ご注意……自己設定、自己解釈が多々有ります。
そういった物がお嫌いな方はお読みにならない事をお勧めします。
霧の湖の畔、柔らかな若草が一面に広がる草原にとある妖精が寝ころんでいた。
その名は氷の妖精チルノ。
いつもならば元気一杯に辺りを飛び回る彼女の筈だが、今日は何やら浮かない顔で自慢のリボンと同じ色の空をぼんやりと眺めていた。
どれくらいそうしていただろうか、ふと彼女を包むかの様に人影が現れた。
チルノは訝しげな顔で影の主を見ようとしたが、影の輪郭から漏れる太陽の光が眩しくてよく見えない。
「こんにちは、随分とご機嫌斜めのようですが…何か有りましたか?」
チルノに優しく話しかけるのは、幻想郷の死後の世界を司る閻魔、四季映姫・ヤマザナドゥであった。
「ああ…映姫か、今日はお休みなの?」
「はい、久々の休暇ですので散歩でもしようと思いまして。」
映姫はチルノの隣に座ると、朗らかな笑顔をチルノへと向ける、対してチルノは未だ訝しげな視線を映姫に向けていた。
「ふーん…なんであたいが機嫌悪いって思ったのさ?」
「それだけ訝しげな顔をしていれば誰でも機嫌が悪いと考えますよ。」
「そうかな?」
起き上がりながらぶっきらぼうに答え、映姫を見る。
映姫は朗らかな笑みのままチルノに優しく問いかけた。
「良ければ何があったか話して頂けませんか? 何かお役に立てる事があるやも知れません。 無論お嫌でしたら無理に話さずとも良いのですよ。」
「……」
「………」
「……大ちゃんは……」
最初は押し黙っていたチルノだったが、やがてぽつり、ぽつりと話し始める。
「大ちゃんはさ、あたいの事が嫌いになったんだ…」
大ちゃん、この湖一帯に住む妖精達のまとめ役、名前が無いために大妖精と呼ばれており、更にチルノを始めとする近しい者達からは親愛を込めて大ちゃんと呼ばれていた。
特にチルノとは大の仲良しで、よく二人で行動していると聞いていた。映姫自身大妖精に会ったのは数回程だが、話した感想は思慮深く、妖精とは思えない位の人格者であったと記憶している。
恐らく喧嘩でもしたのだろう。
「何故そう思うのですか?」
「大ちゃんはさ、あたいに何でもダメ、ダメって言うんだ。」
「何でも…ですか。」
「そうよ! あたいが蛙を凍らせようとしたらダメ! 人間に悪戯しようとしたらダメ! 喧嘩もダメ!…何でもダメ! ダメって! あたいのやる事に一々文句付けるんだよ! あたいの事嫌いに決まってる! だからあんな意地悪するんだ!!」
堰を切った様に口早にまくし立てる。映姫は何も言わず、チルノの話を聞く。俯いて喋っていたチルノは映姫の眉が僅かに上がったのに気が付かなかった。
「この前だってさ、あたいが幽香に喧嘩ふっかけてやったんだ。それで、さあ始めようって時に大ちゃんが来て、間に入ってきたんだ。頼んでもいないのに幽香に謝ってさ!」
「昨日だって大ちゃんは…」
「もう結構です。」
「え…?」
チルノはきょとん、とした顔で映姫を見る。
映姫はチルノを真っ直ぐに見つめている。その表情に先程までの朗らかな笑みは無く、閻魔としての威厳と冷徹さに満ちていた。
「あの…映姫?…」
「どうやら貴女には助言よりも説教が必要ですね。」
チルノは映姫の突然の豹変に戸惑い、紡ぐ言葉が見つからずにただ映姫を見つめるのみ。その様子を意に介さず、映姫は語り始めた。
「貴女は愚か者です。」
「な…」
「な…何であたいが愚かなのさっ!?」
「相手の想いも考えず、ただ自らの想いのみを通そうとする、そこが愚かだと言っているのです。」
「相手の…想い…?」
首を傾げ、何の事かと考える。
だが、答えは出ないようでますます首を傾げ出す。
「彼女は事ある毎に貴女を諫め、注意をしている…これは貴女の事を心配しての行いです、それと同時に貴女を大切に想っているという気持ちの現れれなのです。」
「もし貴女の事が嫌いならば、意地悪など面倒な事はせずに構わなければ良い筈です、それをしないのは、大ちゃん…もとい大妖精さんは貴女を本当に心配し、大切に想っているからなのですよ。」
「映姫が何言ってるか分かんないよ…」
理解出来ない、といった表情で頭を振る。
映姫は上がっていた眉を一旦下げると、一拍の間をおいて再び話し始めた。
「…話を変えましょう、貴女は大妖精さんの事を大切に想っていますか?」
「そんなの当たり前じゃない! 大ちゃんの事大好きに決まってるじゃないか!!」
「そうでしょうね、では大妖精さんに何かあったら、例えば何日も姿が見えなかったら貴女はどうしますか?」
「んなもん決まってるでしょ! 探しに行くよ!」
「そうですね…では大妖精さんが誰かと喧嘩をしていたら? それも相手が強く、一方的に負けると分かっていたらどうしますか?」
「それも決まってる! 喧嘩を止めるに決まって…あ…」
チルノは何かに気が付いたのか、それきり押し黙ってしまった。
「更に質問を致します、貴女と彼女はどちらが強いですか? それと彼女と貴女、どちらが気が強いですか?」
「え…何で? 何でそんな事を聞くのさ?…」
チルノはまた訳が分からなくなってしまった。
先程まで大ちゃんがいかに自分の事を心配し、大切に思っているかの話をしていた筈だ。今はそれに気付き、大ちゃんに悪い事をしたと反省し始めている…そこに突然自分と大ちゃんの強さがどうとか、気が強いのかと聞かれれば確かに意味が分からなくなる。
「んと…大ちゃんは妖精の中じゃ強いと思うけど…あたいと比べたら多分強いのはあたいだよ。それに大ちゃんはあたいより気が強いとは思わないな…」
大妖精は妖精としては力が有る、だが当の映姫に力を持ち過ぎていると言われたチルノに比べれば力は弱い。
更に気の強さに関して言えば、勝ち気で好戦的なチルノと穏やかで争いを好まない大妖精、こちらも気が強いのはチルノだろう。
「話に出てきたので引き合いに出しますが、大妖精さんは風見幽香をどう思っていると思いますか?」
「え? 幽香を?」
風見幽香。
花の大妖怪、四季のフラワーマスターなどと称される彼女は相当に強い、相手がどんな者であろうと臆する事無く戦い、圧倒的な力でねじ伏せる彼女は文句無しに幻想郷のパワーバランスを担う強者の一人であろう。
それだけの力を持つ幽香を大妖精がどう思っているか?
多分、いや間違いなく怖れれているだろう…思慮深く相手を見る大妖精は幽香の実力を嫌が上にも感じている筈だ
「多分…怖いんじゃないかな? あたいだって時々怖いって思うし…」
「そうですか…では最後の質問です。仮に貴女が大妖精さんと逆の立場で、尚克つ力や気の強さは今と同じだったとします、貴女は戦おうとしている二人を止めますか?」
「だから同じでしょ!? あたいは大ちゃんと幽香を止め…あれ?」
言い掛けて止まる…気付いた…いいや…気付かされた。
「あ…あぁ…」
チルノの表情がみるみる強ばっていく、映姫は更に厳しい表情でチルノに言葉をぶつける。
「大妖精さんは怖かった筈です、風見幽香だけでなく、人間や大蝦蟇、妖怪達と貴女の間に入る事が…下手をすれば自分自身が傷つくかもしれない。」
「それでも何故貴女を止めたのか? 自分より遙かに強大な存在との間に入ったか…それは…」
「幽香達よりも! 自分が傷つく事よりも! 貴女が傷ついてしまう事が、貴女が居なくなってしまうのが怖いからです!!」
「彼女はそれ程迄に貴女を想っているのです、それを…貴女は…」
一旦そこで区切ると、映姫はチルノに明らかな怒気を向けて最後の言葉を紡ぎ…叩き付けた。
「その想いに気付かずに勝手に嫌悪だと決め付け、あまつさえ身を呈した献身を意地悪扱いか!? それを愚かと言わずして何が愚かか!! 己が愚考を悔いよ! 氷精っ!!」
閻魔の怒号が草原を震わせた、後に残るのは沈黙のみ。
しばらく後に聞こえるのは氷精の嗚咽。
「うぐ…うぇ…」
「どうし…ようっ…あたいっ …大ちゃ…んに…大…キライ…って!」
「貴女に判決を下します。」
ただ冷徹に…映姫は言い放った。
チルノは腕で涙を拭き、笑顔でそれに応えた。
「そう…だよね…大ちゃんの気持ちに全然気付かないあたいは…悪い子だ…」
「怖かったのに…すごく怖かった筈なのに、それでもあたいを止めてくれた…あたいなんか…放っとかれても仕方が無かったのに…」
「あたいはそれを踏みにじった…怒られても、消されたって文句は言えないよね…」
顔を上げ、再び映姫を見つめる…映姫は今までに見た事が無いほどの無表情、しかしそこ感じる絶対的な意志…何時の間に出したのか、手には悔悟の棒が握られていた。
「映姫…ごめんね…あたいは…悪い子だ…」
映姫がこちらに向かい悔悟の棒を振りかざした、罪人の罪の重さにより、その重さと叩く回数が決まる閻魔の法具…チルノは自らの運命を悟り、ゆっくりと目を閉じた…
こつん
額に当たる柔らかな衝撃に目を開ける。
目の前には優しい顔をした映姫が視界いっぱいに映っていた。
「謝る相手が違いますよ、チルノさん。」
「え?え?」
額に感じた衝撃、それは映姫と自分の額が触れたものだった、目を白黒させているチルノに笑いかけながら、判決を下す。
「いいですか? 貴女は今気付きました。自身の過ちにも大妖精さんの想いにも…ならば今からでも遅くは無いでしょう。だからお行きなさい、きちんと謝れば許して…いいえ、始めから貴女を嫌いになどなってはいないと思いますよ? ですが貴女は気付いた事を、気付けた事を忘れてはなりません。」
映姫は優しくチルノを抱き、額を離してそっと胸に埋めてやる。
「それが、貴女に出来る善行です。」
「あたいに…出来るかな?」
「出来ますとも、今の貴女なら…その想いを忘れなければ…ね。何より貴女は最強なのですから。」
「そうだよね! あたいは最強だもん! 出来るに決まってる!」
言うが早いが映姫の抱擁から抜け出すと、大妖精がいるであろう方角へと飛んで行ってしまった。
「映姫っ!ありがとうっ!!」
という言葉を風に散らせながら。
映姫にその言葉が聞こえたのか否か、それは誰にも分からない。
ふと、映姫の背後に歩み寄るシルエットが一つ。
「四季様にしちゃ甘いですねぇ~ しかも嘘まで付いちゃって、十王様に知れてもアタイは知りませんよ~」
「小町…仕事はどうしたのです? 」
「嫌だな~四季様ったら、今日はアタイもお休みですよ。勤務を組んだの四季様じゃあないですか。」
頭を掻きながら映姫に軽口を叩くのは、小野塚 小町。
映姫直属の死神で三途の川の渡し守である。
「私は自分の判断であの子に判決を下したまでです、それに何時私が嘘を付いたと言うのですか?」
「いゃあ~ だってねぇ…最強って…」
「ですから嘘は付いてません、あの子は最強なのですから。」
「いやいや、それ間違いなく嘘じゃないですか! 」
「いずれ分かりますよ、さて…行きますよ、小町。」
「今教えて下さいよ~ って…何処に行くんですか?」
「やはり私は閻魔です、チルノに説教をしたら興が載ってきました、このまま他の方々にも説教して廻ります。」
「い゛!? 何でアタイも??」
「私の事をこっそり覗いていた罰です! とことん付き合わせるつもりなので覚悟しなさい!」
「うえぇ…こんな事なら寝てりゃ良かった…」
「小町!!」
「へいへい…付き合いますよ! 付き合えば良いんでしょう?!」
そうして二人が去った後も、草原はただ柔らかな風に揺られるのみだった。
ああ、涙が!
チルノン「大ちゃんゴメン!あたい・・・大ちゃんがどんなに心配してくれてたか考えてもなかった!大嫌いなんて嘘だよ!あたいを許して大ちゃん!!」
大妖精「わかってましたよ・・・だが許さん!!」
ああ、涙が!
>>喚く狂人様
いつもお読み頂き有り難うございます。
お願いです!あと二回づつ仰って下さい、私が昇天致します。
>>2様
お読み頂き有り難うございます。
ですから後二回(きゃん
はっ! 今映姫様が居たような…
>>3様
お読み頂き有り難うございます。
レスの中で物語が…癖になりそうで怖いですね…
「そんな…大ちゃん…」
「私は貴女を許さない…絶対に…!」
「そこまでよ!!」
「な…お前は…いや…貴女は…!!」
続く。(続きますん)
有り難うございます!
アタイもあたいもワタシも頑張りますっ!!
今回の映姫みたいに間違いを『教えて・気付かせる』ことは優しさである、ということで一つ。
それを素直に聞く心ももちろん必要ではありますが。
えーき優しいよえーき。えーき優しいよえーき。
えーきかわいいよえーき。えーきかわいいよえーき。
大事なことなので2回ずつ、ただしえーきだけ8回言いました。
>>名前を表示しない程度の能力様
映姫様の説教は常に優しさに包まれていると思います。
もちろん映姫様の説教の意味をちゃんと理解した(気付かされた感はありますが…)チルノさんもまた素直で可愛いのです。
ところで映姫様人気でチルノさんが不貞腐れ始めたので液体窒素に浸かってきます。
>>9 様
お読み頂き有り難うございます。
「テイクアウトですね?」
「小町」
「ご一緒に説教もいかがすか?」
「小町?」
「今なら海洋堂謹製[悔悟の棒]もついてます」
「こ~ま~ち~?」
お持ち帰りなさいますか?
「真似しないでよ大ちゃん……」
>>11様
あ、大ちゃんと仲直り出来たようです。良かった、本当に良かった……
お読み頂き有り難うございます。
チ「もう止めようよ大ちゃん!こんな事したってレティは喜ばない!」
大「……分かってたよ最初から……でもね、チルノちゃん、私にだって意地がプライドが信念が、そして譲れぬ想いが在るんだよ……だから……私は退かない、チルノちゃんを倒してレティさんとラブラブする為にっ!」
チ「……そっか、大ちゃんにも何よりも大切な気持ちが在るんだね……ならアタイは退かない、レティと霊夢の愛の巣を守る為にっ!」
大「嵐の魔剣ストゥームブリンガー!」
チ「絶氷の柩剣アイスコフィン!」
『はあぁぁぁっ!!負けるっ!ものかぁぁぁぁぁぁぁ!』
四季「う~ん、やり過ぎちゃいましたね、どうしましょう……(ぽりぽり)まぁ良いか、帰ってお茶でも飲みましょうかね」
ガシッ!
小町「仕事をほっぽって何していらっしゃるんですか、四季様?(にっっこり)」
四季「幻想郷の平和の為に説教してました」
小町「…………はぁ、嘘じゃないから立ち悪いんだよなぁ……まぁ良いです、取り敢えず五百人程渡したんで宜しくお願いしますね」
四季「分かりました、ちゃちゃっと終わらせm「間違ってもこの前みたいに顔が綺麗過ぎるから地獄行きとかは止めて下さいね?」………………………はぁい」
小町「(やろうとしてたなこの人は全く……)」
四季「あ、そうです小町」
ぽふぽふ
四季「頑張りましたね、偉い偉い」
小町「こ、子供扱いするのは止めて下さい!(ヤッタネ☆撫でられちゃった!よぅし明日も頑張るぞぅ!)」
小町っちゃんはツンデレ乙女で少しスイーツ。
四季映姫様はだらしないエリート。
そんな感じです。
>>謳魚様
いつもお読み頂き有り難うございます。
蝶苔朔ですね、映姫様も見てるなら止めればいいのに……いや、敢えて茨の道を往かせるのも親心といふものです。親……心……?