Coolier - 新生・東方創想話ジェネリック

とける大救出戦

2008/09/22 22:59:31
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注:「吾輩は毛玉である」シリーズを読んでおく事を推奨します。最初はプチ作品集27。







前回のあらすじ

はらのなかにいる!









魂魄妖夢に与えられた試練は、八雲藍に課せられた使命は、あまりにも辛いものだった。
およそ幻想郷に存在する知識や叡智、そして技術を集結させたところで、詳細の解明は不可能であろう幽々子の腹の中。
そこから、彼女が誤って(と言っていいのかどうか)食べた毛玉を救出し、生還させなくてはならないのである。
ついでに追加条件として、八雲紫が目を覚ますと予測される約四時間後までに事を済ませなければならない。
もし紫が目を覚まし、現在の毛玉の状況と幽々子の凶行を知ってしまったならば、月の兎もびっくりの全面核戦争が始まるのはほぼ確実。
それを防がぬ限り、まさに文字通り、明日は無い。
既にこの試練は毛玉の命だけでは無く、幻想郷に存在する全ての生命を賭した、世界の命運を分かつ門となっていた。
そう。今ここに、たった二人だけの世界防衛部隊が結成されたのである。


「まずは現状を確認しよう。救助対象の毛玉は幽々子の体内。どの辺りに居るのかは不明。食べられてからは、三十分程度が経過している……と言う事だが、何故幽々子様が毛玉を食べてしまっているんだ?」
藍の疑問ももっとも。
毛玉に関しては、紫と妖夢の二人がやたらと熱中していた事が天狗の新聞でも伝えられている。
基本的に食べられないモノに興味を持たない幽々子が毛玉を食べないかは、最近の二人が共通して抱えていた悩みでもあった筈。
「それが……。」
口ごもる妖夢。
「幽々子様と同じ部屋で寝ずの番をしていたのに、庭の方から何か物音がして……おばけかと思ってそっちを向いたら、幽々子様が居なくなっていて。」
「そして気付いた時にはもう手遅れ、と言う訳だな。」
目じりに涙を浮かべ、悔しさを噛み締め言う妖夢。

藍には彼女を責める事など出来ない。
例え寝ていようが起きていようが、食後だろうが寝る前だろうが、いつ何時でもお構い無しに食欲を満たそうとする幽々子の恐ろしさを、藍も深く知っている。
それを知るきっかけになったのは、何時だったか己の尻尾を食べられそうになった時だった。
予想のつかないあらゆる狡猾で巧妙な攻撃を、本人の意思とは関係なしに繰り出す幽々子の本能。
手負いの獣と目覚めた人間はとかく強いと言うが、空腹の亡霊の前には霞む。
九尾の狐として永く生きて来た藍を易々と追い詰めるほど、幽々子は強く恐ろしいのだ。


過去を悔いても仕方が無い。
今すべきは、幻想郷トップクラスの万能さを誇る「境界を操る程度の能力」を使わずに、速やかに毛玉を救出する事。
その為に、幻想郷の全ての住人の力も頼り、この事態を集結させる事である。
それが出来ない場合、本当に世界が終わる。

現在ここに居る藍と妖夢では、幽々子の腹の中には何一つ届かない。
妖夢にとって、主に剣を突き立てるなどとは言語道断。
藍の能力では、幽々子の腹の中は射程圏外も良いところである。紫でさえ演算を諦める世界を、その式に過ぎない藍が解明できる道理が無い。
ついでに、紫が幽々子の腹の中にスキマを開いた事は過去一度も無い事を付け加えておく。



其の一:歴史喰いの守護者の場合

一足二百由旬を駆ける妖夢は、まず人間の里を目指した。
頼る相手は、いつぞの夜に強敵として現れ、過程や原因はともかくとして里を守った半人の守護者。
しかしながら、帰ってきた答えは期待していたものでは無かった。
「すまない。私の能力では、食われたと言う根本的な『結果』を無かった事には出来ないんだ。精々、寝惚けている紫が毛玉の事を思い出すまでの時間稼ぎにしかならないだろう。」
その言葉を最後まで聞くことも無く、妖夢は次の場所へと向かっていた。
「……せめて礼の一言くらい、と思うのは私の傲慢なのか?」



其の2:怠惰で熱心な死神の場合

まず真っ当な思考では解決できないと踏んだ藍は、最初に小野塚小町を訪ねた。
「へえ、なるほどねえ。そりゃ大変だ。」
へらへらと笑いながら、しかし真剣な眼差しで、しかし寝転がったままで答える小町。
言うまでも無いが、ここは無縁塚では無く、魔法の森近くのちょっとした木陰である。
「彼我の距離を操れるのなら、腹の中に有るものを腹の外に届くまで距離を変えれば、或いは。そう思ってな。」
「確かに良さそうだ。ちょっとばかり誤解が有るのを除けばね。」
む、と眉を顰める藍に、小町は説明を続ける。
「あたいの能力って、大元を辿れば、三途の川って言う『あやふやなもの』に距離を定義して、『確かなもの』にしてから渡る。船頭死神なら誰でも出来るはずのもんでね。有るのは実力と手順の違いってやつで。」
そう言われれば、確かに小町以外にも死神は沢山居るはずだし、船頭だって山ほど居るはずだ。
そして、船頭を務めるにはそれ相応の力が必要だろう。
「あんまり過信してると良い目は見ないって事。それと、幾らなんでも距離を零未満にするなんて、あたいの出る幕じゃないって。」
後ろに向かって前進するのは、簡単だけど難しいんだよと言いつつ、実際に後ろに向かって前進し始める小町。
「こぉ~まぁ~ちぃ~!」
ああ、またか。
背中にかかる大声を聞き、とばっちりを受ける前に他を頼るべくその場を去った藍だった。



其の3:言わずと知れた天才薬師の場合

全力で駆ける妖夢は、続いて向かった先は永遠亭。
しかしながら、その場所で彼女が頼るのは永琳では無い。
既に彼女達は知っているのである。
「薬も毒も何もかも消化する、暗黒の胃袋……あれこそが真の宇宙なのかも知れないわね。」
「そもそもどう言う構造なんですか、幽々子様の体……。」
とっくに嫌と言うほど知っている。
幽々子につける薬は無い。



其の4:幻想郷最強の破壊魔の場合

藍が次に向かったのは紅魔館。
最近はそれなりに狂気を抑えられるようになったらしいフランなら、多少の破壊や損壊は覚悟でも何とかなる気がする。
そうとも、多少の犠牲を払う事も覚悟せねばなるまい。
どうも少々傍若無人すぎる犯人の事を思えば、これ位なら引け目は感じない。
彼女自身、追い詰められて少々苦しいところまで来ているのだが、それを指摘できる人物はここには居ない。
と言うか、どこにも居ない。



現場。紅魔館近くの道端。

現場状況。魔理沙の箒の先端部分とちょうど一致する大きさの、地面に穿たれた穴。
並びに、盛大に焼け焦げた草原。範囲は前腕程度の幅、十五歩程度の長さの細長い長方形。

証拠品。力任せに小石サイズの固体を貫通させたらしき痕跡の残る、魔理沙の帽子。
並びに、ごく少量の、血の混じった唾液らしきもの。


結論。


「さて、誰なら解決できるだろうか……。」
君子危うきに近寄らず。三十六計逃げれば勝ち。



つづく。
そろそろ毛玉も胃の中で溶けてるんじゃないかと。
コメント



1.名前が無い程度の能力削除
胃の中に小さな世界ができてそうです。
毛玉に意識があれば、自力で口から出られるかも。
2.転寝削除
毛玉を食べるとか喉の辺り滅茶苦茶くすぐったそう……

むしろ幽々子さまの腹の中に通常の消化器官があるとは思えませんぜ。多分外宇宙とかに繋がって(ry
3.名前が無い程度の能力削除
>結論
って魔理沙~!?
>後書き
毛玉~!!!!