森の奥深く…あまり人の訪れない、真夜中の小径。
この界隈に八目鰻屋を出している夜雀、ミスティア=ローレライが今日も今日とて仕込みをしながら自慢の声を聞く者が居ないはずの夜空に響かせていた。
「八目さん~ 目は二つ~ 何処に居るのかわからないぃぃ~ 何処からくるのかわからないぃぃ~♪♪」
と、森の奥からふわりふわりと闇がやって来た。
「黒一つ~ 朱二つ~ 中身は見えぬぅ~ 見たら帰れぬぅ~ 常の闇ぃ~♪」
「今晩はミスティア、絶好調みたいだね~」
夜の闇より尚暗く…自ら闇を纏う妖怪、ルーミアが挨拶をする、それに対してミスティアは相も変わらず歌を口ずさんでいる。
「ホントに相変わらずだな~ 今日はお土産持ってきたのに。」
ルーミアはそう言うと自らを包む闇から何かを放った、-とさり- と地に落ちたそれは、ゆっくりとその身を上下させていた。
「森の中~ どこからわいたぁ~ 小さな子~ その子一体何処の子じゃぁ~♪」
「さっき森の中で見つけてさ、食べようと思って包んだんだけど、全然怖がんないんだ~ しょうがないから怖がるまで闇を濃くしてたんだけど、気が付いたら眠っちゃってね。」
「揺りぃ籠か~ 常闇の腕でぅ~ 子も眠るぅぅ~♪」
「真面目に聞いてよ~ 歌ってばかりいないでさ~」
どうやらルーミアが森の中で見つけたのは人間の女の子のようだ…その子は今、静かな寝息を立てている。
「かわいい娘ぉ~ 可愛そう~ 独りぼっちの迷子さん~♪」
「私は食べる気無くしたからミスティアにあげるよ、最近食べてないでしょ? ほら、この頬っぺた、美味しそうじゃない。」
「林檎のような~ 頬っぺたは~ 林檎にゃ見えない~ 食べれないぃ~♪♪」
森の中を一陣の風が抜けていく、眠る少女は風に頬を撫でられ微かに身じろぐ。
「あ~ もういいや、私は帰るから、後は好きにして。」
そう言ってルーミアはまたふわりと浮かび上がると、夜の森へと消えていった。
「野を越える~ 森抜ける~ 空抜ける~ 家帰る~♪」
口ずさみながら屋台の準備をこなす、ちなみに先ほどの少女はミスティアが傍らに運んだ。
「今晩は、もう開いてるかしら?」
「からみ酒~ 絡み酒~ 今夜のお客は絡み酒~♪」
「まぁ…ご挨拶ですこと…私はそんな粗相はしないわよ。」
今夜の客である境界の妖怪、八雲 紫は扇で口許を隠しつつ微笑んだ。
「見に覚えぇ~ 無いとか言えるぅ~ 酒ぇの席~ 飲んで忘れる~ 昨日の貴女ぁ~♪」
紫の胡散臭い微笑みに軽やかな歌声を返し、焼けたばかりの八目鰻とコップになみなみと注がれた冷酒を差し出す。
「有り難う、頂くわ。」
「勘定は酔って忘れて~ 式がぁ来る~♪」
皮肉のこもった歌詞に目を細める紫、それが怒りなのかその他の感情のものなのか読み取る事が出来ない。
「ところで…その子はどうしたの? 迷子かしら?」
紫はミスティアの隣で尚も眠り続ける少女を見ながら杯を煽る。
「くだらないぃ~ 質問ん~するなぁ~あぁ~ このぉスキマぁ~♪」…「と言ったところかしら?」
ふとミスティアの動きが止まり、紫の顔を見る。
そして満面の笑みを浮かべて返す歌を紡ぐ。
「知っているぅ~ 私は全部ぅぅ~ 知ぃっているう~♪」
沈黙-ミスティアがそのフレーズを口ずさむと、辺りは静寂に包まれた。
「ああもう…私の負けよ。」
紫が沈黙を破り、肩を竦める。
空いたコップに酒を注いでやると、ミスティアは少女を見ながら紫に切り返す。
「貴女もよっぽど暇なのね、ここが平和な証拠だわ。」
「そうよ、ここは平和なの、平和でなければいけないのです。」
「お客は選ばないといけないなぁ」
酔っているのか支離滅裂な事を口走る紫、ミスティアは溜息混じりに独りごちる。
「それで、何時気が付いたの?」
「何が?」
「その子が外の子だって事よ。」
「ああ、最初からよ、貴女が見ていた事もね、ヒントを歌ってあげてたじゃない♪」
事も無げに言い放つミスティア、それを黙って見つめる紫…先に口を開いたのは、やはり紫だった。
「それで、どうするの? その子。」
「さぁ? 貴女が連れてきたんでしょ? 貴女が食べれば?」
「貴女は食べないのかしら?」
「食べないよ。」
「やっぱり」
「そりゃそうよ、私は肉だけじゃなくて、闇への恐れも食べたいんだから。」
人は闇を恐れる、それは太古より連綿と受け継がれる恐怖の連鎖。
ミスティアは歌によって人を惑わせ、光を奪い、闇に恐怖する心を食らうのだ。
その体と共に。
「始めから見えないんじゃどうしようもないわ、ルーミアもちょっと考えればわかるでしょうに。」
では最初から闇に包まれた者は…闇を恐れないだろう、そこに見えるのは…
闇しか無いのだから。
「確かにそうね、あら…」
「ん…」
紫が少女の方を見やる、つられてミスティアも見ると、少女が目を覚ます所だった。
「起きちゃったわね、私は食べる気ないからやっぱり…」
振り向くと既に紫の姿は無く、空になったコップの下に挟まれた札が揺れているのみ。
「やられた…やっぱり客は吟味するか…うん。」
「だれかいるの?」
「起こしちゃってごめんね、さぁ、もう一度おねむしましょう。」
手を伸ばして声の主を捜す少女を優しく抱き上げると、ミスティアは再び歌を紡いだ。
それは-子守歌。
やがて少女は再び微睡みに呑まれていった。
「お休み…安心して眠りなさい…次に目が覚めたら…」
「また、いつもの朝がくるわ。」
ともあれ、作者さんは盲目と勘違いしていたようですが、文章自体は「光を奪い」の辺りに少し違和感を感じる程度で本来のミスティアの"鳥目にする能力"との違和感は無いと思います。
ともあれ、紫さんにずけずけと物申すミスチーかっこいいよかっこいい
ではレス返しを…
>>欠片の屑様
格好良いミスティア女史…それでいて子守歌…ギャップです。
>>2様
カリスマは…皆が持っている…筈です…
>>3様
私が駄目ですね、ご指摘有り難うございます。
>>ここにもギャップが…お褒め、ご指摘、有り難うございます。
ミスティア女史もすごいですが、八雲紫女史も寛大です…恐らく。
みすちーの歌詞をひらがなにし、その頭文字をたどることが今回のなぞかけと。
お見事なり。考えるのは一苦労だったでしょうw
>>6様
はい!お見事です! 作者が考えたヒントは実質タイトルのみと言う状況にも関わらず答えて下さり有り難うございます!
というか気付いて下さって有り難う…このまま何もなく過ぎ去って行くだけかと…ええと、最後にお読み下さった皆様に一言、分かり難くてすみませんでした。
絶対こぶし回して唄ってそうですが。
万葉さんありがとうございます。
自重、美味しかったです。
つまり此所から先は常識に囚われないっ!(ちょ)
いつもの朝と言いつつも紫様が外に帰してくれない為、みすちーが面倒を見る事に。
悪戦苦闘の様子を見兼ねて手伝ってくれる蛍の姫、毒人形、花の妖怪、式の猫。止めに妖精七人衆。
ぱるぱるするは宵闇の嬢。
だがしかし、子供さんの一言が全てを変えた!
「ままぁ」
ル「じゃあ私がパパになる!」
み「え、ちょルーミア!?」
全員『ちょっと待った!それは譲らないわ!』
み「もしかして皆も……?」
全員『イグザクトリー!』
それは夜雀が愛され過ぎた幻想郷の御話。
「夜雀盲恋奇譚~ローレライに誘われて~」
>>謳魚様
ぱ、パパがいっぱい!?これではあの子が大変です! ここは一つパパ決定戦をば(スキマ