米
このお話には、本来の設定に勝手な解釈を加味している部分が多々あります。
キャラクターの性格もだいぶ改悪されていますが、二次創作という事でご容赦して頂ければ幸いです。
あと、いたって真面目なお話です。それでも宜しければ、さっと眼を通してやってください。
≪ 1 ≫
名前を呼ばれた気がして、霊夢は顔を上げた。
「…………?」
白い雲が漂うほかには何もなく、また何もいない一面の青い景色。博麗神社の空は今日も快晴だった。
境内の掃き掃除、その手を止めて。霊夢はしばらく思案した。聞こえた声、懐かしいようで思い出す事の出来ないむず痒さに顔をしかめる。
きっと疲れているのだ。連日巫女としての職務に明け暮れて、幻聴が聞こえたのに違いない。ここ一週間危険な妖怪も出没せず、日向で茶を啜りつつ暇を持て余していれば、そりゃあどこぞの従者より遥かに疲労が溜まるというものだ。
「やめやめ。お茶でも淹れよ」
一人ごちて、母屋へ戻ろうと振り返ろうとしたその時。
「―――れーいむー」
今度ははっきりと聞こえたその声に釣られ、霊夢は再び空を見上げた。
目を凝らして見つける、空にぽっかり浮かんだ小さな黒い点。それはみるみるうちに大きくなり、奇妙な人影を象っていく。箒に跨る、三角帽子の少女。
(なんだ。あんたか)
嘆息しつつも、自然と口元が緩むのを自覚する。丁度良い頃合に茶飲み仲間が現れてくれた。
次第に近づきつつあるその相手に、霊夢は手を振って応える。
「まり」
その体勢のまま、全身が弛緩して動かなくなった。
霊夢の目の前に着地する魔法使いの少女。それは紛れもなく魔理沙だった。くせのある金髪、暗い紫色のローブ、同じ紫色で白いリボンの巻かれた三角帽子。箒を両手で抱えた彼女を視線の動きだけで眺め回し、霊夢は胸中に自問を浮かべた。本当に魔理沙か?答えはイエスしか浮かばないのだが、それを選ぶ事にどうしようもない躊躇を覚える。
恐るおそる腕を下ろし、霊夢が険しい顔を向けたまま黙ってると。
魔理沙は微笑みながら、わずかに首を傾げてみせた。
「うふふ。こんにちわ、霊夢(はぁと)」
媚びたようなその声はまるで呪詛のように鼓膜を歪に揺らし、あまりの薄気味悪さに霊夢は意識を失いかけた。
≪ 2 ≫
「『だぜ度』が足りないのよ」
「……だぜど?」
聞き慣れない単語に……というよりは単に相手の言っている事の意味がわからずに、霊夢は首を傾げて聞き返した。
神社の裏側、陽の当たる縁側に。二人分の湯飲みと茶菓子の載った盆を挟んで、二人は腰掛けている。
「何それっていうか……」
隣に座る相手を、霊夢は無遠慮に指差した。帽子を膝の上に置いて、煎餅を食べようと口を半開きにしている少女に、なかば睨むような眼差しを向けながら。
「その喋り方、キモイ」
「失礼ね(怒)。仕方ないじゃない、足りないんだから」
頬を膨らませて、魔理沙は抗議する。
その態度、口調、一挙一動。普段のような粗暴で小憎らしい印象は全てにおいてなりを潜め、こうして目の前で話す彼女は妙に女らしい(と言うのもどうかと思うが)。夜空を模したような濃紺のローブという格好も、幻想郷ですらそう見ないほど古めかしく映える。まるで彼女一人だけがいつかの時代にタイムスリップしてしまったかのような浮いた雰囲気を、魔理沙は醸していた。
ともあれ、明らかに説明の不足している魔法使いに、霊夢は再度尋ねる。
「足りないって、『だぜ度』が?」
「『だぜ度』が」
「だから、何なのよそれは」
「わからないんなら言いなさいよ(汗)」
「真っ先に言った。ていうか普通わかるか!」
苛立ちをつのらせて、思わず怒鳴る。何よりも問題なのは、今の魔理沙とこうして話しているだけでも、ふつふつと鬱憤が込み上げてくる事だった。
が、霊夢の怒りなどまったく意に介さず、魔理沙は何かを示すように人差し指を立ててみせる。頬張った菓子を飲み込んで、
「春度ってあったじゃない」
「まぁ、あったわ」
「『だぜ度』もあるのよ」
「のよ、とか言われても……」
うんざりと呻く霊夢に、魔理沙はさもこちらの物分りが悪いとでも言いたげに困ったような顔をする。そそくさと湯飲みに手を伸ばすその手癖の悪さだけは変わっていないようではあったが。
「だから、私の『だぜ度』が誰かに奪われたのよ。おかげで『だぜ度』が底を突いた私はこんな姿に……うぅ」
「ある事を前提に話さないでよ……」
わざとらしく泣き崩れる魔理沙を、霊夢は無感動な眼差しで見下ろす。とりあえず頭の中に思い浮かぶのは、彼女をこのまま帰らせる為の口実だった。この魔法使いの言う事成す事すべてが冗談にしか受け取れない上に、これ以上関わってはそれこそ冗談ではない事態に巻き込まれかねない。そもそも、これが本当に魔理沙なのかさえ未だ怪しいものだ。
すすり泣く魔理沙を相手にしないまま、数分が過ぎる。と、魔理沙は案外あっさりと嘘泣きを止めて顔を上げた。出てもいない涙を拭う仕草をして、霊夢へと向き直りにんまりと微笑む。
「というわけで霊夢。協力して頂戴」
「失せて」
「ふふ、嬉しいわ。さすが私のライバルね(はぁと)」
「散って」
「さぁ、それじゃあ『だぜ度』を取り戻しにいきましょう!」
「話を聞きなさい、話をっ!?」
床をばしばしと叩いて訴えるが、それこそ魔理沙はそ知らぬ顔で聞き流して、三角帽子を頭の上に載せる。立ち上がってあさっての方向を指差す夜色の魔法使い、その背中を半眼で眺めながら。
霊夢はため息をつくと共に、胸の内にわだかまる黒く重い感情をありったけ吐き出した。とうに飲む気の失せたにぬるい茶も、やや灰色がかったきた空も、ついでに遠くの森から飛び立つ鴉の群れも。眼に映る全てが、諦めて一日潰せ、と囁いている。
(どっちにしろ、魔理沙がずっとこんな調子じゃ私の方が先にまいっちゃうし。さっさと元に戻ってくれるって言うなら……)
自身に言い聞かせながら、霊夢もまた腰を上げた。
と、ふと疑問に思う事があり、魔理沙へと問いかける。
「……取り戻すって、誰か心当たりでもあるの?」
「私にちょっかいかけてきそうな奴。誰が思い浮かぶ?」
帽子の唾を軽くずらして、魔法使いは含みのある笑みを向けてくる。その勿体つけたような態度は、やはりいかんともしがたい不快感を煽った。
≪ つづく ≫
しらかわちゆり・・・
いえ、なんでもないです。
まだ様子見で。おもしろくなりそうですが
旧作なだけにロリスも出るかな…
どういう思考回路のもとに導きだされるんだww
きたしらかわ