十六夜のお月見

ご注意…自己解釈、自己設定、及び自己創作の食べ物が登場致します。
食べ物に関しては実在する物ではない筈なのでお試しにはならない方が良いかと考えます。


そういった物が大丈夫だと言う方のみご覧下さいます様お願い致します。





今宵の月は、満月よりもやや欠けた十六夜の月。


紅魔館、当主の間のテラス。


レミリア=スカーレットはワイングラスを傾けつつ十六夜を…いや咲夜を見ていた。


咲夜は中秋の名月が終わったにも関わらず、月見団子をせっせと作っている。


｢名月は終わったでしょう？ 何でまた団子を作ってるの？｣


｢今日は十六夜ですから、お祝いです。｣


｢へ？｣


｢お嬢様はお団子お嫌いですか？｣


｢いや、嫌いじゃ無いけど…何で今日なの？ お祝いって？｣


｢私の名前を言ってみて下さい。｣


｢十六夜咲夜。｣


｢今夜は十六夜、我が名の日、主が私にこの名を与えたもうた記念日ですわ。｣


｢記念日…ねぇ…お前に名を与えたのはもっと寒い季節だったと思うけど？｣


｢まぁそこは大目に見て下さいませ、私が記念日にしたいだけです…月を見ながら団子を食べるだけですがお付き合い下さい。｣


｢随分と勝手だこと、あら…これは…｣


レミリアは渡された月見団子をまじまじと見た後、呆れた笑みを浮かべて口の中へ運ぶ。


一見普通の月見団子、しかし一部が黒くなっており、あたかも十六夜の月の様になっている。


上新粉の生地を二つに分け、片側に黒胡麻と少量の黒蜜を練り込み、丁度十六夜の形になるよう丸めたものだ。


｢咲夜特製[十六夜観月 ]ですわ。｣


｢団子一つに手間暇掛けるわねぇ、大層な名前まで付けちゃって…食べてしまえば一緒でしょうに。｣


｢この国の者は衣・食・住の中に風雅を求める人種なのですよ、お嬢様。｣


そう言いながら咲夜も団子を口に放り込む、胡麻の香りと黒蜜の滋味がなんとも心地よい。


｢どの国の人間だろうと食事に華を持ち込むのは同じだろうけどね…理解に苦しむわ。でもまぁ…｣


｢なかなか美味しいじゃない、褒めてとらす。｣


｢光栄の極みですわ。｣


一礼した後、 咲夜は団子の一つを摘み上げ、空に浮かぶ月の隣に並べてみる、まん丸にしたつもりだったが、そううまくは行かないようだ。


｢今夜も月が綺麗ですね。｣


｢そうね…紅くはないけど…ねぇ、咲夜。｣


｢何でしょう？｣


咲夜が振り向くと、苦笑いを浮かべたレミリアが団子とワイングラスを掲げて首を傾げている。


｢これ、ワインには合わないわ…｣





｢ぷっ!｣


｢ふふふっ!｣


｢あはははっ!そうでしょうとも!｣


｢あははっ!そうよねぇ～合わないわよねぇ～｣


二人の笑い声が夜空へ吸い込まれていく、ふと気付くと咲夜がお茶を持って来ていた。


湯呑みに入った茶は、月の如き黄金色。


｢これまた変わったお茶ね、まっ黄色だわ。｣


｢こちらは美鈴謹製、[月縫茶]ですわ、緑茶に黄金桂をブレンドしたものだそうです。｣


レミリアは団子を一つ食べるとお茶を啜り、しばらく味わってから感想を述べる。


｢ふむ…団子には合うわね…ただ緑茶の香りが…｣


｢消えてますね…比率間違えたかな？｣


｢あれ？ 美鈴が作ったんじゃないの？｣


｢この比率だけは秘密だそうで…目下研究中ですわ。｣


｢私を実験体にしたわね…｣


｢嫌ですわ、人聞きが悪いですわよ？お嬢様。｣


｢問答無用! とりゃあ～!｣

レミリアが笑顔のまま襲い掛かってきた。

咲夜は身を翻して逃げる…しかし吸血鬼の速さに敵う筈もなくなすがまま。


｢このっ!参ったか!｣


｢いやぁっ! おやめになって～ くすぐったい～｣

｢まだまだぁ! 覚悟なさ…はにゃあっ!｣


｢お返しですっ! それそれっ!｣




月の下、ひとしきりくすぐり合戦を堪能した後、二人はテーブルに戻った。
戯れが過ぎたのか二人とも肩で息をしている。


一息ついた後、再び月を愛でながら団子を食べ、茶を啜る。


｢お嬢様。｣


｢敬老の日は過ぎてるわ、それにそんな事言ったら絶交よ、咲夜。｣


咲夜は苦笑しながら席を立つと、レミリアの前に立つと頭を垂れた。


｢私の様な者を配下にして下さり、有り難う御座います。 この十六夜咲夜、今後も身命を賭してお嬢様にお仕え致します。｣


｢……咲夜、ひょっとしてそれを言う為にこんな事したの？｣


｢実はそうだったりします。｣


てへっ、とでも言うかの様に舌を出す咲夜、レミリアはジト目で咲夜を睨む。


｢呆れた…正に茶番じゃないの…｣


｢茶番でいいのです、これからは毎年この茶番に付き合って頂きます。｣


咲夜は悪戯っぽく微笑み、お茶のお代わりを淹れる、レミリアはゆらゆらと上がる湯気を見ながら一人ごちる。


｢全く…うちの子達ときたら…｣


｢何かおっしやりましたか？｣


｢いいえ、別に…そうね…良いけど来年からは美鈴も参加よ。｣


｢何故ですか？｣


｢お茶よ。｣


咲夜はニヤリと笑うレミリアに眉根を上げて背を向けると、片付けの為に館へと入って行く。


｢そうそう、うちの子達などとおっしゃっていては来年から前日もお祝いをしなければなりませんよ？｣


レミリアはそんな咲夜の背を眺めていたが、咲夜が振り返り放った言葉にみるみる顔が真っ赤になる。


｢だからソレを言うなって! 咲夜なんか絶交よ!｣


｢来年からは二日連続でお祝いですわね。｣


｢こらぁ! 待ちなさい!｣


騒がしく館へ入って行く二人は、また微笑ましい追いかけっこを始めるのだった。

注意書きが長くなってしまいすみません。

万葉です。


紅魔の主従のこんな関係も素敵なのではないかと思い、書かせて頂きました。

さて、美鈴さん謹製のお茶でも飲みながら団子でも…あれ？…美味しくない…
ええと、お試しにならない事をお勧めします…

忌憚なきご意見をお願い致します。