百合です。
魂魄妖夢は純情である。
ていうか思春期真っ盛りだ。
ゆえにいじられる。主に思春期を通り越して、壮年期に入ってしまった人たちに。
「心は今でも17よ!」
そんな心の声が聞こえてきたが、気にしない。心が痛くなるだけだ。
ほら今日も、彼女はいじられる。
「ねえ妖夢、好きな人いないの?」
「どうなのー?ねえ妖夢」
妖夢に絡み付いてくるのは、月の薬師と、隙間妖怪。
「いないのー?吐いちゃいなさいよ、妖夢―」
「吐いちゃいなさいよー」
妖夢は涙目だった。何故自分だけが、宴会場の隅っこで、ダブルエイトに攻められなければならないのか。いや、トリプルエイトにならなかっただけましかもしれない。もう一人のエイトは鬼と呑み比べをしている。
「ネタは上がっているのよねー」
「ねー」
ねーなどと可愛らしく言われても鳥肌が立つだけだ。
実際は暑苦しいのに。目の前にある4つのメロンのせいで。
「妖夢―、なにか言いなさいよー。自白剤飲ませるわよー」
「何か言いなさいよー」
本来ならば、今すぐに切りかかるなどして、この窮地を抜け出すところだ。しかし、先ほどそれを実践したところ、いとも簡単に捕らえられてしまった。最強×2には、流石の俊足の妖夢でも太刀打ちできなかった。
「それともまだ酒が足りないっていうのかしらねー」
「ねー」
まだ飲ませる気か。これ以上飲んだら・・・・・
酒は飲んでも呑まれるな。師に教わった、大事な格言であるというのにっ・・・・・・・!
「私の酒が飲めないって言うの?」
「飲めないって言うの?」
「幽々子の酒は飲めるのに?」
「あー、やっぱり西行寺の亡霊嬢かあ」
ダン!
宴会場に、大きな音が響く。
どうやら、地雷を踏んでしまったらしい。
驚く紫と永琳。
そしてその場にいる皆は、妖夢の次の行動を伺っていた。
「ちがいます!ちがいますよ!なにもやましいことなんて考えていません!」
あちゃー。
そんな質問していないっていうのに。
ニヤニヤ、ニヤニヤ。
メロンを持った二人はニヤニヤ。
おっかなびっくり何事かと
当の本人は焼き鳥にぱく付くのをやめ、妖夢の方を見る。
「どうしたの妖夢」
「どうしたの妖夢」
「どうしたの妖夢」
8×2と幽々子は妖夢に視線を投げかける。8×2は余計だ、ホント。
「べっ・・・・・・別にどうも・・・・・・」
かーっと顔を真っ赤にする妖夢。それは酒のせいか、先の発言のせいか。
それとも今話題に上がっている人物が目の前にいるせいか。
「じー」
「じー」
「なっ、何でもないですよ!」
逃げようとする妖夢。しかし、足元の二人は、それを許そうとはしなかった。
「思春期っていいわね」
「そうね」
「放してください!後生ですから放してください!」
イヤイヤと涙目になる妖夢。足元の二人はそんな彼女を見て、泣いた顔もそそるわね、なんて言う始末だ。
おっかない。
「どうしたの妖夢、何がそんなにやましいの?」
ここで妖夢にクリティカルヒット。3200のダメージ。攻撃は幽々子嬢だった。
「何の話をしてたの?紫」
そこで聞くのか。聞いてしまうのか。妖夢のHPは残り少ないというのに。
「なんていうかー」
「わーわーわー!」
「オトナの階段登るってやつ?」
「ちょ、登ってないです!登ってないですから!」
あわあわと弁解する妖夢。
幽々子はポカンとしている。
「なんなのもう。わけわかんないわ。二人して私に秘密の話?月の薬師まで混ざって。
もういい。知らないもん。ぷいっ」
幽々子はそっぽを向いてしまった。
妖夢にとっては、一触即発の危機を脱したわけである。
「あーあ、幽々子拗ねちゃった」
「拗ねちゃった」
「どうするの妖夢?」
「どうするの?」
やかましい。やかましいわ。黙れよフォーカインドオブメロンめ!
「どうもしませんよ!いい加減放してください!」
未だに妖夢の足をつかんでいる二人だった。振り切ろうにも振り切れない。
「これからなのに」
「これからが本番なのに」
「逃げるの?剣士のくせに」
「逃げるんだ。剣士のくせに。師に何を教わったのかしら」
「あ・・・・・・う・・・・・」
剣士といわれると、なぜだか逃げてはいけないような気になってしまう妖夢。
だけどね、それ全部罠なんだよ。
いい加減気付け。
「さあさあ妖夢」
「全部吐くのよ」
へたりと座り込む妖夢に、迫り来るメロンが4つ。
だから、暑苦しいって。
「好きな人は」
「誰かしら」
ずいっと顔を近づける二人。
この世は地獄だった。今まさに自分は地獄にいると、妖夢はそう思った。
「吐け」
「吐け」
「吐かないと」
「こうするわよ」
手をワキワキさせながら妖夢の体に迫り・・・・・・・・
「うひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!」
「吐きなさい」
「吐きなさいよ」
「うひゃひゃひゃ!ひぃっ・・・・・・・わ、わかりましたよ吐きますから!」
あーあ、言っちゃった。
「剣士に二言は」
「ないわねもちろん」
「うぅ・・・・・・・・・」
妖夢は色んな意味で涙目だった。
そもそもこの二人が相手な時点で結果はわかりきっていることだった。
「わ・・・・・私が好きなのは・・・・・・」
「ごくり」
「ごくり」
つばを飲む二人。
どれだけ野次馬なんだ。
「わたしが・・・・・・すきなのは・・・・・・」
「どきどき」
「wktk」
口に出して擬音を言うぐらい、二人は興奮していた。
「・・・・・・・すき・・・・・なのは・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
妖夢の声は今にも消えそうだった。正座したまま、うつむいている。
それとは正反対に、輝かしい目をする二人。まるで在りし日の青春のようであった。
宴会場の端からその光景を見ていた鈴仙は語る。
所詮この世は弱肉強食だったと。
「・・・・・・・・・・こ」
「え、何?聞こえなかった」
「もう一度言いなさい、妖夢」
まるで脅迫である。世の中はなんて理不尽なのだろうと、妖夢は心の底から思った。
「もっと大きな声で!」
「リピートアフターミー!」
「せえの!」
「ハイッ!」
言えるかよ。そんな大きい声で。
だけど、剣士に二言はないのだ。
一度交わした約束は死んでも守れと師に言われた。
死んだほうがましだと妖夢は思った。
「だから・・・・・わたしの・・・・・・すきなひとは・・・・・・」
「好きな人は!?」
「好きな人は!?」
わざと大声出すな!みんなに注目されるだろ!
だけどそれすら月の頭脳による計算のうちなのだということは言うまでもなかった。
彼女らは、楽しんでいる。明らかに。
「すきな・・・・・・ひとは・・・・・・・」
妖夢。万事休す。
いい加減覚悟を決めるのだ。
宴会場でこの二人が側に引っ付いたときから君の運命は決まっていたのだ。
「ごくり」
「ごくり」
二人は妖夢の次に発する言葉を待っていた。
時が止まる。
一分にも、一秒にも、一時間にもそれは感じられた。
全てが静止した状態。宴会場の賑やかな話し声が、遠くに聞こえる。
ぎゅっとスカートの裾をつかみ、目をつぶりながら、もうどうにでもなれと、妖夢は叫ぶ。
「ゆ・・・・・ゆゆこさまです!」
「!」
「!」
ぶっちゃけ発言きました!
「やっぱり」
「やっぱり!」
「なんでここに天狗がいないのよ。大スクープなのに!」
「いつから?いつから!?」
「やっぱりそうだったんだ!どんなところが!?」
「本人には言ったの!?」
「告ったの!?」
さらに妖夢に迫る二人。これまでにないほど生き生きしている。
だから暑苦しいってば!
「む!?」
鶏肉(ミスチー)にかぶりつきながら、自分の名前が呼ばれるのを聞く幽々子。
何事かと思い、思わず食料を手放してしまう。
「ぜえぜえ、はあはあ」
鶏肉は唾液まみれだった。けど、この話にそんな事は関係ない。
「よ、妖夢!?」
「はっ!?」
幽々子の声が聞こえた。
本人が驚くのも無理はない。いきなり自分の名前が違う方角から呼ばれたのだから。
「ど、どうしたの?さっきから大声出して」
「あ・・・・・・う・・・・・・」
ただならぬ従者の様子に、ちょっと心配になる幽々子。
そして幽々子に今の話を聞かれたかもしれないと思い、真っ赤になる妖夢。
「青春ね」
「青春だわ」
二人は黙っていてください。
「大丈夫?顔が赤いけど・・・・・・」
「そ、それは・・・・・・・・」
しどろもどろになる妖夢。酒のせいか、はたまた別の理由か。
「私になにか用かしら?」
「えっ・・・・・・・と・・・・・・」
どうしよう。
どうしよう。
真実を知られたら私明日から一緒に暮らしていけないよ。
「う・・・・・・」
「あらあら」
「まあまあ」
その場でうつむいてしまう妖夢。目を白黒させる幽々子。
妖夢の顔は今にも泣きそうで。
ちょっとやりすぎちゃったかなあと反省する紫と永琳だった。
でも後悔はしていない。
「しょうがないわねえ」
「貸しひとつね」
「幽々子―、私たち、貴女を呼んだのよ。いつまで経ってもこっち来ないから」
「こっち来ないって、紫たちが勝手に向こう行ったんでしょー?全くもう」
ひらひらと笑いかける紫。幽々子はちょっとふくれっつらだった。
これでオーケーかしら?
誤魔化しは完璧ね、流石は大妖怪と言われるだけのことはあるわね。
いえいえ、貴女、それすら計算に入れていたでしょう。全く、月の頭脳には叶わないわよ。
「うふふふふ」
「うふふふふ」
そんな風に笑う二人を見て鳥肌が立つ妖夢。
どうでもいいけど、いい加減苦しそうだから離れてやれよ。
「まだまだよ」
「まだまだこれからよ」
「だって詳細聞かなきゃ」
「・・・・・・・・」
天狗より厄介だった。
「いつから!?いつから!?」
「どんなところが!?」
「もっと事細かく!」
「告白はいつ!?」
きゃあきゃあきゃあきゃあ。
まるで女子高生のようにはしゃぐ二人。
妖夢はもう帰りたかったが、いつまでも放してくれない。
それどころか、だんだん自分のスペースが狭くなっているような気さえした。
「今言っちゃえば!?」
「言っちゃえば?すっきりするわよ」
「じゃあもっかい幽々子呼ぶわねー、おーい」
「まままままま待ってください後生ですからそれだけは!」
魂魄妖夢は、こんな風にして今日もいじられる。
思春期真っ盛りの彼女は、いつまでもいじられる。
本人はたまったものじゃないだろうが、そんなことを意に介するような心を、こいつらが持っている訳がなかった。
それどころか、これが私たちの愛情表現であると、主張する有様だった。
「やっぱり思春期っていいわね」
「純情よね」
「放してください!いい加減放してください!」
宴はまだまだ続いていく。むしろ、これからが本番である。
「ゆかりーまた呼んだー?」
「呼んだわよー、妖夢がねー」
「よよよよ呼んでませんから!え、来ないで!お願いだからまだ心の準備が!」
「言っちゃえよ」
「言っちゃえよ」
「無理です!ぜぜぜ絶対無理です!」
「何を言うの?妖夢」
「へ!?い、いいやなんでも・・・・・・・!聞き間違いですから幽々子様!」
その後、数十分におけるふたりのやりとりを、二人はニヤニヤ顔でみていた。
しどろもどろになる妖夢に、訳のわからないといった顔の幽々子。存外幽々子も鈍いなあ、なんてことも思った。
もう嫌だ。次からは、さっさと鈴仙をこいつらの元へ連れてこよう・・・・・・
宴会場の片隅で呑気にうさぎ跳びをしている彼女を見ながら、心の片隅で誓う妖夢であった。
おわり
みょんはパリイを覚えた方がいいと思うね、うん
>自白財飲ませるわよー
自白剤ですな
言われてみれば似てるような気がしてくる
妖夢はカウンターも覚えたらいいと思うんだ、ジョルト並の
みょんかわいかったです。
次にいじられるであろう鈴仙…酔うとウサギ飛びなんて見せてくれるんだね
あんな短いスカートでウサギ飛びなんてしたら…鈴仙可愛いよ鈴仙
皆様レスありがとうございます。インストール中に返信をば。
>1 いいぞ!もっと突っ込め!といいたいところだがこれ以上突っ込んだらHP0になっちゃうからw
誤字指摘ありがとうございます。
>2 パロネタわかってくれる人イター!
ごきげんよう。
そして気が付きましたか、食べられかけの鶏肉に。
うまく誤魔化したつもりだったのにっ
>3 読んでてニヨニヨしちゃったならば私としては本望ですw
>4 本当にウザス
>5 おぅ!
短いスカートのことなんてこれっぽっちも考えていなかった。
きっとなにか嬉しいことがあったのでしょう。ウサギとびなんて。
れいむさん「あんた月のうさぎなんでしょ!うさぎとびぐらいやってみなさいよ!」
うさぎさん「な、なに言っているんですか!うさぎとびなんてやったらスカートのなかが・・・・・」
れいむさん「でなきゃ鍋に入れるわよ!」
うさぎさん「な、なんでそうなるんですか!ちょっとやめてくださいよれいむさん!」
作者のレス返しのおまけに1番吹いた。
>酒は飲んでも呑まれるな
他に教わることあるだろうに。でも、この場合呑まれたほうが楽になるかもしれない。
>パロネタ
ああ、みょんもあれくらいしっかりしていたらもう少しいじられにくいだろうに。
>6 そ、そんなこと言ったら隙間に落とされちゃうよ!
>8 作品面白いって言われるのが一番うれしいっす。ありがとうございます。
>9 8×3を先代三○薇に置き換えてみるともっとイメージ近くなると思う。鶏肉を銀杏に置き換えてみるのもいいと思う。
ニヨニヨしてくれちゃってありがとうございます。
ゆゆみょん可愛いよ、ゆゆみょん!!