幻想郷にある妖怪の山。多くの妖怪の他に神々が住むとされるこの山の麓に大きな湖がある。
昼間は晴れた日でも深い霧に閉ざされている為、人々からは「霧の湖」と呼ばれている。
その湖を外周に沿って進むと、赤く、まるで血に染め上げたかの様に『紅く』佇む洋館が見えてくる。
一見、幻想郷には場違いに見える洋館は近づくにつれ威圧感が大きくなり、「人である身で近づいては
いけない」という警鐘・不安・焦燥感・恐怖・圧迫感のごちゃ混ぜになった、えも言われぬ気持ちが
心の奥底から這い出してくる。
それこそが、あの悪名高き「紅魔館」である。
夜の王にして、人々の血を喰らいし吸血鬼。永遠に紅い幼き月、紅い悪魔と呼ばれる
「レミリア・スカーレット」の居城にして、多くの人妖の住む悪魔の館。
レミリア・スカーレットは幼い少女に見えるにもかかわらず、500年の年月を生きた吸血鬼であり、
その力は、指一本動かすだけで人間をこの世から消滅させ、
その速さは、並みの妖怪ならば殺された事に気が付かない程だと言われている。
初めて幻想郷にやって来た時には、己の力を見せ付ける為だけに多くの人間・妖怪を虐殺したと言う。
今を持ってしてなお、恐怖の象徴として語り継がれる。
しかし、紅魔館に近づくならば、最も恐れるべきはレミリア・スカーレットではない。
紅魔館の守護者『紅 美鈴』である。
紅魔館を守護する紅の盾。紅魔館に仇為そうとする者に下される鉄槌は、神の裁きに等しい。
武術を極め、その神速が如き動きは人の目で見る事あたわず、己の未熟さを悔いる間さえも与えられず、
激痛に地を這い、泥を食み、血を撒き散らしながら、許しを請う事も許されず、唯々己の浅はかさを呪い
裁きの鉄槌が下され自身が滅する瞬間を待つしかないのだ。
努々忘れる事無かれ。そこは悪名高き「紅魔館」
悪魔の棲む館。
「……はぁ」
何度目になるだろうか、ため息が漏れる。
今朝、祖父から聞いた紅魔館の話が脳裏から離れずにいる。
今朝方、私が営む店に紅魔館の従者が現れ商品を注文していったのだ。
「午後に紅魔館まで配達をして欲しい」
そう言って、その美しい従者(メイドと言うのだろうか?)は料金を支払うと、
まるで最初からいなかったように忽然と姿を消してしまった。
その時の事を思い出すと、今でも背中に冷たい物が流れる。
目の前に見えるのは、霧に浮かぶ紅の洋館。
「……はぁ」
もう一度ため息を吐くと、私は再び歩き出した。
-----------------------------------------------
眼前にそびえる巨大な門を見上げる。
金属で出来た門は、人間一人の力で開ける事は不可能であろう。
一面に薔薇を模った華美な装飾が施され、まるで訪問者を見下ろすように悠然と佇んでいる。
左右を見れば何処までも続いているかのような煉瓦造りの塀。
その向こうに見えるのは、巨大な時計塔。
それら全てが紅く染め上げられていた。そう、紅・紅・紅・紅・紅・紅・紅・紅・紅・紅・紅・紅…………
まるで、幾多の血を持って染め上げられたかの様に。まるで、そう在らねば成らないかの様に……
ギギギギギギギギギギギギギィィィィィ…………
呆然としていた私は、重い金属の擦れる様な音を聞いて我に返った。
見ると門が人一人分程開いている。
こうしていても始まらない。用事を済ませ早々に退散しようと思い門に向かおうとした時
「初めていらっしゃった方ですね」
突然、鈴の音の様な美しい声が響いた。
慌ててそちらを見ると、一人の美しい女性が立っていた。
どこかの民族衣装だろうか?薄い草色の見たことの無い服を身にまとい、同じ色の帽子を被っている。
ゆったりとした服だが、その上からでも女性が素晴らしいプロポーションである事がはっきりと判る。
それより何より眼を引くのは、この館の様に赤い、血の様に紅い髪だった。
「申し遅れました。私、当紅魔館にて門番を勤めさせて頂いております、紅美鈴と申します」
女性はそう言って恭しく一礼をした。
しかし、私はそれ所では無い。
『紅美鈴』?目の前の女性は今『紅美鈴』と言ったのか?
紅魔館の守護者にして、紅の盾。この女性が、あの紅美鈴なのか?
緊張で動けなくなった私を見て、目の前の女性……紅美鈴は女神の様な微笑を浮かべた。
「その様に御緊張なさらずとも。いきなり取って喰う訳ではありませんので」
そう言って私に微笑みかける。
しかし、私は見てしまった。
彼女の女神の様な美しい微笑の向こう。その瞳の奥は決して笑っていない事を。
まるで幾万の針に貫かれた様な感覚。心の奥底までもが全て見透かされているような感覚に喉が渇く。
唾を飲み込もうとして、その為の唾液すら乾いていた私は、ただ不自然に喉元が動いただけだった。
「ご存知でおられる事とは思いますが、念の為、説明させて頂きます。
ここは紅い悪魔、永遠に紅い幼き月、高貴なる吸血鬼にして夜の王レミリア・スカーレットの居城。
そして、その美しき魔眼に心を奪われし者どもが集いし紅の魔城。
悪魔の棲む館・紅魔館で御座います」
紅美鈴は両の手を高らかに掲げ、まるで歌う様に声をあげる。
「我らが主、レミリア・スカーレットを敬い、崇める者には最大限のもてなしを。
……しかし、もしも仇成す事を考えておられ「めーりーん!!あーそーぼー!!」うぼぁぁ!!」
どぐっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
紅い何かが通り過ぎたかと思うと、異様な音を立てて紅美鈴が吹き飛んだ。
異音がした方を見ると、仰向けに倒れた紅美鈴の上に日傘を持ち、赤い服を着た金髪の少女が乗っていた。
少女の背中には、宝石の様な歪な羽があり、一目で少女が人間でない事が判る。
少女は美鈴の上に跨ると、襟首を掴みブンブンと揺する。あれ、もうすぐ首がもげるんじゃないか?
そう心配していると、程なくして美鈴が我に返る。
「い・妹様!?」
「めーりん!ねぇ、あそぼ!あそぼ!弾幕ごっこしよ!!」
「ちょっと、妹様!今仕事中なんです!もう少し待っていて頂けませんか?」
「え~?嫌だぁ、今すぐ遊ぶの!」
「わ・判りました。じゃあ5分、5分だけ待って下さい」
「えぇ~、待てないよぉ!」
「そこの門の日陰で5分待って頂けたら、一緒におやつにしましょう。今朝、杏仁豆腐を作ったんですよ」
「『あんにんどーふ』?お豆腐なの?」
「いえいえ、えーと杏仁豆腐というのは……そう!ゼリー!ゼリーみたいなものなのですよ。」
「ゼリー!?やったぁ!うん!フランそこで待ってるね!でも、5分だよ!絶対だからね!」
そう言うと少女は門へ向かい、パタパタと駆けていった。
あたりに流れるのは、微妙な空気。
紅美鈴はやおら立ち上がり、服についた埃を払うともう一度微笑った。
「……コホン、我らが主、レミリア・スカーレットを敬い、崇める者には最大限のもてなしを。
……しかし、もしも仇成す事を考え「おーす!めーりん、あそびにきたよー!!」チ・チルノちゃん?」
声がした方を振り返ると、2人の妖精と黒い塊が浮かんでいた。
「大ちゃんにルーミアも!?ゴメン今仕事中なのよ。遊ぶなら後で遊んであげるから……ってルーミア!
危ない!そっちは壁よ!!」
っごい~ん!……どてっ
「あぁぁぁ!!大丈夫ルーミア!何処ぶつけたの?ココ?ほらほら痛くない痛くない……
痛いの痛いの飛んでけ~!!痛いの痛いの飛んでけ~!!っほら!もう大丈夫。ねぇ、立てる?
よしよし偉いわね。……というわけで、私は今大切なお仕事中なのよ。だから、後でね?
うんうん、じゃあクッキー用意しておくから。……ありがとう大ちゃん、よろしくね。」
飛び去って行く2人と1個……3人で良いのか?に手を振っている美鈴。
3人が見えなくなると、再び流れる微妙な空気。
美鈴は向こうを向いて、両手で自分の頬を2度叩いた。そして、もう一度微笑みを浮かべ振り返る。
美鈴はまだ諦めてはいない。チャレンジャーだ。
「あー・えー……しかし、もしも仇成す事を考えておられ「めーりーん!!5分たったよー!!」ぶべらっ!!」
再び吹き飛ぶ美鈴。
「めーりん!ほらっ早く早くぅ!あーんにんどーふっ!!あーんにんどーふっ!!」
「ちょっ妹様!だから仕事が……いやっ引っ張らないで!服が、服がぁぁ!!」
「あーんにんどーふっ!!あーんにんどーふっ!!めーりんと一緒にあーんにんどーふっ!!」
「い・妹様っ!?何処を触ってるんですか?……あんっ!そこはダメですってば!妹様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
自分の半分程しか無い背丈の少女に引き摺られ、門の向こうに消えていく美鈴。
その、予想だにしなかった光景に途方に暮れていると、門の向こうからメイド服を身にまとった1人の女性が現れた。
背中に羽があるところを見ると妖精だろうか?
そんな事を漠然と考えていると、その女性は優雅に一礼し話し掛けてきた。
「ようこそ紅魔館へ。どのような御用件で御座いましょう?」
「あ・あぁ、すいません。今朝方こちらの十六夜咲夜様に御注文頂きました品をお持ちしました」
「まぁ、それはそれは。では、確認を取って参りますので少々お待ち下さい」
そう言ってメイドが門の向こうに消えてから待つ事数分、今朝、店にやって来た女性が出てくる。
その女性、十六夜咲夜は少し微笑むと私の前で立ち止まった。
「注文の品をお持ち下さったのですね?」
「えぇ、こちらになります」
私は背中に背負っていた鞄から紙袋を取り出すと、十六夜咲夜に渡した。
彼女は袋の中身を確認すると「確かに」と言って紙袋の口を閉じる。
ようやく用件も済み、早々に引き返そうと考えていた所に凛とした声が響いた。
「あら、咲夜。何をしているのかしら?」
「これはお嬢様。いえ、今朝人里の店で注文していた商品を受け取っていたところですわ」
『お嬢様』?……まさか、この少女が紅魔館の主レミリア・スカーレットか?
薄いピンクのレースをあしらったドレスに、紅いリボンのついた帽子。フリルのついた日傘を持った少女は、
先程見た少女とは違い薄い青色の髪。見た目は10歳程の少女にしか見えないのに落ち着いた物腰は威厳すら感じさせる。
そして、何より眼を引くのは、背中にある巨大な蝙蝠の羽。
その羽がゆっくりと動き、嫌が応にも少女が人外……吸血鬼である事に気付かされる。
その場で立ち竦み、動けなくなってしまった私の事など、まるで眼中に無いかの様にレミリアは
咲夜に話しかけた。
「へぇ、人里でねぇ。一体何を買ったのかしら?」
「昨日のお茶の時間にお話致しました『メロンパン』ですわ」
「メロンパン!!!!!」
『メロンパン』。その単語を聞いた途端、今までゆったりとしていたレミリアの羽が忙しなく動く。
「咲夜!早速お茶にしましょう!あぁ、パチェも呼びましょうか。それにフランと美鈴もね。
さぁ、咲夜!何をしているの?早く準備をしなさい!ハリー!ハリー!!ハリー!!!」
その言葉に咲夜は少し微笑むと
「かしこまりました」
そう一言だけ言って恭しく頭を下げた。
「めーろんーぱーん、めーろんーぱーん、めーりんのおっぱいはかーんじゅくめーろーんー……」
レミリアは上機嫌なのか、鼻歌を歌っている。
「めーろんーぱーん、めーろんがーはいってるーとおーそわぁーってぇ、こーぉかなーおやつだーとぉー……」
空中に浮きながら器用にスキップをして館に帰っていくレミリア。
ふと気が付くと、先程までいた十六夜咲夜は消え、取り次いでくれた妖精メイドが立っていた。
「本日はご苦労様で御座いました、道中お気を付けてお帰り下さい。……では」
そう言って一礼すると踵を返し門の向こうへ消える。
ギギギギギギギギギギギギギィィィィィ…………
重い金属音が鳴り響き、再び門が閉ざされる。
呆然としていた私は、しばらくその場から動く事が出来なかった。
幻想郷にある妖怪の山。多くの妖怪の他に神々が住むとされるこの山の麓に大きな湖がある。
その湖を外周に沿って進むと、赤く、まるで血に染め上げたかの様に『紅く』佇む洋館が見えてくる。
努々忘れる事無かれ。そこは悪名高き「紅魔館」
悪魔の棲む館。
後日
「なぁ、お前、紅魔館に行ったってのは本当か?」
「ん?……あぁ」
「ど・どうだった?やっぱり恐ろしい場所だったか?」
「え?あ・あぁ……そ・そうだな、あ・あははははは……」
「やっぱ、そうだったんだ……どうしようウチの店にも注文がきたら……あぁ、行きたくねぇよぉ……」
「そ・そうだな……あ・あはははははははは…………」
こうして紅魔館の恐怖は人里に伝えられ続ける。
九代目阿礼乙女、稗田 阿求著による幻想郷縁起が公開されるまで。
昼間は晴れた日でも深い霧に閉ざされている為、人々からは「霧の湖」と呼ばれている。
その湖を外周に沿って進むと、赤く、まるで血に染め上げたかの様に『紅く』佇む洋館が見えてくる。
一見、幻想郷には場違いに見える洋館は近づくにつれ威圧感が大きくなり、「人である身で近づいては
いけない」という警鐘・不安・焦燥感・恐怖・圧迫感のごちゃ混ぜになった、えも言われぬ気持ちが
心の奥底から這い出してくる。
それこそが、あの悪名高き「紅魔館」である。
夜の王にして、人々の血を喰らいし吸血鬼。永遠に紅い幼き月、紅い悪魔と呼ばれる
「レミリア・スカーレット」の居城にして、多くの人妖の住む悪魔の館。
レミリア・スカーレットは幼い少女に見えるにもかかわらず、500年の年月を生きた吸血鬼であり、
その力は、指一本動かすだけで人間をこの世から消滅させ、
その速さは、並みの妖怪ならば殺された事に気が付かない程だと言われている。
初めて幻想郷にやって来た時には、己の力を見せ付ける為だけに多くの人間・妖怪を虐殺したと言う。
今を持ってしてなお、恐怖の象徴として語り継がれる。
しかし、紅魔館に近づくならば、最も恐れるべきはレミリア・スカーレットではない。
紅魔館の守護者『紅 美鈴』である。
紅魔館を守護する紅の盾。紅魔館に仇為そうとする者に下される鉄槌は、神の裁きに等しい。
武術を極め、その神速が如き動きは人の目で見る事あたわず、己の未熟さを悔いる間さえも与えられず、
激痛に地を這い、泥を食み、血を撒き散らしながら、許しを請う事も許されず、唯々己の浅はかさを呪い
裁きの鉄槌が下され自身が滅する瞬間を待つしかないのだ。
努々忘れる事無かれ。そこは悪名高き「紅魔館」
悪魔の棲む館。
「……はぁ」
何度目になるだろうか、ため息が漏れる。
今朝、祖父から聞いた紅魔館の話が脳裏から離れずにいる。
今朝方、私が営む店に紅魔館の従者が現れ商品を注文していったのだ。
「午後に紅魔館まで配達をして欲しい」
そう言って、その美しい従者(メイドと言うのだろうか?)は料金を支払うと、
まるで最初からいなかったように忽然と姿を消してしまった。
その時の事を思い出すと、今でも背中に冷たい物が流れる。
目の前に見えるのは、霧に浮かぶ紅の洋館。
「……はぁ」
もう一度ため息を吐くと、私は再び歩き出した。
-----------------------------------------------
眼前にそびえる巨大な門を見上げる。
金属で出来た門は、人間一人の力で開ける事は不可能であろう。
一面に薔薇を模った華美な装飾が施され、まるで訪問者を見下ろすように悠然と佇んでいる。
左右を見れば何処までも続いているかのような煉瓦造りの塀。
その向こうに見えるのは、巨大な時計塔。
それら全てが紅く染め上げられていた。そう、紅・紅・紅・紅・紅・紅・紅・紅・紅・紅・紅・紅…………
まるで、幾多の血を持って染め上げられたかの様に。まるで、そう在らねば成らないかの様に……
ギギギギギギギギギギギギギィィィィィ…………
呆然としていた私は、重い金属の擦れる様な音を聞いて我に返った。
見ると門が人一人分程開いている。
こうしていても始まらない。用事を済ませ早々に退散しようと思い門に向かおうとした時
「初めていらっしゃった方ですね」
突然、鈴の音の様な美しい声が響いた。
慌ててそちらを見ると、一人の美しい女性が立っていた。
どこかの民族衣装だろうか?薄い草色の見たことの無い服を身にまとい、同じ色の帽子を被っている。
ゆったりとした服だが、その上からでも女性が素晴らしいプロポーションである事がはっきりと判る。
それより何より眼を引くのは、この館の様に赤い、血の様に紅い髪だった。
「申し遅れました。私、当紅魔館にて門番を勤めさせて頂いております、紅美鈴と申します」
女性はそう言って恭しく一礼をした。
しかし、私はそれ所では無い。
『紅美鈴』?目の前の女性は今『紅美鈴』と言ったのか?
紅魔館の守護者にして、紅の盾。この女性が、あの紅美鈴なのか?
緊張で動けなくなった私を見て、目の前の女性……紅美鈴は女神の様な微笑を浮かべた。
「その様に御緊張なさらずとも。いきなり取って喰う訳ではありませんので」
そう言って私に微笑みかける。
しかし、私は見てしまった。
彼女の女神の様な美しい微笑の向こう。その瞳の奥は決して笑っていない事を。
まるで幾万の針に貫かれた様な感覚。心の奥底までもが全て見透かされているような感覚に喉が渇く。
唾を飲み込もうとして、その為の唾液すら乾いていた私は、ただ不自然に喉元が動いただけだった。
「ご存知でおられる事とは思いますが、念の為、説明させて頂きます。
ここは紅い悪魔、永遠に紅い幼き月、高貴なる吸血鬼にして夜の王レミリア・スカーレットの居城。
そして、その美しき魔眼に心を奪われし者どもが集いし紅の魔城。
悪魔の棲む館・紅魔館で御座います」
紅美鈴は両の手を高らかに掲げ、まるで歌う様に声をあげる。
「我らが主、レミリア・スカーレットを敬い、崇める者には最大限のもてなしを。
……しかし、もしも仇成す事を考えておられ「めーりーん!!あーそーぼー!!」うぼぁぁ!!」
どぐっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!
紅い何かが通り過ぎたかと思うと、異様な音を立てて紅美鈴が吹き飛んだ。
異音がした方を見ると、仰向けに倒れた紅美鈴の上に日傘を持ち、赤い服を着た金髪の少女が乗っていた。
少女の背中には、宝石の様な歪な羽があり、一目で少女が人間でない事が判る。
少女は美鈴の上に跨ると、襟首を掴みブンブンと揺する。あれ、もうすぐ首がもげるんじゃないか?
そう心配していると、程なくして美鈴が我に返る。
「い・妹様!?」
「めーりん!ねぇ、あそぼ!あそぼ!弾幕ごっこしよ!!」
「ちょっと、妹様!今仕事中なんです!もう少し待っていて頂けませんか?」
「え~?嫌だぁ、今すぐ遊ぶの!」
「わ・判りました。じゃあ5分、5分だけ待って下さい」
「えぇ~、待てないよぉ!」
「そこの門の日陰で5分待って頂けたら、一緒におやつにしましょう。今朝、杏仁豆腐を作ったんですよ」
「『あんにんどーふ』?お豆腐なの?」
「いえいえ、えーと杏仁豆腐というのは……そう!ゼリー!ゼリーみたいなものなのですよ。」
「ゼリー!?やったぁ!うん!フランそこで待ってるね!でも、5分だよ!絶対だからね!」
そう言うと少女は門へ向かい、パタパタと駆けていった。
あたりに流れるのは、微妙な空気。
紅美鈴はやおら立ち上がり、服についた埃を払うともう一度微笑った。
「……コホン、我らが主、レミリア・スカーレットを敬い、崇める者には最大限のもてなしを。
……しかし、もしも仇成す事を考え「おーす!めーりん、あそびにきたよー!!」チ・チルノちゃん?」
声がした方を振り返ると、2人の妖精と黒い塊が浮かんでいた。
「大ちゃんにルーミアも!?ゴメン今仕事中なのよ。遊ぶなら後で遊んであげるから……ってルーミア!
危ない!そっちは壁よ!!」
っごい~ん!……どてっ
「あぁぁぁ!!大丈夫ルーミア!何処ぶつけたの?ココ?ほらほら痛くない痛くない……
痛いの痛いの飛んでけ~!!痛いの痛いの飛んでけ~!!っほら!もう大丈夫。ねぇ、立てる?
よしよし偉いわね。……というわけで、私は今大切なお仕事中なのよ。だから、後でね?
うんうん、じゃあクッキー用意しておくから。……ありがとう大ちゃん、よろしくね。」
飛び去って行く2人と1個……3人で良いのか?に手を振っている美鈴。
3人が見えなくなると、再び流れる微妙な空気。
美鈴は向こうを向いて、両手で自分の頬を2度叩いた。そして、もう一度微笑みを浮かべ振り返る。
美鈴はまだ諦めてはいない。チャレンジャーだ。
「あー・えー……しかし、もしも仇成す事を考えておられ「めーりーん!!5分たったよー!!」ぶべらっ!!」
再び吹き飛ぶ美鈴。
「めーりん!ほらっ早く早くぅ!あーんにんどーふっ!!あーんにんどーふっ!!」
「ちょっ妹様!だから仕事が……いやっ引っ張らないで!服が、服がぁぁ!!」
「あーんにんどーふっ!!あーんにんどーふっ!!めーりんと一緒にあーんにんどーふっ!!」
「い・妹様っ!?何処を触ってるんですか?……あんっ!そこはダメですってば!妹様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
自分の半分程しか無い背丈の少女に引き摺られ、門の向こうに消えていく美鈴。
その、予想だにしなかった光景に途方に暮れていると、門の向こうからメイド服を身にまとった1人の女性が現れた。
背中に羽があるところを見ると妖精だろうか?
そんな事を漠然と考えていると、その女性は優雅に一礼し話し掛けてきた。
「ようこそ紅魔館へ。どのような御用件で御座いましょう?」
「あ・あぁ、すいません。今朝方こちらの十六夜咲夜様に御注文頂きました品をお持ちしました」
「まぁ、それはそれは。では、確認を取って参りますので少々お待ち下さい」
そう言ってメイドが門の向こうに消えてから待つ事数分、今朝、店にやって来た女性が出てくる。
その女性、十六夜咲夜は少し微笑むと私の前で立ち止まった。
「注文の品をお持ち下さったのですね?」
「えぇ、こちらになります」
私は背中に背負っていた鞄から紙袋を取り出すと、十六夜咲夜に渡した。
彼女は袋の中身を確認すると「確かに」と言って紙袋の口を閉じる。
ようやく用件も済み、早々に引き返そうと考えていた所に凛とした声が響いた。
「あら、咲夜。何をしているのかしら?」
「これはお嬢様。いえ、今朝人里の店で注文していた商品を受け取っていたところですわ」
『お嬢様』?……まさか、この少女が紅魔館の主レミリア・スカーレットか?
薄いピンクのレースをあしらったドレスに、紅いリボンのついた帽子。フリルのついた日傘を持った少女は、
先程見た少女とは違い薄い青色の髪。見た目は10歳程の少女にしか見えないのに落ち着いた物腰は威厳すら感じさせる。
そして、何より眼を引くのは、背中にある巨大な蝙蝠の羽。
その羽がゆっくりと動き、嫌が応にも少女が人外……吸血鬼である事に気付かされる。
その場で立ち竦み、動けなくなってしまった私の事など、まるで眼中に無いかの様にレミリアは
咲夜に話しかけた。
「へぇ、人里でねぇ。一体何を買ったのかしら?」
「昨日のお茶の時間にお話致しました『メロンパン』ですわ」
「メロンパン!!!!!」
『メロンパン』。その単語を聞いた途端、今までゆったりとしていたレミリアの羽が忙しなく動く。
「咲夜!早速お茶にしましょう!あぁ、パチェも呼びましょうか。それにフランと美鈴もね。
さぁ、咲夜!何をしているの?早く準備をしなさい!ハリー!ハリー!!ハリー!!!」
その言葉に咲夜は少し微笑むと
「かしこまりました」
そう一言だけ言って恭しく頭を下げた。
「めーろんーぱーん、めーろんーぱーん、めーりんのおっぱいはかーんじゅくめーろーんー……」
レミリアは上機嫌なのか、鼻歌を歌っている。
「めーろんーぱーん、めーろんがーはいってるーとおーそわぁーってぇ、こーぉかなーおやつだーとぉー……」
空中に浮きながら器用にスキップをして館に帰っていくレミリア。
ふと気が付くと、先程までいた十六夜咲夜は消え、取り次いでくれた妖精メイドが立っていた。
「本日はご苦労様で御座いました、道中お気を付けてお帰り下さい。……では」
そう言って一礼すると踵を返し門の向こうへ消える。
ギギギギギギギギギギギギギィィィィィ…………
重い金属音が鳴り響き、再び門が閉ざされる。
呆然としていた私は、しばらくその場から動く事が出来なかった。
幻想郷にある妖怪の山。多くの妖怪の他に神々が住むとされるこの山の麓に大きな湖がある。
その湖を外周に沿って進むと、赤く、まるで血に染め上げたかの様に『紅く』佇む洋館が見えてくる。
努々忘れる事無かれ。そこは悪名高き「紅魔館」
悪魔の棲む館。
後日
「なぁ、お前、紅魔館に行ったってのは本当か?」
「ん?……あぁ」
「ど・どうだった?やっぱり恐ろしい場所だったか?」
「え?あ・あぁ……そ・そうだな、あ・あははははは……」
「やっぱ、そうだったんだ……どうしようウチの店にも注文がきたら……あぁ、行きたくねぇよぉ……」
「そ・そうだな……あ・あはははははははは…………」
こうして紅魔館の恐怖は人里に伝えられ続ける。
九代目阿礼乙女、稗田 阿求著による幻想郷縁起が公開されるまで。
これ見たら食べたくなってきた。
異論は認めん
その心地よき甘さとが通り過ぎてしまった後、
そこに待つのはふわふわとした優しいもふもふ。
ああ、カリカリだ、もふもふだ。
取り合えずメロンパンは外がカリカリ、中がモフモフなのがいいメロンパンだ!!!
ただし俺が知ってるカリスマとは180度反対だがなw
美鈴、最初の段階でもうフォロー不可だったんだよ……
どうした?まだメロンパンが届いただけだぞ?
紅茶を出せ!図書館から友人を引っ張り出せ!美鈴と一緒に机に並べろ!
さぁ!おやつはこれからだ!至福の時間はこれからだ!ハリー!ハリーハリーハリーハリーハリー!
メロンパン人気に吹きました。でも私、実は「メロンパン」と言うより「サンライズ」と言った方が
しっくりくる関西人。
>>1様
カリスマを感じて頂いたのならば光栄です。具体的に何処に感じたのか怖くて聞けませんが。
>>2様
私も、このSSを書き上げた後、メロンパンを買って来ましたw
>>3様
怖くて口に出せない。色々な意味で。
>>4様
Exactly(そのとおりでございます)
>>5様
ああ、カリカリだ、もふもふだ。
>>6様
そして、カリカリを食べ過ぎて、モフモフだけが残った時の絶望感……
>>7様
つまり「カリスマ」ではなく「かりすま」
>>喚く狂人様
それでも!それでも美鈴ならやってくれる!!
>>9様
そして笑顔でメロンパンをモフり続けるおぜうさま。……あれ?カリスマじゃね?
>>10様
カリスマとは結局、本人が持つ物ではなく、第3者が付加する物だと思うんですよ。
>>11様
杏仁豆腐の美鈴添え……ゴクリ……
>>12様
こうして従者は苦労するのです。何処の世界でも。