
わいわいやってるのもいいけど、たまには静かなのも・・・ね。
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ちょっと某SEEDばりに種割って攻略してきますね。
しかし後書きのにとりは自重w
が、後書きで全てが崩れてしまいました。どう責任を取ってくれるんですかw
しかし旧作プレイできない環境化にある俺涙目orz