渋谷駅東口に降り立った6人の女子高生は、通行人の視線を一身に受けながら六本木通りに出て、そこから脇道に入りマクド×ルドの黄色いマークを目指した。
「神奈子、今日のメイクまぢで決まってね」
永琳が声をかけると、すっかり顔面の原型を損ねた神奈子が振り返った。
「分かる? とりまギャル系にしてみた」
もはや、女子高生の言語に関しては彼女らの右に出る者などいない。
正面から歩いて来た二人組の女子高生は、神奈子の顔を見るなり携帯を取り出そうとしたが、突風が起き彼女達の携帯電話は国道へ飛んで行った。
「幽々子、いちいち電車見て驚かないでよ」
道の突き当たりには、東京メトロ銀座線が通っている。
幽々子は聞いているのか聞いていないのか、銀座線のフェンスの向こう側を指さした。
「松×、牛丼」
紫はやれやれ、と首を振った。
「こんな眉の細い女子高生は松×なんかに行かないの」
幽々子は分厚いアイラインの上に涙をにじませたが、マクド×ルドの中に入ると声を殺して爆笑した。
「つうかさ」
ストロベリーシェイクをすすりながら、てゐが言った。
「ナンパされなくね」
文も言った。
「女子高生って言ったらナンパじゃね。さっきも駅のところでギャル男が声かけてたし、オヤジが女子高生に金渡してたし、いや、これは違うか」
「ナンパされるまで帰れねえよな」
幽々子はひたすら、てりやきチキンバーガーを両手で口に放り込む動作を繰り返しており、会話には参加しなかった。
紫達が占拠した窓際の席には、ギャルもチャラ男も寄りつこうとしない。
「とりま、コンビニでも行くか」
永琳が提案すると紫が頷いた。
「その後、プリな」
プリとはプリクラのことである。紫の憧れであった。
昨晩は鏡の前でポーズの練習に勤しんだため、腕が痛い。
「食ってんじゃねえよ、デブ」
てゐが聞こえるように悪口を叩いたが、普段から憎まれ口を叩かれている幽々子は気にもしていない様子で、フライドポテトをざらざらと口に流し込んだ。
近くにあったセブ×イレブンに入り立ち読みに興じていると、駐車場に一台のバンが駐まり、2人の黒い覆面を被った男達が降りて来た。
紫達は気にも止めず、女性誌に夢中であったが、店の中が急に騒がしくなった。
「金を出せ」
男の一人が叫んだ。
店長が奥から出てくると、二人いた女性店員の内一人が「強盗」と言った。
バンからもう一人の覆面男が降りてきて、紫達の方に近付いて来る。
「男は一人だけだな、ついてる」
男は拳銃を見せ、間合いを保ったまま紫に話し掛けた。
レジの方では、店長が震える手で金を出し始めた。
「ふう、大丈夫だ。すぐ終わるから安心してくれ。あなたたちに危害を加えるつもりはない。これから撮影? 時間、間に合うかい」
男は紫達が大人しいのを見て、気さくに話しかけてきた。
「撮影って」
紫が聞くと、男は笑った。
「コスプレものだろ。しかも乱交かな、頑張ってね」
「ママ」
慧音が銀髪を揺らしながら、すり寄ってくる。
「心因性ショックによる、幼児退行です」
優曇華が説明する。
妹紅は膝の上に乗ろうとしてくる慧音を抑えた。
こんなでかい子供はとても膝の上に収まらない。
「治らないのか」
しばしの間、優曇華は考え込んだが首を振った。
「分かりません」
銀髪の下の目が妹紅をのぞき込んだ。
「お腹空いたよ。お家帰ろう」
余りにも、突然に事態が進行したため妹紅だって優曇華だってどうしていいのか分からない。
加えて、今日は永琳がいないのだ。
「分かった、慧音。お家へ帰ろう。見ての通り、慧音は私が引き取る。永琳が帰って来たら一つ伝言しといてくれ。「私は不参加だ」と」
「はあ、師匠が帰ってきたらもう一度見せに来て、それから」
「冗談じゃない、それこそ悪化する」
帰り道、慧音は妹紅に手を繋ぐよう強要した。
そして、訳の分からぬ童謡を口ずさむのだった。
「慧音、早くよくなるといいな。晩ご飯は何がいい」
こんな大きな子供がいるのに女子高生も無いだろう、と妹紅は思う。
「早苗、また外の世界が気になるのかい」
テレビに見入っている早苗に諏訪子が聞いた。
「ええ、新聞はこちらにもありますが、ニュースは外の世界にしかありません。なかなか面白いものですよ」
「あ、臨時ニュース」と早苗が言った。
息を切らせた背広姿の男と、煙の上がっているコンビニの様子が映る。
「ふっ、ふっ、こちら現地記者の××××。ただいま強盗事件のあった渋谷、コンビニエンスストアの前から中継しております」
諏訪子も画面に近づいた。
カメラの視点が切り替わり、一般人にマイクが向けられた。
「一体。何があったんですか」
「私は、目撃者で、その、コンビニが、強盗」
「落ち着いて」
男は差し出されたミネラルウォーターを飲むと、また話し始めた。
「私がコンビニに向かっていたら、2人組の男が入って行って。強盗だって叫んだんです。
で、私は一旦離れて道の向かい側から様子を窺ってたんですが、そしたらもう一人の男が中に入って奥にいた女子高生集団の方に近づいていったんです。で、何事か話してまして。私はここで通報したんです。そしたら、そしたら」
「落ち着いてください」
「女子高生の手から光線が出て男を吹っ飛ばしたんです」
記者が噴き出した。
「本当なんです、そしたら残りの二人が銃を女子高生の方に向けて、これはまずいかな。と思ったら、いきなり男が宙づりになって今度は女子高生の手から弓矢が出てきて、それで光の弾が」
記者もいよいよ、不審がる。
「じゃあ、女子高生達が男を退治したんですか」
「はい、女子高生でしたよ。何ですか、そのセーラーム×ンの類じゃないかと」
後ろから罵声が飛んで来る。
「おい、一旦中継止めろ」
早苗も諏訪子もぽかん、と口を開けていた。
「セーラーム×ンって、早苗が子供の時にやってた」
「はい」
早苗はゆっくり立ち上がってテレビのチャンネルを回したが、「セーラーム×ンが強盗退治」のテロップを見て、すぐさまテレビを消した。
「実在してたとはね、意外と近々幻想入りしたりしてなあ」
「あり得ますね」
二人がぎこちなく笑っていると玄関の方から声が聞こえた。
「ただいま」
彼女達は女子高生になって帰ってきた。
この物語は、八雲紫、八意永琳、因幡てゐ、射命丸文、西行寺幽々子、八坂神奈子。以上6名、謙虚な女子高生の提供でお送りした。
少し締めが残念でした。
できればおまけがほしいところです。
私もちょっとオチが弱いと思います
てっきり6人が現実に打ちのめされて灰になって帰ってくると思ってた(笑)
でもよかったね、目撃者から女子高生って言ってもらってよかったね。
そして彼女のらは「伝説」を作り上げたww
ちょっとオチのインパクトが弱い点は概ね同感ですが、この無常感もまた幻想郷の成せる業だと思えば。
新たな「女子高生」の概念が持ち込まれた幻想郷の今後が、気になる所ではあります。
伝説が終わって歴史が始まっても、肝心の歴史弄くれる人が壊れたままでは。
EXステージに期待します。
良かったねみんな