このSSは、前作、魔女の家でお泊り会の続きです。
先にそちらを読んでいただくことをお勧めします。
いつもの時間に、アリス・マーガトロイドは起床した。チュンチュンと小鳥が鳴いている。
眠い・・・・・・。
それもそのはず。
いつもよりも3時間ぐらい就寝が遅くなってしまったのだから。
本当はもうちょっと眠っていたかったのだが、長年の習慣で朝早く起きてしまう。
お母さんがいつも言っていたのだ。起床は6時、就寝は10時、夜遊びなんてもっての他。これ都会派の常識。
(これも全部アイツのせいね・・・・・・)
アリスは疲れたようにため息をつく。
思えば昨日は大変だった。
調子に乗って火をたき続けたら、もやしは完全に茹で上がってしまった。
正直そこまで熱くした覚えはなかった。私が入る温度より少し熱いぐらいで止めて置いたはずだ。魔理沙ならちょうどいいって言うぐらい。
実際お湯を触ってみたらいつもぐらいだった。それでも彼女には熱かったらしい。
風呂に入って45分後、ちょっと遅いかな、と思って彼女に呼びかけてみたら返事がない。
一瞬ためらったが、家でなにか起きても困る、そう思い、アリスは浴室に入る。
「・・・・・・・あちゃあ」
パチュリーは赤い顔でぐったりしていた。ゆでもやしならぬゆでだこである。
しょうがなく、彼女を浴槽から出し、タオルで拭いて、適当に寝巻きを着せて、寝室まで運んでいった。
「むきゅう・・・・・・」
意識を取り戻したパチュリーは、なんだか済まなそうな顔をしていた。
「え、えとごめん・・・・・そ、その調子乗りすぎたみたいで」
思わず謝ってしまう。
「ううん、別に。何も言わなかったのは私だし。気にしないで。もう寝るんでしょ?」
「まあ・・・・・・」
先ほどのような図々しさはそこにはない。急にしおらしくなってしまった彼女にアリスは面食らう。
人に迷惑をかけることを省みないこいつでも、病弱なことに関しては別らしい。
人には冗談では済まされない領域、というものが必ず誰しにも存在する。
それが彼女の場合なら、自分の虚弱体質ということで。
「・・・・・・・・」
「大丈夫よ、私なら。よくあることだし。心配しないで自分の部屋へ戻ったら?」
「できないわよ。そんなこと」
アリスは被りを振る。こうなったのも自分の責任なのだから。
「ごめんね。パチュリー本当ごめん。これだけで茹で上がるなんて思わなかったから・・・・・・」
「私はパスタか」
いいや、君はもやしだ正真正銘。
「こんなつもりなかったの・・・・・・茹であがってしまえばいいなんて冗談でも思って本当にごめん」
「そう・・・・・・茹で上がったところを食べるつもりだったのね。やっぱり貴女って罪な人ね」
悪いとは思いつつ、つい正直な気持ちを吐いてしまうアリス。しかし、パチュリーは更に上だった。どこをどう考えたらそういう思考になるのだ。
「それはないわ・・・・・・もやしを食べる趣味はないの」
「チッ・・・・・・・」
今舌打ちしやがった。そんなに食べて欲しかったのか。
「鼠なら食べるのに?」
「鼠ならそう・・・・・・い、いや食べないわ、多分」
「いつもつまみ食いしてるんでしょ。チーズとか」
「チーズを食べるのは鼠でしょうに・・・・・・」
「あ、じゃあ貴女が食べられるのね」
「なんでそうなるのよ・・・・・・私はチーズじゃないわよ」
「でも、チーズになりたいって思っているでしょう」
莫迦話は深夜まで続いた。パチュリーの誘導尋問がある一定の方向へ向かっている気がしたが、そんなことは気にしなかった。深夜のノリなのだから。
そうして迎えた朝。
(か、完全に自業自得だわ・・・・・・しかも眠かったから内容あんまよく覚えていない・・・・・・)
友達の家に行ったときの深夜の会話なんてそんなもんである。
そしてその友達といえば。
「すう・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
よし。嫌がらせ第一弾、発動。
「起きろおおもやしいいいいい」
「むきゅううううううう!?」
ザ・布団を剥ぎ取ろう大作戦は成功に終わった。
彼女はすんげえジト目でこちらを見ている。でも怖くないよーだ!
「何考えてるのよ!まだ6時じゃない!」
「起床は6時、就寝は10時、これ魔界の常識」
「あー、なんか小悪魔もそんなこと言っていたわねえ・・・・・・・私完全に夜型なんだけど」
やっぱり、やっぱりね。
こいつは夜型で絶対朝弱いだろうなって思っていたのよ。
「昼型に直したら?絶対そのほうが健康にいいわよ」
ニコニコ顔のアリスって怖い。
「遠慮しておくわ・・・・・・レミィの相手できなくなるし・・・・・・ふぁ・・・・・」
反対に、パチュリーはいつもの元気がなかった。やはり朝は弱いらしい。夜には強いのに。
「朝食よ、パチュリー。下に来なさい」
「え・・・・・・!?ちょ、寝かせてよ!」
ズルズルとアリスはパチュリーを引っ張っていく。
こらそこ、攻守逆転リバktkr!とか言わない。
食卓ではアリスの有無を言わせないノンストップ・トークが繰り広げられていた。
パチュリーはめっちゃ眠そうである。
魔女の家でお泊り会・二日目
「そういやパチュリー、ここに何日か泊まるって言うけれど、図書館の警備とか大丈夫なの?魔理沙あたりにめちゃくちゃにされるわよ」
「・・・・・・すう・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「スープ飲みながら寝るなよ」
そんなに眠いか。まあ、昨日ははしゃぎすぎちゃったもんね。特にお前は。
「ああ・・・・・・・多分平気よ・・・・・・・多分」
投げやりな返答である。おそらくは早く部屋に帰せ!と思っているだろう。
「多分・・・・・・多分ね・・・・・・・小悪魔が・・・・・・・」
がくん。
「あ、危ない、ぎりぎりセーフ」
もうちょっとでスープに顔面直撃するところだった。パチュリーは完全に寝息を立てている。
「しょうがないなあ」
本当はもうちょっと嫌がらせを続けるつもりだったのだけれど、寝てしまわれたら意味がない。仕方なく抱きかかえ上げ、部屋まで持っていくことにする。
軽っ
「ちゃんと食べないからよ・・・・・・」
ここまで軽いと本当にもやしなんじゃないかと疑ってくる。
ひとまずパチュリーを寝かせると、アリスは自分の部屋に戻った。起きて復活する前に、自分の研究を進めたかった。
人形5体を作り、魔鉱石の研磨をし、薬草からエキスを取り出し、成分ごとに分解する。
そうこうしている内に昼になり、気が付いたら3時になっていた。
「ようやく一段落したわ・・・・」
研究に没頭していて全然気が付かなかった。
お腹がすいた。
「昼ごはんでも作りますか・・・・・・」
アリスはリビングに向かう。が、ふと、あいつは何をしているんだろうと思い、二階へ上がる。
「まさかまだ寝てるってわけじゃないわよね・・・・・・」
がちゃりとドアを開けると、布団の上にくるまっている客人がいた。
「起きなさいよ。いつまで寝てるのよ」
「うぅ・・・・・・小悪魔あと5分・・・・・・・」
完全に布団をかぶり、丸くなっているパチュリー。
お前寝たの何時だ。7時だぞ。8時間睡眠しているんだぞ、こんな真昼間から。
「おーきーろー!!!!」
「やだー!小悪魔のバカー!!!」
一向に布団を放そうとしない。もう起きてるだろ。
「いい加減起きないと夜寝れなくなるわよ!」
「いいじゃない!どうせ寝かせないつもりなんでしょ!」
「んなわけあるかあ!」
渾身の力を振り絞り、アリスはパチュリーから布団を剥がす。
「あんたはとっとと研究しろ!そんでもってさっさと帰れ!」
「あ、結局研究終わるまで置いてくれるんだ」
「え・・・・・・!?・・・・・あ・・・・・ぐ・・・・・・そ、そうよ!け、研究が終わるまで・・・・・・」
アリス、ナイス墓穴。
「グッド!」
「なにがグッドよ!とってもいい笑顔で親指を立てるな!」
パチュリーもようやく覚醒してきたようだ。一生寝てればいいのに。
「ちくしょう!こうなったらアンタの館に行って本取ってきてやる!」
「あら腹いせ?大人気ないわねえ。だから未熟者なのよ」
「未熟者っていうな!」
あんたに言われると無性に腹が立つんだよ。
それはそうと、善は急げだ。パチュリーが何かを言っているようだったが、それを気にせ紅魔館へ飛ぶ。
向こうが勝手に侵略してきたのだ。ならば、こっちも侵略者になってやろうじゃないか。
「まってろおおおお!今行くからなあああ!」
「よお」
「よおってなによ・・・・・え?」
「どうしたんだ。こんなところで。お前も図書館か?」
そこにいたのは白黒の鼠・・・・・・いや魔法使いだった。主食はチーズではない。きのこだ。
「そうよ。今なら取りたい放題じゃない」
「あーなるほどな」
お前もってことはこいつも図書館へ行ったのか。きっと図書館は大変なことになっているだろうな・・・・・・くくく
「あやしいぞ、アリス」
おっと、いけないいけない。つい顔に出てしまったようである。
「なんか今日は調子が出ないんだ・・・・・・またな、アリス」
「え・・・・・・ああ、うん・・・・・・あ、ちょっと待って!」
「なんだよ」
「いっつもチーズをつまみ食いしてるの?」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「どちらかと言えば、きのこだぜ」
あーうんそうよね。そうなのよね。どちらかといえば、きのこのほうがつまみ食いされるのよね・・・・・・ってなにメモっているのよ私!べ、べつにきのこになりたい訳じゃないんだからね!つーかアホじゃん!きのこなんて!
『・・・・・・フッ・・・・・やっぱりなりたいんじゃない。きのこに』
「違うっつてんだろおおおお!」
脳内にもやしが再生された。
「ど・・・・・どうしたんだアリス・・・・・・今日は色々とおかしいぜ」
「ああうんちょっとね、ちょっと絶不調なのよ誰かさんが絶好調なせいで」
「た、大変なんだな。体には気をつけろよ、アリス」
魔理沙はいそいそと帰って行った。そんなに藁人形を持っている私が怖いか。
まあいい。とりあえずは先に奴を亡き者にするべし!
紅魔館・1B
大図書館中央口
「あーアリスさんお疲れ様です。どうも、うちのご主人がお世話になってるみたいで」
苦労していそうな小悪魔の顔がそこにはあった。
それにしても、見たところ図書館が荒らされた様子はない。もしかして小悪魔、腕を上げた?
「魔理沙来たよね?」
「ああ、魔理沙さんなら、『どうぞ、勝手に持っていって下さい、何ならあげましょうか』って言ったら、『なんか気分が乗らないぜ、タダでもらうのはよ』って言って帰っちゃいました」
ああ・・・・・・あいつ天邪鬼だもんね。抵抗されると燃えるタイプだもんね。ちなみにそっちの話じゃないからね。
「アリスさんは本借りに来たんじゃないですよね。さしずめ、パチュリー様に対する報復ってとこですか」
「ギクッ」
さすがは小悪魔、一発で見抜くとは・・・・・・!
でもその反応はないよ、アリス。バレバレだよ。
「できればやめていただけるとうれしいのですが・・・・・・まあ気持ちはわからないでもないですが」
はあ、とため息をつく小悪魔。苦労していそうな顔だった。
「私の仕事が増えるだけなので」
「うん。ごめん悪かった」
それもそうである。とばっちりを食らって大変な目に遭うのは彼女なのだ。
少し頭を冷やそう。冷静になれなかったらこちらの負けだ。
「まあ、折角来ていただいたのでお茶の一杯でも・・・・・・」
「ねえ小悪魔、パチュリーっていっつもああなの?」
「ああ、とは?」
「えっと・・・・・・」
そこでアリスはパチュリーが家に来てから今に至るまでの経緯を話した。グラサンと麦わら帽子でいきなりやって来たこと、風呂での事件、朝の出来事etc・・・・・・
小悪魔は、終始ニヤニヤしていた。へえ、あの人がねえ・・・・・・なんて独り言も言っていた。
「と云う訳で小悪魔、あいつを黙らせる方法と、あいつを夜寝かせる方法を教えてくれないかしら?このままじゃ、あいつ絶っ対寝ないから」
しかも、確実に私を巻き込む。
「寝かせない、の間違いでは?・・・・・・・・・・ああすいません冗談ですからちょっと上海ちゃん落ち着いてっ!」
「シャンハーイ」
主も主なら従者も従者だった。軽く殺意を覚える。
「いつつ・・・・・まあ、起きていても、大抵静かですけれどね。本でも渡せば静かになりますし。・・・・・・・・・・・でもアリスさんの家なら別かも知れませんけどね。なにせ、友達の家に行くって久方ぶりのことですから」
くくく、と笑う小悪魔。実に愉快そうである。
「友達って・・・・・・友達になった覚えはないんだけど。むしろ宿敵なんだけど」
「友達欲しいんじゃないんですか?こないだ貸した本の中に、『友達をつくる100の法則』・・・・・・・ちょっ上海ちゃん落ち着いてっ!」
「シャンハーイ」
「いたた・・・・・と、とにかくいつもよりテンション高いんだと思いますよ?それで夜眠れなくって昼眠くなる。よくある話じゃないですか。遠足にいく前の日の子供みたいな話ですけど。」
「そうなの?」
テンション高すぎてこっちは困っているんですけど。
「そうなのって・・・・・・アリスさんはドライですねぇ・・・・・・。まあ、今日明日には落ち着きますよ。一応、普段使っている薬とハーブなんで持っていって下さい。少しは役に立つかもです」
小悪魔から、小瓶を2つ渡される。
「お茶の一杯でもご馳走したいところなのですが・・・・・・多分、早めに帰ったほうがよろしいかと思うんですよ」
「どういうことよ」
アリスは首をかしげる。
「どういうことって・・・・・・今家にはパチュリー様しかいないのでしょう?何をしでかすやらわかったもんじゃ・・・・・・ちょ、上海ちゃん落ち着いて!私はなにも悪くない!悪いのはあの紫もやs」
「シャンハーイ」
小悪魔の断末魔が聞こえたが、アリスは気にせず、魔法の森に帰る。
「あらアリスお帰り」
「はあっ・・・・・はあっ・・・・・・ぜえ・・・・・ぜえ・・・・・・」
「どうしたの?そんなに急いで」
客人はリビングで優雅にお茶を飲んでいた。めっちゃくつろいでいた。
ていうかそのお茶年代ものの・・・・・・わかってやっているだろ。絶対わかってやっているだろ。
しかし、見たところ魔力に異常はなく、損害があるわけでもなさそうだった。紅茶を飲まれた以外は。
「私のいない間、何してた?」
「そんなに私の一挙一動が気になるのかしら、アリス」
ああ、いろんな意味でな。いろんな意味でこっちはドキドキしっ放しだよ。
「否定しなさいよ。それともマジなの?」
「だからなんでいちいちそういう方向に持って行きたがるのよ!願望なの!?アンタの!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
いや、お願いだから黙らないでよ。なんで顔を本で隠すのよ!恥ずかしがらないでよお願いだから!
「今本気にしたでしょ」
「してないわっ!」
ああもう、なんでこうこいつは元気なんだ。私は瀕死状態だっていうのに。
アリスはあまりに疲れたため、静かにソファに倒れこむ。ベッドまで待てなかったらしい。
「眠いの?アリス。疲れてるの?」
「あんたのせいだっつーの・・・・・・・」
「だめね。これだから未熟者なのよ」
そんなに私を未熟者呼ばわりするのが好きか。
「ただで寝かせると思って?」
「・・・・・・・・・」
それから後2時間、アリスはパチュリーのマシンガントークを聞いていた。つまらない話ならまだしも、半ば面白いのでついつい聞いてしまう。これが朝の報復である、ということは火をみるより明らかだったが、それに抗う力はアリスにはなかった。相手は8時間の快眠で、MP・HPともに満タンになっている、まさに絶好調な状態だった。
薄れ行く意識の中、アリスは思う。
(紫もやしめ・・・・・・この借りは必ず返す!)
それが終わらぬ復讐劇であるということに、彼女たちが気付くのはずっと後の話である。
おわり
先にそちらを読んでいただくことをお勧めします。
いつもの時間に、アリス・マーガトロイドは起床した。チュンチュンと小鳥が鳴いている。
眠い・・・・・・。
それもそのはず。
いつもよりも3時間ぐらい就寝が遅くなってしまったのだから。
本当はもうちょっと眠っていたかったのだが、長年の習慣で朝早く起きてしまう。
お母さんがいつも言っていたのだ。起床は6時、就寝は10時、夜遊びなんてもっての他。これ都会派の常識。
(これも全部アイツのせいね・・・・・・)
アリスは疲れたようにため息をつく。
思えば昨日は大変だった。
調子に乗って火をたき続けたら、もやしは完全に茹で上がってしまった。
正直そこまで熱くした覚えはなかった。私が入る温度より少し熱いぐらいで止めて置いたはずだ。魔理沙ならちょうどいいって言うぐらい。
実際お湯を触ってみたらいつもぐらいだった。それでも彼女には熱かったらしい。
風呂に入って45分後、ちょっと遅いかな、と思って彼女に呼びかけてみたら返事がない。
一瞬ためらったが、家でなにか起きても困る、そう思い、アリスは浴室に入る。
「・・・・・・・あちゃあ」
パチュリーは赤い顔でぐったりしていた。ゆでもやしならぬゆでだこである。
しょうがなく、彼女を浴槽から出し、タオルで拭いて、適当に寝巻きを着せて、寝室まで運んでいった。
「むきゅう・・・・・・」
意識を取り戻したパチュリーは、なんだか済まなそうな顔をしていた。
「え、えとごめん・・・・・そ、その調子乗りすぎたみたいで」
思わず謝ってしまう。
「ううん、別に。何も言わなかったのは私だし。気にしないで。もう寝るんでしょ?」
「まあ・・・・・・」
先ほどのような図々しさはそこにはない。急にしおらしくなってしまった彼女にアリスは面食らう。
人に迷惑をかけることを省みないこいつでも、病弱なことに関しては別らしい。
人には冗談では済まされない領域、というものが必ず誰しにも存在する。
それが彼女の場合なら、自分の虚弱体質ということで。
「・・・・・・・・」
「大丈夫よ、私なら。よくあることだし。心配しないで自分の部屋へ戻ったら?」
「できないわよ。そんなこと」
アリスは被りを振る。こうなったのも自分の責任なのだから。
「ごめんね。パチュリー本当ごめん。これだけで茹で上がるなんて思わなかったから・・・・・・」
「私はパスタか」
いいや、君はもやしだ正真正銘。
「こんなつもりなかったの・・・・・・茹であがってしまえばいいなんて冗談でも思って本当にごめん」
「そう・・・・・・茹で上がったところを食べるつもりだったのね。やっぱり貴女って罪な人ね」
悪いとは思いつつ、つい正直な気持ちを吐いてしまうアリス。しかし、パチュリーは更に上だった。どこをどう考えたらそういう思考になるのだ。
「それはないわ・・・・・・もやしを食べる趣味はないの」
「チッ・・・・・・・」
今舌打ちしやがった。そんなに食べて欲しかったのか。
「鼠なら食べるのに?」
「鼠ならそう・・・・・・い、いや食べないわ、多分」
「いつもつまみ食いしてるんでしょ。チーズとか」
「チーズを食べるのは鼠でしょうに・・・・・・」
「あ、じゃあ貴女が食べられるのね」
「なんでそうなるのよ・・・・・・私はチーズじゃないわよ」
「でも、チーズになりたいって思っているでしょう」
莫迦話は深夜まで続いた。パチュリーの誘導尋問がある一定の方向へ向かっている気がしたが、そんなことは気にしなかった。深夜のノリなのだから。
そうして迎えた朝。
(か、完全に自業自得だわ・・・・・・しかも眠かったから内容あんまよく覚えていない・・・・・・)
友達の家に行ったときの深夜の会話なんてそんなもんである。
そしてその友達といえば。
「すう・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
よし。嫌がらせ第一弾、発動。
「起きろおおもやしいいいいい」
「むきゅううううううう!?」
ザ・布団を剥ぎ取ろう大作戦は成功に終わった。
彼女はすんげえジト目でこちらを見ている。でも怖くないよーだ!
「何考えてるのよ!まだ6時じゃない!」
「起床は6時、就寝は10時、これ魔界の常識」
「あー、なんか小悪魔もそんなこと言っていたわねえ・・・・・・・私完全に夜型なんだけど」
やっぱり、やっぱりね。
こいつは夜型で絶対朝弱いだろうなって思っていたのよ。
「昼型に直したら?絶対そのほうが健康にいいわよ」
ニコニコ顔のアリスって怖い。
「遠慮しておくわ・・・・・・レミィの相手できなくなるし・・・・・・ふぁ・・・・・」
反対に、パチュリーはいつもの元気がなかった。やはり朝は弱いらしい。夜には強いのに。
「朝食よ、パチュリー。下に来なさい」
「え・・・・・・!?ちょ、寝かせてよ!」
ズルズルとアリスはパチュリーを引っ張っていく。
こらそこ、攻守逆転リバktkr!とか言わない。
食卓ではアリスの有無を言わせないノンストップ・トークが繰り広げられていた。
パチュリーはめっちゃ眠そうである。
魔女の家でお泊り会・二日目
「そういやパチュリー、ここに何日か泊まるって言うけれど、図書館の警備とか大丈夫なの?魔理沙あたりにめちゃくちゃにされるわよ」
「・・・・・・すう・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
「スープ飲みながら寝るなよ」
そんなに眠いか。まあ、昨日ははしゃぎすぎちゃったもんね。特にお前は。
「ああ・・・・・・・多分平気よ・・・・・・・多分」
投げやりな返答である。おそらくは早く部屋に帰せ!と思っているだろう。
「多分・・・・・・多分ね・・・・・・・小悪魔が・・・・・・・」
がくん。
「あ、危ない、ぎりぎりセーフ」
もうちょっとでスープに顔面直撃するところだった。パチュリーは完全に寝息を立てている。
「しょうがないなあ」
本当はもうちょっと嫌がらせを続けるつもりだったのだけれど、寝てしまわれたら意味がない。仕方なく抱きかかえ上げ、部屋まで持っていくことにする。
軽っ
「ちゃんと食べないからよ・・・・・・」
ここまで軽いと本当にもやしなんじゃないかと疑ってくる。
ひとまずパチュリーを寝かせると、アリスは自分の部屋に戻った。起きて復活する前に、自分の研究を進めたかった。
人形5体を作り、魔鉱石の研磨をし、薬草からエキスを取り出し、成分ごとに分解する。
そうこうしている内に昼になり、気が付いたら3時になっていた。
「ようやく一段落したわ・・・・」
研究に没頭していて全然気が付かなかった。
お腹がすいた。
「昼ごはんでも作りますか・・・・・・」
アリスはリビングに向かう。が、ふと、あいつは何をしているんだろうと思い、二階へ上がる。
「まさかまだ寝てるってわけじゃないわよね・・・・・・」
がちゃりとドアを開けると、布団の上にくるまっている客人がいた。
「起きなさいよ。いつまで寝てるのよ」
「うぅ・・・・・・小悪魔あと5分・・・・・・・」
完全に布団をかぶり、丸くなっているパチュリー。
お前寝たの何時だ。7時だぞ。8時間睡眠しているんだぞ、こんな真昼間から。
「おーきーろー!!!!」
「やだー!小悪魔のバカー!!!」
一向に布団を放そうとしない。もう起きてるだろ。
「いい加減起きないと夜寝れなくなるわよ!」
「いいじゃない!どうせ寝かせないつもりなんでしょ!」
「んなわけあるかあ!」
渾身の力を振り絞り、アリスはパチュリーから布団を剥がす。
「あんたはとっとと研究しろ!そんでもってさっさと帰れ!」
「あ、結局研究終わるまで置いてくれるんだ」
「え・・・・・・!?・・・・・あ・・・・・ぐ・・・・・・そ、そうよ!け、研究が終わるまで・・・・・・」
アリス、ナイス墓穴。
「グッド!」
「なにがグッドよ!とってもいい笑顔で親指を立てるな!」
パチュリーもようやく覚醒してきたようだ。一生寝てればいいのに。
「ちくしょう!こうなったらアンタの館に行って本取ってきてやる!」
「あら腹いせ?大人気ないわねえ。だから未熟者なのよ」
「未熟者っていうな!」
あんたに言われると無性に腹が立つんだよ。
それはそうと、善は急げだ。パチュリーが何かを言っているようだったが、それを気にせ紅魔館へ飛ぶ。
向こうが勝手に侵略してきたのだ。ならば、こっちも侵略者になってやろうじゃないか。
「まってろおおおお!今行くからなあああ!」
「よお」
「よおってなによ・・・・・え?」
「どうしたんだ。こんなところで。お前も図書館か?」
そこにいたのは白黒の鼠・・・・・・いや魔法使いだった。主食はチーズではない。きのこだ。
「そうよ。今なら取りたい放題じゃない」
「あーなるほどな」
お前もってことはこいつも図書館へ行ったのか。きっと図書館は大変なことになっているだろうな・・・・・・くくく
「あやしいぞ、アリス」
おっと、いけないいけない。つい顔に出てしまったようである。
「なんか今日は調子が出ないんだ・・・・・・またな、アリス」
「え・・・・・・ああ、うん・・・・・・あ、ちょっと待って!」
「なんだよ」
「いっつもチーズをつまみ食いしてるの?」
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「どちらかと言えば、きのこだぜ」
あーうんそうよね。そうなのよね。どちらかといえば、きのこのほうがつまみ食いされるのよね・・・・・・ってなにメモっているのよ私!べ、べつにきのこになりたい訳じゃないんだからね!つーかアホじゃん!きのこなんて!
『・・・・・・フッ・・・・・やっぱりなりたいんじゃない。きのこに』
「違うっつてんだろおおおお!」
脳内にもやしが再生された。
「ど・・・・・どうしたんだアリス・・・・・・今日は色々とおかしいぜ」
「ああうんちょっとね、ちょっと絶不調なのよ誰かさんが絶好調なせいで」
「た、大変なんだな。体には気をつけろよ、アリス」
魔理沙はいそいそと帰って行った。そんなに藁人形を持っている私が怖いか。
まあいい。とりあえずは先に奴を亡き者にするべし!
紅魔館・1B
大図書館中央口
「あーアリスさんお疲れ様です。どうも、うちのご主人がお世話になってるみたいで」
苦労していそうな小悪魔の顔がそこにはあった。
それにしても、見たところ図書館が荒らされた様子はない。もしかして小悪魔、腕を上げた?
「魔理沙来たよね?」
「ああ、魔理沙さんなら、『どうぞ、勝手に持っていって下さい、何ならあげましょうか』って言ったら、『なんか気分が乗らないぜ、タダでもらうのはよ』って言って帰っちゃいました」
ああ・・・・・・あいつ天邪鬼だもんね。抵抗されると燃えるタイプだもんね。ちなみにそっちの話じゃないからね。
「アリスさんは本借りに来たんじゃないですよね。さしずめ、パチュリー様に対する報復ってとこですか」
「ギクッ」
さすがは小悪魔、一発で見抜くとは・・・・・・!
でもその反応はないよ、アリス。バレバレだよ。
「できればやめていただけるとうれしいのですが・・・・・・まあ気持ちはわからないでもないですが」
はあ、とため息をつく小悪魔。苦労していそうな顔だった。
「私の仕事が増えるだけなので」
「うん。ごめん悪かった」
それもそうである。とばっちりを食らって大変な目に遭うのは彼女なのだ。
少し頭を冷やそう。冷静になれなかったらこちらの負けだ。
「まあ、折角来ていただいたのでお茶の一杯でも・・・・・・」
「ねえ小悪魔、パチュリーっていっつもああなの?」
「ああ、とは?」
「えっと・・・・・・」
そこでアリスはパチュリーが家に来てから今に至るまでの経緯を話した。グラサンと麦わら帽子でいきなりやって来たこと、風呂での事件、朝の出来事etc・・・・・・
小悪魔は、終始ニヤニヤしていた。へえ、あの人がねえ・・・・・・なんて独り言も言っていた。
「と云う訳で小悪魔、あいつを黙らせる方法と、あいつを夜寝かせる方法を教えてくれないかしら?このままじゃ、あいつ絶っ対寝ないから」
しかも、確実に私を巻き込む。
「寝かせない、の間違いでは?・・・・・・・・・・ああすいません冗談ですからちょっと上海ちゃん落ち着いてっ!」
「シャンハーイ」
主も主なら従者も従者だった。軽く殺意を覚える。
「いつつ・・・・・まあ、起きていても、大抵静かですけれどね。本でも渡せば静かになりますし。・・・・・・・・・・・でもアリスさんの家なら別かも知れませんけどね。なにせ、友達の家に行くって久方ぶりのことですから」
くくく、と笑う小悪魔。実に愉快そうである。
「友達って・・・・・・友達になった覚えはないんだけど。むしろ宿敵なんだけど」
「友達欲しいんじゃないんですか?こないだ貸した本の中に、『友達をつくる100の法則』・・・・・・・ちょっ上海ちゃん落ち着いてっ!」
「シャンハーイ」
「いたた・・・・・と、とにかくいつもよりテンション高いんだと思いますよ?それで夜眠れなくって昼眠くなる。よくある話じゃないですか。遠足にいく前の日の子供みたいな話ですけど。」
「そうなの?」
テンション高すぎてこっちは困っているんですけど。
「そうなのって・・・・・・アリスさんはドライですねぇ・・・・・・。まあ、今日明日には落ち着きますよ。一応、普段使っている薬とハーブなんで持っていって下さい。少しは役に立つかもです」
小悪魔から、小瓶を2つ渡される。
「お茶の一杯でもご馳走したいところなのですが・・・・・・多分、早めに帰ったほうがよろしいかと思うんですよ」
「どういうことよ」
アリスは首をかしげる。
「どういうことって・・・・・・今家にはパチュリー様しかいないのでしょう?何をしでかすやらわかったもんじゃ・・・・・・ちょ、上海ちゃん落ち着いて!私はなにも悪くない!悪いのはあの紫もやs」
「シャンハーイ」
小悪魔の断末魔が聞こえたが、アリスは気にせず、魔法の森に帰る。
「あらアリスお帰り」
「はあっ・・・・・はあっ・・・・・・ぜえ・・・・・ぜえ・・・・・・」
「どうしたの?そんなに急いで」
客人はリビングで優雅にお茶を飲んでいた。めっちゃくつろいでいた。
ていうかそのお茶年代ものの・・・・・・わかってやっているだろ。絶対わかってやっているだろ。
しかし、見たところ魔力に異常はなく、損害があるわけでもなさそうだった。紅茶を飲まれた以外は。
「私のいない間、何してた?」
「そんなに私の一挙一動が気になるのかしら、アリス」
ああ、いろんな意味でな。いろんな意味でこっちはドキドキしっ放しだよ。
「否定しなさいよ。それともマジなの?」
「だからなんでいちいちそういう方向に持って行きたがるのよ!願望なの!?アンタの!」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
いや、お願いだから黙らないでよ。なんで顔を本で隠すのよ!恥ずかしがらないでよお願いだから!
「今本気にしたでしょ」
「してないわっ!」
ああもう、なんでこうこいつは元気なんだ。私は瀕死状態だっていうのに。
アリスはあまりに疲れたため、静かにソファに倒れこむ。ベッドまで待てなかったらしい。
「眠いの?アリス。疲れてるの?」
「あんたのせいだっつーの・・・・・・・」
「だめね。これだから未熟者なのよ」
そんなに私を未熟者呼ばわりするのが好きか。
「ただで寝かせると思って?」
「・・・・・・・・・」
それから後2時間、アリスはパチュリーのマシンガントークを聞いていた。つまらない話ならまだしも、半ば面白いのでついつい聞いてしまう。これが朝の報復である、ということは火をみるより明らかだったが、それに抗う力はアリスにはなかった。相手は8時間の快眠で、MP・HPともに満タンになっている、まさに絶好調な状態だった。
薄れ行く意識の中、アリスは思う。
(紫もやしめ・・・・・・この借りは必ず返す!)
それが終わらぬ復讐劇であるということに、彼女たちが気付くのはずっと後の話である。
おわり
次回作お待ちしてますm(__)m
終わりってことは次回作はないんでしょうか…?だとしたら実に口惜しい…orz
二人は仲良く同居とな?!
テンポがよくて読みやすい作品でした。