「よう、チルノ」
湖の上――すぐ上ではなく、水面から三十メートルほどだ――で、魔理沙はチルノに出会った。
「ねぇ魔理沙、じがじって誰?」
「じがじ?」
「じがじ」
チルノがまた妙な事を言いだした。
魔理沙はそう思った。
「じがじねぇ。それは何だ?」
質問に質問で答える。
「分からないから訊いてるんじゃない」
「ふむ、それはそうだな」
――じがじ。『誰?』と後に付いた事から考えるに、恐らくは人間か或いは人語を解する人外の類だろう。
しかし、幻想郷中をしょっちゅう飛び回る魔理沙でさえ、そんな名前は記憶の片隅にすら無かった。
というか、一度でも聞いたことがあろうものなら、絶対に忘れなさそうな名前だ。
じがじ、じがじ。
こめかみに手をやってじっと考える魔理沙であったが、じきに諦めた。
「悪いがそんな名前は聞いたことがない。地下に潜ったときも、そんなめちゃくちゃな名前の奴には出会わなかったな」
「魔理沙でも知らないことってあるんだ」
「私は万能じゃないさ…何なら、私よりも物知りな奴の所に案内してやろうか?」
彼女の都合と被っているのでちょうどよかった。本を『借りに行く』ついでに、この氷精を図書館の主に会わせるのも、ひょっとすると面白いかも知れない。
「いいの?その物知りな奴って、あの館の中に居るんでしょ?」
「ああ。私は顔パスなんだぜ?」
大嘘である。顔を見たら門番が飛んできて決死の防御に出るのだ。
「…ん、いく」
「オーケー、じゃあ箒にまたがって、私にしっかり捕まっておけよ」
「んしょ、こう?」
魔理沙は後悔した。チルノは冷たい。周りの冷気自体も冷たければ、本人(人ではないが)も相当冷たい。
氷の塊に近いチルノに、ぎゅっと抱きつかれる。腹をこわしそうな勢いだった。
折しも、夏が終わり、秋となってくるころだった。
「…」
「魔理沙?どうかした?」
「…いや、何でもないぜ。それより、魔理沙さんは速いから、舌噛むなよ」
言うだけ言って、魔理沙は箒を全速力で走らせた。
魔理沙後悔しながら移動中。主に冬服とか鍋のこと考えながら。
「よ、パチュリー」
寒さで引きつった笑顔を見せて、魔理沙は図書館に現れた。
もちろん、チルノを連れて、だ。
「また来たの。右から十七番目、奥から八番目の棚には手を出したらダメよ、私も外せない魔力殺しの罠とかかかってるから」
パチュリーは目も合わせずに言った。
いかにも、興味が有りません、といった感じだ。
幾度もの強奪を経て、魔理沙を止めることは暴力を使おうが魔法を使おうが言葉を使おうが色仕掛けを使おうが出来ないと悟ったのだ。
「わかってるぜ。ただその前に、暖かい紅茶をくれ」
そういって、テーブルを挟んでパチュリーの向かい側に、魔理沙は座った。
「はいはい。小悪魔」
呼ばれた小悪魔がティーカップその他を持ってくる。
「ありがとう」
それだけ言って、パチュリーは小悪魔を下がらせた。
出された紅茶を、魔理沙は飲み干す。
「すまないな、こいつを乗せてきたら冷えたんだ」
ちなみに、チルノは小悪魔が出した紅茶を断った。
暖かいものはチルノの身体には毒だ。氷の妖精なだけに。
「あら、この子は確か湖に棲む氷精ね。急にまたどうしたの」
パチュリーは、子供が嫌いではない。
魔理沙が来てから初めて、自分の読んでいる本以外に興味を示した。
ここで言う興味を示すとはつまり、本から目を離す、ということだ。
ただし、子供嫌いではないが、五月蠅いのは嫌いだ。
泣かれたりしないかと少しばかりはらはらしていた。
「いやいや、チルノがこう言うんだよ。『じがじって誰?』ってな」
「じがじ?」
「うん、じがじだ。多分人とか妖怪とかそんなんじゃないかな。お前何か知らないか?」
パチュリーはしばらく考え込み、
「じがじねぇ…そんな名前の人か妖怪、聞いたことも目にしたことも無いわね。外の世界の文献でも見たことがないわ」
期待外れの返事を返した。
「第一、それ本当に生き物なの?ねぇ妖精、貴女はどこでその名前を聞いたの?」
パチュリーがチルノに声をかけた。
チルノはこれまで行儀よくしている。大妖精に、人のお家ではおとなしくしていようねと教わったからだ。
「え、えっと…昨日、めーりんと里のハクタクが話してて、聞いたの」
「あら、なら中国なりハクタクに訊けばよかったのに」
「そのあと魔理沙が纏めて吹き飛ばしちゃった」
「…」
鈍い目で魔理沙をにらむパチュリー。そっぽを向いて口笛を吹く魔理沙。
昨日も魔理沙は図書館に強奪しに来ていた。
「門番なら今、まさしく門番してるところだから、直接本人に訊いた方が早いんじゃない?もしかすると彼女の故郷あたりの名前なのかもしれないし、無名の人物なら私が知るよしもないわ」
「そうか、じゃあチルノ、中国の所に行くか?」
「うん」
そういって魔理沙は席を立った。
「その前に魔理沙」
「何だよ」
引き留めるパチュリー。
「帽子の中の本は置いて行きなさい」
ばれていた。
「よう、中国!」
「あれ、魔理沙さんいつの間に中に入ったんですか?というか、私は中華人民共和国なんて名前を持ったことはないです」
美鈴は門の前で番をしていた。…というか、シエスタしていた。
魔理沙の到着が遅かったら、見つかって居たところなのだろう。
ただ、魔理沙の日頃の仕打ちを考えると、感謝する必要は全くないが。
魔理沙に(寒さで)あまりにも余裕がなかったため、門から入る事が出来なかっただけである。
「まぁ細かいことは気にするなよ。それより、昨日ハクタクと一緒に居たんだって?」
話題をさらりとかわして、魔理沙が話を始めた。
自分に都合が悪いことは、さらっと流す魔理沙さんである。
「え?えぇ。茸が採れたからとお裾分けに来てくれていたんですが…全部貴女が吹き飛ばしましたよ」
美鈴と慧音は個人的な親交があった。数少ない常識人同士、話が通じるのだ。愚痴方向で。
とにかく、後で謝っておいてくださいねと、美鈴は付け足した。
無論魔理沙に聞く耳は無い。
「まぁまぁ細かいことは気にするなよ。細かいことは気にするなって。で、何の話をしてたんだ?」
大事なことなので二回言った。美鈴がジト目で見てきたし。
「はぁ、まぁ普通の世間話ですね、里ではじきに祭りがあるそうですよ。霊夢さんが神楽をするんだとか」
美鈴はそこで話を切って、どうかしたんですか? と尋ねた。
その質問に答えるのは魔理沙ではなく、チルノだった。
「めーりん、じがじって誰?」
チルノが尋ねる。
「じがじ?」
美鈴は怪訝な顔をして尋ね返した。
「うん、じがじ。昨日めーりん言ってたじゃん、『じがじさん』がどうこう」
それを聞いて、二人は大笑いした。
魔理沙も魔理沙だ。魔理沙以外の何者でもない………
>主sろいかも
愛が足りないぜ。(ローマ字入力の際、“I”が抜けたみたいですよ)
手前味噌ってやつですねw
>地球人撲滅組合様
おっとっと、既存の殻を破ろうとしていたこの私がいつの間にか既存の殻に頼っていただなんて。
恐ろしや東方、東方恐ろしや。チルノ可愛いよチルノ。
「キャラ崩壊しすぎ」っていうコメントが付かない程度に、予想の斜め上を行く展開っていうのが欲しいです。
僕のチルノに対する愛が誤字に敗れるだとーッ!
>2 様
書いてる時間差でコメント来てるとなんだか申し訳ない気分になります。
スルーしちゃったみたいで。
とまぁそれはともかく、こういう事って日常でホイホイありますよね。
いつぞや見たホームビデオの番組で、母親が喧嘩する娘を叩いてたんです。
母親が一言、「何で叩かれたか分かる?」
娘は泣きながら「ネギ」
凶器の話じゃねぇよ、動機だよwwwと思いながら見た記憶があります。
手前味噌が分からなくてぐぐったのは内緒だよ?
さて、気になってしょうがない点が一つ。
>色仕掛けを使おうが
さて、正直に内容を話しなさい。
そこに方言が混ざるとワケがわからなくなります
ちゃうちゃうちゃうちゃうみたいな
さて、お兄さんは怖くないから君のじゃすてぃすを叫ぶんだ
全身で受け止めてやる!
>紅魔レヴォリューション様
おっと、自分の所属する集団内でニヤニヤしてると変な目で見られるのでニヤニヤも計画的に。
内容ですか?わっふるわっふると書き込まなくちゃあならないような内容ですたい。
>6 様
難しいですよね。
夏頃に私の地元で大きな山火事がありまして、その街頭インタビューが全国放送で流れたときに、「ああ、田舎だなぁ…」と感じさせられました。
都会の人は「山の方から火ぃが上がって、よいよぉ怖くてねぇ」なんて言いませんよねぇ…。
では遠慮無く。
俺のじゃすてぃすはレイサナだぁぁぁぁぁぁ!!!
じがじさんねぇ・・・自分、昔それに良く似たことやりました・・・
その名前を今でもたまにゲームのキャラ名とかに使ってますがw
あたいったらさいきょーね!
そして面倒見の良い魔理沙お姉ちゃん…堪らないですね!
>「霊夢さんが神楽をするんだとか」(一部抜粋) 霊夢さんの神楽!? 見てみたい、凄く見てみたい!
卵肌…殻のほうですがねwがさがさですw
>灰華 様
よかった、覚えてくれていた。ありがとうございます。
日本語って難しいんですよね、これがなかなか。
いやいや、私こそがさいきょーよ!
>万葉 様
チルノ分は脂溶性ビタミンですので過剰摂取は健康被害の元となります――具体的には、⑨。
ですので、補給は計画的に。
魔理沙分は水溶性ビタミンですので過剰摂取しても体内から排出されます。
不足の無いようにしましょう。
なんか凄くだるげにやりそうで怖いんですが。霊夢。
>11様
Caved!!
我が家の近所には竹林が御座います。満月の夜は近寄らないようにしています。
オチを読んでいちばん最初に思ったことは「あぁ…チルノだ」でした。
「じがじさん」が人名とは普通思うまいにw
しかし美鈴と話してた慧音をも吹き飛ばすとは…きっと次の満月辺りに魔理沙は(ここから先は記載がない)
>13 様
チルノは⑨だからこそ可愛いのです。いや、⑨じゃなくても可愛いのです。
時にチルノが坂本さんの嫁になったら坂本⑨ですが、上を向いて歩くんでしょうか。
けいねの あなをほる!(アッー!
こうかは ばつぐんだ!
どうしてあなたは毎度毎度ピンポイントでツボを突いてくるんですか?チルノちゃんと紅魔メンバーとは。
そしてれいさな!あんたとは良い酒が飲めそうだ。
次回作は脇巫女のラブラブ話ですね、わかります。
チルノは馬鹿じゃなくて子供っぽくて抜けてるんだ!
ご馳走様でした。チルノとめーりんでご飯3杯は固いです。
>魔理沙ちゃんうふふ 様
いつも読んでいただいてありがとうございます。
ピンポイント爆撃なのはきっと重箱の隅を突く私の性格からでしょう。
おっと、レイサナ好きなら酒ではなく緑茶ですよ。
脇巫女も早苗さんも好きですが、書くのは正直苦手です……キャラが!掴めない!ブレる!
ぶれぶれぶれぶれぶれまくればいっそばれないのでしょうか、んなわきゃねえか。
追記
14レス目は私です。名前入れわすれー。
>「まぁまぁ細かいことは気にするなよ。細かいことは気にするなって。で、何の話をしてたんだ?」
大事なことなので二回言った。
会話の流れからして3回です!w
チルノの作品が出る度に【⑨=バカ】について。
個人的では有りますが、私はよくマルキュー株式会社の釣り餌(混ぜ餌)を買いますので、
それだと会社を馬鹿にしているようでどうも違和感が有りますね。
まぁ偶然こうなってしまったので仕方のない事なんですけどね(^^;)
⑨と言うより一直線なイメェジ。
パッチュさんは既にアリスの嫁で多少汚れてもだいじょぶだから色仕掛けを敢行とか妄想。
れいさなも良いけどさなれいもね!
でも今は「れいすわれい」が大好きです。
故に自然と「さなかな」が……!無いか。
長くなりました ごめんなさい。
>ぐれ 様
おっと、時間差でコメントが入ってた。
そうなんですよ!チルノの可愛さは「子供らしい純粋さ」なんです!
お粗末さまでした。
チルノとめーりんでご飯六杯は堅いです。
>18様
魔理沙「まあまあ18よ、細かい事は気にするなって」
その株式会社が気になりまくります
>19 様
チルノは永遠の純粋幼女です。
パチェアリとは素晴らしい!
サナレイとは素晴らしい!
サナカナとは素晴らしい!
人生って素晴らしい!
考え方はすぐわかったので「じがじ」がなにか考えながら読んでましたが
「じがじさん」にはたどりつけなかったですorz
>いつぞや見たホームビデオの番組で、母親が喧嘩する娘を叩いてたんです。
母親が一言、「何で叩かれたか分かる?」
娘は泣きながら「ネギ」
懐かしいwww
>パチュリーは、子供が嫌いではない。
あ~分かります分かりますw パチェはそんな感じだ。
>牧場主 様
人間、牛乳のように柔軟な思考を持たなくてはなりません。牧場主だけに。
(今うまい事言った)
まさかそのネタがわかる方に出会うとは思ってもみませんでしたよ。
>欠片の屑 様
チルノは可愛いからこそチルノなのです。
パチェは子供好きなのですが小悪魔なり魔理沙なりにからかわれるから言えないんですよ、きっと。