稗田家といえば幻想郷でもよく知られた家だ。人のみならず人外にまで名は広まっている。
それも稗田阿一や御阿礼の子たちの行った活動のおかげだ。
彼女らの書き綴った幻想郷縁起は過去を知る文献として最高の品物。
初代が将来に残すため編纂を始めた幻想郷縁起は、千年の月日を越えてなお書き綴られている。
そして九代目御阿礼の子である、阿求も幻想郷縁起を生涯の仕事とし編纂を続けている。
少し前のことだ。幻想郷で局地的な地震が発生し、山に緋色の雲がかかった。
巫女や幻想郷内で屈指の実力者たちが関わり、解決した異変だ。
そのことを風の噂で阿求は耳にした。そのときに天人と竜宮の使いが関わったとも。
幻想郷縁起は地形や出来事も記していくが、主に人物を記す。ゆえに新たな人物が現れたと知って、阿求が出会って話しを聞きたいと思っても無理ないこと。
早速、阿求は動く。体は弱くとも里周辺を歩く程度ならば問題ない。
昔なじみでもある里に住む半獣に相談にむかう。
寺子屋での授業が終る頃に着くよう少し寄り道しながら向かう。
里中の様子を見ながら、たまに里人と少しだけ話したりして狙い通りの時間に到着した。
寺子屋の玄関に立ち、帰る子供達を見送る慧音に近づく。
「こんにちは」
「ん? 阿求か。こんにちは」
「相談したいことがあるんですけど、時間はありますか?」
「かまわない。
中に入って話そうか」
慧音は阿求を座らせ、自身はお茶を入れてから座る。
「茶菓子はないんだ。すまないな」
「いえ、急に来たんですから気にしないでください」
阿求は出されたお茶を一口飲んでから用件を話し出す。
「先日の異変で天人と竜宮の使いが現れたと聞きました。
相談というのは、その二人に会って話しを聞きたいので、どうすれば会えるか知恵を貸してもらいたいということなんです」
「ふむ、幻想郷縁起のためか。
私もその二人が異変に関わりがあったとは聞いているよ。まだ会ったことはないが。
私の周りにも会ったというやつはいないな。
いや鈴仙が会ったんだったか」
「鈴仙というと永遠亭の方ですね」
「ああ、地震の調査をしたときに天人に会ったとか」
「そうですか。里に薬を売りに来たとき聞いて見ましょう。
もう一人、竜宮の使いには会っていないんですね?」
「聞いてないな」
「ありがとうございます」
「こんなことでいいのか?
永遠亭に行くのなら送るぞ?」
「いえ、ちょっと体力が持つかわかりませんから。
それにそこまで迷惑かけるわけには。
あとは鈴仙さんか永琳先生が診察に来たときに聞いてみます」
「そうか」
相談はここまでで、このあとはとりとめのないことを話し阿求は家に帰る。
鈴仙に会うまでそう時間はかからなかった。
二日後に、鈴仙が薬の補充にやってきたからだ。
阿求は家人に、鈴仙が来たら上がってもらうように伝えていた。
阿求は家人に呼ばれ、鈴仙の待つ客室に入る。
「お待たせしました」
出されたお茶と茶菓子を美味しそうに食べていた鈴仙は、阿求が入ってくると慌ててそちら向く。
リラックスしすぎていたようだ。
「いえ、用事があると言われたんですが」
「はい。お聞きしたいことがありまして。
鈴仙さんは天人に会われたとか。その方の人格のことと、どうすれば会うことができるか聞きたいのです」
「そのことね。
名前は比那名居天子っていうらしいわ。地震に関係してたらしいけど、詳しいことは本人からは聞けなかったわ。
博麗神社を壊したらしいけど、こっちも隙間妖怪が関係してるらしくてさっぱりだった。
あとは初めて会ったとき、なんでかボロボロだったわ」
「どんな人でした?」
「長く話したわけじゃないから、ちょっとわからないかな」
「そうですか」
「会いたいなら天界に行くのが一番だと思う」
「私には無理ですね」
天界に行く方法は二通り。山から行くか、冥界から行くか。
そのどちらも阿求の体力的な問題から不可能だ。里周辺ならば平気だが、さすがに遠すぎる。
「んー……となると博麗神社に行ってみたらいいかもしれない。
霊夢のことが気に入ってるとか聞いたような?」
「博麗神社ですか。あそこならばなんとか大丈夫ですね。
今日はお話を聞かせてもらい、ありがとうございます」
「これくらいならどうってことありませんよ。
稗田家はお得意様ですからね。サービスのうちです」
ちょっとしたセールストークに阿求は笑みを浮かべ、家人を呼び準備していた土産を持ってきてもらう。
お礼として饅頭を鈴仙に渡し、玄関まで見送る。
次の日、阿求は家人に博麗神社に行くと告げ家を出た。
自身の体力のなさはよくわかっているので、ゆっくりとしたペースで歩く。
体力はないが出歩くことは好きだ。寿命が尽きる前に、できるだけ色々なことを体験したいからなのだろう。家に閉じこもっているだけではなにも体験できない。だから編纂につまったり疲れたりすると、休憩がてら出歩くことが多い。
人の三倍の時間をかけて神社に到着する。手には来る途中で買った菓子と家から持ってきた茶葉。
長い階段を上り神社までもう少しというところで休憩のため立ち止まる。階段に座り景色を楽しむ。ゆるく吹く風が火照った体に気持ちよかった。
「休憩終わりっ。
霊夢は……いない」
境内を見ても霊夢はいない。木の葉が一箇所に集められている、掃除は済んでいるようだ。
ならば縁側でお茶でも飲んでいるのだろうと、庭に行ってみることにする。
「その前に」
賽銭箱に賽銭を入れて、幻想郷縁起編纂が無事に終るようにと想いを込め拍手を打つ。
幾度と壊れた神社と違い賽銭箱は無事だったのか、古く歴史を感じさせる。
祈願を終えて庭へと移動。予想通り霊夢がお茶を飲んでいた。
「珍しい客ね」
「こんにちは。
これお土産」
「ありがと」
受け取った土産から早速和菓子を取り出して食べ始める。
阿求は霊夢の隣に座り、話し始める。
「今日来たのはね、比那名居天子という方と竜宮の使いについて聞きたいからなの」
「ふーん。わかることなら答えるわ」
「それじゃあ人柄とどうすれば会えるかを」
「天子のほうの性格はろくでもないわね。
あいつが楽しむために神社壊されたわ。紫たちも便乗するし。たまったもんじゃないわよ。
あと自信家っぽかったわ。わりと強いから、意味のない自信じゃないと思うけど。
私からすれば倒されるために異変起こしたとしか思えないわ」
「なるほど」
阿求は懐から取り出したメモ用紙に今の話を書き込んでいく。
「衣玖はマイペース?
やたらと騒ぐ奴じゃないわね。
仕事熱心で、邪魔されるのは嫌いみたい。邪魔すると力ずくで解決するみたいよ」
「衣玖というのが竜宮の使いの名前?」
「知らなかった? 永江衣玖っていうらしいわ。
地震が起こると伝えることが仕事だって言ってたわ。
いつもは雲の中を泳いでるんだって。最近は別の仕事もしてるらしいけど」
「その仕事というのは?」
「さあ? 詳しいことは聞いてない。そっちは熱心じゃないみたい」
「そうですか。
それではどうすれば会えるかを」
「簡単よ。宴会のときにうちに来れば会えるわ。
衣玖は時々しか参加しないけど、天子は騒ぐことが楽しいのか毎回参加してるし。
次の宴会は明日……いや明後日だったような?」
「久しぶりに参加することになるね。宴会は楽しいんだけど体力が持たないからなぁ。
そうだ、霊夢のほかにその二人と会った人知ってる?
その人たちにも話を聞きたいんだけど」
「魔理沙やアリス、小町……」
霊夢は覚えているかぎりあげていく。
阿求はそれもメモしていく。あとで会うつもりだ。各人が住んでいる場所の都合上、会える人は限られているが。
会えそうなのはアリスと妖夢と咲夜くらい。三人とも用事で里に来ることが比較的多い者たちだ。
聞くことはこれでやめ、少しばかり話し阿求は帰るため立ち上がる。
「ねえ霊夢」
「今日も?」
阿求が何を言いたいのかわかったのか、霊夢はややめんどくさそうな表情になる。
「うん、お願い」
阿求は両手を合わせてお願いする。
「仕方ないわね。
あんたのとこのお茶は美味しいから、それに免じてよ?」
霊夢は阿求を背負い空を飛ぶ。
阿求が頼んだのは里近くまで運んでもらうこと。ここに来るだけで疲れるので、博麗神社に来ると毎度霊夢に頼むのだ。
空を飛ぶという普通ならば体験できないことが楽しいからでもある。
空と雲の近さ、風の感触、眼下の景色、霊夢の背の温かさ、なにもかもを好ましく感じていた。
博麗神社から一望できる景色とはまた違った景色を堪能し、下ろしてもらう。
「ありがと」
「礼は宴会のときに茶葉を持ってくることでいいわ」
「わかった。必ず持っていくよ」
神社へと飛んで帰る霊夢を見えなくなるまで見送り、阿求も家に帰るため里に入る。
家までもう少しというところで、アリスの声が聞こえ立ち止まる。
声のした方向を見ると子供たちが集まっていた。子供達の視線の先で、人形がちょこちょこと動いている。
今日は祭ではないし、祭が近いわけでもない。それでも人形劇をしているということは、ただの気まぐれなのだろう。
今演じられているものは以前にも見たことのあるもの。阿求は内容を思い出し、終るまでもう少しかかるとわかった。
終るまで人形劇を楽しむことにして子供達に混ざって地面に座り込む。
以前とは違う、それでいて真新しい人形が使われているので、新たに作った人形の動作テストも兼ねているのだろうか。
やがて劇は終わり、子供達は人形が可愛かった面白かったとアリスに言って散っていく。アリスは小さく笑みを浮かべ、子供達にありがとうと答えていた。
阿求は小さな舞台と人形を片付けるアリスに近づき話しかけた。
「こんにちはアリスさん」
「えっとたしか稗田阿求さんでよかったかしら?」
「はい。
お聞きしたいことがあるんですが、時間はあります?」
「少しくらいなら」
「ありがとうございます。
そこの茶屋に入りませんか? 代金はこちらでもちますよ」
「少しだけ待ってくれる?
まだ片付いてないから」
「はい」
片付け終わったアリスと茶屋に移動する。
アリスは普段こういったところに入らないのか、珍しそうに店内を見渡している。
団子と緑茶を二人分注文するとすぐに届く。
それらを食べながら話し始める。
「たまにはこういうお茶を悪くないわね」
「普段はコーヒーや紅茶ですか?」
「そうね。緑茶は霊夢のところに行ったとき飲む程度ね。
だけど滅多に行かないから、何度も飲んだことはないわ。
それで聞きたいことってなにかしら?」
「比那名居天子さんと永江衣玖さんのことについて聞きたかったんです。
どんな方か教えてもらえませんか」
「いいけど、どうしてそんなことを聞くの?」
「幻想郷縁起に書き加えるためです。
以前、アリスさんにもインタビューしに行きましたよね」
「あ、それで。納得した。
えっと比那名居天子は自分勝手な奴だったわ。暇つぶしのために地震を起こそうとして、起こった後のことは知らないって言ってたし。
あと倒されるために騒ぎをおこしたとかなんとか。
永江衣玖は真面目でマイペース?」
「永江衣玖さんに関しては自信なさげですね」
「あれ以降、あまり接点ないから。
私も彼女も積極的に何かに関わるほうじゃないせいね」
「話を聞かせてもらいありがとうございます」
「これくらいならかまわないわ。
それじゃこれから食材買いに行かなくちゃいけないから」
もう一度アリスに礼を言って、雑踏に消えるアリスを見送る。
代金を払い阿求も茶屋を出た。
まただれかに会うということはなく、家にたどりついた。
自室に戻り、今日わかったことをまとめながらノートに書いていく。
今日わかったことから、インタビューする際に持っていくお土産はなにがいいか考える。
お土産はインタビューを円滑に進めるための必須アイテムだ。
宴会当日、ボディガードと移動に背負ってもらうことを頼んだ慧音と妹紅と一緒に博麗神社へ。
三人が到着した頃には、参加者は多く集まっていた。
阿求は霊夢をつかまえ、天子と衣玖が来ているかどうか聞く。
どうやら二人ともすでに来ているようで、霊夢の指差す方向に見慣れぬ二人がいた。
酔いがまわらぬうちにインタビューを済ませようと考えた阿求はお土産を手に二人に近寄っていった。
インタビューは一応成功した。
天子と衣玖は始終微妙な顔でいたが。
渡したお土産が原因だ。
聞いた話を参考にして、みつけだしたものが二人の意表をついたらしい。
衣玖には友達100人作る方法と書かれた本、天子にはSMセット。
なにかないかと土蔵をあさってこの二つを見たとき、これだと天啓がおりてきたのだった。
それも稗田阿一や御阿礼の子たちの行った活動のおかげだ。
彼女らの書き綴った幻想郷縁起は過去を知る文献として最高の品物。
初代が将来に残すため編纂を始めた幻想郷縁起は、千年の月日を越えてなお書き綴られている。
そして九代目御阿礼の子である、阿求も幻想郷縁起を生涯の仕事とし編纂を続けている。
少し前のことだ。幻想郷で局地的な地震が発生し、山に緋色の雲がかかった。
巫女や幻想郷内で屈指の実力者たちが関わり、解決した異変だ。
そのことを風の噂で阿求は耳にした。そのときに天人と竜宮の使いが関わったとも。
幻想郷縁起は地形や出来事も記していくが、主に人物を記す。ゆえに新たな人物が現れたと知って、阿求が出会って話しを聞きたいと思っても無理ないこと。
早速、阿求は動く。体は弱くとも里周辺を歩く程度ならば問題ない。
昔なじみでもある里に住む半獣に相談にむかう。
寺子屋での授業が終る頃に着くよう少し寄り道しながら向かう。
里中の様子を見ながら、たまに里人と少しだけ話したりして狙い通りの時間に到着した。
寺子屋の玄関に立ち、帰る子供達を見送る慧音に近づく。
「こんにちは」
「ん? 阿求か。こんにちは」
「相談したいことがあるんですけど、時間はありますか?」
「かまわない。
中に入って話そうか」
慧音は阿求を座らせ、自身はお茶を入れてから座る。
「茶菓子はないんだ。すまないな」
「いえ、急に来たんですから気にしないでください」
阿求は出されたお茶を一口飲んでから用件を話し出す。
「先日の異変で天人と竜宮の使いが現れたと聞きました。
相談というのは、その二人に会って話しを聞きたいので、どうすれば会えるか知恵を貸してもらいたいということなんです」
「ふむ、幻想郷縁起のためか。
私もその二人が異変に関わりがあったとは聞いているよ。まだ会ったことはないが。
私の周りにも会ったというやつはいないな。
いや鈴仙が会ったんだったか」
「鈴仙というと永遠亭の方ですね」
「ああ、地震の調査をしたときに天人に会ったとか」
「そうですか。里に薬を売りに来たとき聞いて見ましょう。
もう一人、竜宮の使いには会っていないんですね?」
「聞いてないな」
「ありがとうございます」
「こんなことでいいのか?
永遠亭に行くのなら送るぞ?」
「いえ、ちょっと体力が持つかわかりませんから。
それにそこまで迷惑かけるわけには。
あとは鈴仙さんか永琳先生が診察に来たときに聞いてみます」
「そうか」
相談はここまでで、このあとはとりとめのないことを話し阿求は家に帰る。
鈴仙に会うまでそう時間はかからなかった。
二日後に、鈴仙が薬の補充にやってきたからだ。
阿求は家人に、鈴仙が来たら上がってもらうように伝えていた。
阿求は家人に呼ばれ、鈴仙の待つ客室に入る。
「お待たせしました」
出されたお茶と茶菓子を美味しそうに食べていた鈴仙は、阿求が入ってくると慌ててそちら向く。
リラックスしすぎていたようだ。
「いえ、用事があると言われたんですが」
「はい。お聞きしたいことがありまして。
鈴仙さんは天人に会われたとか。その方の人格のことと、どうすれば会うことができるか聞きたいのです」
「そのことね。
名前は比那名居天子っていうらしいわ。地震に関係してたらしいけど、詳しいことは本人からは聞けなかったわ。
博麗神社を壊したらしいけど、こっちも隙間妖怪が関係してるらしくてさっぱりだった。
あとは初めて会ったとき、なんでかボロボロだったわ」
「どんな人でした?」
「長く話したわけじゃないから、ちょっとわからないかな」
「そうですか」
「会いたいなら天界に行くのが一番だと思う」
「私には無理ですね」
天界に行く方法は二通り。山から行くか、冥界から行くか。
そのどちらも阿求の体力的な問題から不可能だ。里周辺ならば平気だが、さすがに遠すぎる。
「んー……となると博麗神社に行ってみたらいいかもしれない。
霊夢のことが気に入ってるとか聞いたような?」
「博麗神社ですか。あそこならばなんとか大丈夫ですね。
今日はお話を聞かせてもらい、ありがとうございます」
「これくらいならどうってことありませんよ。
稗田家はお得意様ですからね。サービスのうちです」
ちょっとしたセールストークに阿求は笑みを浮かべ、家人を呼び準備していた土産を持ってきてもらう。
お礼として饅頭を鈴仙に渡し、玄関まで見送る。
次の日、阿求は家人に博麗神社に行くと告げ家を出た。
自身の体力のなさはよくわかっているので、ゆっくりとしたペースで歩く。
体力はないが出歩くことは好きだ。寿命が尽きる前に、できるだけ色々なことを体験したいからなのだろう。家に閉じこもっているだけではなにも体験できない。だから編纂につまったり疲れたりすると、休憩がてら出歩くことが多い。
人の三倍の時間をかけて神社に到着する。手には来る途中で買った菓子と家から持ってきた茶葉。
長い階段を上り神社までもう少しというところで休憩のため立ち止まる。階段に座り景色を楽しむ。ゆるく吹く風が火照った体に気持ちよかった。
「休憩終わりっ。
霊夢は……いない」
境内を見ても霊夢はいない。木の葉が一箇所に集められている、掃除は済んでいるようだ。
ならば縁側でお茶でも飲んでいるのだろうと、庭に行ってみることにする。
「その前に」
賽銭箱に賽銭を入れて、幻想郷縁起編纂が無事に終るようにと想いを込め拍手を打つ。
幾度と壊れた神社と違い賽銭箱は無事だったのか、古く歴史を感じさせる。
祈願を終えて庭へと移動。予想通り霊夢がお茶を飲んでいた。
「珍しい客ね」
「こんにちは。
これお土産」
「ありがと」
受け取った土産から早速和菓子を取り出して食べ始める。
阿求は霊夢の隣に座り、話し始める。
「今日来たのはね、比那名居天子という方と竜宮の使いについて聞きたいからなの」
「ふーん。わかることなら答えるわ」
「それじゃあ人柄とどうすれば会えるかを」
「天子のほうの性格はろくでもないわね。
あいつが楽しむために神社壊されたわ。紫たちも便乗するし。たまったもんじゃないわよ。
あと自信家っぽかったわ。わりと強いから、意味のない自信じゃないと思うけど。
私からすれば倒されるために異変起こしたとしか思えないわ」
「なるほど」
阿求は懐から取り出したメモ用紙に今の話を書き込んでいく。
「衣玖はマイペース?
やたらと騒ぐ奴じゃないわね。
仕事熱心で、邪魔されるのは嫌いみたい。邪魔すると力ずくで解決するみたいよ」
「衣玖というのが竜宮の使いの名前?」
「知らなかった? 永江衣玖っていうらしいわ。
地震が起こると伝えることが仕事だって言ってたわ。
いつもは雲の中を泳いでるんだって。最近は別の仕事もしてるらしいけど」
「その仕事というのは?」
「さあ? 詳しいことは聞いてない。そっちは熱心じゃないみたい」
「そうですか。
それではどうすれば会えるかを」
「簡単よ。宴会のときにうちに来れば会えるわ。
衣玖は時々しか参加しないけど、天子は騒ぐことが楽しいのか毎回参加してるし。
次の宴会は明日……いや明後日だったような?」
「久しぶりに参加することになるね。宴会は楽しいんだけど体力が持たないからなぁ。
そうだ、霊夢のほかにその二人と会った人知ってる?
その人たちにも話を聞きたいんだけど」
「魔理沙やアリス、小町……」
霊夢は覚えているかぎりあげていく。
阿求はそれもメモしていく。あとで会うつもりだ。各人が住んでいる場所の都合上、会える人は限られているが。
会えそうなのはアリスと妖夢と咲夜くらい。三人とも用事で里に来ることが比較的多い者たちだ。
聞くことはこれでやめ、少しばかり話し阿求は帰るため立ち上がる。
「ねえ霊夢」
「今日も?」
阿求が何を言いたいのかわかったのか、霊夢はややめんどくさそうな表情になる。
「うん、お願い」
阿求は両手を合わせてお願いする。
「仕方ないわね。
あんたのとこのお茶は美味しいから、それに免じてよ?」
霊夢は阿求を背負い空を飛ぶ。
阿求が頼んだのは里近くまで運んでもらうこと。ここに来るだけで疲れるので、博麗神社に来ると毎度霊夢に頼むのだ。
空を飛ぶという普通ならば体験できないことが楽しいからでもある。
空と雲の近さ、風の感触、眼下の景色、霊夢の背の温かさ、なにもかもを好ましく感じていた。
博麗神社から一望できる景色とはまた違った景色を堪能し、下ろしてもらう。
「ありがと」
「礼は宴会のときに茶葉を持ってくることでいいわ」
「わかった。必ず持っていくよ」
神社へと飛んで帰る霊夢を見えなくなるまで見送り、阿求も家に帰るため里に入る。
家までもう少しというところで、アリスの声が聞こえ立ち止まる。
声のした方向を見ると子供たちが集まっていた。子供達の視線の先で、人形がちょこちょこと動いている。
今日は祭ではないし、祭が近いわけでもない。それでも人形劇をしているということは、ただの気まぐれなのだろう。
今演じられているものは以前にも見たことのあるもの。阿求は内容を思い出し、終るまでもう少しかかるとわかった。
終るまで人形劇を楽しむことにして子供達に混ざって地面に座り込む。
以前とは違う、それでいて真新しい人形が使われているので、新たに作った人形の動作テストも兼ねているのだろうか。
やがて劇は終わり、子供達は人形が可愛かった面白かったとアリスに言って散っていく。アリスは小さく笑みを浮かべ、子供達にありがとうと答えていた。
阿求は小さな舞台と人形を片付けるアリスに近づき話しかけた。
「こんにちはアリスさん」
「えっとたしか稗田阿求さんでよかったかしら?」
「はい。
お聞きしたいことがあるんですが、時間はあります?」
「少しくらいなら」
「ありがとうございます。
そこの茶屋に入りませんか? 代金はこちらでもちますよ」
「少しだけ待ってくれる?
まだ片付いてないから」
「はい」
片付け終わったアリスと茶屋に移動する。
アリスは普段こういったところに入らないのか、珍しそうに店内を見渡している。
団子と緑茶を二人分注文するとすぐに届く。
それらを食べながら話し始める。
「たまにはこういうお茶を悪くないわね」
「普段はコーヒーや紅茶ですか?」
「そうね。緑茶は霊夢のところに行ったとき飲む程度ね。
だけど滅多に行かないから、何度も飲んだことはないわ。
それで聞きたいことってなにかしら?」
「比那名居天子さんと永江衣玖さんのことについて聞きたかったんです。
どんな方か教えてもらえませんか」
「いいけど、どうしてそんなことを聞くの?」
「幻想郷縁起に書き加えるためです。
以前、アリスさんにもインタビューしに行きましたよね」
「あ、それで。納得した。
えっと比那名居天子は自分勝手な奴だったわ。暇つぶしのために地震を起こそうとして、起こった後のことは知らないって言ってたし。
あと倒されるために騒ぎをおこしたとかなんとか。
永江衣玖は真面目でマイペース?」
「永江衣玖さんに関しては自信なさげですね」
「あれ以降、あまり接点ないから。
私も彼女も積極的に何かに関わるほうじゃないせいね」
「話を聞かせてもらいありがとうございます」
「これくらいならかまわないわ。
それじゃこれから食材買いに行かなくちゃいけないから」
もう一度アリスに礼を言って、雑踏に消えるアリスを見送る。
代金を払い阿求も茶屋を出た。
まただれかに会うということはなく、家にたどりついた。
自室に戻り、今日わかったことをまとめながらノートに書いていく。
今日わかったことから、インタビューする際に持っていくお土産はなにがいいか考える。
お土産はインタビューを円滑に進めるための必須アイテムだ。
宴会当日、ボディガードと移動に背負ってもらうことを頼んだ慧音と妹紅と一緒に博麗神社へ。
三人が到着した頃には、参加者は多く集まっていた。
阿求は霊夢をつかまえ、天子と衣玖が来ているかどうか聞く。
どうやら二人ともすでに来ているようで、霊夢の指差す方向に見慣れぬ二人がいた。
酔いがまわらぬうちにインタビューを済ませようと考えた阿求はお土産を手に二人に近寄っていった。
インタビューは一応成功した。
天子と衣玖は始終微妙な顔でいたが。
渡したお土産が原因だ。
聞いた話を参考にして、みつけだしたものが二人の意表をついたらしい。
衣玖には友達100人作る方法と書かれた本、天子にはSMセット。
なにかないかと土蔵をあさってこの二つを見たとき、これだと天啓がおりてきたのだった。
なんという色々台無しSS。
阿求らしさが出てて良かった。